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第8.5話 私のベッド問題
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なまえの家で居候になってから、早くも数ヶ月。
カードも順調に集まっとるし、なまえが怪我をすることも少なくなった。カードキャプターとしての魔力も順調に強なっとるし、全て順調、問題なしのように思う。ユエも爆笑とまではいかんけど、よう笑うようになったし、なまえとの空気感も柔らかいものになった。
しかし、仲は良いに越したことはないと思うんやけど、それにしても、あれはどうなんか・・・・?
本人たちが良ければわいは気にしない・・ことにしてる・・・・でもこれは・・・うん。でも・・気にしたら負けや・・・。
さぁ、気にせんと、土曜やしゆっくり二度寝や!
わいはリビングのソファベッドの上でゆったりと寝返りを打った。
ーーーーーーーーーーー
今朝、ユエさんの様子がどこかおかしかった。一見分かりづらいけど、ぽやんとしていて、顔が赤い。
食器を洗って居た手を止め、ユエさんのいるソファに駆け寄る。
「ユエさん、どうしたの?具合悪い?」
「・・・なんでもない・・・」
ソファに深く気怠そうに腰掛けるユエさんから力のない返事が返ってきた。いつも無口ではあるけど、今日の様子はやっぱり違う。
これはもしやと思い、そっと手を伸ばしユエさんの額に乗せる。抵抗も払いのける仕草もない。
案の定、彼の額は熱を持っていた。額に手を当てると、水を触っていて少し冷えた私の手に身を任せ、気持ちよさそうに目を細める。
前日、樹(ウッド)を封印した時、土砂降りの雨に振られ、結構な時間濡れたまま外の風に当たっていたし、帰ってからお風呂を私が先に頂いてしまったからか、と原因はいくつも考えられたけど、これはおそらく風邪の症状に間違いないだろう。
「ユエさん、お熱があるみたい。休みましょ?」
「大丈夫だ。私はヒトではない」
「人間じゃなくったって、体、つらいでしょ?私のベッド貸すので上に行きましょ」
「いや、いい。大丈夫、結構だ」
「はいはい、文句は元気になってから言ってください」
無理やり上の階の私の部屋へ連れて行き、ベッドへ寝かせた。
週末の今日、朝早いうちにシーツを替えて置いてよかったと心底思った。
いつもはケロちゃんとユエさんには下のリビングのソファベッドで寝てもらっている。
両親の部屋は流石に使わせられないし、兄の部屋は仕事のため実家を出ていってから久しく、物置状態だ。
いつか兄の部屋を片付けたらそこを使ってもらおうと思ってはいたが、テストやら学校の行事やらで部屋の整理ができずにズルズルと後回しにしてしまっていた。
寝かせたユエさんの肩まで布団をかけると、ゆったり横になれたからか、少しだけ辛そうな表情が和らいだ。
私のベッドはお兄ちゃんのお下がりで、買ってからろくに使わずに半ば押し付けられる形で貰ったものだ。
お兄ちゃんの趣向で揃えている家具のため、やたら立派でクイーンサイズとサイズも無駄にでかい。
私の部屋の面積の大半を占めているのはこのベッドだが、寝心地がとってもいいため今ではとても気に入っている。
ユエさんを寝かせて一息ついて、一旦キッチンからお水とかを持ってこようと床から腰を上げると、腕を掴まれ後ろにつんのめってしまった。
「どこへ行く」
「ちょっとお水とかとってこようと思って下に」
「いいから、ここにいろ」
「えっ」
そう言って腕を引っ張られベッドへ座らせられた。
ぽふんとクイーンサイズのマットレスの端に体が沈み、勢い余って横たわっているユエさんの胸へ背中から乗り上げてしまう形となってしまった。
「わ、ごめんなさい」
てっきり、放っといてくれと言われるもんだと思っていたため、面食らって反応が遅れたが、さっと上半身を起こし体をひねって振り向く。
「そんなこと言ったって、お水とかお薬とか必要でしょ?」
「私はヒトではないから薬は効かない」
「え、あ、そっか、お薬だめなら、どうしよう・・」
「手を・・」
「手?」
言われてはたと気づいたが、ヒトではないユエさんには人間用に作られた風邪薬は効果はないだろう。
どうしたらいいものかと考えあぐねていた私の手を取って、ユエさんは自らの額に当てた。
「これでいい。お前の手は冷たくて気持ちいい」
そっと額に乗せられた掌から、平熱より高い熱が伝わってくる。
さっきまで少し苦しそうだった呼吸も落ち着いたようだ。
