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CCさくら長編 Nothing Stays the Same
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あれから暫くして目を覚ました私は、部屋にいるのが少し気まずくて外へ出たかったのと、
この旅行の目的でもある温泉にまだ入っていなかったのを思い出し、1人で温泉に入りにきていた。
このお宿の名物とあって結構な広さがあり、中でも山下の夜景が見下ろせる露天風呂は格別だった。
温泉の縁である岩に寄りかかり、眼下に広がる煌めく明かりを見下ろし、ふぅと息をつく。
「本当に綺麗な夜景。遅い時間で私以外だれもいなくて、貸切りしてる気分」
いつものお風呂よりも何倍も広い湯船で足を名一杯伸ばし空を見上げると、ちょうど満月が真上に来ていた。
その綺麗な満月からあの綺麗な紫の瞳を思い出し、さっきまでの出来事が頭をよぎった。
キスマークのような痣のできているであろうそこに、そっと手を当てる。
温泉で温まっただけじゃない頰の火照りを夏のぬるい風が撫でていく。
「これ、魔力の受け渡しのたびに、しなきゃ、ダメ、なんだよね・・・」
毎回これでは身がもたない・・主に精神的な意味で・・・。でも魔力はあげないとユエさんが困ってしまう。でも恥ずかしい・・・と頭を抱えていると、露天風呂を仕切っている壁の向こう側から賑やかな声が聞こえてきた。どうやら敷居の向こう側は男風呂で、春人たちも入りに来たようだ。
向こうからこちらの姿はもちろん見えないのだけど、なんとなく向こうから見えない様に肩までお湯に浸かり、少しだけ息をひそめた。
「きゃー!きれーな夜景!100万ドルー!」
「お前さん、カツラとってもまだ女の子みたいにキャーキャーやかましいなー」
「・・100万ドルは函館じゃなかったか・・・?」
「いいでしょー!ここのメインだし、他のお客さんいないし!貸切ー!」
「泳ぐなって!ほら、おとなしく入らんかい!」
見えてないのに壁の向こうでバシャバシャと聞こえる豪快な水の音から、飛鳥がはしゃいで温泉で泳ぎだしている様が目に浮かぶ。飛鳥相手だと春人は弟を相手にするお兄ちゃんみたいだな、と考えていると、辺りからさくらカードの気配を感じ、はっと息を飲んであたりを見回した。
バシャバシャと飛鳥の水を蹴る音と、夏の虫の小さな声。カードの気配はするのにやけに静かだ。急に吹いてきた風がさわさわと草を揺らす。
足首をするりと撫でる感触で水中を覗き込むと、温泉の水面が不自然にぐにゃりと揺らぎ、水の中に引っ張り込まれた。
「きゃっ!!」
バシャバシャとしぶきを上げもがくが、足に絡まる渦のようなものが離れない。
さっきまで膝程しかなかった温泉が、いつのまにか全身が水に浸かっても手が水面に届かない深さになっている。これもさくらカードの魔力で空間も歪められているのか?と頭ではやけに冷静に分析しているが、息が続かない。
どうにか手足をばたつかせて水面に近づこうとするが、一向に渦は足から離れない。
息ができなくて、苦しくて、もうダメだと水を掻く手から力を抜いた時、誰かにぐいっと腕を引っ張り上げられた。
水面に顔が出て、急に入って来た酸素に肺と気管が悲鳴を上げる。熱くなる喉にむせ返りながら、誰かの腕に抱きかかえられていることに気づく。顔を上げると、そこには髪から水を滴らせたユエさんの顔が至近距離にあった。
「大丈夫か!?さくらカードの気配がしてこちら側に来たのだが・・」
心配そうな表情で私の顔を覗き込んでくる。しかもいつぞやの真の姿とやらで、後ろには綺麗な羽が生えている。肩で息をしながら、あぁ、この姿になって羽を生やして壁を超えてきたのか・・・とまで酸素の足りない頭で考えたところで、はたと気付く。自分は今、一糸纏わぬ姿で、ユエさんに抱きしめられている。
