Order of Border

 それから何度か、「そういうこと」が続き、クロエは学んだ。サキが長い間外出して、手ぶらで帰ってきたときは「処分後」だ。
 死を目の当たりにしたはずなのに、彼女は平静を保っている。殺戮に波を立てない冷たさに、いつのまにか自分も慣れていたのだろう。
 だからこそ、今回はぎょっとした。

 いつになく軽装でいると思ったら、白衣を着ていないのだ。見慣れない灰色の服には皺が寄っている。家を出るとき羽織っていたものはというと、左腕に抱えられていた。その白い布が投げ出される。
 ――白くて、赤い衣が。
 返り血を浴びた白衣は、いつかのことを思い出させた。けれどサキにおかしい様子はない。こういうときの彼女はいつも切り立った岩壁のようで、クロエはかける言葉に迷った。
「戦ってきたのか」
「抵抗されたが、引き下がるわけにはいかなかった」
 サキが戦ったということは、処分対象のイェーガーが死を拒んだということだ。そして兵士の願いを、彼女は聞き入れなかった。きっと相手は、本気で逆らったのろう。しかし、迎え撃ったサキには死闘を思わせる傷などひとつもない。その無事が意味することは。
「あんた、強いんだな」
「強くなければ背負えないからな」
「背負うって、なに――」
「それに、私だって改造兵士だ」
 強くて当然だ。サキの明瞭な語り口は、聞きたかったことを押し留めて、そのまま流していってしまう。真実に抗えないのと同じように。

「兵器なのか、兵士なのか……」
 煙草に火をつけながら呟く。戦というものを見たことがある。それがどれほど悲しくて、残酷なことか知っている。そんな戦いのために、奇妙なかたちに造りかえられた人間。その歪さは、彼らの価値になり得るだろうか。
「……いや、」
 そんなはずはない。もし、彼らが価値ある生き物ならば、造り手によって駆逐されるはずがない。彼女の揺るがぬ決意の前に、クロエの感慨は無意味だ。サキは式に似ている。気まぐれな神よりずっと確かな、変えようのない世界の公式。定かであるということは、それだけで強い。
 ぐらついた不死者の抱く曖昧な境界線は、彼女の求める答えではない。わかっている。わかっているのだ。
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