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第13話 炎で溺れる人工呼吸!
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海の家のシャワー室を借りて着替えた私は、オレンジの髪がずれていないかを鏡でチェックし、ぱしっと頬を両手で叩いて気合入れシャワー室のカーテンを開けた。
さっきまでパーカーを着ていたから緑の縞ビキニだけだと少しお腹が冷えるが、下がジーパンなので肌の露出もそこまで多くなく動きやすくてホッとした。
亮ちゃんの今日の荷物はそんなに多く見えなかったのに、左腕の刺青シールまでちゃっかり用意して、そして一体どこに衣装一式を隠し持ってたんだと、我が親友ながらその容姿周到さには脱帽だ。
更衣室を出て、海の家の前に小走りで駆けていくと、そこには・・・カメラクルーがいた・・・。
いや、正確には、ビデオカメラを抱えた亮ちゃん、マイクっぽい機材を持ってるユエさん、レフ板っぽいのを抱えている春人。
3人ともカメラクルーっぽい黒いキャップを被っている。この衣装も用意したのか・・・、と親友に心の中で再び賞賛の声を送った。
「なまえ!我々は特撮撮影のクルーよ!これなら怪しまれずに魔法が使えるわ!」
「確かにこれだったら映画の演出か何かだと思われそうだけど・・・この衣装と撮影のコンセプトは?」
「その衣装は、夏!海!航海!が舞台と言ったら定番でしょ」
「あと、思ったんだけど、ナミって魔法技使えたっけ?打撃系じゃ・・・」
「緊急事態なんだから、細かいことはいいのよ!さ!カードを封印よ!」
そう言ってカメラの録画スイッチを入れた亮ちゃんが私の背中を押す。
海へ来たそもそもの理由は、噂されている自然発火の原因がもしかしたらカードかもしれないと調査目的で来たのだし、
狙い通りカードと出会えたのだからやるしかない、と切り替え杖をバトンのように数回回転させ、キャラの決めポーズを取る。
「相手が風と海なら航海してみせる!さ!行こう!」
「今回の相手は火ぃやけどな」
「春人!余計なツッコミはいらなーい!」
名台詞をキメて走り出したが、春人が余計なツッコミを入れたため、砂につまづきそうになった。
つんのめりそうになった脚を立て直し、目標にむかって再び走り出す。
流石にこの格好の4人組は目立つのか、炎が上がっている方へ駆けていく際に、すれ違う人々にジロジロ見られたけど、私の後ろの偽カメラクルー達の姿を二度見して、どこか納得いったように視線を逸らしていく。
あえて目立つような格好をしていると逆に人は関わらないように行動するようだ。
炎が上がっている場所にたどり着き、周りから人を遠ざける。
「はいはーい!これから撮影が入りますから、浜辺から出てくださーい!」
亮ちゃんと春人が周りの客に指示を出し、できるだけ一般人を遠ざけるように誘導する。
私は、炎を睨みつけ、風(ウィンディ)のカードを取り出す。
「今、手元には水のカードはない。雷で攻撃しても炎には意味ないし、一か八か風で火を消す!」
「風よ!砂を巻き上げ炎を消せ!風(ウィンディ)!」
呪文を唱え、風(ウィンディ)が浜辺の砂を巻き上げ、炎に向かって吹き付ける。
一瞬火が小さくなったかに見えたが、ぶわりと炎が大きく燃え出し、仕返しとばかりに火の玉が飛んで来た。
