マッチングアプリ
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「……は? マッチングアプリ?」
放課後、いつもの帰り道。アイスの棒を口にくわえたまま、ライナーが足を止めた。
夕日に照らされた眉間に、これでもかというほど深いシワが刻まれている。
「うん。友達に勧められてさ、昨日登録してみたんだよね。そしたら結構いい感じの人からメッセージきて——」
「消せ」
「……え?」
「今すぐそのアプリ消せ、なまえ」
冗談めかしたトーンで返ってくると思っていたのに、ライナーの声は低く、聞いたこともないほど冷たかった。思わず息をのむ。
「な、なんで急に怒るの? 周りもみんなやってるよ」
「周りがやってようが関係ない! ネットで知り合った顔も名前もよく分からん奴と会うつもりなのか? 正気かよ」
「別にすぐ会うなんて言ってないじゃん! なんでライナーにそこまで言われなきゃいけないの!?」
急に上から目線で決めつけられ、カッとなって言い返す。なまえの強い口調に、ライナーの胸が大きく上下した。
「お前が警戒心なさすぎるからだろ! 男がどういう下心を持ってそういうアプリ使ってるか、お前は何も分かってない!」
「分かってるよ! ちゃんと怪しい人はブロックするし、自分の身くらい自分で守れる!」
「心配してんだよ! お前はすぐ人を信用するし、押しに弱いし……ッ!」
「もういい!!」
ライナーの言葉を遮るように大声を張り上げる。胸の奥がキュッと痛むのを隠すように、強く拳を握りしめた。
「ライナーには関係ないでしょ!? 私たちの関係って、ただの幼なじみじゃない! 私が誰と知り合おうが、誰と付き合おうが、ライナーに口出しする権利なんてないよ!」
「幼なじみ」という言葉を強調した瞬間、ライナーの表情が凍りついた。彼の手がピクッと震え、ぐっと口元が結ばれる。
「……そうだな」
先ほどまでの怒声が嘘のように、ライナーの声から感情が消えた。落ちた視線が、どこか切なげに揺れている。
「お前の言う通りだ。俺はただの幼なじみで……お前の彼氏でも何でもない」
「っ……」
「悪かったな、余計なお世話焼いて。勝手に心配して、バカみたいだったよ」
それだけ吐き捨てると、ライナーは一度も振り返ることなく、大きな背中を向けて一人で歩き出してしまった。
残された道端で、夕風が冷たく吹き抜ける。
胸の中に広がったのは、言い負かしたスッキリ感なんかじゃなく、取り返しのつかないことを言ってしまったという強い後悔だけだった。
(……あんな悲しそうな顔、させるつもりじゃなかったのに)
スマホの画面を見つめる。画面に映る見知らぬ男性からのメッセージ通知が、今はただひたすらに鬱陶しく思えた。
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