[6]真実のかけら

「お前らしっかりしろ! 奪うのがオレらのやり方だ。餓鬼どもぐらい蹴散らして、さっさともらうもんはもらうぞ」
 一度スイッチが入ってしまえば、やはり盗賊はその道の者。こちらも無防備ではいられない。
「話し合いじゃどうにもならなさそうだね」
「仕方ないわね。おとなしくしないと、痛い目を見るわよ」
 リンの防護術を合図に、裏庭は戦場へと変わる。
「気をつけて。相手は僕らと違って、命まで狙える」
 言われた通りだ。ウィリアムは三人をざっと見た。屈強な体躯はどこかの兵団にいてもおかしくないほどで、腕力はほぼ間違いなく相手の方が上だろう。派手な斧が振り上げられると、戦意に染まった切っ先から目を離すわけにはいかなくなる。

 どちらが先に仕掛けるか。焦らすような睨み合いが続く。どこから来るか。斧か、剣か、棍棒か、魔方陣か、手か、足か。最初に動いたのは――月光を遮る影だった。視界を一様に暗くする影。それは何の影だ? ウィリアムは振り返る。
「な、なんだ、ありゃ!」
 次に、髷頭の男が腰を抜かし、その後に髭面が後ずさった。彼を、否、場にいるすべての者を釘づけにするのは、空を覆うほど巨大な怪鳥。闇を帯びた躰と眼に脈打つ赤い光は、それがただの鳥ではないということを示していた。
「ま、魔物……? こんなデカいのが」
 白銀の翼を持つ怪鳥は大きな翼で風を起こす。そして盗賊たちをぎろりと一瞥。
「き、来ますよ兄貴! どうしましょう!?」
 ヒゲは棍棒を構えながらもどこか頼りない様子で、マゲに至ってはもう武器を捨てて縮み上がっている。後ろに控えるシゲは冷静だったが、それでも険しい顔をしている。
「兄貴……」
 耳をつんざく鳴き声はこちらを威嚇する証だ。逆風にあおられる三人に向かって、動く隙も与えず火を吐いた。踏みしめていた草の端が焦げる。マゲに続いてヒゲも悲鳴をあげて転がる。もはや動けない盗賊二人に、うねる火の玉が迫り――消えた。

「大丈夫か?」
 灼熱を押し殺したのは、三番隊の剣だった。ウィリアムは盗賊らを振り返る。その瞳に迷いはない。
「下がってろ。魔物相手なら、オレらの方が慣れてる」
 戸惑う三人に、今度はジェシカが叫ぶ。
「あなたたち、誰か増援を呼んできて! 武器を持ってれば誰でもいいから!」
「でもお嬢ちゃん、あんたらは」
 シゲを遮ったのは、有無を言わさぬピースサイン。ピンクのリボンがはためいた。
「ボクらをなんだと思ってるの? 討伐隊なんだよ。こっちは任せて!」
 少女の背中と親分の顔とを、ヒゲとマゲは言葉もなく交互に見る。シゲはというと暫く黙っていたが、やがて力強く頷いた。
「わかった。誰かを連れてくればいいんだな」

 扉の向こうへと消えていく彼らを見送れば、あとは敵に向かうだけだ。
「結界は破られてないのに、すぐそこまで魔物が来てる。マルクみたいに魔物を呼んだのかも。気を抜かないで!」
 だとしたら、この鋭い翼の裏にも彼らの影があるのか。巡らせた夕空を引き裂く咆哮を聞くだけで、剣を握る手がビリビリと痺れてくる。構え直すと、空気が変わった。
「敵さんも、本気で来る気みたいね」
 まるで最初から、盗賊たちは邪魔者だったよう。燃え盛る炎は段違いの威力で地を焼き払い、宣戦布告。真紅の眼光はまっすぐウィリアムを貫く。ここからが本番。ならば、逃げるわけにはいかない。
「かかってこいよ。討伐隊も、他の誰も、お前らには傷つけさせない」
「傷つけるためにきたわけじゃないわ」

 思わぬ返事に、ウィリアムははっとした。揺れる花びらに似た可憐な声。四つ足の獣を模した魔物を三体引き連れて、いつかの少女がそこにいた。
「お前は……!」
 冷えた風に揺れる若草色の髪。その間からまっさらな頬が見え隠れしている。そのまま霧をあしらったような白いドレスをふわりとさせながら、少女はあやしく舞い降りる。
「あなたに、あいにきたの」
 タバサの無垢な、あるいは無機な双眸は、ウィリアムただ一人を映していた。
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