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バイアスだって十人十色 [2]十人十色(赤/白)

「そんな質問なのか。参考にしたいとか?」
 もう少し衝撃を受けてほしかった。やはり考えの読めない目を相手に、レテの息で幸福が逃げた。
「参考になるかどうか、ってのは聞いてみないとわからないし。あるならあるで話してよ。自分で出した課題でしょ」
 レテの態度はさぞ生意気に思えるであろう。ただ、個人差はあるが魔導師に上下関係を気にしない者は多い。親しいほど、長い付き合いになることがわかりきっているから。

 うーん、と少し考えるそぶりのあと。マスクの下でキャロが口を開く。
「すごく昔の話だけど。私厳しい実家でね、窮屈だから逃げてきたの。そのときに門番とか追っ手を殺したかな。みんな人間だった。楽だったよ」
 ええ、と思った。レテは率直に興醒めした。まさか一発目から複数人かつ身勝手な理由を引き当てるとは思わなかったのだ。ここがキャロ個人の部屋でなくてよかった。部位ごとに整理されたドールパーツの見えるところで聞きたい話ではない。乗り気でない本音を雑に隠して、適当かつ自分が言いそうな相槌を置く。

「対人間なら楽勝じゃん。参考にならない。人間のくせに魔導師を追うなよ、僕でも殺すよそんなの」
 口を尖らせるレテを、キャロはじっと、じっと見つめた。そうだね、と返事のような注釈をよこす。
「まあ、他のひとなら殺しをするまでが長いかもしれないよね。今は色々あって……やらないようにしてるけど。長く生きるとどうしてもね、そういうこともある」
 だからその色々ってなんなんだよ、と聞き返そうとして、そのときドアが開いた。

「あれ、学生がいる」
 ひとり、女が入ってきた。リナ。彼女も魔導師で特別魔導教授だ。きらきらした金髪と、名前の分からないヘアアクセ、髪をくるむようなリングが目立つ。先生としては、たしか魔物の生態を教えているはずだ。レテは彼女の講義を取っていないので、直接会話したことはあまりない。学友によると感覚派、わかりやすい、等々の評判を聞く。が、それを総合すると「バカっぽい」印象しかない。大丈夫だろうか。

 この部屋にまた魔導師が来た、といっても、おかしいことではない。ここは通称「魔導師の談話室」だ。特別魔導教授が共通して使っている一室だからだ。教授だけでなくレテのような次世代候補が何度か出入りしているのを見た。
 ここを根城にしている教授は――。
(ちょうど四人か)

 現役で講義を持っている特別魔導教授は、今なら四人。課題の人数も四人。質問先は、どうせだからこいつらにしよう。その中には本命だっている。
「せんせ。僕はそれ、ここに来るひとに聞くことにするよ」
「そうだね。さっきみたいな感じで聞いてみて、どう思ったのかを記述してみて」
 ――特別課題か? という顔のリナの視線を受けて、キャロは「見極めたいものがあるの」と簡潔に答えた。

 そのまま、金髪の女に振り返る。
「わたしは外そうか」
「ああ、悪いな」
 会話が成立している割に言葉が少ない。レテはこっそり不思議に思った。なぜ意思疎通ができるのだろう? よくわからないが仲がいいのか、そういう魔法があるのか。
「レテくん。課題は一週間後、私の部屋に出しに来てね」
 とだけ言い残し、追及する暇もなく事の発端は消えた。
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