酸素が足りない頭でもこれだけはわかった。
「きゃー!!!タオルー!離してー!」
支えられていた腕を半ば突き飛ばす勢いで、脱衣所に向かう。ぐるぐると混乱する頭で、籠の中に入れておいた自分のバスタオルを体に巻きつけ、星の鍵とカードをひっつかみ脱兎のごとく露天風呂への道を引き返す。その途中でぬいぐるみ姿のケロちゃんと合流し、再び外へと出る。
露天風呂へ戻ると、ユエさんが光の弓のようなもので水の塊と応戦していた。光の矢がユエさんの手から放たれるが、水をすり抜け勢いをなくし消えてしまう。ユエさんの小さな舌打ちが聞こえた。
「私の魔法では効かない」
「ユエの魔法が効かんってことは、これは水(ウォーティ)のカードや!」
「水(ウォーティ)?!四第元素カードの最後の1枚ね!」
鍵を杖にし、びしっと構える。濁ったお湯の渦が、水しぶきを上げて人魚の様な少年の姿に変わった。腕を組んで上からこちらを見下ろしている。
「元々好戦的なカードとはいえ、テンションえらい高いな。どないしたん」
ケロちゃんは怪訝そうな表情で水(ウォーティ)を見上げている。水(ウォーティ)は悪戯好きの子供の様な表情をしていて、私の格好を上から下までじっと見てくる。その視線を追って自身の格好を見下ろす。忘れていた。私はタオル一枚。ここまで走って来た振動でタオルの合わせが緩んでいたため、左手でタオルの合わせを抑える。その光景を見て、ちょっと水(ウォーティ)がすくっと笑った気がした。水(ウォーティ)、何気にこの状況を楽しんでないか・・?
もう、今日は魔力の受け渡しでぶっ倒れるし、楽しみにしてた温泉を堪能中にカードに邪魔されるし、ユエさんに裸見られた(と思う)し、散々だ。私が何をしたっていうんだ。私の中の何かがぷちっとキレる音がした。
「・・・四第元素だか知らないけど、こんな格好で闘わされるなんて信じられないっ!さっさと封印して服が着たい!」
持って来ていた地(アーシー)のカードを掲げ、呪文を唱える。
『土よ!かの者を大地へと還せ!地(アーシー)!』
地(アーシー)の操る土が水(ウォーティ)に覆いかぶさり、瞬く間に水は泥と化した。その泥がズルズルと動いてこちらへと飛びかかってくる。
「甘い!跳(ジャンプ)!」
足元になだれ込んで来た土砂を跳(ジャンプ)でかわし、岩の上へと着地する。
「まだまだぁ!辱められた乙女の意地ーーー!『炎よ!地を焼き水を大気へと還せ!炎(ファイアリー)!』」
「よ、四大元素の炎と土を同時に・・・しかもタオル一丁や。乙女は怒らせたらアカンで」
右手は杖、左手はタオルの合わせ。そんな格好で、水(ウォーティ)以外の温泉の水を蒸発させ、本体を完全に露出させた。露わになってあたふたする水(ウォーティ)をキッと睨みつけ、封印の呪文を唱える。
『汝のあるべき姿に戻れ!さくらカード!』
カードの姿に戻った水(ウォーティ)と他のカードたちを手の中に収めると、そのままダッシュで脱衣所に向かって走りだした。
「もう、早く着替えさせてー!!!」
「なまえ、タオル一丁で凄む姿、かっこよかったで・・わいらの出番なしかい」
「あぁ・・・」
そんな2人の会話なんて耳に入らない私は、水風呂で桶いっぱいの水を浴びて脱衣所へと上がったのだった。
浴衣に無事着替えられた私は、女湯の戸を開けて廊下へ出る。
そこには3人が待ってくれていて、扉から出ると真っ先に飛鳥が抱きしめてきた。
「もー!超心配したんだからー!僕こう見えてちゃんと男の子だから、女湯には行けなかったんだからね!」
「うん。こう見なくても、飛鳥はちゃんと男の子なのは知ってるよ」
しっとりと濡れたままの飛鳥の短い髪を撫でる。
「2人が柵を超えて行っちゃったし、こっち側からフォローできないか構えてたけど、その必要はなかったみたいだね」
