第四章
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土方の言葉に安心したように吐息すると、紗己の父親はすっきりとした表情で腰を上げた。
「さぁさ、そろそろお開きにしましょうかねェ。遅くまで付き合わせてしまって、まだお疲れでしょう。ゆっくり休んで下さい」
「いえ・・・・・・、はい」
合わせるように土方も立ち上がると、軽く頭を下げた。
二人して廊下まで出ると、紗己の父親は何かを思い出したのか、「ちょっと待っててくださいね」と言って早足に部屋へと戻った。
一体どうしたのかと土方がその背中を見送っていると、彼女の父親は何か を手に戻ってきた。
「これを、着てくださいな」
そう言って差し出した物は、藍色の寝間着だった。
「これ・・・・・・」
「ああ、私のです。サイズは問題ないでしょう。その格好で寝たら、せっかくの仕立ての良い袴が皺になってしまいますからねェ」
「・・・ありがとうございます、お借りします」
寝間着を受け取ると、土方は再度頭を下げた。
――――――
借りた寝間着を手に、先程通った廊下を戻る。
色々と気疲れもあり早く身体を伸ばしたいと思っていたら、眠気は無いのに欠伸が出た。
少し霞んだ視界のまま襖に手を掛け、強く瞬きをしながら部屋に入った。
だが次の瞬間、土方は異変に気付き足を止めた。
自分がさっきまで寝ていた布団に、紗己が半分身体を乗せて眠っているではないか。
「紗己っ!?」
「・・・んん・・・あ・・・れ、副長さん・・・・・・?」
「なっ・・・お前なんでここで寝てんだ!?」
いつの間にここに来たのだろうとか、何故倒れ込むような体勢で横になっていたのかとか、疑問は後を絶たない。
だが、とりあえず紗己の前に膝を突き、両肩を支えて起こしてやると、紗己は顔にかかった髪を耳に掛けて柔らかく笑った。
襖とは反対側の障子戸から漏れ差し込む月明かりだけが、部屋の中を仄かに照らしている。
そんな中でも夜目が利く土方には、紗己が薄桃色の寝間着を身に纏っているのが分かった。
身体の曲線がはっきりと伝わる格好を目にして、つい脈が上がったことに自分でも気付いたが、それを出来るだけ意識しないように、土方は布団に腰を下ろして紗己を一瞥した。
「お、おい紗己、お前なんでここにいんだよ」
「どうしても寝付けなくて・・・副長さんの具合が気になって、来ちゃいました」
にっこり微笑む彼女に、キュッと胸が熱くなった。
照れ隠しに首の後ろを撫でると、片膝を立てて紗己を見やる。
「俺が、気になったのか・・・・・・?」
「はい」
素直に頷くと、少し乱れた襟元を直しながら言葉を続けた。
「来てみたら副長さん居なくて、待ってようと思ってここに座ったら、布団から副長さんの匂いがして・・・・・・。顔近付けて横になってたら、いつの間にか寝ちゃってました」
深い意味はないのだろう。本当にその通り言っているだけなのだろう。
だが土方は、彼女の言葉に過剰反応している。
(ちょっ・・・コイツどんなけ俺の匂い好きなんだよ!!)
的確にツボを突かれ、もうノックアウト寸前だ。出来ることなら、今すぐにでも抱き締め押し倒したい。
だが、ここは屯所ではない。まごうことなき紗己の実家だ。
ようやく彼女の父親からも信頼を得て結婚を許されたというのに、まさか今ここで手を出すわけにもいかない。
欲望を咬みきるように歯を食い縛ると、黒髪を揺らして勢いよく顔を逸らした。
耐えろ、とにかく今は耐えろ俺! 帰ったらいくらでもできるじゃねーか・・・って、いくらでもはさすがに無理か・・・って妊娠してんだから無理だろ!?