素早く跳(ジャンプ)のカードを使い、炎を避ける。さっきまで立っていたところが黒く焦げ跡がついている。
「あっつ!危な!」
「あかん!四大元素でも風(ウィンディ)はごっつ優しいカードや!炎(ファイアリー)には勝てん!」
「でも、水のカードなんてないし!」
「水ならあるだろう!海だ!」
「そっか!」
火柱となっていた塊が、炎の髪に背中に羽の生えた少年の姿に変わった。
宙に浮いてこちらを不敵な笑みをたたえた表情で見下ろし、間髪入れず炎の塊を打ってきた。
その炎を避け、跳(ジャンプ)で一度跳躍し、沖に投げ出されたままのサーフボードの上に着地する。
風(ウィンディ)のカードを見つめ、カードを額にあて呟く。
「風(ウィンディ)、お願い、もう一度頑張って」
「風よ!水を巻き上げよ!風(ウィンディ)!」
サーフボードの上という不安定な場所でぐらつきながら、風(ウィンディ)の巻き起こす突風を耐える。
その風に煽られて、表面が白く波立ちシャワーのように炎(ファイアリー)に降り注ぐ。
海の水をかぶり、小さくなった火を風が容赦なく削っていく。
「いまだ!」
「汝のあるべき姿に戻れ!さくらカード!」
再び突風を巻き起こしてカードへと戻る。浜辺へと落ちた光る炎(ファイアリー)のカードを遠くに確認し、ふっと力を抜いた。
しかし、それがいけなかった。今はまだ波の上に浮かぶサーフボードの上だったことを忘れていた。
案の定バランスを崩し、大きな水しぶきをあげて海へと落っこちた。
ジーパンとかつらが水を吸って重たい。魔力を使い切った身体に力が入らず、もがいても身体は上昇せず、どんどん身体が沈んでいく。
さっきまで近くにあったサーフボードは、落ちた時の波と潮の流れで手の届かないところへ流れて行ってしまった様だ。
水底から少し離れたところに浮かぶサープボードと、外れて海を漂うウィッグの影を見つめる。
あぁ、水底から見える太陽って綺麗。なんてぼーっと考えていた。
「おい!なまえ!大丈夫か?!」
「なまえ!お願い目を開けて!」
重たい瞼を開けると、そこにはドアップで春人と亮ちゃんの顔があり、ぎょっとして目がパッチリと覚めてしまった。
が、むせてすぐに声が出ない。
「げほげほっ、あ、あれ、わたし、どうしたんだっけ?・・・炎(ファイアリー)は?」
「なまえがちゃんと封印したで!」
「ここにちゃんとあるわよ!」
亮ちゃんは「カードなんかどうでもいいわよー!心配したんだからねー!」とちょっと強引に抱きしめられた。
そういう亮ちゃんの手にはちゃんと炎(ファイアリー)のカードが握られていて、ありがとうと言う気持ちを込めて彼女の肩を撫でた。
「月城先生がとっさに飛び込んで、CPRしてくれたの。本当に処置が早くてよかった」
「しーぴーあーる?」
「心肺蘇生よ!あんた水飲んで息してなかったんだから!」
「心肺蘇生?ってことは、じっ人工呼吸!?」
「そうよ!息吹き返すまでそんなにかからなかったけど!もう!」
再びぎゅっと抱きしめられる。亮ちゃんの肩越しにユエさんが見える。
心肺蘇生・・・人口呼吸・・・!?ま、まさか!?
顔が真っ赤になるのがわかる。
「学校で勤めるのもたまには役に立つ。CPRは保険医の研修で習った」
対照的にユエさんは平然と涼しい顔で濡れた髪を掻き上げながら言った。
滴っている雫が色っぽい・・じゃなくて!