「乙女は怒らせると怖いでー。わいら必要なかったわーなまえ様最強やー」
「私は一刻も早く服を着たかったの!あー恥ずかしかったー!」
「セクシーななまえ見たかったなぁ。あ!僕、お風呂上がりのアイス食べたーい」
「ええな!売店に売ってるんやないか?見にいこかー」
2人がパタパタと売店に向かっていった後ろ姿を眺めていると、眉を下げたユエさんと目が合った。
「さっきはすまなかったな、その、風呂で」
「え?・・・・あ」
カードを封印する事に夢中で忘れかけていたが、不可抗力とはいえユエさんに露天風呂で裸を見られた事を思い出し、顔に一気に熱が集まる。恥ずかしくてまともにユエさんの顔を見ることができなくて俯いてしまう。
絨毯の模様を目で追いながら、しどろもどろになって顔を上げられないでいると、「あんな事があった後では、私の顔は見たくはないだろう」という言葉と共に、ユエさんのスリッパが離れて行くのが見えた。私が黙って下を向いていたから怒っているのだと勘違いさせてしまった。
そんなことないっ!と私は顔を上げて去っていこうとするユエさんの手をきゅっと握った。
「あの時、ユエさんが来てくれてよかった!」
「っ!」
「あのままじゃ私、多分溺れて死んじゃってた」
「・・・・」
「助けてくれて、ありがとう」
「・・・・よかった」
「え?」
ユエさんの手を握っていた手を引き寄せられ、包み込むように優しく私を抱きしめた。長く息を吐く音が耳元で聞こえた。
「お前を、失うかと思った」
「私はそんな簡単に死なないよ?」
「お前は強いが、危なっかしい」
背中に回った腕が、離さないというかのように強く抱きしめてくる。安心して欲しくて、ユエさんの背中に腕を回して胸に頬を預ける。ユエさんの鼓動が近くで聞こえて、心地いい。
「ユエさんが居てくれるってだけで安心する」
「頼むから無茶はするなよ」
「わかってる」
腕を緩めて見上げると、困ったように微笑むユエさんと目が合い、どちらともなく笑いあっていると、ふとキスマークを付けられた所にユエさんの細い指が触れた。
「跡が残ってしまったな」
「あ、これ」
「これでお前のことを守れる」
「・・・もしかして元の姿に戻れないの気にしてた?」
「・・仮の姿では力不足だ」
「私、ユエさんに魔力ちゃんと渡せる様に、もっと強くなるよ」
「この身に代えてもお前は守る」
「ユエさんだけが苦しむのは嫌。魔力も足りないならちゃんと言って。あげるから」
「あぁ、お前がぶっ倒れない程度に嗜むよ」
そう言って笑ったユエさんは、私の額をコツンと指で突ついた。
笑ったユエさんの表情はちょっと幼く見えた。
この旅行の目的でもある温泉にまだ入っていなかったのを思い出し、1人で温泉に入りにきていた。
このお宿の名物とあって結構な広さがあり、中でも山下の夜景が見下ろせる露天風呂は格別だった。
温泉の縁である岩に寄りかかり、眼下に広がる煌めく明かりを見下ろし、ふぅと息をつく。
「本当に綺麗な夜景。遅い時間で私以外だれもいなくて、貸切りしてる気分」
いつものお風呂よりも何倍も広い湯船で足を名一杯伸ばし空を見上げると、ちょうど満月が真上に来ていた。
その綺麗な満月からあの綺麗な紫の瞳を思い出し、さっきまでの出来事が頭をよぎった。
キスマークのような痣のできているであろうそこに、そっと手を当てる。
温泉で温まっただけじゃない頰の火照りを夏のぬるい風が撫でていく。
「これ、魔力の受け渡しのたびに、しなきゃ、ダメ、なんだよね・・・」
毎回これでは身がもたない・・主に精神的な意味で・・・。でも魔力はあげないとユエさんが困ってしまう。でも恥ずかしい・・・と頭を抱えていると、露天風呂を仕切っている壁の向こう側から賑やかな声が聞こえてきた。どうやら敷居の向こう側は男風呂で、春人たちも入りに来たようだ。
