[8]大戦
覚醒したウィリアムは、気づけばミスティスの召喚した魔物を一通り倒していた。今度こそ、他の隊員の元へ向かわなければ。少なくとも、最低限の局面は突破したはずだ。
それでも敵の余裕は消えない。彼は微笑んだ。明確になにかを含んだ笑みだった。
「お見事。彼の目は間違っていなかったということですね」
――彼? 先ほどから、この男は妙な物言いをする。だが、構っている暇はない。
「ほかの区域はまだ苦戦してるはずだ。行かないと」
「でも、また魔物を呼び出されたら……」
一歩引いたリンの言葉を、ウィリアムは握りしめた手で打ち壊す。
「大丈夫だ。この鍵がオレにチカラをくれる」
「そうだ、その鍵だ」
突如、赤い疾風が吹いた。鍵を握る手を掠めて、過ぎ去っていたその姿は――
「ルビウス?」
リンの疑問符を聞きながら、ウィリアムは手の中を確かめる。今の一撃は、確かにこの鍵を狙っていた。少しでも油断していたら、奪われていたかもしれない。
「外したか……けど、これでわかったろ。鍵の持ち主はこいつだ」
赤い天才は謎の男と並び立ち、その導きのまま宙に浮く。よく見ると、捕虜のタバサを連れていた。鍵をもう一度強く握り、上空の相手を睨む。
「なんでルビウスが、あいつと話してるんだ? それに今、鍵を奪うって……まさか」
「もうネタバラシかな。要するに、俺はこの胡散臭い男に送り込まれたスパイだったってわけさ」
あっけらかんとした調子だった。スパイ。簡単に信じられる単語ではない。飲み込めない様子の隊員たちを無視して、裏切り者は戦場を見下ろす。
「今回は退いた方がよさそうだな。奪うのには失敗か」
「ルビウス! あんたには失望したよ」
振り向くと、ドロシーがいた。彼女だけではない。カノンもヒューゴもいる。一番隊が揃っていた――リーダーであるはずのルビウスを見上げて。
「魔物が集中してるから来てみれば、最低なことが起きてるじゃないか」
「……そういうことだったのねえ」
「スパイだあ? 何言ってんだよ、テメェ……!」
血の気の多いヒューゴは飛び上がり、槍を構えてルビウスに迫る。次の瞬間――なにかが爆ぜた。
「は――?」
地に落ちたヒューゴの身体には、――右腕がなかった。
「嘘だろ……! おいルビウス! あんた、自分が何したかわかってる!?」
「何って。敵に攻撃するのは当たり前のことだろ?」
ドロシーが激昂する。声を殺して転げまわるヒューゴと、心配そうに近寄るカノン。それを見て、ルビウスは笑っている。討伐隊が、同じ隊員にする仕打ちではない。ヒューゴに治癒術を使いつつ、衝撃の果て、耐え切れない様子でリンが確かめる。
「確認するけれど、君たちは討伐隊の敵なんだね?」
「仕方ないが、そうなるな。というわけで、ここで全員サヨナラしてもらうよ。特に鍵の持ち主にはな」
ルビウスが口を閉ざすと、ミスティスが魔物を呼び出す。いつかマルクが使っていたものと同じ道具だ。召喚された敵は、先ほどとは比べ物にならないほどの量。
いくらウィリアムが覚醒していたとしても、実力者が揃っていたとしても、絶望的な、数の差。リンが一歩引いて困惑する。
「ど、どうしよう……」
「案ずるな」
洗練された響きで、低い声がした。黒髪の男だ。シュバルトくらいの年齢だろうか。あの場所で見た姿だ、誰かに似ている――そう思ったときに、事実が遠くから飛んでくる。
「あの姿、間違いない! 賢者様だ!」
隊員の誰かが叫ぶ。それに、遠くの隊員が続く。
「賢者様が助けに来てくれたんだ!」
破られた結界が再び造られていくのを、魔力のゆらぎで感じ取る。放たれる術が増え、魔物の気配が少しずつ薄れていく。湧き上がる討伐隊たちは、上がった士気のままに魔物たちを倒していったのだ。
賢者は魔法陣の上に立ち、ミスティスの高さまで追いついて、強力な魔法を放った。空中で弾けた光は矢となって散り、蝙蝠の魔物も獣の魔物も、敵だけを的確に消し飛ばしていく。その様子に、ユンが異様に反応していた。
