[7]二人の運命

 背中合わせになり、武器を構えたウィリアムとシオン。決闘を続けるのではない。今は太陽が沈み切った夜、ここは結界の外。二人は魔物の赤い眼に囲まれていた。
「倒すぞ」
「わかってる」
 胸に残っていた覚醒の残り火が、音も立てずに燃え始めた。ウィリアムは己の扉を開放する――そう、このチカラは、守るためのものだ。
 狂戦士と鎖剣士。二人が魔物を殲滅するのに、そう時間はかからなかった。だが、それだけではない。敵は魔物だけ、他は襲わない――扉を開けたウィリアムの意識に、覚醒のチカラは従ったのだ。

(このチカラは、いったい……)
 今までの扉の力は、ウィリアムの意識を完全に奪い取っていた。その身勝手なチカラが今度は自分の意志に従い始めたのだ。とどめは、背を向けたシオンの言葉。
「その力に呑まれれば、お前も人殺しになり得る。確実な制御の方法を考えろ」
 言い置いて、シオンは森の奥へと消えていった。彼はいったい、どこまで戦うつもりなのだろう。
 用済みになった戦場には、大量の魔物の核、そしていくつかの銀の欠片が残されていた。
(本当に、戦績には興味がないんだな)
 ならばありがたく頂戴しよう。ウィリアムは二種類の核を拾い集めた。銀のものはその場で吸収し、残りは持ち帰るつもりだ。
拒絶していながら、助言を残す。シオンがどちら側なのか、もっとわからなくなった。戦いの最中に言ったこと、言われたことを反芻しながら、ウィリアムはとぼとぼと帰り道を歩き始めた。
激しい雨はまだ止みそうにない。

◇◆◇

 ウィリアムを除く三番隊は、会議室に集まって、帰らないウィリアムを待っていた。魔物襲撃の噂について話すつもりだったのだ。
思えば前にも似たようなことがあった。ジェシカはため息をつく。きっと彼にとって大事なものを追いかけているのだろう。
(シェリーのこともあるし、不安だけれど……私たちに言わないってことは、きっと邪魔できないことなのね)
 彼に何かあったら大変だが、落ち着いて待つことも仲間の絆だ。前回の時点で𠮟責は済んでいる。それなのにまた姿をくらましたのは、きっとそれがウィリアムにとって必要なことだからだ。
 ギイ、と音が鳴る。扉が開く音だ。
「ウィリアム! よかった……って、どうしたの、そんなにびしょ濡れで!」
 ユンの声も聞かずに、ウィリアムは会議室のテーブルに大量の欠片をまき散らした。どれも夜の魔物から得たものだ。

「雨の中、あんな強いのと戦ってたの? 無理しすぎだよ」
「話してきたんだ……決着を……」
 決着をつけた、とは言えなかった。自分と彼、二人の立ち位置はまだ決まっていない。その事実に気が付いて、よけい身体が重たくなった。
「どうして一人で行っちゃったのさ! ボクだってみんなだって、力になれるって言ったでしょ!」
「悪い。どうしても、一対一じゃなきゃ、駄目……」
 言い終わらないうちにウィリアムの身体が傾ぎ、視界がぐわんと回る。
「ウィリアム!? ねえ、ウィリアム、大丈夫?」
 ユンが叫んだとき、ウィリアムはすでに意識を失っていた。
「ひどい熱……。これじゃ、治癒術の効果も薄いでしょうね」
 治癒術は治癒といっても、外傷を癒す術ばかり発展してきた。その証拠として、リンの知る治癒術に、熱を下げるものはない。病は薬で治すしかないのだ。
「そうだね。このままじゃ薬も飲ませられないし、とりあえず着替えさせて、ベッドに寝かせておくよ。ユン、ジェシカ、炎の術でウィリアムの髪だけでも乾かせないかな。僕の治癒術でも、できる限りのことはしてみるから」
「わかったわ」
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