[10]炎
賢者の復活からそう経たないある日。
「ボクの予想だと、とうさまはシオンに剣術を教えてたと思うんだ」
ウィリアムがユンと二人で昼食をとっていたときに、彼女はいきなり言った。
「だって動きの型が同じなんだもん。そうとしか思えない。だったら、ボクがあいつのことを好きになれないのも、当然なんだ」
最後の方をはっきりと言い切って、ユンは視線をこちらに向ける。
「……それで?」
「これもボクの予想なんだけどね、とうさまを助けたのってあいつなんじゃない? 特別な魔法か何か使ってさ。とうさまは自分が呪いにかけられたって言ってた。それを打ち破るなら、命ひとつくらい懸けないといけないはずだ。だったら、シオンが魔力不足で倒れてたのも納得がいく」
――事実、その通りだ。その見立ての正確さに、背筋が寒くなった。
「それを、なんでオレに?」
「何か知ってるかなって思って」
後半の予想が当たっている、ということは確かに知っている。だが、それを話していいものか。
「……あいつが、教えてくれないんだ」
彼に近づきたいと、仲間でありたいと願っていたのは本当だ。けれど、シオンの方がそれに応えてくれなかった。
「どうしてあいつのことを気にかけるわけ?」
「オレにもわからない。わからないけど――」
元はといえば、彼をこの世に繋ぎとめたのは自分だ。そして、本人にはそのことを責められた。それでも。
「あいつをあのままにしておくのは、嫌なんだ」
我儘なのはわかっていた。彼の境遇を悲しく思うのも、それを助けたいと思うのも、ウィリアムの勝手な都合だ。そんなことは百も承知。
「オレは、あいつのことを、胸を張って仲間と言えるようになりたい」
「止めないけど、無茶はしないでね。ボクたちだって、キミの仲間なんだから」
「当たり前だろ。みんな一緒に、仲間になりたいんだ」
返事をすると、ユンは笑った。それでこそウィリアムだよね、と。さっきまでの不機嫌そうな態度は嘘のようだった。
◇◆◇
事件は突然起きた。日が昇って間もなく、多くの隊員が朝支度に入る頃、その日常を打ち壊す報告が飛んだ。
「盗賊団が襲撃してきた!?」
叫び返すウィリアムに、ジェシカは冷静に告げる。長袖に包まれた細い腕を自分で抱いて、あくまで焦らないようにと努めていた。
「山を登ってくるのが見えたの。シゲさんたちがいた、あの盗賊団。本人が言っているんだから間違いないわ。最初にあの人たちが来た理由と同じだと思う。ここにあるかもしれない、『賢者様の財産』みたいなものを欲しがっている」
会議室にいるのは、ウィリアム、ジェシカ、リンの三人。帽子の少女はどこかへ出かけていた。リンは起こりうる未来を憂い、そのまま俯いた。
「それって、僕ら討伐隊が迎え撃たないといけないのかな。どうして、人間と戦わなきゃいけないんだろう」
「シゲさんたちのときとはわけが違うわ。人数も揃っていて、きちんとした武装もしている。本気で討伐隊を奪いにくるつもりみたい」
そんなことをしても、魔物は減らないし、世界は平和にならないのに。呟くジェシカもまた、心のうちでは人との争いを拒んでいるようだ。
外の様子を窺う。
「そろそろ結界を越えてくるかもしれない。気を付けた方が――」
リンの警告を引き裂いて、
「大変!」
窓の外から叫び声がした。聞きなれたユンの声で、聞いたこともない必死の叫びだった。
「誰か――誰か来て! ボクじゃ止められない!」
まさか。嫌な想像が三人を巡る。ユンは盗賊団と出会ってしまったのではないか。だとしたら。
「助けに行かなきゃ」
三人はそれぞれ武器をとり、声のした方へまっすぐ向かった。
「ボクの予想だと、とうさまはシオンに剣術を教えてたと思うんだ」
ウィリアムがユンと二人で昼食をとっていたときに、彼女はいきなり言った。
「だって動きの型が同じなんだもん。そうとしか思えない。だったら、ボクがあいつのことを好きになれないのも、当然なんだ」
最後の方をはっきりと言い切って、ユンは視線をこちらに向ける。
「……それで?」
「これもボクの予想なんだけどね、とうさまを助けたのってあいつなんじゃない? 特別な魔法か何か使ってさ。とうさまは自分が呪いにかけられたって言ってた。それを打ち破るなら、命ひとつくらい懸けないといけないはずだ。だったら、シオンが魔力不足で倒れてたのも納得がいく」
――事実、その通りだ。その見立ての正確さに、背筋が寒くなった。
「それを、なんでオレに?」
「何か知ってるかなって思って」
後半の予想が当たっている、ということは確かに知っている。だが、それを話していいものか。
「……あいつが、教えてくれないんだ」
彼に近づきたいと、仲間でありたいと願っていたのは本当だ。けれど、シオンの方がそれに応えてくれなかった。
「どうしてあいつのことを気にかけるわけ?」
「オレにもわからない。わからないけど――」
元はといえば、彼をこの世に繋ぎとめたのは自分だ。そして、本人にはそのことを責められた。それでも。
「あいつをあのままにしておくのは、嫌なんだ」
我儘なのはわかっていた。彼の境遇を悲しく思うのも、それを助けたいと思うのも、ウィリアムの勝手な都合だ。そんなことは百も承知。
「オレは、あいつのことを、胸を張って仲間と言えるようになりたい」
「止めないけど、無茶はしないでね。ボクたちだって、キミの仲間なんだから」
「当たり前だろ。みんな一緒に、仲間になりたいんだ」
返事をすると、ユンは笑った。それでこそウィリアムだよね、と。さっきまでの不機嫌そうな態度は嘘のようだった。
◇◆◇
事件は突然起きた。日が昇って間もなく、多くの隊員が朝支度に入る頃、その日常を打ち壊す報告が飛んだ。
「盗賊団が襲撃してきた!?」
叫び返すウィリアムに、ジェシカは冷静に告げる。長袖に包まれた細い腕を自分で抱いて、あくまで焦らないようにと努めていた。
「山を登ってくるのが見えたの。シゲさんたちがいた、あの盗賊団。本人が言っているんだから間違いないわ。最初にあの人たちが来た理由と同じだと思う。ここにあるかもしれない、『賢者様の財産』みたいなものを欲しがっている」
会議室にいるのは、ウィリアム、ジェシカ、リンの三人。帽子の少女はどこかへ出かけていた。リンは起こりうる未来を憂い、そのまま俯いた。
「それって、僕ら討伐隊が迎え撃たないといけないのかな。どうして、人間と戦わなきゃいけないんだろう」
「シゲさんたちのときとはわけが違うわ。人数も揃っていて、きちんとした武装もしている。本気で討伐隊を奪いにくるつもりみたい」
そんなことをしても、魔物は減らないし、世界は平和にならないのに。呟くジェシカもまた、心のうちでは人との争いを拒んでいるようだ。
外の様子を窺う。
「そろそろ結界を越えてくるかもしれない。気を付けた方が――」
リンの警告を引き裂いて、
「大変!」
窓の外から叫び声がした。聞きなれたユンの声で、聞いたこともない必死の叫びだった。
「誰か――誰か来て! ボクじゃ止められない!」
まさか。嫌な想像が三人を巡る。ユンは盗賊団と出会ってしまったのではないか。だとしたら。
「助けに行かなきゃ」
三人はそれぞれ武器をとり、声のした方へまっすぐ向かった。