香り
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夜。
ホテルの部屋の明かりは、ベッドサイドに置かれたランプだけだった。
柔らかなオレンジ色の光が、花京院の端正な横顔を静かに、そして少しだけ妖しく照らし出している。
ソファに並んで座り、他愛のない話をしていたはずなのに、いつの間にかなまえは花京院の肩に、こてん、と小さく頭をもたれかかせていた。
「……どうしたんだい?」
少しだけ首を傾げながら、花京院が隣の彼女を見下ろす。その丁寧な仕草に合わせて、さらりと一房の赤い前髪が揺れた。
なまえは言葉を返す代わりに、そっと彼の胸元へと顔を近づけた。
くん、と鼻先を寄せて、小さく息を吸い込む。
「……花京院の匂い、好き」
ぽつりと言いながら、さらに顔を埋めるように彼のシャツに額を押し当てる。
薄い生地越しに伝わる男らしい体温と、ほんのり甘い清涼感のあるシャンプーの香り。それに混じる、花京院自身が纏う、どこか理性的で落ち着く匂い。
「……僕の、匂い?」
予想外の言葉に、花京院は一瞬だけ切れ長の目を丸くした。
けれど次の瞬間、瞳を細め、くすっと柔らかく、慈しむように笑う。
「そんなに落ち着くのかい?」
こくり、と健気に頷くなまえ。彼女のその無防備な肯定を受け止めた瞬間、花京院の胸の奥で、確かな鼓動がわずかに速度を早めた。
いつもならここで優しく頭を撫でて引き下がるはずの彼だったが、今夜は、その指が彼女の柔らかい頬へと滑り落ちる。
「……あまり、無防備なことをしない方がいい」
低く、いつもより少しだけ熱を孕んで掠れた声。
なまえが驚いたように顔を上げると、いつもの穏やかで知的な瞳が、ランプの光を反射して、ほんのりと危険な熱を帯びているのが分かった。
「そんなふうに、僕を全面的に信頼しきった顔で抱きつかれるとね……」
そっと頬に触れていた細く長い指先が、ゆっくりと形を変え、彼女の顎をすくい上げる。抵抗を許さない、けれど酷く優しい力。
二人の距離が、言い訳のつかないところまでゆっくりと縮まっていく。
「――僕だって、理性が完璧なわけじゃないんだ」
言葉の終わりと同時に、優しく唇が重ねられた。
最初は、触れるだけの、挨拶のような優しいキス。
けれど、離れたあとも額同士が触れ合ったまま、お互いの熱い吐息が混ざり合う。花京院は彼女の潤んだ瞳を見つめながら、意地悪な、けれど最高に男前な微笑みを浮かべた。
「……まだ、匂いを嗅ぐかい?」
囁きながら、花京院の長い腕が、今度は躊躇なくしっかりとなまえの腰を引き寄せた。
密着する互いの体温。
今度は彼の方から、彼女の細い首筋へと顔を寄せ、その白い肌に唇を寄せた。
「……甘い、良い香りだ。僕の理性を狂わせるには、充分すぎるほどにね」
耳元で低く音を立てて囁かれ、なまえの背筋にぞくりと甘い震えが走る。
静まり返った部屋には、もう、重なり合う二人の高鳴る呼吸音しか聞こえない。
オレンジ色のランプの明かりの中、花京院の指先がそっと、愛おしさを確かめるようになまえの髪を優しく梳いていく。
「……今夜は、もう少しだけこのままでいよう。……いや、このまま帰さない、と言ったら困るかい?」
優しく微笑みながらも、その声と腕に込められた力は、もう絶対に彼女を離さないという強い熱に満ち溢れていた。
ホテルの部屋の明かりは、ベッドサイドに置かれたランプだけだった。
柔らかなオレンジ色の光が、花京院の端正な横顔を静かに、そして少しだけ妖しく照らし出している。
ソファに並んで座り、他愛のない話をしていたはずなのに、いつの間にかなまえは花京院の肩に、こてん、と小さく頭をもたれかかせていた。
「……どうしたんだい?」
少しだけ首を傾げながら、花京院が隣の彼女を見下ろす。その丁寧な仕草に合わせて、さらりと一房の赤い前髪が揺れた。
なまえは言葉を返す代わりに、そっと彼の胸元へと顔を近づけた。
くん、と鼻先を寄せて、小さく息を吸い込む。
「……花京院の匂い、好き」
ぽつりと言いながら、さらに顔を埋めるように彼のシャツに額を押し当てる。
薄い生地越しに伝わる男らしい体温と、ほんのり甘い清涼感のあるシャンプーの香り。それに混じる、花京院自身が纏う、どこか理性的で落ち着く匂い。
「……僕の、匂い?」
予想外の言葉に、花京院は一瞬だけ切れ長の目を丸くした。
けれど次の瞬間、瞳を細め、くすっと柔らかく、慈しむように笑う。
「そんなに落ち着くのかい?」
こくり、と健気に頷くなまえ。彼女のその無防備な肯定を受け止めた瞬間、花京院の胸の奥で、確かな鼓動がわずかに速度を早めた。
いつもならここで優しく頭を撫でて引き下がるはずの彼だったが、今夜は、その指が彼女の柔らかい頬へと滑り落ちる。
「……あまり、無防備なことをしない方がいい」
低く、いつもより少しだけ熱を孕んで掠れた声。
なまえが驚いたように顔を上げると、いつもの穏やかで知的な瞳が、ランプの光を反射して、ほんのりと危険な熱を帯びているのが分かった。
「そんなふうに、僕を全面的に信頼しきった顔で抱きつかれるとね……」
そっと頬に触れていた細く長い指先が、ゆっくりと形を変え、彼女の顎をすくい上げる。抵抗を許さない、けれど酷く優しい力。
二人の距離が、言い訳のつかないところまでゆっくりと縮まっていく。
「――僕だって、理性が完璧なわけじゃないんだ」
言葉の終わりと同時に、優しく唇が重ねられた。
最初は、触れるだけの、挨拶のような優しいキス。
けれど、離れたあとも額同士が触れ合ったまま、お互いの熱い吐息が混ざり合う。花京院は彼女の潤んだ瞳を見つめながら、意地悪な、けれど最高に男前な微笑みを浮かべた。
「……まだ、匂いを嗅ぐかい?」
囁きながら、花京院の長い腕が、今度は躊躇なくしっかりとなまえの腰を引き寄せた。
密着する互いの体温。
今度は彼の方から、彼女の細い首筋へと顔を寄せ、その白い肌に唇を寄せた。
「……甘い、良い香りだ。僕の理性を狂わせるには、充分すぎるほどにね」
耳元で低く音を立てて囁かれ、なまえの背筋にぞくりと甘い震えが走る。
静まり返った部屋には、もう、重なり合う二人の高鳴る呼吸音しか聞こえない。
オレンジ色のランプの明かりの中、花京院の指先がそっと、愛おしさを確かめるようになまえの髪を優しく梳いていく。
「……今夜は、もう少しだけこのままでいよう。……いや、このまま帰さない、と言ったら困るかい?」
優しく微笑みながらも、その声と腕に込められた力は、もう絶対に彼女を離さないという強い熱に満ち溢れていた。
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