意識がなかったとはいえ、恥ずかしすぎてしばらく顔が見れない・・・顔を上げられずにいると、春人とユエさんが荷物を取りに行ってくれた。
熱くなった頬を両手で冷やしていると、亮ちゃんが呆れた声で畳み掛ける。
「あんた、まさかあれがファーストキスなんて言うんじゃないでしょうね?」
「・・・・うぅ。そのまさかだよー・・・」
「あらま、ご愁傷様」
「事故だから!CPRはノーカウントだから!」
「そう思うんならそうなんじゃない?私はしっかり見たわよ、ぶちゅー「うわぁぁぁっぁ!!!!」
動作を交えて亮ちゃんが再現しようとするから、慌てて止めた。
一旦冷静になろうと両手で顔を覆っていると、知らない声が頭上から降って来た。
「ねぇ、彼女たちー2人?俺たちと遊ばない?」
如何にも夏休みの大学生ですといった風貌の男性2人が、砂浜に座っている私たちを覗き込む様に話しかけて来た。
なんて古典的なナンパのセリフだろうか。と思うが、リアルにナンパされた経験のない私は、思わず亮ちゃんの方を見る。
「あー悪いけど私たち、連れがいるから」
さすがは亮ちゃんはこんなナンパには慣れているのか、冷たく返す。男たちの顔さえ見ていない。
「そんな事言ってー、俺たちと来たら楽しいよー」
そう言って男のうちの1人が、顔を覆っていた私の手を取って引っ張ろうとする。
「ちょ、やめ」
さっきまで気を失っていた私の身体は鉛の様に重く、抵抗しようにも力が入らない。
「よく見るとカワイー!君にキーめた!ね、名前なんていうの?」
私はポ◯モンか、と小さく突っ込んではみたが、そんな効果なんてなく、やたら近づいてくる男の顔から逃げようと顔を背ける。
視線の先の亮ちゃんはもう一人を軽くあしらっているが、しつこく食らいつかれている。
鬱陶しいとはっきり顔に書いてあるのに、メンタル強いなこの男。
よそ見をしていたからか、すぐそこに男の顔が迫って来ていたのに気がつかなかった。
「ね、いいトコ連れて行ってあげるよ」
男の手がいつの間にか髪に伸びていて、手のひらで撫で付けるように髪を触られる。
背中がぞわぞわして、喉の奥から不快さが込み上げてくる。
「わいらの連れに何しとんねん」
「ぐっ!」
カバンを持って現れた春人が、亮ちゃんに食らいついてた男の腕をひねり上げた。
「なんだてめー!」
「せやから、連れや言うとるやろ。日本語通じんのか」
冷たく言い放って男の腕を解放する。あってはならない方向に捻られていた腕が解放され、涙目で春人を睨む。
だがそれに負けない眼光で睨み返すと、男がひるむ。こんなにキレてる春人の声を聞いたのは初めてだ。
「その手で触るな。汚らわしい」
その光景に呆気にとられていると、ふわりと後ろから灰色のパーカーを肩にかけられ、優しい腕に抱きしめられる。
ユエさんの手だとすぐにわかった。
至近距離にいた男は一瞬で後ろに跳びのき、もう一人の男と一緒に一目散に逃げて行った。
「地獄の門番舐めると痛い目あうで!!」
「あんたはカードの守護神でしょ」
呆れた声の亮ちゃんのツッコミが飛ぶ。
ナンパ男に解放されホッと一息ついていると、そのままの体勢で逃げていくナンパ男を睨みつけていたユエさんが私の正面に回った。
濡れた私の髪についた砂を手で払って、肩に掛けられたユエさんの灰色のパーカーの前のチャックを閉められる。
袖に腕を通してないからチャックを閉められると腕の自由が効かなくなる。
腕を通そうともごもごしていると、ユエさんが眉間に皺を寄せ、口を開く。
