第四章
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――――――
・・・なんだ、真っ暗じゃねェか・・・・・・? 何が、どうなって・・・どう・・・なって――
閉ざした瞳の向こう側に柔らかな光を感じて、それに急かされるように重たい瞼に力を入れて目を開けてはみたが、暗くて周りがよく見えない。
それでも何度か瞬きをしているうちに、だんだんと目が慣れてきたので、障子戸から漏れる月明かりを助けに、現状を把握しようと頭を左右に動かして辺りを見回した。
「・・・ここは、どこだ・・・・・・?」
自分自身への問い掛けか、掠れた声でぽつり呟く。
背中の優しくて温かな感触に、土方は自分が布団に寝かされているのだと理解した。
どうやらこの部屋は、先程まで居た部屋とは違うようだ。
この僅かな情報でも、自分が無茶な飲み方をしたことを加味すれば、倒れて別室に運ばれたのだと分かる。
(そうか、俺は飲み比べで倒れちまったのか・・・・・・)
別に飲み比べをしていたわけではないのだが。しかし、何となく気が弱くなってしまった土方は、
「・・・紗己、紗己」
この部屋に居ないと分かってはいても、とりあえず呼んでみた。当然返事は無い。
どっか別の部屋で寝てんのか? まあ・・・そうだよな。自分の実家でアイツが俺の横で寝るとも思えねーし。
時計を確認してはいないが、周囲の暗さから判断するに、今はもう真夜中だろう。このまま眠って、そうして朝になったら紗己が起こしに来るはずだ。
思いはするも、ここは自分のテリトリーではないため、やはり状況確認をしないと妙に落ち着かない。
少し酔いが抜けて、かえって重くなった身体をのそっと起こす。
緩められていた袴の紐を結び直すために立ち上がり、上半身の着崩れも正す。
ある程度身なりを整えると、布団の上から身体を退かした。
「おっと・・・」
思わず声が出てしまった。枕元にあった盆に気付き、危うく蹴飛ばしそうになるのをぎりぎりで回避した。
盆の上には水差しと湯呑み、そして水の張った小さな桶とタオルが載せられていた。
「紗己・・・・・・」
小さく呟く。土方は体内のアルコールを薄めるために、水差しの中身を数回に分けて全て飲みきった。
――――――
部屋を出ないことにはどうしようもないと、土方は手近にあった側の襖を開けた。
流れ込んでくるひやっとした空気。床板が目に付いて、この部屋は廊下に面していたのだと分かった。
廊下はL字になっており、一方の突き当たりは玄関に繋がっている。
とすると、客間へ案内された時にこの部屋の前を通ったのでは――と思い、土方は玄関とは反対の方に歩き出した。
夜の静けさに包まれた廊下をひたひたと歩き、二部屋通り過ぎたところで、倒れるまで三人で居た客間へと辿り着いた。
まだ明かりは点いているものの、室内は綺麗に片付けられていて、誰の姿も見当たらない。しかし不思議なことに、誰かが見ているような人の気配を感じる。
気になった土方は、部屋の中に入ってみた。
慎重な足取りで、一歩一歩奥へと進む。
入ってきた方とは反対側にも襖があり、きっとこの向こう側に押入れか、もしくはもう一部屋があるのだろう。
他所の家を夜中に徘徊するなど怪しいことこの上ないのだが、胸中で入るぞ、開けるぞと言ってから襖に手を掛けた。
スッと襖を開けてみれば、前方からは涼しい空気が流れてきた。押し入れではなかった。
今土方が目にしている和室は、続き間の客間より少し狭いが、障子戸が開け放たれている部屋の奥は、庭に面していて開放感がある。
その縁側で、紗己の父親が腰を据えて煙管をふかしていた。
「あ・・・」
「おや、起きられましたか。どうです、ご一緒にいかがですか?」
自身の手に持っている物とは別に、もう一つの煙管を軽く指差している。
「はあ・・・それじゃあ」
倒れた手前バツが悪いものの、酒の席で出来なかった話をするには良い機会だ。
何より一服したい気持ちも後押しして、土方は返事をすると部屋を横切り縁側へと向かった。
薄い雲に、月が見え隠れする秋の晩。
煙草盆を真ん中に挟んで、紗己の父親とは反対側に土方は腰を下ろした。
盆にあった煙管を手に取ったはいいが、火種を点けるのを躊躇うように、紗己の父親に顔を向けた。
「あの・・・」
「ああ、娘は自分の部屋で寝てますよ。ついさっきまであなたの傍を離れなかったんですがねェ、身体に障っちゃいけないんでもう寝かせました」
「・・・そうですか」
土方の視線が何を言いたいのか、彼女の父親にはちゃんと伝わっていたらしい。
紗己の所在も確認出来たし、ここでの煙が彼女に害を与えることもないようだ。
