背中越しのぬくもり
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
食堂へ続く廊下を歩きながら、なまえは何度も昨夜のことを思い返していた。
夢だったのだろうか。
いや、あんなにはっきり覚えている夢なんてあるだろうか。
背中に感じた胸板の硬さ。
腕の重み。
耳元をかすめた吐息。
思い出すだけで頬が熱くなる。
(でも……)
足を止めそうになる。
(もし本当に抱きしめられてたなら、ポルナレフは何か言うんじゃないかな……)
謝るとか。
気まずそうにするとか。
あるいは冗談めかして誤魔化すとか。
何かしら反応があるはずだ。
そう考えながら食堂へ入ると。
「あっ、なまえ!」
真っ先に声を上げたのは、そのポルナレフ本人だった。
「こっちだ、こっち!」
大きく手を振っている。
満面の笑み。
いつも通り。
本当に、いつも通りだった。
「おはよう」
「おう!よく寝れたか?」
「えっ」
心臓が跳ねる。
昨夜のことを言われたのかと思った。
だが。
「移動続きで疲れてただろ?」
ポルナレフは何でもない顔で椅子を引く。
「早く座れよ。飯なくなるぞ」
「……う、うん」
拍子抜けする。
何も。
本当に何もなかったような態度だった。
(やっぱり夢……?)
席に座りながら考える。
そうとしか思えない。
だって目の前のポルナレフは、いつもと何一つ変わらないのだから。
「なまえさん」
不意に横から声がした。
振り向く。
花京院だった。
「随分ぼんやりしていますね」
「えっ?」
「さっきからパンを持ったまま固まっていますよ」
言われて初めて気付く。
手にはパン。
けれど一口も食べていなかった。
「昨晩何かありました?」
花京院の視線が優しく向けられる。
普段から人の変化によく気付く彼らしい。
なまえは慌てて首を振った。
「な、何もないよ!」
「そうですか?」
「うん!」
勢いよく答える。
花京院は少し不思議そうな顔をしたが、それ以上は聞かなかった。
ただ。
「無理はしないでくださいね」
そう微笑む。
その優しさに少しだけ申し訳なくなる。
けれど昨夜のことを話せるはずもない。
ましてや本人が目の前で呑気に朝食を食べているのだから。
「ポルナレフ、お前ジャム付けすぎだろ」
「いいんだよ!甘いの好きなんだから!」
「子供ですか」
「うるせぇ!」
いつも通りのやり取り。
いつも通りの朝。
その光景を見ているうちに、なまえはますます自信がなくなっていった。
もしかしたら本当に夢だったのかもしれない。
願望が見せた都合のいい夢。
そう思う方が自然な気さえしてくる。
――その時だった。
窓ガラスが大きく揺れた。
ゴォッ、と風の音が響く。
食堂にいた客たちも思わず外を見る。
砂埃が舞い上がり、景色が白く霞んでいた。
「なんだ?」
ポルナレフが眉をひそめる。
しばらくしてホテルの主人が慌ただしくやって来た。
そして申し訳なさそうに頭を下げる。
「皆さん、本日の外出はお勧めできません」
「どういうことだ?」
承太郎が尋ねる。
「砂嵐です。かなり大きなものになりそうでして」
主人は窓の外を見た。
「今日一日は移動を控えた方がいいでしょう」
一同が顔を見合わせる。
旅を急ぎたい気持ちはある。
だが、この天候では無理に進む方が危険だった。
「仕方がないのー」
ジョセフが肩をすくめる。
「一日足止めじゃ」
「つまり」
ポルナレフが椅子にもたれながら言った。
「もう一泊ってことか」
その言葉に。
なまえの心臓が再び跳ねた。
もう一泊。
つまり。
今夜もまた――。
思わず視線を上げる。
すると。
偶然。
ポルナレフと目が合った。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけだった。
けれど彼は何故か少しだけ視線を逸らし、
「……ま、仕方ねぇよな」