「お前は可愛いんだから、気をつけろと言っただろ。」
「え!うん!?」
「さ、帰るぞ」
「うん?」
一瞬何を言われたのか頭が追いつかず、理解が追いついた時に顔がまた熱くなった。
パーカーに袖を通した腕を引かれ、砂浜を後にする。
「助けてくれて、ありがとう」
「主を守るのは私の役目だ」
私の言葉に笑みを浮かべ、優しく頭を撫でられた。
後ろからは
「あれ、無意識でやってんの?天然?怖いんだけど」
「計算できる様なやつに見えるか?あれは無意識やで、怖いわー」
なんて2人の声が聞こえる気がするけど、それよりも自分の心臓の音がうるさくて周りの音が遠くに聞こえた。
さっきまでパーカーを着ていたから緑の縞ビキニだけだと少しお腹が冷えるが、下がジーパンなので肌の露出もそこまで多くなく動きやすくてホッとした。
亮ちゃんの今日の荷物はそんなに多く見えなかったのに、左腕の刺青シールまでちゃっかり用意して、そして一体どこに衣装一式を隠し持ってたんだと、我が親友ながらその容姿周到さには脱帽だ。
更衣室を出て、海の家の前に小走りで駆けていくと、そこには・・・カメラクルーがいた・・・。
いや、正確には、ビデオカメラを抱えた亮ちゃん、マイクっぽい機材を持ってるユエさん、レフ板っぽいのを抱えている春人。
3人ともカメラクルーっぽい黒いキャップを被っている。この衣装も用意したのか・・・、と親友に心の中で再び賞賛の声を送った。
「なまえ!我々は特撮撮影のクルーよ!これなら怪しまれずに魔法が使えるわ!」
「確かにこれだったら映画の演出か何かだと思われそうだけど・・・この衣装と撮影のコンセプトは?」
「その衣装は、夏!海!航海!が舞台と言ったら定番でしょ」
「あと、思ったんだけど、ナミって魔法技使えたっけ?打撃系じゃ・・・」
「緊急事態なんだから、細かいことはいいのよ!さ!カードを封印よ!」
そう言ってカメラの録画スイッチを入れた亮ちゃんが私の背中を押す。
海へ来たそもそもの理由は、噂されている自然発火の原因がもしかしたらカードかもしれないと調査目的で来たのだし、
狙い通りカードと出会えたのだからやるしかない、と切り替え杖をバトンのように数回回転させ、キャラの決めポーズを取る。
「相手が風と海なら航海してみせる!さ!行こう!」
「今回の相手は火ぃやけどな」
「春人!余計なツッコミはいらなーい!」
名台詞をキメて走り出したが、春人が余計なツッコミを入れたため、砂につまづきそうになった。
つんのめりそうになった脚を立て直し、目標にむかって再び走り出す。
流石にこの格好の4人組は目立つのか、炎が上がっている方へ駆けていく際に、すれ違う人々にジロジロ見られたけど、私の後ろの偽カメラクルー達の姿を二度見して、どこか納得いったように視線を逸らしていく。
あえて目立つような格好をしていると逆に人は関わらないように行動するようだ。
炎が上がっている場所にたどり着き、周りから人を遠ざける。
「はいはーい!これから撮影が入りますから、浜辺から出てくださーい!」
亮ちゃんと春人が周りの客に指示を出し、できるだけ一般人を遠ざけるように誘導する。
私は、炎を睨みつけ、風(ウィンディ)のカードを取り出す。
「今、手元には水のカードはない。雷で攻撃しても炎には意味ないし、一か八か風で火を消す!」
「風よ!砂を巻き上げ炎を消せ!風(ウィンディ)!」
呪文を唱え、風(ウィンディ)が浜辺の砂を巻き上げ、炎に向かって吹き付ける。
