[10]炎
「とんでもないムチャしたね」
明け方。目を覚ませば医務室で、隣のベッドにはシオンが寝ていた。さっきの声は、少しふてくされたユンが窓際から落としてきた一言であった。
「まだ制御できるかわからない魔王の力で、炎から身を守って、あいつの魔力が暴走した原因を鎮めた」
淡々と、けれど目を合わせて、ユンは朝日を背に語りかける。
「魔王の力が暴走したらキミは確実にシオンを殺してたし、力が発動しなかったら二人とも焼け死んでた。……無理しないでって、言わなかったっけ?」
逆光を受けて、彼女の輪郭が光る。少し影のかかった瞳が、鋭くウィリアムを責める。
「もうこんなことしないで。何度ジェシカとリン君と、ボクを心配させれば気が済むのさ」
思えば仲間たちのそういう声を、何度も聞いてきた気がする。また言わせてしまった。怒っているだろうかと見上げると、ユンは穏やかに笑っていた。
「……違うね。キミは彼をどうこうしないと気が済まないんだ。キミはそういう人間なんだよ。もう仕方ないか。ジェシカにはボクが上手く言っとくよ。怒られるだろうけどね」
素直に、助かった。確かに怒られるだろう。ただ、得た実感もある。炎の中で一度、確実に、ウィリアムは一つの壁を壊した。自分と彼との間にある壁を。
「そうだな、悪かった。お説教は後で聞くよ。シオンは無事か?」
長いため息の後、ユンは隣のベッドに目をやった。
「無事だよ。魔力の暴走も収まった」
「原因は……わかるか?」
「本人に自覚はないと思うけど……つらい気持ちを、拗らせすぎたんじゃない? そういう感情が、魔力の異常に出るって、研究結果があるみたいだよ」
よく知ってるな、というウィリアムの声に、ユンはまあね、と答える。彼女が言うならそうなのだろうと、今なら納得できた。絶望の中彷徨って、自身を焼き殺すという結論に至ったのかもしれない。ウィリアムはそれを、止めることができた。――できたのだ。
(今度こそ、届いた)
大切な相手に笑ってほしいと、シオンがそう考えていたことを、彼は初めて自覚したのかもしれない。迷いに答えが出たからこそ、あの炎は消えた。
「ボクとしてはこの件は終わりって感じかな。当事者は生きてる、原因にアタリはついてる、再発の危険もたぶんない」
でもね、とユンは続けた。
「キミには別の件が待ってるみたいだよ」
そう。ウィリアムが目を覚ますのを待っていた者が、もう一人。
扉の影から出てきたその相手は背の低い少年だ。金色の髪を頭上でまとめていて、長い前髪の間から瞳をのぞかせていた。――秘められた蜜のような黄金の瞳。
「クレフ?」
彼は前夜に少し話した、一番隊のメンバーだった。討伐隊でも珍しいほど年下で、不思議な考えをする。
「どうしてここに? オレがどうかしたのか?」
金髪の少年は、そこで思わぬ言葉を告げた。
「夜。見てた。やっぱり、同じチカラだ。ぼくも、魔王のチカラを、持ってる」
◆◆ 第10章 炎 完 ◆◆
明け方。目を覚ませば医務室で、隣のベッドにはシオンが寝ていた。さっきの声は、少しふてくされたユンが窓際から落としてきた一言であった。
「まだ制御できるかわからない魔王の力で、炎から身を守って、あいつの魔力が暴走した原因を鎮めた」
淡々と、けれど目を合わせて、ユンは朝日を背に語りかける。
「魔王の力が暴走したらキミは確実にシオンを殺してたし、力が発動しなかったら二人とも焼け死んでた。……無理しないでって、言わなかったっけ?」
逆光を受けて、彼女の輪郭が光る。少し影のかかった瞳が、鋭くウィリアムを責める。
「もうこんなことしないで。何度ジェシカとリン君と、ボクを心配させれば気が済むのさ」
思えば仲間たちのそういう声を、何度も聞いてきた気がする。また言わせてしまった。怒っているだろうかと見上げると、ユンは穏やかに笑っていた。
「……違うね。キミは彼をどうこうしないと気が済まないんだ。キミはそういう人間なんだよ。もう仕方ないか。ジェシカにはボクが上手く言っとくよ。怒られるだろうけどね」
素直に、助かった。確かに怒られるだろう。ただ、得た実感もある。炎の中で一度、確実に、ウィリアムは一つの壁を壊した。自分と彼との間にある壁を。
「そうだな、悪かった。お説教は後で聞くよ。シオンは無事か?」
長いため息の後、ユンは隣のベッドに目をやった。
「無事だよ。魔力の暴走も収まった」
「原因は……わかるか?」
「本人に自覚はないと思うけど……つらい気持ちを、拗らせすぎたんじゃない? そういう感情が、魔力の異常に出るって、研究結果があるみたいだよ」
よく知ってるな、というウィリアムの声に、ユンはまあね、と答える。彼女が言うならそうなのだろうと、今なら納得できた。絶望の中彷徨って、自身を焼き殺すという結論に至ったのかもしれない。ウィリアムはそれを、止めることができた。――できたのだ。
(今度こそ、届いた)
大切な相手に笑ってほしいと、シオンがそう考えていたことを、彼は初めて自覚したのかもしれない。迷いに答えが出たからこそ、あの炎は消えた。
「ボクとしてはこの件は終わりって感じかな。当事者は生きてる、原因にアタリはついてる、再発の危険もたぶんない」
でもね、とユンは続けた。
「キミには別の件が待ってるみたいだよ」
そう。ウィリアムが目を覚ますのを待っていた者が、もう一人。
扉の影から出てきたその相手は背の低い少年だ。金色の髪を頭上でまとめていて、長い前髪の間から瞳をのぞかせていた。――秘められた蜜のような黄金の瞳。
「クレフ?」
彼は前夜に少し話した、一番隊のメンバーだった。討伐隊でも珍しいほど年下で、不思議な考えをする。
「どうしてここに? オレがどうかしたのか?」
金髪の少年は、そこで思わぬ言葉を告げた。
「夜。見てた。やっぱり、同じチカラだ。ぼくも、魔王のチカラを、持ってる」
◆◆ 第10章 炎 完 ◆◆