ユエさんが眠りにつくまで、早く治るようにと掌から伝わるように願った。
あれから暫くして、寝息が聞こえてきたため、一旦階下へ看病に必要なものを取りにベッドを離れた。
「ユエ、どうやった?」
スマホでゲームをしていた春人が顔をあげ、こちらを伺う。
「熱があるっぽい。風邪・・・でいいのかな?」
「わいらヒトらざる者でも調子悪くなる時はあるんやで」
「そ、そうなんだ」
「人間の風邪とはちょっと違うけどな。まぁ魔力の源のなまえがそばにおったら早く良くなると思うで」
「え、じゃあ私の魔力分けてあげれば、すぐ良くなるんじゃない?」
私は魔力云々についてはまだまだ分からないことばかりだ。
2人は私の魔力を源にしていると言っていたが、私から魔力を直接渡す、といったことはしていない。
なんでもケロちゃんもユエさんも自分でご飯を食べて、ある程度は魔力は回復するのだとか。
「いや、変に魔力をあげようなんて考えたらあかんで。なまえの魔力は発展途上や。そんな時に魔力の受け渡しなんてしたら、今度はなまえがぶっ倒れてまう」
「え、じゃあどうしたらいいの?」
「なまえの美味しいご飯食べたら、元気になると思うで」
春人はにっこり笑ってそうアドバイスしてくれた。そこで、彼の助言通りお粥を作って持っていくことにした。
お盆に乗せた1人用の土鍋を持って部屋に入ると、ユエさんが半身を起こしてベッドから出ようとしていた。
「ユエさん、おとなしく寝てなきゃダメですよ」
「起きたらお前が居なかったから・・・」
「私はどこにも行きませんよ」
「・・・・」
「ほら、こんなにふらついて、どこが大丈夫ですか。ベッドに戻って」
持っていたお盆をひとまずベッドサイドの小さなテーブルに置いて、ユエさんの肩を支える。
弱っているせいか、少し肩を押すと素直にベッドに戻ってくれた。
「お粥作ってきましたから、栄養しっかり取って、早く元気になってくださいね」
上半身を起こした体勢でベッドに座るユエさんに、お粥を盛った器を握らせる。しかし、器を両手で抱えるだけで食べる様子はない。
その器をそっと受け取り、レンゲで口元まで持って行くと、素直にパクリと食べてくれた。
黙々と咀嚼し飲み込む。そしてこちらを見つめて小さく口を開ける。
そこまでやって、これは所謂あーんってやつだと気付いて恥ずかしくなったが、ひよこのように素直に待っているユエさんが可愛くて、次も口に持っていって食べさせる。
「おいしい・・」
そっと小さく呟いた声はきちんと私の耳に届いていた。
「しっかり食べて元気になってくださいね」
ユエさんは小さくうなずいてくれた。
夜になって、だいぶ熱が引いて来たようだし、私もそろそろ下のソファベッドで寝ようと予備の枕を抱えて部屋を出ようとした時、パジャマの裾がまた何かに引っ張られた。
振り向くと、ユエさんが裾を掴んで私を見上げていた。
「どうしました?お水?」
「・・どこへいく」
「どこって、リビングのソファで寝ようと思って」
「ここで寝ればいいだろ。ベッドは広いし」
「そりゃ私のベッドクイーンサイズだけど」
「じゃあ問題ないだろ」
赤みのさす目元に、下がってきたとは言えまだ少し上気した頬、いつもクールなユエさんが上目使いで見つめてくるこの状況に、不覚にもまた可愛いと思ってしまった。
その目にほだされそうになるが、ダメダメ、年頃の女の子がヒトじゃなくても男性と一緒のベッドなんてと思い直した。
「ユエさん、それはダメです」
「なぜだ」
「なぜって、私は女の子だし・・・」
「だから?」
「だから・・・ユエさんは男性・・?だし・・」
「私はヒトではない。関係ないだろう」
「そ、そう言われても・・・」
パジャマの裾は離してくれそうにないし、このまま押し問答をしてもユエさんは譲ってくれそうにない。
結局私が折れて、一緒のベッドで眠る羽目になった。
「お、お邪魔します・・・」
自分のベッドなのに、おずおずとユエさんの隣に入り込む。
顔を向けて寝るのは恥ずかしいため、ユエさんには背を向けるようにして横たわる。
人肌に温められた布団に入り込むと、背中越しにユエさんの体温が伝わって来て、その暖かさに何だかとても安心した。
「おやすみなさい、ユエさん」
「あぁ、おやすみ」
布団の暖かさに誘われて眠気がさしてきた。枕元の電気のリモコンで部屋の電気を落とし、眠りについた。
起きるには少し早いが東の空が明るくなり始めている頃、なまえはふと背中に伝わる暖かさで目が覚めた。
あれ・・?あったかい・・・?