半分手を上げた状態で頭を振っている土方に、紗己は不思議そうな顔をしている。
だがそれに気付かない土方は、僅かに冷静さを取り戻すと、宙にあった手を下ろし胸の前で腕を組んで一人呟く。
「・・・まあ、その辺は帰ってから調べるか・・・・・・」
「何をですか?」
「え゛っ!?」
驚いて目を見張る。どうやら胸中で呟いていたつもりらしい。
まさか、『妊娠中の夫婦生活についての是非』に頭を悩ませていたとは当然言えるわけもなく、「し、仕事のことだっ」とありふれた言い訳しか出てこなかった。
しかし、そこは紗己だ。全く疑問にも感じていないらしく、そうですかと頷いている。
そんな彼女の様子にホッとしていると、紗己が一瞬、表情を変えた。
「あれ、副長さん・・・」
「ん? どうかしたか」
「それ、どうしたんですか?」
そう言って紗己が指差したのは藍色の寝間着。
「ああ、これか。さっき借してくれた、袴が皺になるからってな」
「え、父と会ってたんですか?」
「ああ、ちょっと話してきた。あーその・・・結婚、のことをだな・・・ちゃんと言えてなかったからな」
恥ずかしいのか、時折頬を掻きながら話す。
その姿に紗己は嬉しそうに笑うと、距離を詰めるように膝頭を布団に乗り上げた。
「ありがとうございます、副長さん。私、嬉しい・・・」
「紗己・・・・・・」
少し顔を伏せていることに加え、月明かりを背に受けているので、その表情はしっかりとは見えない。
だが、安堵を含んだ喜びの声が、彼女の心情を伝えてくれている。
自分との結婚をこんなにも喜んでくれる紗己に、愛しさが込み上げてくる。そして、ここに行き着くまでに辛い思いをさせてしまったと、改めて思い知る。
それらを引っくるめて紗己を想う気持ちを抑えきれなくなった土方は、力加減をしながらも彼女の柔らかな腕を掴んで引くと、自身の硬い胸に押し付けるように強く抱き締めた。
「ひゃ・・・っ、副長、さん・・・・・・?」
「お前の親父さんに、約束してきた」
「約束・・・・・・?」
「ああ、幸せにするってな。必ず・・・俺が幸せにしてやる」
抱き締める腕に更に力がこもった。
こんなにも愛しく思う、この温もりを手放しはしないと。
「さぁさ、そろそろお開きにしましょうかねェ。遅くまで付き合わせてしまって、まだお疲れでしょう。ゆっくり休んで下さい」
「いえ・・・・・・、はい」
合わせるように土方も立ち上がると、軽く頭を下げた。
二人して廊下まで出ると、紗己の父親は何かを思い出したのか、「ちょっと待っててくださいね」と言って早足に部屋へと戻った。
一体どうしたのかと土方がその背中を見送っていると、彼女の父親は
「これを、着てくださいな」
そう言って差し出した物は、藍色の寝間着だった。
「これ・・・・・・」
「ああ、私のです。サイズは問題ないでしょう。その格好で寝たら、せっかくの仕立ての良い袴が皺になってしまいますからねェ」
「・・・ありがとうございます、お借りします」
寝間着を受け取ると、土方は再度頭を下げた。
――――――
借りた寝間着を手に、先程通った廊下を戻る。
色々と気疲れもあり早く身体を伸ばしたいと思っていたら、眠気は無いのに欠伸が出た。
少し霞んだ視界のまま襖に手を掛け、強く瞬きをしながら部屋に入った。
だが次の瞬間、土方は異変に気付き足を止めた。
自分がさっきまで寝ていた布団に、紗己が半分身体を乗せて眠っているではないか。
「紗己っ!?」
「・・・んん・・・あ・・・れ、副長さん・・・・・・?」
「なっ・・・お前なんでここで寝てんだ!?」
いつの間にここに来たのだろうとか、何故倒れ込むような体勢で横になっていたのかとか、疑問は後を絶たない。
だが、とりあえず紗己の前に膝を突き、両肩を支えて起こしてやると、紗己は顔にかかった髪を耳に掛けて柔らかく笑った。
襖とは反対側の障子戸から漏れ差し込む月明かりだけが、部屋の中を仄かに照らしている。
そんな中でも夜目が利く土方には、紗己が薄桃色の寝間着を身に纏っているのが分かった。
身体の曲線がはっきりと伝わる格好を目にして、つい脈が上がったことに自分でも気付いたが、それを出来るだけ意識しないように、土方は布団に腰を下ろして紗己を一瞥した。
「お、おい紗己、お前なんでここにいんだよ」
「どうしても寝付けなくて・・・副長さんの具合が気になって、来ちゃいました」
にっこり微笑む彼女に、キュッと胸が熱くなった。
照れ隠しに首の後ろを撫でると、片膝を立てて紗己を見やる。
「俺が、気になったのか・・・・・・?」
「はい」
素直に頷くと、少し乱れた襟元を直しながら言葉を続けた。
「来てみたら副長さん居なくて、待ってようと思ってここに座ったら、布団から副長さんの匂いがして・・・・・・。顔近付けて横になってたら、いつの間にか寝ちゃってました」
深い意味はないのだろう。本当にその通り言っているだけなのだろう。
だが土方は、彼女の言葉に過剰反応している。
(ちょっ・・・コイツどんなけ俺の匂い好きなんだよ!!)
