[9]二重の力

「本題に入ろう。ウィリアムくん、君の特殊な能力についてだ」
「……はい。オレには不思議なチカラがある。それはわかってます。この鍵が、関係あると思ってて」
 謎のチカラが覚醒するとき、必ず扉の鍵が開く。胸元の鍵をさっと取り出す。すると、賢者の顔色が変わった。
「君は、なぜそれを」
 それは自分にもわからない。ウィリアムが首を横に振ると、賢者は続ける。
「君はこの能力が何なのか、君が持つ鍵が何なのか、わかっているか?」
「……わかりません」
 ウィリアムは、素直にすべてを話した。自分は記憶を失っていること。鍵を手に入れた経緯も覚えていないこと。そして、謎のチカラは最初、自分の意思と関係なく覚醒していたこと。仲間たちやシュバルトが補足を入れる間、賢者はそれらの事実を、頷きながら聞いてくれた。が、その表情は話が進むにつれて険しくなっていく。
 どうしてそんなことに、と賢者は呟く。それから毅然とした態度で、静寂を待ってからゆっくりと言った。

「君のチカラ――それは、魔王の力だ」
 魔王。討伐隊の敵である魔物の根源、であるはずのもの。ウィリアムはその正体を知らない。そして恐らく、仲間たちも。
「っていうかそもそも、魔王ってなんなんだ」
 ウィリアムが零したひとつの疑問を、賢者は自然に拾い上げた。
「我々が魔王と呼んでいるものは、意思を持った魔力の塊、のようなものだ」
「魔力が意思を持つの?」
 言葉を繰り返して切り込むユンに、賢者は肯定を落として言葉を続ける。
「ああ。魔王は呼吸のように魔物を生み出していた。それ自身に、世界を滅ぼす意図が本当にあったのかはわからない」
 賢者は冷静に見えて、きっと焦っている。少し早口で彼は語った。
「君がどういう経緯でその鍵を手に入れたかは知らない。だが、この鍵は魔王の力を封印するための鍵なんだ。魔王のような、あまりにも強大な魔力をそのまま消滅させることは難しい。だから我々は鍵を作り魔王の力を封印した。念のため、鍵を二つに分けて、だ」
 ウィリアムは手中の鍵を見つめた。もうひとつの鍵は、シオンのもとにある。彼と賢者とには接点があるのだから、恐らく賢者が直接シオンに渡したのだろう。

 英雄と呼ばれた男は、額を抑えて宙を仰いだ。
「不可解なのは、なぜ魔物が今でも増え続けているか、だ。鍵がここにあるということは、魔王は封印されたままだ。であれば、本来魔物が生み出されることはない」
 訝しげな賢者の口調に、ユンが厳しい指摘を入れる。
「とうさまがいない間に、いろいろあったんだよ。魔物を召喚して操る、悪いやつがいて」
「それで、私が目覚めたとき、あんなことになっていたのか。……だとしたら、魔王そのものを利用している何者かがいる、と考えていいだろうな」
「そうであれば、今までのことも説明がつく」
 賢者とシュバルトは目と目を合わせて頷きあった。マルクやタバサ、そしてミスティスら。彼らは魔王と呼ばれる存在と、何らかの繋がりがある。

 そのことは後で聞くとして、と前置きをしてから、賢者はウィリアムへと向き直った。
「君のチカラ――魔力の波動は、魔王のものと同じだ。そして鍵は、そのチカラを制御する媒介になってくれるはずだ。だから、君が鍵を持つことは、きっと善いことなのだろう」
 それって、とユンが間を繋ぐ。続く言葉には予想がついた。
「これは無理な頼みかもしれないが、これからも、その鍵を守ってくれないだろうか。嫌だというなら、いつでも鍵を預けに来てくれ。君の判断で構わない」
 遠回しな言い方は、少年に気を使っているのであろう。しかし、賢者はこのときはっきりと、片翼の鍵をウィリアムに託したのだ。
「わかりました。オレは、この鍵に助けられてきました。だからこれからも、同じように鍵を持ち続けます」

 三番隊の部屋を後にして、賢者はひそかに呟く。
「しかし……私が持っていた鍵は、どうなったんだ?」
 その持ち主は、今の彼の中には存在しない。
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