[10]炎

 ジェシカは落ち着かない気持ちで視線をあちらこちらに彷徨わせていた。ユンの様子が、どう見てもおかしい。二人で自室に戻って、普段なら声をかけてくるタイミングで、何も言わずに窓の外を眺めている。
「大丈夫? さっきから様子が変よ」
「あんなものを見れば、そうもなるよ」
 と、ユンは帽子を外して言った。が、ジェシカはそれが嘘だと見通していた。
「それだけじゃない、そうでしょ?」
 帽子を掴んだユンの左手に、力がこもる。
「ずっと見てた。止められなかったの」
 ――何を見ていたかは聞かなかった。わかっていたからだ。シオンが盗賊団を殲滅した、その一部始終だと。
「……仕方ないわ」
 彼の実力と、その場の状況を考えれば。当然の結果は、けれどユンを満足させはしない。
「ボクの剣ね、一撃で弾かれちゃって。飛んで行っちゃって。あのとき魔法を使っていればなんとかなったかもしれないのに、ボクはそうしなかった」
 窓は開けているが風はなく、カーテンが揺れることもない。このまま沈黙を続けることは、どうしてもできない。
「それは、どうして?」
 言わされている。ジェシカにはわかっていたが、尋ねるしかなかった。
「魔法剣士なら、剣で立ち向かうと思ったから。ボクは、魔法剣士としてのとうさまに憧れてるんだ。あんな人でも」
 ユンの瞳は暗闇をたたえている。彼女の父が、つまり賢者が、その目にどう映るのかジェシカは知らない。ユンの言葉が続く。
「……でも、ボク、たぶん剣じゃだめなんだ。だって、あいつを止められなかった。ボクの腕じゃ、あいつに追いつけない。あの太刀筋、見間違えるもんか。あれはとうさまと同じだ。とうさまが教えてなきゃできない型なんだ」
 これまでに見せなかった、今にも壊れてしまいそうな表情。そっと目線を合わせても、彼女の声が湿っていくのを止められない。
「わかるんだ……とうさまは、弟子としてボクじゃなくあいつを選んだって。わかってるのに、諦められない」

「ねえ、ユン、それなら――」
 ジェシカはそれから、ひとつの提案をした。
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