的確にツボを突かれ、もうノックアウト寸前だ。出来ることなら、今すぐにでも抱き締め押し倒したい。
だが、ここは屯所ではない。まごうことなき紗己の実家だ。
ようやく彼女の父親からも信頼を得て結婚を許されたというのに、まさか今ここで手を出すわけにもいかない。
欲望を咬みきるように歯を食い縛ると、黒髪を揺らして勢いよく顔を逸らした。
耐えろ、とにかく今は耐えろ俺! 帰ったらいくらでもできるじゃねーか・・・って、いくらでもはさすがに無理か・・・って妊娠してんだから無理だろ!?
半分手を上げた状態で頭を振っている土方に、紗己は不思議そうな顔をしている。
だがそれに気付かない土方は、僅かに冷静さを取り戻すと、宙にあった手を下ろし胸の前で腕を組んで一人呟く。
「・・・まあ、その辺は帰ってから調べるか・・・・・・」
「何をですか?」
「え゛っ!?」
驚いて目を見張る。どうやら胸中で呟いていたつもりらしい。
まさか、『妊娠中の夫婦生活についての是非』に頭を悩ませていたとは当然言えるわけもなく、「し、仕事のことだっ」とありふれた言い訳しか出てこなかった。
しかし、そこは紗己だ。全く疑問にも感じていないらしく、そうですかと頷いている。
そんな彼女の様子にホッとしていると、紗己が一瞬、表情を変えた。
「あれ、副長さん・・・」
「ん? どうかしたか」
「それ、どうしたんですか?」
そう言って紗己が指差したのは藍色の寝間着。
「ああ、これか。さっき借してくれた、袴が皺になるからってな」
「え、父と会ってたんですか?」
「ああ、ちょっと話してきた。あーその・・・結婚、のことをだな・・・ちゃんと言えてなかったからな」
恥ずかしいのか、時折頬を掻きながら話す。
その姿に紗己は嬉しそうに笑うと、距離を詰めるように膝頭を布団に乗り上げた。
「ありがとうございます、副長さん。私、嬉しい・・・」
「紗己・・・・・・」
少し顔を伏せていることに加え、月明かりを背に受けているので、その表情はしっかりとは見えない。
だが、安堵を含んだ喜びの声が、彼女の心情を伝えてくれている。
自分との結婚をこんなにも喜んでくれる紗己に、愛しさが込み上げてくる。そして、ここに行き着くまでに辛い思いをさせてしまったと、改めて思い知る。
それらを引っくるめて紗己を想う気持ちを抑えきれなくなった土方は、力加減をしながらも彼女の柔らかな腕を掴んで引くと、自身の硬い胸に押し付けるように強く抱き締めた。
「ひゃ・・・っ、副長、さん・・・・・・?」
「お前の親父さんに、約束してきた」
「約束・・・・・・?」
「ああ、幸せにするってな。必ず・・・俺が幸せにしてやる」
抱き締める腕に更に力がこもった。
こんなにも愛しく思う、この温もりを手放しはしないと。