[6]真実のかけら

 一度にたくさんの出来事が訪れると、時間は恐ろしい早さで進んでいく。気が付けば、あっという間にこの村を離れる日になっていた。討伐隊に所属する以上、彼らは常に魔物が蠢く討伐隊基地を守らなければならない。
 帰路につく三番隊は静かだった。移動用の魔法をいくつも併用した馬車の中。隣に座るリンと、その前の席にいるユンはすでに眠ってしまっている。
 何気なくリンの横顔を眺めていると、ジェシカがそっと振り返った。
「ウィリアム、あなたも休んだら? 疲れているでしょう」
 有無を言わさぬ力が。その態度から伺える。確かにウィリアムは追い詰められていた――彼女はどこまでわかっていたのだろう。ああ、と返事をして目を閉じる。そういえばまだ、銀の欠片の中身を確かめていないのだ。

◆◇◆

 瞼の暗闇の奥。記憶の淵に滑り落ちる。流れ込んだ欠片二個分のそれが、沈んだ先の土壌でウィリアムに根付く。

 ――いましがた後にした貧民街とよく似た、けれど違う場所。どこかにある故郷。

 シェリーの幼い爛漫な笑顔。「ありがとう」という無邪気なことばの矛先。身なりの違う服と、青い瞳。見慣れた乾いたがれきの住処と、見慣れぬ艶やかな白い壁。去っていく高貴な背中。告げられた名。
 いまでも目の前にある、その姿。

 ――白い街の、おじょうさま。

 瞼を開いてみれば、景色が変わらないほどのほんのわずかな眠りだった。けれど、その欠片がもたらした記憶は、事実は、世界のすべてを違う色に染めた。
 噛み砕くより先に、呆けたような声が出る。
「ジェシカ、おまえ、シルヴィなのか」
 何をいまさら、と彼女は答えた。そんなことはとっくに知れている。寝ぼけているのと聞き返される。間違ってはいない。意識だけが夢の底にひきずられたような浮遊感のまま、それでも頭の別のところが正確にからくりを解いていた。
「シェリーっていう女の子と、会ったことないか。トラスダンジュの、たぶん、貧民街だった場所で」
「トラスダンジュの貧民街? シェリー……でもなんでそれを――」
 言いかけて、花が散ったときのように目を丸くする。瞬間、解は共有された。もうそれ以上言葉はいらない。

 守られていた。自分がウィリアムという名でなかった頃にも。シェリーのことも。

 新しくふるい記憶からふんわりと、暖かいパンの匂いが漂ってくる。ゆるやかに流れ去る木も山も空も、車輪が石を踏む音さえも全てが消え去る。風に踊らされるジェシカのやわらかい髪だけが、世界が動いていると証明していた。
 互いの瞳が瞳に映る。
 陽にかがやく白い街。貧民街で生きていた少年と、豪奢な屋敷で生かされていた少女が、そのとき時間を飛び越えて、あの日のように見つめ合った。
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