一瞬火が小さくなったかに見えたが、ぶわりと炎が大きく燃え出し、仕返しとばかりに火の玉が飛んで来た。
素早く跳(ジャンプ)のカードを使い、炎を避ける。さっきまで立っていたところが黒く焦げ跡がついている。
「あっつ!危な!」
「あかん!四大元素でも風(ウィンディ)はごっつ優しいカードや!炎(ファイアリー)には勝てん!」
「でも、水のカードなんてないし!」
「水ならあるだろう!海だ!」
「そっか!」
火柱となっていた塊が、炎の髪に背中に羽の生えた少年の姿に変わった。
宙に浮いてこちらを不敵な笑みをたたえた表情で見下ろし、間髪入れず炎の塊を打ってきた。
その炎を避け、跳(ジャンプ)で一度跳躍し、沖に投げ出されたままのサーフボードの上に着地する。
風(ウィンディ)のカードを見つめ、カードを額にあて呟く。
「風(ウィンディ)、お願い、もう一度頑張って」
「風よ!水を巻き上げよ!風(ウィンディ)!」
サーフボードの上という不安定な場所でぐらつきながら、風(ウィンディ)の巻き起こす突風を耐える。
その風に煽られて、表面が白く波立ちシャワーのように炎(ファイアリー)に降り注ぐ。
海の水をかぶり、小さくなった火を風が容赦なく削っていく。
「いまだ!」
「汝のあるべき姿に戻れ!さくらカード!」
再び突風を巻き起こしてカードへと戻る。浜辺へと落ちた光る炎(ファイアリー)のカードを遠くに確認し、ふっと力を抜いた。
しかし、それがいけなかった。今はまだ波の上に浮かぶサーフボードの上だったことを忘れていた。
案の定バランスを崩し、大きな水しぶきをあげて海へと落っこちた。
ジーパンとかつらが水を吸って重たい。魔力を使い切った身体に力が入らず、もがいても身体は上昇せず、どんどん身体が沈んでいく。
さっきまで近くにあったサーフボードは、落ちた時の波と潮の流れで手の届かないところへ流れて行ってしまった様だ。
水底から少し離れたところに浮かぶサープボードと、外れて海を漂うウィッグの影を見つめる。
あぁ、水底から見える太陽って綺麗。なんてぼーっと考えていた。
「おい!なまえ!大丈夫か?!」
「なまえ!お願い目を開けて!」
重たい瞼を開けると、そこにはドアップで春人と亮ちゃんの顔があり、ぎょっとして目がパッチリと覚めてしまった。
が、むせてすぐに声が出ない。
「げほげほっ、あ、あれ、わたし、どうしたんだっけ?・・・炎(ファイアリー)は?」
「なまえがちゃんと封印したで!」
「ここにちゃんとあるわよ!」
亮ちゃんは「カードなんかどうでもいいわよー!心配したんだからねー!」とちょっと強引に抱きしめられた。
そういう亮ちゃんの手にはちゃんと炎(ファイアリー)のカードが握られていて、ありがとうと言う気持ちを込めて彼女の肩を撫でた。
「月城先生がとっさに飛び込んで、CPRしてくれたの。本当に処置が早くてよかった」
「しーぴーあーる?」
「心肺蘇生よ!あんた水飲んで息してなかったんだから!」
「心肺蘇生?ってことは、じっ人工呼吸!?」
「そうよ!息吹き返すまでそんなにかからなかったけど!もう!」
再びぎゅっと抱きしめられる。亮ちゃんの肩越しにユエさんが見える。
心肺蘇生・・・人口呼吸・・・!?ま、まさか!?
顔が真っ赤になるのがわかる。
「学校で勤めるのもたまには役に立つ。CPRは保険医の研修で習った」
対照的にユエさんは平然と涼しい顔で濡れた髪を掻き上げながら言った。
滴っている雫が色っぽい・・じゃなくて!