「どうして……?」
静かに戦う賢者の姿に、ただ目を奪われていた。
それでも敵の余裕は消えない。彼は微笑んだ。明確になにかを含んだ笑みだった。
「お見事。彼の目は間違っていなかったということですね」
――彼? 先ほどから、この男は妙な物言いをする。だが、構っている暇はない。
「ほかの区域はまだ苦戦してるはずだ。行かないと」
「でも、また魔物を呼び出されたら……」
一歩引いたリンの言葉を、ウィリアムは握りしめた手で打ち壊す。
「大丈夫だ。この鍵がオレにチカラをくれる」
「そうだ、その鍵だ」
突如、赤い疾風が吹いた。鍵を握る手を掠めて、過ぎ去っていたその姿は――
「ルビウス?」
リンの疑問符を聞きながら、ウィリアムは手の中を確かめる。今の一撃は、確かにこの鍵を狙っていた。少しでも油断していたら、奪われていたかもしれない。
「外したか……けど、これでわかったろ。鍵の持ち主はこいつだ」
赤い天才は謎の男と並び立ち、その導きのまま宙に浮く。よく見ると、捕虜のタバサを連れていた。鍵をもう一度強く握り、上空の相手を睨む。
「なんでルビウスが、あいつと話してるんだ? それに今、鍵を奪うって……まさか」
「もうネタバラシかな。要するに、俺はこの胡散臭い男に送り込まれたスパイだったってわけさ」
あっけらかんとした調子だった。スパイ。簡単に信じられる単語ではない。飲み込めない様子の隊員たちを無視して、裏切り者は戦場を見下ろす。
「今回は退いた方がよさそうだな。奪うのには失敗か」
「ルビウス! あんたには失望したよ」
振り向くと、ドロシーがいた。彼女だけではない。カノンもヒューゴもいる。一番隊が揃っていた――リーダーであるはずのルビウスを見上げて。
「魔物が集中してるから来てみれば、最低なことが起きてるじゃないか」
「……そういうことだったのねえ」
「スパイだあ? 何言ってんだよ、テメェ……!」
血の気の多いヒューゴは飛び上がり、槍を構えてルビウスに迫る。次の瞬間――なにかが爆ぜた。
「は――?」
地に落ちたヒューゴの身体には、――右腕がなかった。
「嘘だろ……! おいルビウス! あんた、自分が何したかわかってる!?」
「何って。敵に攻撃するのは当たり前のことだろ?」
ドロシーが激昂する。声を殺して転げまわるヒューゴと、心配そうに近寄るカノン。それを見て、ルビウスは笑っている。討伐隊が、同じ隊員にする仕打ちではない。ヒューゴに治癒術を使いつつ、衝撃の果て、耐え切れない様子でリンが確かめる。
「確認するけれど、君たちは討伐隊の敵なんだね?」
「仕方ないが、そうなるな。というわけで、ここで全員サヨナラしてもらうよ。特に鍵の持ち主にはな」
ルビウスが口を閉ざすと、ミスティスが魔物を呼び出す。いつかマルクが使っていたものと同じ道具だ。召喚された敵は、先ほどとは比べ物にならないほどの量。
いくらウィリアムが覚醒していたとしても、実力者が揃っていたとしても、絶望的な、数の差。リンが一歩引いて困惑する。
「ど、どうしよう……」
「案ずるな」
洗練された響きで、低い声がした。黒髪の男だ。シュバルトくらいの年齢だろうか。あの場所で見た姿だ、誰かに似ている――そう思ったときに、事実が遠くから飛んでくる。
「あの姿、間違いない! 賢者様だ!」
隊員の誰かが叫ぶ。それに、遠くの隊員が続く。
「賢者様が助けに来てくれたんだ!」
破られた結界が再び造られていくのを、魔力のゆらぎで感じ取る。放たれる術が増え、魔物の気配が少しずつ薄れていく。湧き上がる討伐隊たちは、上がった士気のままに魔物たちを倒していったのだ。
賢者は魔法陣の上に立ち、ミスティスの高さまで追いついて、強力な魔法を放った。空中で弾けた光は矢となって散り、蝙蝠の魔物も獣の魔物も、敵だけを的確に消し飛ばしていく。その様子に、ユンが異様に反応していた。
「どうして……?」
静かに戦う賢者の姿に、ただ目を奪われていた。