後ろから腕が回されていて、誰かに抱きしめられている。
この腕は・・・?
寝ぼけた頭で首だけで後ろを振り向くと、そこにはユエさんの寝顔があった。
あぁ、昨日ユエさんが一緒に寝ようって・・
ユエさんの顔色は昨日と比べてだいぶ良くなっている。今日にも体調は回復しそうだと胸をなでおろした。
身をひねって額に当てていた手を引っ込めようともぞもぞしていると、腰に回っていたユエさんの腕がぎゅっと強くなった。
そのせいで背中がユエさんの胸と密着する羽目になっている。さっきまで平気だったのに、肌が触れることによって、急に意識してしまい、心拍数が上がる。頸に彼の息遣いを感じる。
ユエさん、寝ぼけているだけなんだから、それにヒトじゃないからこういうスキンシップもよくあるんじゃないかな。と自分に心の中で言い聞かせていると、首筋に水滴が落ちて来た。
ユエさん、泣いてるの・・・?
腕で固定されていて後ろを振り向けないため、彼の表情は確認できないが、首筋に冷たいものが伝う。彼が起きた気配はない。
『ーーーーーーーっ見送るなんてもう沢山だ』
体育祭の時の彼の言葉を反芻する。
ヒトには等しく最期(終わり)はやってくる。彼は一体どれだけの人を見送ってきたのだろうか。
風邪は癒せても、彼の心は癒せない。彼に私にできることはないのだろうか。
答えのない問いを頭の中でぐるぐると考えているうちに、瞼が重くなり再び眠りについてしまった。
あれから、ユエさんは私のベッドがいたく気に入ったらしく、昼寝と称して私のベッドで寝るようになった。
起こそうとしても深く寝入っている時は起きないので、仕方なくそのまま隣に入り込んで眠っている。
それだけじゃなく、私が先に寝ていても夜中にベッドに入ってくるのか、朝起きると隣で寝ていることがしょっちゅうある。
綺麗な顔のドアップを寝起きで見ることにもだいぶ慣れてしまった。
それもそれでどうかと思うが、これが我が家の日常風景になりつつある。
ーーーーーーーーーーー
昨日、てっきりなまえはわいと1階のリビングで寝るもんと思っとったが、夜中になっても2階から降りてこなかった。
まさかと思うが、2人で一緒のベッドに寝てへんよな!?
妙な胸騒ぎがしたわいは、掛け布団を蹴飛ばしソファベッドから飛び起き、階段を駆け上がった。
なまえの部屋の前まで来てノックもせず勢いよくドアを開けた。ドアの向こうにはまさに危惧していた光景が広がっていて、絶句した。
ユエがなまえのベッドで2人仲睦まじく寝とるやないかい!!!
前、なまえのベッドで一度だけ一緒に寝させてもらった時は、わい殴られたのに!なんでユエはいいんや!!
胸のムカムカを解消すべく、二人が寝ている布団をひっぺがした。
「お前ら!何一緒に寝とるんや!」
「・・あや、ケロちゃん、おはよう、どうしたの?」
「おはようやあらへん!これはなんや?」
「あぁ、ユエさんが一緒に寝ようって・・」
なまえは眠たそうに目をこすりなながらもぞもぞと体を起こす。
こんなに騒いでるのにも関わらず、ユエは全く起きる気配がない。ユエは眠りは浅い方で物音立てたらすぐに起きてたのに熟睡しとるやないかい!そのベッドそんなに寝心地いいんかい!