向こうからこちらの姿はもちろん見えないのだけど、なんとなく向こうから見えない様に肩までお湯に浸かり、少しだけ息をひそめた。
「きゃー!きれーな夜景!100万ドルー!」
「お前さん、カツラとってもまだ女の子みたいにキャーキャーやかましいなー」
「・・100万ドルは函館じゃなかったか・・・?」
「いいでしょー!ここのメインだし、他のお客さんいないし!貸切ー!」
「泳ぐなって!ほら、おとなしく入らんかい!」
見えてないのに壁の向こうでバシャバシャと聞こえる豪快な水の音から、飛鳥がはしゃいで温泉で泳ぎだしている様が目に浮かぶ。飛鳥相手だと春人は弟を相手にするお兄ちゃんみたいだな、と考えていると、辺りからさくらカードの気配を感じ、はっと息を飲んであたりを見回した。
バシャバシャと飛鳥の水を蹴る音と、夏の虫の小さな声。カードの気配はするのにやけに静かだ。急に吹いてきた風がさわさわと草を揺らす。
足首をするりと撫でる感触で水中を覗き込むと、温泉の水面が不自然にぐにゃりと揺らぎ、水の中に引っ張り込まれた。
「きゃっ!!」
バシャバシャとしぶきを上げもがくが、足に絡まる渦のようなものが離れない。
さっきまで膝程しかなかった温泉が、いつのまにか全身が水に浸かっても手が水面に届かない深さになっている。これもさくらカードの魔力で空間も歪められているのか?と頭ではやけに冷静に分析しているが、息が続かない。
どうにか手足をばたつかせて水面に近づこうとするが、一向に渦は足から離れない。
息ができなくて、苦しくて、もうダメだと水を掻く手から力を抜いた時、誰かにぐいっと腕を引っ張り上げられた。
水面に顔が出て、急に入って来た酸素に肺と気管が悲鳴を上げる。熱くなる喉にむせ返りながら、誰かの腕に抱きかかえられていることに気づく。顔を上げると、そこには髪から水を滴らせたユエさんの顔が至近距離にあった。
「大丈夫か!?さくらカードの気配がしてこちら側に来たのだが・・」
心配そうな表情で私の顔を覗き込んでくる。しかもいつぞやの真の姿とやらで、後ろには綺麗な羽が生えている。肩で息をしながら、あぁ、この姿になって羽を生やして壁を超えてきたのか・・・とまで酸素の足りない頭で考えたところで、はたと気付く。自分は今、一糸纏わぬ姿で、ユエさんに抱きしめられている。
酸素が足りない頭でもこれだけはわかった。
「きゃー!!!タオルー!離してー!」
支えられていた腕を半ば突き飛ばす勢いで、脱衣所に向かう。ぐるぐると混乱する頭で、籠の中に入れておいた自分のバスタオルを体に巻きつけ、星の鍵とカードをひっつかみ脱兎のごとく露天風呂への道を引き返す。その途中でぬいぐるみ姿のケロちゃんと合流し、再び外へと出る。
露天風呂へ戻ると、ユエさんが光の弓のようなもので水の塊と応戦していた。光の矢がユエさんの手から放たれるが、水をすり抜け勢いをなくし消えてしまう。ユエさんの小さな舌打ちが聞こえた。
「私の魔法では効かない」
「ユエの魔法が効かんってことは、これは水(ウォーティ)のカードや!」
「水(ウォーティ)?!四第元素カードの最後の1枚ね!」
鍵を杖にし、びしっと構える。濁ったお湯の渦が、水しぶきを上げて人魚の様な少年の姿に変わった。腕を組んで上からこちらを見下ろしている。
「元々好戦的なカードとはいえ、テンションえらい高いな。どないしたん」
ケロちゃんは怪訝そうな表情で水(ウォーティ)を見上げている。水(ウォーティ)は悪戯好きの子供の様な表情をしていて、私の格好を上から下までじっと見てくる。その視線を追って自身の格好を見下ろす。忘れていた。私はタオル一枚。ここまで走って来た振動でタオルの合わせが緩んでいたため、左手でタオルの合わせを抑える。その光景を見て、ちょっと水(ウォーティ)がすくっと笑った気がした。水(ウォーティ)、何気にこの状況を楽しんでないか・・?
