ずっと見てた
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「——髪、切った?」
扉を開けてすぐだった。
積み上げられた本に埋もれるようにしていたニュートが顔を上げる。
柔らかな午後の日差しが、彼のくせ毛を金色に縁取っていた。
「え?」
「少しだけ。……3ミリ、いや、もう少しかな」
真面目な顔で言われて、なまえは目を瞬かせた。
正解だった。
本当に、ほんの少しだけ。毛先を整えただけで、誰にも気づかれないと思っていたのに。
「なんで分かるの……」
「なんでって……」
ニュートは不思議そうに首を傾げる。
その仕草だけで鼓動が跳ねる自分が嫌になる。
「前より毛先が軽い。あと、今日は目元も少し違う」
「……っ」
「色を変えた?」
言われて、思わず片手で目元を隠した。
今日は少しだけ、ブラウンに金を重ねてみた。いつもより少しだけ、大人っぽく見えたらいいな、なんて。そんな小さな願望まで見抜かれるなんて思わない。
しかも彼は、まるで当たり前みたいな顔をしている。
「ニュート、怖いんだけど……」
「怖い?」
「そんな細かいとこ普通見ないよ」
「そうかな」
本気で分かっていない顔だった。
棚の上でニフラーが金貨を抱えて跳ねる。ニュートは「あっ、こら」と慌てて捕まえに行き、なまえはその背中を見ながら小さく息を吐いた。
──────────────
数分後、ニフラーを抱えて戻ってきたニュートは、何事もなかったようになまえの隣へ座った。
近い。
肩が触れそうな距離。
彼からはインクと古い紙、それから少しだけ土の匂いがした。魔法動物たちに囲まれて生きるニュートらしい匂い。
「……ねえ」
「うん?」
「近い」
「え?」
きょとんとした顔。
本当に無自覚だ。
「だから、その……距離」
「狭かった?」
そう言いながら、彼は少しだけ離れた。
けれど今度は、こちらの顔を覗き込むみたいに身体を傾けてくる。
「顔、赤いけど大丈夫?」
「大丈夫じゃないのはニュートのせいなんだけど……」
「僕?」
「そう。人のことめちゃくちゃ見るし」
「……見る?」
「髪切ったとか、メイク変えたとか。そんなの普通気づかないから」
からかうつもりだった。
少し困らせてやろうと思っただけ。
なのに。
ニュートはそのまま黙り込んだ。
「……ニュート?」
珍しく反応がない。
見れば、彼は何かを考え込むみたいに視線を落としていた。
「僕……そんなに見てた?」
「え、うん。かなり」
「……」
長い沈黙。やがて彼はゆっくり顔を上げた。
睫毛の奥の瞳が、真っ直ぐなまえを見る。
「……君のことは、よく目に入るから」
その声は妙に静かだった。
いつものような天然さがない。
「他の人より、ずっと」
どくん、と心臓が鳴る。
「それって……」
聞き返しかけた瞬間、ニュートの耳がじわじわ赤くなる。
本人も今、自分が口にした意味を理解したらしい。
「あ……」
珍しく狼狽えた声だった。
「いや、その、違くて……じゃなくて違わない……のかな……」
「ニュート?」
「……君が可愛いと思ったことを、ちゃんと伝えたかっただけなんだ」
視線を逸らしたまま、小さく呟く。
「でも、それをずっとしてた理由は……今、少し分かった気がする」
空気が熱い。
息が詰まる。
こんなの、期待してしまう。
するとニュートは、困ったように笑ってから、小さく尋ねた。
「……今日のその色、すごく似合ってる。言うとまた困らせる?」
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