[8]大戦
「やっとお出ましですか」
賢者の登場により、一気に討伐隊側が優位に立った。それでもミスティスは不敵な笑みを浮かべる。
「君がここに魔物をけしかけたんだな?」
毅然とした態度の賢者は、現れたばかりとは思えないほど場を圧倒していた。謎に包まれた敵の男は、それでも余裕を崩さない。
「そうなりますね。賢者様にお目通りかなって光栄です。もっとも、今回はご挨拶に過ぎませんが」
ミスティスに続き、天才が舌を回す。
「ま、鍵のありかも確認できて、賢者サマまで拝めたんだ。オレはここらで拠点に帰るぜ。……タバサ、いけるな?」
「だいじょうぶ。ありがとう」
タバサを抱え、ルビウスは青い魔法陣へ飛び乗った。少女はこれまでにないほど安らいだ表情をしていた。術式を砕こうとする誰かの攻撃は、障壁によって弾かれる。
「というわけで、我々は退散させていただきます。一応の目標は達成されました」
転移魔法が発動され、三人の輪郭が薄れていく。
「次もどこかで会うでしょう、賢者アルカディア。そして――魔王の力を秘めた少年」
ミスティスたちは魔法の光に包まれて消えた。
「魔王の、力だと? ――待て!」
賢者が手を伸ばしても、時すでに遅し。消えたミスティスの目を追うように、賢者はゆっくりとウィリアムを見る。そっと、目が合う。
「あの人が、賢者……?」
魔法の威力、魔物だけを焼き払う正確さ、身に纏った威厳。何もかもがずば抜けていた。
真剣な面持ちで、ウィリアムに視線を注ぐ黒髪の男。見たことがある、どころか、つい先ほど見たばかりだ。時間が止まったように、微動だにしない姿で。賢者と呼ばれたその人物こそが、離れの小屋で眠っていた男。「彼」の使命とその願い。
どこか儚げな声が蘇る。
――俺のすべてだ。
「まさか、」
後は術を発動するだけと言っていた。魔力は足りないと言っていた。けれど、あのシオンだ。足を怪我したまま何食わぬ顔で戦えてしまう、無理のできてしまう彼なのだ。
現に賢者は復活してここにいる。ということは。
英雄に背を向け、ウィリアムは走り出した。今までのどの時より必死だった。
息を切らして、乾いた草を踏む。離れの小屋まで戻ってきたが、そこに人の気配はなかった。魔物もここまではたどり着けなかったようで、周囲は閑散としている。心の底であの鍵が煌めいた気がした。予感に導かれるまま小屋の裏に回る。
――いた。
姿を隠そうとして力尽きたように、彼はひっそりと倒れていた。壊してしまわないように、そっと抱え上げる。生きては、いる。
「大丈夫か!? お前、本当にあの術を? ひとりでやったのか? なあ!」
ウィリアムがいくら声をかけても、身体をゆすっても、シオンが目を覚ますことはなかった。
賢者の登場により、一気に討伐隊側が優位に立った。それでもミスティスは不敵な笑みを浮かべる。
「君がここに魔物をけしかけたんだな?」
毅然とした態度の賢者は、現れたばかりとは思えないほど場を圧倒していた。謎に包まれた敵の男は、それでも余裕を崩さない。
「そうなりますね。賢者様にお目通りかなって光栄です。もっとも、今回はご挨拶に過ぎませんが」
ミスティスに続き、天才が舌を回す。
「ま、鍵のありかも確認できて、賢者サマまで拝めたんだ。オレはここらで拠点に帰るぜ。……タバサ、いけるな?」
「だいじょうぶ。ありがとう」
タバサを抱え、ルビウスは青い魔法陣へ飛び乗った。少女はこれまでにないほど安らいだ表情をしていた。術式を砕こうとする誰かの攻撃は、障壁によって弾かれる。
「というわけで、我々は退散させていただきます。一応の目標は達成されました」
転移魔法が発動され、三人の輪郭が薄れていく。
「次もどこかで会うでしょう、賢者アルカディア。そして――魔王の力を秘めた少年」
ミスティスたちは魔法の光に包まれて消えた。
「魔王の、力だと? ――待て!」
賢者が手を伸ばしても、時すでに遅し。消えたミスティスの目を追うように、賢者はゆっくりとウィリアムを見る。そっと、目が合う。
「あの人が、賢者……?」
魔法の威力、魔物だけを焼き払う正確さ、身に纏った威厳。何もかもがずば抜けていた。
真剣な面持ちで、ウィリアムに視線を注ぐ黒髪の男。見たことがある、どころか、つい先ほど見たばかりだ。時間が止まったように、微動だにしない姿で。賢者と呼ばれたその人物こそが、離れの小屋で眠っていた男。「彼」の使命とその願い。
どこか儚げな声が蘇る。
――俺のすべてだ。
「まさか、」
後は術を発動するだけと言っていた。魔力は足りないと言っていた。けれど、あのシオンだ。足を怪我したまま何食わぬ顔で戦えてしまう、無理のできてしまう彼なのだ。
現に賢者は復活してここにいる。ということは。
英雄に背を向け、ウィリアムは走り出した。今までのどの時より必死だった。
息を切らして、乾いた草を踏む。離れの小屋まで戻ってきたが、そこに人の気配はなかった。魔物もここまではたどり着けなかったようで、周囲は閑散としている。心の底であの鍵が煌めいた気がした。予感に導かれるまま小屋の裏に回る。
――いた。
姿を隠そうとして力尽きたように、彼はひっそりと倒れていた。壊してしまわないように、そっと抱え上げる。生きては、いる。
「大丈夫か!? お前、本当にあの術を? ひとりでやったのか? なあ!」
ウィリアムがいくら声をかけても、身体をゆすっても、シオンが目を覚ますことはなかった。