と、どこか落ち着かない声で呟いた。
その様子に。
なまえの胸は、また小さくざわついた。
夢だったのだろうか。
いや、あんなにはっきり覚えている夢なんてあるだろうか。
背中に感じた胸板の硬さ。
腕の重み。
耳元をかすめた吐息。
思い出すだけで頬が熱くなる。
(でも……)
足を止めそうになる。
(もし本当に抱きしめられてたなら、ポルナレフは何か言うんじゃないかな……)
謝るとか。
気まずそうにするとか。
あるいは冗談めかして誤魔化すとか。
何かしら反応があるはずだ。
そう考えながら食堂へ入ると。
「あっ、なまえ!」
真っ先に声を上げたのは、そのポルナレフ本人だった。
「こっちだ、こっち!」
大きく手を振っている。
満面の笑み。
いつも通り。
本当に、いつも通りだった。
「おはよう」
「おう!よく寝れたか?」
「えっ」
心臓が跳ねる。
昨夜のことを言われたのかと思った。
だが。
「移動続きで疲れてただろ?」
ポルナレフは何でもない顔で椅子を引く。
「早く座れよ。飯なくなるぞ」
「……う、うん」
拍子抜けする。
何も。
本当に何もなかったような態度だった。
(やっぱり夢……?)
席に座りながら考える。
そうとしか思えない。
だって目の前のポルナレフは、いつもと何一つ変わらないのだから。
「なまえさん」
不意に横から声がした。
振り向く。
花京院だった。
「随分ぼんやりしていますね」
「えっ?」
「さっきからパンを持ったまま固まっていますよ」
言われて初めて気付く。
手にはパン。
けれど一口も食べていなかった。
「昨晩何かありました?」
花京院の視線が優しく向けられる。
普段から人の変化によく気付く彼らしい。
なまえは慌てて首を振った。
「な、何もないよ!」
「そうですか?」
「うん!」
勢いよく答える。
花京院は少し不思議そうな顔をしたが、それ以上は聞かなかった。
ただ。
「無理はしないでくださいね」
そう微笑む。
その優しさに少しだけ申し訳なくなる。
けれど昨夜のことを話せるはずもない。
ましてや本人が目の前で呑気に朝食を食べているのだから。
「ポルナレフ、お前ジャム付けすぎだろ」
「いいんだよ!甘いの好きなんだから!」
「子供ですか」
「うるせぇ!」
いつも通りのやり取り。
いつも通りの朝。
その光景を見ているうちに、なまえはますます自信がなくなっていった。
もしかしたら本当に夢だったのかもしれない。
願望が見せた都合のいい夢。
そう思う方が自然な気さえしてくる。
――その時だった。
窓ガラスが大きく揺れた。
ゴォッ、と風の音が響く。
食堂にいた客たちも思わず外を見る。
砂埃が舞い上がり、景色が白く霞んでいた。
「なんだ?」
ポルナレフが眉をひそめる。
しばらくしてホテルの主人が慌ただしくやって来た。
そして申し訳なさそうに頭を下げる。
「皆さん、本日の外出はお勧めできません」
「どういうことだ?」
承太郎が尋ねる。
「砂嵐です。かなり大きなものになりそうでして」
主人は窓の外を見た。
「今日一日は移動を控えた方がいいでしょう」
一同が顔を見合わせる。
旅を急ぎたい気持ちはある。
だが、この天候では無理に進む方が危険だった。
「仕方がないのー」
ジョセフが肩をすくめる。
「一日足止めじゃ」
「つまり」
ポルナレフが椅子にもたれながら言った。
「もう一泊ってことか」
その言葉に。
なまえの心臓が再び跳ねた。
もう一泊。
つまり。
今夜もまた――。
思わず視線を上げる。
すると。
偶然。
ポルナレフと目が合った。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけだった。
けれど彼は何故か少しだけ視線を逸らし、
「……ま、仕方ねぇよな」
と、どこか落ち着かない声で呟いた。
その様子に。
なまえの胸は、また小さくざわついた。