むかっ腹が収まらず、そのまま部屋を出てキッチンでなまえが取っておいたプリンを朝ごはんがわりに食べてやった。
あとでバレてこってり怒られたのは、また別の話。
カードも順調に集まっとるし、なまえが怪我をすることも少なくなった。カードキャプターとしての魔力も順調に強なっとるし、全て順調、問題なしのように思う。ユエも爆笑とまではいかんけど、よう笑うようになったし、なまえとの空気感も柔らかいものになった。
しかし、仲は良いに越したことはないと思うんやけど、それにしても、あれはどうなんか・・・・?
本人たちが良ければわいは気にしない・・ことにしてる・・・・でもこれは・・・うん。でも・・気にしたら負けや・・・。
さぁ、気にせんと、土曜やしゆっくり二度寝や!
わいはリビングのソファベッドの上でゆったりと寝返りを打った。
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今朝、ユエさんの様子がどこかおかしかった。一見分かりづらいけど、ぽやんとしていて、顔が赤い。
食器を洗って居た手を止め、ユエさんのいるソファに駆け寄る。
「ユエさん、どうしたの?具合悪い?」
「・・・なんでもない・・・」
ソファに深く気怠そうに腰掛けるユエさんから力のない返事が返ってきた。いつも無口ではあるけど、今日の様子はやっぱり違う。
これはもしやと思い、そっと手を伸ばしユエさんの額に乗せる。抵抗も払いのける仕草もない。
案の定、彼の額は熱を持っていた。額に手を当てると、水を触っていて少し冷えた私の手に身を任せ、気持ちよさそうに目を細める。
前日、樹(ウッド)を封印した時、土砂降りの雨に振られ、結構な時間濡れたまま外の風に当たっていたし、帰ってからお風呂を私が先に頂いてしまったからか、と原因はいくつも考えられたけど、これはおそらく風邪の症状に間違いないだろう。
「ユエさん、お熱があるみたい。休みましょ?」
「大丈夫だ。私はヒトではない」
「人間じゃなくったって、体、つらいでしょ?私のベッド貸すので上に行きましょ」
「いや、いい。大丈夫、結構だ」
「はいはい、文句は元気になってから言ってください」
無理やり上の階の私の部屋へ連れて行き、ベッドへ寝かせた。
週末の今日、朝早いうちにシーツを替えて置いてよかったと心底思った。
いつもはケロちゃんとユエさんには下のリビングのソファベッドで寝てもらっている。
両親の部屋は流石に使わせられないし、兄の部屋は仕事のため実家を出ていってから久しく、物置状態だ。
いつか兄の部屋を片付けたらそこを使ってもらおうと思ってはいたが、テストやら学校の行事やらで部屋の整理ができずにズルズルと後回しにしてしまっていた。
寝かせたユエさんの肩まで布団をかけると、ゆったり横になれたからか、少しだけ辛そうな表情が和らいだ。
私のベッドはお兄ちゃんのお下がりで、買ってからろくに使わずに半ば押し付けられる形で貰ったものだ。
お兄ちゃんの趣向で揃えている家具のため、やたら立派でクイーンサイズとサイズも無駄にでかい。
私の部屋の面積の大半を占めているのはこのベッドだが、寝心地がとってもいいため今ではとても気に入っている。
ユエさんを寝かせて一息ついて、一旦キッチンからお水とかを持ってこようと床から腰を上げると、腕を掴まれ後ろにつんのめってしまった。
「どこへ行く」
「ちょっとお水とかとってこようと思って下に」
「いいから、ここにいろ」
「えっ」
そう言って腕を引っ張られベッドへ座らせられた。
ぽふんとクイーンサイズのマットレスの端に体が沈み、勢い余って横たわっているユエさんの胸へ背中から乗り上げてしまう形となってしまった。
「わ、ごめんなさい」
てっきり、放っといてくれと言われるもんだと思っていたため、面食らって反応が遅れたが、さっと上半身を起こし体をひねって振り向く。
「そんなこと言ったって、お水とかお薬とか必要でしょ?」
「私はヒトではないから薬は効かない」
「え、あ、そっか、お薬だめなら、どうしよう・・」
「手を・・」
「手?」
言われてはたと気づいたが、ヒトではないユエさんには人間用に作られた風邪薬は効果はないだろう。
どうしたらいいものかと考えあぐねていた私の手を取って、ユエさんは自らの額に当てた。
「これでいい。お前の手は冷たくて気持ちいい」
そっと額に乗せられた掌から、平熱より高い熱が伝わってくる。
さっきまで少し苦しそうだった呼吸も落ち着いたようだ。