もう、今日は魔力の受け渡しでぶっ倒れるし、楽しみにしてた温泉を堪能中にカードに邪魔されるし、ユエさんに裸見られた(と思う)し、散々だ。私が何をしたっていうんだ。私の中の何かがぷちっとキレる音がした。
「・・・四第元素だか知らないけど、こんな格好で闘わされるなんて信じられないっ!さっさと封印して服が着たい!」
持って来ていた地(アーシー)のカードを掲げ、呪文を唱える。
『土よ!かの者を大地へと還せ!地(アーシー)!』
地(アーシー)の操る土が水(ウォーティ)に覆いかぶさり、瞬く間に水は泥と化した。その泥がズルズルと動いてこちらへと飛びかかってくる。
「甘い!跳(ジャンプ)!」
足元になだれ込んで来た土砂を跳(ジャンプ)でかわし、岩の上へと着地する。
「まだまだぁ!辱められた乙女の意地ーーー!『炎よ!地を焼き水を大気へと還せ!炎(ファイアリー)!』」
「よ、四大元素の炎と土を同時に・・・しかもタオル一丁や。乙女は怒らせたらアカンで」
右手は杖、左手はタオルの合わせ。そんな格好で、水(ウォーティ)以外の温泉の水を蒸発させ、本体を完全に露出させた。露わになってあたふたする水(ウォーティ)をキッと睨みつけ、封印の呪文を唱える。
『汝のあるべき姿に戻れ!さくらカード!』
カードの姿に戻った水(ウォーティ)と他のカードたちを手の中に収めると、そのままダッシュで脱衣所に向かって走りだした。
「もう、早く着替えさせてー!!!」
「なまえ、タオル一丁で凄む姿、かっこよかったで・・わいらの出番なしかい」
「あぁ・・・」
そんな2人の会話なんて耳に入らない私は、水風呂で桶いっぱいの水を浴びて脱衣所へと上がったのだった。
浴衣に無事着替えられた私は、女湯の戸を開けて廊下へ出る。
そこには3人が待ってくれていて、扉から出ると真っ先に飛鳥が抱きしめてきた。
「もー!超心配したんだからー!僕こう見えてちゃんと男の子だから、女湯には行けなかったんだからね!」
「うん。こう見なくても、飛鳥はちゃんと男の子なのは知ってるよ」
しっとりと濡れたままの飛鳥の短い髪を撫でる。
「2人が柵を超えて行っちゃったし、こっち側からフォローできないか構えてたけど、その必要はなかったみたいだね」
「乙女は怒らせると怖いでー。わいら必要なかったわーなまえ様最強やー」
「私は一刻も早く服を着たかったの!あー恥ずかしかったー!」
「セクシーななまえ見たかったなぁ。あ!僕、お風呂上がりのアイス食べたーい」
「ええな!売店に売ってるんやないか?見にいこかー」
2人がパタパタと売店に向かっていった後ろ姿を眺めていると、眉を下げたユエさんと目が合った。
「さっきはすまなかったな、その、風呂で」
「え?・・・・あ」
カードを封印する事に夢中で忘れかけていたが、不可抗力とはいえユエさんに露天風呂で裸を見られた事を思い出し、顔に一気に熱が集まる。恥ずかしくてまともにユエさんの顔を見ることができなくて俯いてしまう。
絨毯の模様を目で追いながら、しどろもどろになって顔を上げられないでいると、「あんな事があった後では、私の顔は見たくはないだろう」という言葉と共に、ユエさんのスリッパが離れて行くのが見えた。私が黙って下を向いていたから怒っているのだと勘違いさせてしまった。
そんなことないっ!と私は顔を上げて去っていこうとするユエさんの手をきゅっと握った。
「あの時、ユエさんが来てくれてよかった!」
「っ!」
「あのままじゃ私、多分溺れて死んじゃってた」
「・・・・」
「助けてくれて、ありがとう」
「・・・・よかった」
「え?」
ユエさんの手を握っていた手を引き寄せられ、包み込むように優しく私を抱きしめた。長く息を吐く音が耳元で聞こえた。
「お前を、失うかと思った」
「私はそんな簡単に死なないよ?」
「お前は強いが、危なっかしい」
背中に回った腕が、離さないというかのように強く抱きしめてくる。安心して欲しくて、ユエさんの背中に腕を回して胸に頬を預ける。ユエさんの鼓動が近くで聞こえて、心地いい。
「ユエさんが居てくれるってだけで安心する」
「頼むから無茶はするなよ」
「わかってる」
腕を緩めて見上げると、困ったように微笑むユエさんと目が合い、どちらともなく笑いあっていると、ふとキスマークを付けられた所にユエさんの細い指が触れた。
「跡が残ってしまったな」
「あ、これ」
「これでお前のことを守れる」
「・・・もしかして元の姿に戻れないの気にしてた?」
「・・仮の姿では力不足だ」
「私、ユエさんに魔力ちゃんと渡せる様に、もっと強くなるよ」
「この身に代えてもお前は守る」
「ユエさんだけが苦しむのは嫌。魔力も足りないならちゃんと言って。あげるから」
「あぁ、お前がぶっ倒れない程度に嗜むよ」
そう言って笑ったユエさんは、私の額をコツンと指で突ついた。
笑ったユエさんの表情はちょっと幼く見えた。
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