意識がなかったとはいえ、恥ずかしすぎてしばらく顔が見れない・・・顔を上げられずにいると、春人とユエさんが荷物を取りに行ってくれた。
熱くなった頬を両手で冷やしていると、亮ちゃんが呆れた声で畳み掛ける。
「あんた、まさかあれがファーストキスなんて言うんじゃないでしょうね?」
「・・・・うぅ。そのまさかだよー・・・」
「あらま、ご愁傷様」
「事故だから!CPRはノーカウントだから!」
「そう思うんならそうなんじゃない?私はしっかり見たわよ、ぶちゅー「うわぁぁぁっぁ!!!!」
動作を交えて亮ちゃんが再現しようとするから、慌てて止めた。
一旦冷静になろうと両手で顔を覆っていると、知らない声が頭上から降って来た。
「ねぇ、彼女たちー2人?俺たちと遊ばない?」
如何にも夏休みの大学生ですといった風貌の男性2人が、砂浜に座っている私たちを覗き込む様に話しかけて来た。
なんて古典的なナンパのセリフだろうか。と思うが、リアルにナンパされた経験のない私は、思わず亮ちゃんの方を見る。
「あー悪いけど私たち、連れがいるから」
さすがは亮ちゃんはこんなナンパには慣れているのか、冷たく返す。男たちの顔さえ見ていない。
「そんな事言ってー、俺たちと来たら楽しいよー」
そう言って男のうちの1人が、顔を覆っていた私の手を取って引っ張ろうとする。
「ちょ、やめ」
さっきまで気を失っていた私の身体は鉛の様に重く、抵抗しようにも力が入らない。
「よく見るとカワイー!君にキーめた!ね、名前なんていうの?」
私はポ◯モンか、と小さく突っ込んではみたが、そんな効果なんてなく、やたら近づいてくる男の顔から逃げようと顔を背ける。
視線の先の亮ちゃんはもう一人を軽くあしらっているが、しつこく食らいつかれている。
鬱陶しいとはっきり顔に書いてあるのに、メンタル強いなこの男。
よそ見をしていたからか、すぐそこに男の顔が迫って来ていたのに気がつかなかった。
「ね、いいトコ連れて行ってあげるよ」
男の手がいつの間にか髪に伸びていて、手のひらで撫で付けるように髪を触られる。
背中がぞわぞわして、喉の奥から不快さが込み上げてくる。
「わいらの連れに何しとんねん」
「ぐっ!」
カバンを持って現れた春人が、亮ちゃんに食らいついてた男の腕をひねり上げた。
「なんだてめー!」
「せやから、連れや言うとるやろ。日本語通じんのか」
冷たく言い放って男の腕を解放する。あってはならない方向に捻られていた腕が解放され、涙目で春人を睨む。
だがそれに負けない眼光で睨み返すと、男がひるむ。こんなにキレてる春人の声を聞いたのは初めてだ。
「その手で触るな。汚らわしい」
その光景に呆気にとられていると、ふわりと後ろから灰色のパーカーを肩にかけられ、優しい腕に抱きしめられる。
ユエさんの手だとすぐにわかった。
至近距離にいた男は一瞬で後ろに跳びのき、もう一人の男と一緒に一目散に逃げて行った。
「地獄の門番舐めると痛い目あうで!!」
「あんたはカードの守護神でしょ」
呆れた声の亮ちゃんのツッコミが飛ぶ。
ナンパ男に解放されホッと一息ついていると、そのままの体勢で逃げていくナンパ男を睨みつけていたユエさんが私の正面に回った。
濡れた私の髪についた砂を手で払って、肩に掛けられたユエさんの灰色のパーカーの前のチャックを閉められる。
袖に腕を通してないからチャックを閉められると腕の自由が効かなくなる。
腕を通そうともごもごしていると、ユエさんが眉間に皺を寄せ、口を開く。
「お前は可愛いんだから、気をつけろと言っただろ。」
「え!うん!?」
「さ、帰るぞ」
「うん?」
一瞬何を言われたのか頭が追いつかず、理解が追いついた時に顔がまた熱くなった。
パーカーに袖を通した腕を引かれ、砂浜を後にする。
「助けてくれて、ありがとう」
「主を守るのは私の役目だ」
私の言葉に笑みを浮かべ、優しく頭を撫でられた。
後ろからは
「あれ、無意識でやってんの?天然?怖いんだけど」
「計算できる様なやつに見えるか?あれは無意識やで、怖いわー」
なんて2人の声が聞こえる気がするけど、それよりも自分の心臓の音がうるさくて周りの音が遠くに聞こえた。