ユエさんが眠りにつくまで、早く治るようにと掌から伝わるように願った。
あれから暫くして、寝息が聞こえてきたため、一旦階下へ看病に必要なものを取りにベッドを離れた。
「ユエ、どうやった?」
スマホでゲームをしていた春人が顔をあげ、こちらを伺う。
「熱があるっぽい。風邪・・・でいいのかな?」
「わいらヒトらざる者でも調子悪くなる時はあるんやで」
「そ、そうなんだ」
「人間の風邪とはちょっと違うけどな。まぁ魔力の源のなまえがそばにおったら早く良くなると思うで」
「え、じゃあ私の魔力分けてあげれば、すぐ良くなるんじゃない?」
私は魔力云々についてはまだまだ分からないことばかりだ。
2人は私の魔力を源にしていると言っていたが、私から魔力を直接渡す、といったことはしていない。
なんでもケロちゃんもユエさんも自分でご飯を食べて、ある程度は魔力は回復するのだとか。
「いや、変に魔力をあげようなんて考えたらあかんで。なまえの魔力は発展途上や。そんな時に魔力の受け渡しなんてしたら、今度はなまえがぶっ倒れてまう」
「え、じゃあどうしたらいいの?」
「なまえの美味しいご飯食べたら、元気になると思うで」
春人はにっこり笑ってそうアドバイスしてくれた。そこで、彼の助言通りお粥を作って持っていくことにした。
お盆に乗せた1人用の土鍋を持って部屋に入ると、ユエさんが半身を起こしてベッドから出ようとしていた。
「ユエさん、おとなしく寝てなきゃダメですよ」
「起きたらお前が居なかったから・・・」
「私はどこにも行きませんよ」
「・・・・」
「ほら、こんなにふらついて、どこが大丈夫ですか。ベッドに戻って」
持っていたお盆をひとまずベッドサイドの小さなテーブルに置いて、ユエさんの肩を支える。
弱っているせいか、少し肩を押すと素直にベッドに戻ってくれた。
「お粥作ってきましたから、栄養しっかり取って、早く元気になってくださいね」
上半身を起こした体勢でベッドに座るユエさんに、お粥を盛った器を握らせる。しかし、器を両手で抱えるだけで食べる様子はない。
その器をそっと受け取り、レンゲで口元まで持って行くと、素直にパクリと食べてくれた。
黙々と咀嚼し飲み込む。そしてこちらを見つめて小さく口を開ける。
そこまでやって、これは所謂あーんってやつだと気付いて恥ずかしくなったが、ひよこのように素直に待っているユエさんが可愛くて、次も口に持っていって食べさせる。
「おいしい・・」
そっと小さく呟いた声はきちんと私の耳に届いていた。
「しっかり食べて元気になってくださいね」
ユエさんは小さくうなずいてくれた。
夜になって、だいぶ熱が引いて来たようだし、私もそろそろ下のソファベッドで寝ようと予備の枕を抱えて部屋を出ようとした時、パジャマの裾がまた何かに引っ張られた。
振り向くと、ユエさんが裾を掴んで私を見上げていた。
「どうしました?お水?」
「・・どこへいく」
「どこって、リビングのソファで寝ようと思って」
「ここで寝ればいいだろ。ベッドは広いし」
「そりゃ私のベッドクイーンサイズだけど」
「じゃあ問題ないだろ」
赤みのさす目元に、下がってきたとは言えまだ少し上気した頬、いつもクールなユエさんが上目使いで見つめてくるこの状況に、不覚にもまた可愛いと思ってしまった。
その目にほだされそうになるが、ダメダメ、年頃の女の子がヒトじゃなくても男性と一緒のベッドなんてと思い直した。
「ユエさん、それはダメです」
「なぜだ」
「なぜって、私は女の子だし・・・」
「だから?」
「だから・・・ユエさんは男性・・?だし・・」
「私はヒトではない。関係ないだろう」
「そ、そう言われても・・・」
パジャマの裾は離してくれそうにないし、このまま押し問答をしてもユエさんは譲ってくれそうにない。
結局私が折れて、一緒のベッドで眠る羽目になった。
「お、お邪魔します・・・」
自分のベッドなのに、おずおずとユエさんの隣に入り込む。
顔を向けて寝るのは恥ずかしいため、ユエさんには背を向けるようにして横たわる。
人肌に温められた布団に入り込むと、背中越しにユエさんの体温が伝わって来て、その暖かさに何だかとても安心した。
「おやすみなさい、ユエさん」
「あぁ、おやすみ」
布団の暖かさに誘われて眠気がさしてきた。枕元の電気のリモコンで部屋の電気を落とし、眠りについた。
起きるには少し早いが東の空が明るくなり始めている頃、なまえはふと背中に伝わる暖かさで目が覚めた。
あれ・・?あったかい・・・?
