[7]二人の運命
結界の外、夜の森。ウィリアムは必死に走っていた。闇の気配を辿って、ただただシオンを探す。
思えば、何度もこうやって彼の背中を追っている。近づきたくて。振り向いてもらいたくて。仲間になりたくて。けれど今は、冷たい水に溺れながら、藁にも縋る思いで彼を求めている。
(オレにはお前がわからない。ずっとそうだった。でも、もっとずっとわからなくなった)
理解したい。ちゃんと本人の口から真実を聞きたい。そして、まだ彼を信じられるかどうかを確かめたい。
凶悪な夜の魔物を相手にしている暇はなかった。敵を躱しながら既知の気を追う。月光は暗雲に遮られ届かない。魔法の光で道なき道を照らして森を疾走した。
そうやって見つけたシオンは、夜の魔物を狩っていた。類稀なる剣捌きで敵の攻撃を受け流し、隙をついて魔物の弱点を切り裂く。
複数いた夜の魔物は、彼の剣によってあっという間に全てが魔力の霧に変わっていた。その霧を回収し、進もうとして、そこで彼は足を止めた。
「何の用だ?」
剣術に見入っている場合ではなかった。ウィリアムがどれだけシオンを信じたくとも、 この男こそがシェリーの仇。少女の姿を思い出せば、前置きはいらなかった。
「お前、人を殺したことがあるだろ」
ウィリアムは確信を持った口調で強気に問う。相手も誤魔化さず答える。今更偽る必要などない。
「昔に一度、女の子供を手にかけた。曖昧にしか覚えていないが、俺とそう変わらない年だったはずだ」
「なんで、だよ……」
地面がぽつりぽつりと濡れていく。雨が降り出したのだ。
濡れるのも構わず、ウィリアムは一歩ずつシオンに近づいていく。いつのまにか、二人とも剣を構えていた。
「曖昧ってなんだよ」
「今更、どうして盗賊団の話を引っ張ってくるんだ」
「思い出したからだよ。オレはここに来る前から記憶喪失だった。でも、銀の欠片を吸収したら少しずつ記憶が戻るんだ」
「なるほどな。思い出したから問いただした、と」
雨足は強まっていく。濡れた草花で滑らないように、剣を持つ手にも地に立つ足にも集中していた。剣を交えながら、シオンが答える。
「命の価値は平等じゃない。あの場所では誰もがそうだった。一度でも殺すことを躊躇えば、俺の方が頭領に殺されていただろう」
「……命令、だったのか?」
「近いな。習慣、と言ったところか」
やるせない様子で眉を下げた。らしくない表情でシオンは続ける。
「ただ、あの襲撃の記憶が、微かにしか思い出せない。その子供を斬った後に何があったのか俺は知らない。そういうわけで、お前に与えられる情報はこれくらいだ」
思えば、何度もこうやって彼の背中を追っている。近づきたくて。振り向いてもらいたくて。仲間になりたくて。けれど今は、冷たい水に溺れながら、藁にも縋る思いで彼を求めている。
(オレにはお前がわからない。ずっとそうだった。でも、もっとずっとわからなくなった)
理解したい。ちゃんと本人の口から真実を聞きたい。そして、まだ彼を信じられるかどうかを確かめたい。
凶悪な夜の魔物を相手にしている暇はなかった。敵を躱しながら既知の気を追う。月光は暗雲に遮られ届かない。魔法の光で道なき道を照らして森を疾走した。
そうやって見つけたシオンは、夜の魔物を狩っていた。類稀なる剣捌きで敵の攻撃を受け流し、隙をついて魔物の弱点を切り裂く。
複数いた夜の魔物は、彼の剣によってあっという間に全てが魔力の霧に変わっていた。その霧を回収し、進もうとして、そこで彼は足を止めた。
「何の用だ?」
剣術に見入っている場合ではなかった。ウィリアムがどれだけシオンを信じたくとも、 この男こそがシェリーの仇。少女の姿を思い出せば、前置きはいらなかった。
「お前、人を殺したことがあるだろ」
ウィリアムは確信を持った口調で強気に問う。相手も誤魔化さず答える。今更偽る必要などない。
「昔に一度、女の子供を手にかけた。曖昧にしか覚えていないが、俺とそう変わらない年だったはずだ」
「なんで、だよ……」
地面がぽつりぽつりと濡れていく。雨が降り出したのだ。
濡れるのも構わず、ウィリアムは一歩ずつシオンに近づいていく。いつのまにか、二人とも剣を構えていた。
「曖昧ってなんだよ」
「今更、どうして盗賊団の話を引っ張ってくるんだ」
「思い出したからだよ。オレはここに来る前から記憶喪失だった。でも、銀の欠片を吸収したら少しずつ記憶が戻るんだ」
「なるほどな。思い出したから問いただした、と」
雨足は強まっていく。濡れた草花で滑らないように、剣を持つ手にも地に立つ足にも集中していた。剣を交えながら、シオンが答える。
「命の価値は平等じゃない。あの場所では誰もがそうだった。一度でも殺すことを躊躇えば、俺の方が頭領に殺されていただろう」
「……命令、だったのか?」
「近いな。習慣、と言ったところか」
やるせない様子で眉を下げた。らしくない表情でシオンは続ける。
「ただ、あの襲撃の記憶が、微かにしか思い出せない。その子供を斬った後に何があったのか俺は知らない。そういうわけで、お前に与えられる情報はこれくらいだ」