穏やかな熱
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夕暮れの砂漠の道。
西へ向かう旅の途中、野営の準備を終えた一行は、それぞれ思い思いの時間を過ごしていた。
焚き火のそばでは、三蔵が煙草をくゆらせ、悟空と悟浄がいつものように言い合いをしている。
そんな賑やかな空気から少し離れた場所で、なまえはひとり座っていた。
「どうしました?」
不意にかけられた穏やかな声。
振り返ると、そこには猪八戒が立っていた。
優しい微笑み。
柔らかな声。
初めて会った時から変わらないその姿に、なまえは少しだけ肩の力を抜く。
「なんでもないよ……ただ、空を見てただけ」
「そうですか」
八戒は隣へ腰を下ろした。
二人の間に沈黙が落ちる。
けれど不思議と気まずくはない。
彼といると、言葉がなくても心が落ち着くのだ。
「なまえ。今日の戦闘、無茶をしましたね」
「うっ……」
図星だった。
昼間の妖怪との戦闘。
仲間を庇おうとして飛び出した結果、腕に浅い傷を負ってしまった。
「だって、悟空が危なかったし」
「ええ。でも、あなたが傷つくのも困ります」
優しい声音。
なのに、その言葉には妙な重みがあった。
なまえが顔を上げると、八戒は少し困ったように笑っていた。
「心配するでしょう」
「……八戒」
「はい?」
「私が怪我すると、そんなに嫌?」
問いかけると、彼は一瞬だけ目を細めた。
焚き火の光が緑色の瞳に映る。
いつも穏やかなその瞳が、今だけは少し違って見えた。
「嫌ですよ」
即答だった。
「あなたが痛い思いをするのは」
その言葉に胸が跳ねる。
八戒は滅多に感情を強く見せない。
だからこそ、真っ直ぐな言葉は反則だった。
「……そんな顔しないでください」
「どんな顔?」
「可愛い顔です」
「なっ!?」
思わず声が裏返る。
すると八戒はくすりと笑った。
「か、からかってる?」
「少しだけ」
「ひどい」
「すみません」
まったく悪びれた様子がない。
むしろ楽しそうだ。
そんな彼を見ているうちに、なまえもつられて笑ってしまう。
その時だった。
ふわり、と。
八戒の手がなまえの頭を撫でた。
驚いて固まる。
「八戒?」
「あなたはもっと自分を大事にしてください」
優しい声。
けれど、その奥には確かな独占欲が滲んでいた。
「僕ら仲間じゃないですか」
仲間。
その言葉に少しだけ胸が痛む。
もっと違う関係になれたら。
そんな願いを抱いているのは、自分だけなのだろうか。
そう思った瞬間――
「もちろん」
八戒がぽつりと続けた。
「それだけじゃありませんけどね」
「え?」
顔を上げる。
すると彼は、珍しく少しだけ照れたような笑みを浮かべていた。
「あなたは気づいていないんですか?」
「な、何が……」
「僕がどれだけ特別に思っているか」
心臓が止まりそうになる。
風が吹く。
砂漠の夜風が二人の間を通り抜ける。
けれど、なまえには何も聞こえなかった。
聞こえるのは、自分の鼓動だけ。
「八戒……」
「はい」
「それ、本気?」
問いかけると、彼は優しく微笑んだ。
そして。
そっとなまえの手を取る。
「冗談でこんな顔はしませんよ」
その笑顔はいつもと同じようでいて。
誰よりも甘かった。
遠くでは悟空たちの騒ぐ声が聞こえる。
旅はまだ続く。
危険も待っている。
それでも今だけは――
八戒の温かな手のぬくもりを感じながら、なまえは静かに微笑んだのだった。
西へ向かう旅の途中、野営の準備を終えた一行は、それぞれ思い思いの時間を過ごしていた。
焚き火のそばでは、三蔵が煙草をくゆらせ、悟空と悟浄がいつものように言い合いをしている。
そんな賑やかな空気から少し離れた場所で、なまえはひとり座っていた。
「どうしました?」
不意にかけられた穏やかな声。
振り返ると、そこには猪八戒が立っていた。
優しい微笑み。
柔らかな声。
初めて会った時から変わらないその姿に、なまえは少しだけ肩の力を抜く。
「なんでもないよ……ただ、空を見てただけ」
「そうですか」
八戒は隣へ腰を下ろした。
二人の間に沈黙が落ちる。
けれど不思議と気まずくはない。
彼といると、言葉がなくても心が落ち着くのだ。
「なまえ。今日の戦闘、無茶をしましたね」
「うっ……」
図星だった。
昼間の妖怪との戦闘。
仲間を庇おうとして飛び出した結果、腕に浅い傷を負ってしまった。
「だって、悟空が危なかったし」
「ええ。でも、あなたが傷つくのも困ります」
優しい声音。
なのに、その言葉には妙な重みがあった。
なまえが顔を上げると、八戒は少し困ったように笑っていた。
「心配するでしょう」
「……八戒」
「はい?」
「私が怪我すると、そんなに嫌?」
問いかけると、彼は一瞬だけ目を細めた。
焚き火の光が緑色の瞳に映る。
いつも穏やかなその瞳が、今だけは少し違って見えた。
「嫌ですよ」
即答だった。
「あなたが痛い思いをするのは」
その言葉に胸が跳ねる。
八戒は滅多に感情を強く見せない。
だからこそ、真っ直ぐな言葉は反則だった。
「……そんな顔しないでください」
「どんな顔?」
「可愛い顔です」
「なっ!?」
思わず声が裏返る。
すると八戒はくすりと笑った。
「か、からかってる?」
「少しだけ」
「ひどい」
「すみません」
まったく悪びれた様子がない。
むしろ楽しそうだ。
そんな彼を見ているうちに、なまえもつられて笑ってしまう。
その時だった。
ふわり、と。
八戒の手がなまえの頭を撫でた。
驚いて固まる。
「八戒?」
「あなたはもっと自分を大事にしてください」
優しい声。
けれど、その奥には確かな独占欲が滲んでいた。
「僕ら仲間じゃないですか」
仲間。
その言葉に少しだけ胸が痛む。
もっと違う関係になれたら。
そんな願いを抱いているのは、自分だけなのだろうか。
そう思った瞬間――
「もちろん」
八戒がぽつりと続けた。
「それだけじゃありませんけどね」
「え?」
顔を上げる。
すると彼は、珍しく少しだけ照れたような笑みを浮かべていた。
「あなたは気づいていないんですか?」
「な、何が……」
「僕がどれだけ特別に思っているか」
心臓が止まりそうになる。
風が吹く。
砂漠の夜風が二人の間を通り抜ける。
けれど、なまえには何も聞こえなかった。
聞こえるのは、自分の鼓動だけ。
「八戒……」
「はい」
「それ、本気?」
問いかけると、彼は優しく微笑んだ。
そして。
そっとなまえの手を取る。
「冗談でこんな顔はしませんよ」
その笑顔はいつもと同じようでいて。
誰よりも甘かった。
遠くでは悟空たちの騒ぐ声が聞こえる。
旅はまだ続く。
危険も待っている。
それでも今だけは――
八戒の温かな手のぬくもりを感じながら、なまえは静かに微笑んだのだった。
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