後ろから腕が回されていて、誰かに抱きしめられている。
この腕は・・・?
寝ぼけた頭で首だけで後ろを振り向くと、そこにはユエさんの寝顔があった。
あぁ、昨日ユエさんが一緒に寝ようって・・
ユエさんの顔色は昨日と比べてだいぶ良くなっている。今日にも体調は回復しそうだと胸をなでおろした。
身をひねって額に当てていた手を引っ込めようともぞもぞしていると、腰に回っていたユエさんの腕がぎゅっと強くなった。
そのせいで背中がユエさんの胸と密着する羽目になっている。さっきまで平気だったのに、肌が触れることによって、急に意識してしまい、心拍数が上がる。頸に彼の息遣いを感じる。
ユエさん、寝ぼけているだけなんだから、それにヒトじゃないからこういうスキンシップもよくあるんじゃないかな。と自分に心の中で言い聞かせていると、首筋に水滴が落ちて来た。
ユエさん、泣いてるの・・・?
腕で固定されていて後ろを振り向けないため、彼の表情は確認できないが、首筋に冷たいものが伝う。彼が起きた気配はない。
『ーーーーーーーっ見送るなんてもう沢山だ』
体育祭の時の彼の言葉を反芻する。
ヒトには等しく最期(終わり)はやってくる。彼は一体どれだけの人を見送ってきたのだろうか。
風邪は癒せても、彼の心は癒せない。彼に私にできることはないのだろうか。
答えのない問いを頭の中でぐるぐると考えているうちに、瞼が重くなり再び眠りについてしまった。
あれから、ユエさんは私のベッドがいたく気に入ったらしく、昼寝と称して私のベッドで寝るようになった。
起こそうとしても深く寝入っている時は起きないので、仕方なくそのまま隣に入り込んで眠っている。
それだけじゃなく、私が先に寝ていても夜中にベッドに入ってくるのか、朝起きると隣で寝ていることがしょっちゅうある。
綺麗な顔のドアップを寝起きで見ることにもだいぶ慣れてしまった。
それもそれでどうかと思うが、これが我が家の日常風景になりつつある。
ーーーーーーーーーーー
昨日、てっきりなまえはわいと1階のリビングで寝るもんと思っとったが、夜中になっても2階から降りてこなかった。
まさかと思うが、2人で一緒のベッドに寝てへんよな!?
妙な胸騒ぎがしたわいは、掛け布団を蹴飛ばしソファベッドから飛び起き、階段を駆け上がった。
なまえの部屋の前まで来てノックもせず勢いよくドアを開けた。ドアの向こうにはまさに危惧していた光景が広がっていて、絶句した。
ユエがなまえのベッドで2人仲睦まじく寝とるやないかい!!!
前、なまえのベッドで一度だけ一緒に寝させてもらった時は、わい殴られたのに!なんでユエはいいんや!!
胸のムカムカを解消すべく、二人が寝ている布団をひっぺがした。
「お前ら!何一緒に寝とるんや!」
「・・あや、ケロちゃん、おはよう、どうしたの?」
「おはようやあらへん!これはなんや?」
「あぁ、ユエさんが一緒に寝ようって・・」
なまえは眠たそうに目をこすりなながらもぞもぞと体を起こす。
こんなに騒いでるのにも関わらず、ユエは全く起きる気配がない。ユエは眠りは浅い方で物音立てたらすぐに起きてたのに熟睡しとるやないかい!そのベッドそんなに寝心地いいんかい!
むかっ腹が収まらず、そのまま部屋を出てキッチンでなまえが取っておいたプリンを朝ごはんがわりに食べてやった。
あとでバレてこってり怒られたのは、また別の話。