[11]魔法使い

「クレフも……魔王の力を?」
「同じ。覚醒するところも、目が赤くなるところも。髪の毛は、ちょっとわからないけど」
 まっすぐな目で、クレフはウィリアムを貫くほどに見つめた。少し怖気づいて、思い出して、口に出す。
「じゃあ、この前言ってた知りたい人っていうのは」
「ウィリアムのことだよ」

 助言を求めて窓際を見ると、ユンは気を利かせたのか部屋を出た後だった。
 クレフの特徴的なお団子頭、その後れ毛が揺れる。眠るシオンを指して、再びウィリアムを見上げた。
「ね。きみはそのチカラを、このひとのために使ったんでしょ。心配してたひと。それって、すごいことだと思うんだ。やっぱり、ぼくはウィリアムが知りたい」
 これはどういうチカラなのだろうか。クレフはそれを深く知るのだろうか。何をどこから尋ねたらいいかわからず、ウィリアムは身じろぎする。
「同じチカラを持ってるんだ。これから仲よくしようよ。おしえてほしいことがたくさんあるんだ」
 よろしくねと握手をすると、クレフは満足したように去っていった。甘い瞳の金色が、網膜に焼き付いて残る。
「不思議なやつ……」
 言うだけ言われて、逃げられてしまった気がする。このときウィリアムは知らなかった――彼こそが、ウィリアムの運命を変える大きな鍵であったことを。

◇◆◇

 あの事件から、何事もなかったかのように数日が経った。あれ以来、まだシオンとは数回言葉を交わしただけで、ちゃんと話せてはいない。

 昼下がり、ふとユンを見ると、分厚い本と格闘しているようだった。
「最近その本よく読んでるよな」
「ボクにとって、大事な――きっかけになる本だから」
 三番隊の会議室。何気ない会話のつもりだったが、ウィリアムの一言は長い解説の始まりになった。
「ジェシカがたまにやってるみたいに、魔法を使う本なのか?」
 答えたのはユンでなかった。ちょうどお茶を入れていたジェシカが振り返って口を開く。
「違うわよ。私の本は魔具、まあ杖みたいなものよ。ウィリアムだって、魔法陣に魔力を送るときに剣を使うでしょう? 魔具っていうのは、魔法を使う道具の略」
 カタリ。お茶の入ったカップが卓に置かれる。ジェシカはそのまま解説を続けた。ユンは黙って話を聞いている。
「魔具を使うメリットは、まず法陣――印の省略ね。あらかじめ刻んでおいた魔法は、印を書かずに使えるのよ。あとは魔力の効率化。わかりやすく言うと、同じ量の魔力でも剣を使うより魔具を使う方が、魔法の効果が大きくなる」
「そうだね。魔法使いと魔法剣士の一番大きな違いは、魔具を使うか剣を使うかなんだ」
 リンも続けた。長い袖を器用に使い、真っ先にお茶を飲み干す。
「あれ、じゃあリンの魔具って、いったい……?」
 聞こうにも、本人は逃げるように去ってしまって、それきりになった。

「……ボクにも、魔具が……」
「ユン?」
「ごめんね、最近おかしくて。あとで必ず話すから」
 それまでは、今まで通りでいよう? と提案されると、ウィリアムはどうしようもなくなって頷いた。
 そのとき、会議室の扉をノックする音が聞こえた。「どうぞ」とジェシカが扉を開ける。
「ウィリアム、いる?」
 背の低い、金髪のお団子頭。クレフがそこに立っていた。
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