安心した土方は、火皿に丸めた刻み煙草に火を点けると、半日ぶりの苦味を味わうために、吸い口に唇を寄せた。
・・・なんだ、真っ暗じゃねェか・・・・・・? 何が、どうなって・・・どう・・・なって――
閉ざした瞳の向こう側に柔らかな光を感じて、それに急かされるように重たい瞼に力を入れて目を開けてはみたが、暗くて周りがよく見えない。
それでも何度か瞬きをしているうちに、だんだんと目が慣れてきたので、障子戸から漏れる月明かりを助けに、現状を把握しようと頭を左右に動かして辺りを見回した。
「・・・ここは、どこだ・・・・・・?」
自分自身への問い掛けか、掠れた声でぽつり呟く。
背中の優しくて温かな感触に、土方は自分が布団に寝かされているのだと理解した。
どうやらこの部屋は、先程まで居た部屋とは違うようだ。
この僅かな情報でも、自分が無茶な飲み方をしたことを加味すれば、倒れて別室に運ばれたのだと分かる。
(そうか、俺は飲み比べで倒れちまったのか・・・・・・)
別に飲み比べをしていたわけではないのだが。しかし、何となく気が弱くなってしまった土方は、
「・・・紗己、紗己」
この部屋に居ないと分かってはいても、とりあえず呼んでみた。当然返事は無い。
どっか別の部屋で寝てんのか? まあ・・・そうだよな。自分の実家でアイツが俺の横で寝るとも思えねーし。
時計を確認してはいないが、周囲の暗さから判断するに、今はもう真夜中だろう。このまま眠って、そうして朝になったら紗己が起こしに来るはずだ。
思いはするも、ここは自分のテリトリーではないため、やはり状況確認をしないと妙に落ち着かない。
少し酔いが抜けて、かえって重くなった身体をのそっと起こす。
緩められていた袴の紐を結び直すために立ち上がり、上半身の着崩れも正す。
ある程度身なりを整えると、布団の上から身体を退かした。
「おっと・・・」
思わず声が出てしまった。枕元にあった盆に気付き、危うく蹴飛ばしそうになるのをぎりぎりで回避した。
盆の上には水差しと湯呑み、そして水の張った小さな桶とタオルが載せられていた。
「紗己・・・・・・」
小さく呟く。土方は体内のアルコールを薄めるために、水差しの中身を数回に分けて全て飲みきった。
――――――
部屋を出ないことにはどうしようもないと、土方は手近にあった側の襖を開けた。
流れ込んでくるひやっとした空気。床板が目に付いて、この部屋は廊下に面していたのだと分かった。
廊下はL字になっており、一方の突き当たりは玄関に繋がっている。
とすると、客間へ案内された時にこの部屋の前を通ったのでは――と思い、土方は玄関とは反対の方に歩き出した。
夜の静けさに包まれた廊下をひたひたと歩き、二部屋通り過ぎたところで、倒れるまで三人で居た客間へと辿り着いた。
まだ明かりは点いているものの、室内は綺麗に片付けられていて、誰の姿も見当たらない。しかし不思議なことに、誰かが見ているような人の気配を感じる。
気になった土方は、部屋の中に入ってみた。
慎重な足取りで、一歩一歩奥へと進む。
入ってきた方とは反対側にも襖があり、きっとこの向こう側に押入れか、もしくはもう一部屋があるのだろう。
他所の家を夜中に徘徊するなど怪しいことこの上ないのだが、胸中で入るぞ、開けるぞと言ってから襖に手を掛けた。
スッと襖を開けてみれば、前方からは涼しい空気が流れてきた。押し入れではなかった。
今土方が目にしている和室は、続き間の客間より少し狭いが、障子戸が開け放たれている部屋の奥は、庭に面していて開放感がある。
その縁側で、紗己の父親が腰を据えて煙管をふかしていた。
「あ・・・」
「おや、起きられましたか。どうです、ご一緒にいかがですか?」
自身の手に持っている物とは別に、もう一つの煙管を軽く指差している。
「はあ・・・それじゃあ」
倒れた手前バツが悪いものの、酒の席で出来なかった話をするには良い機会だ。
何より一服したい気持ちも後押しして、土方は返事をすると部屋を横切り縁側へと向かった。
薄い雲に、月が見え隠れする秋の晩。
煙草盆を真ん中に挟んで、紗己の父親とは反対側に土方は腰を下ろした。
盆にあった煙管を手に取ったはいいが、火種を点けるのを躊躇うように、紗己の父親に顔を向けた。
「あの・・・」
「ああ、娘は自分の部屋で寝てますよ。ついさっきまであなたの傍を離れなかったんですがねェ、身体に障っちゃいけないんでもう寝かせました」
「・・・そうですか」
土方の視線が何を言いたいのか、彼女の父親にはちゃんと伝わっていたらしい。
紗己の所在も確認出来たし、ここでの煙が彼女に害を与えることもないようだ。
安心した土方は、火皿に丸めた刻み煙草に火を点けると、半日ぶりの苦味を味わうために、吸い口に唇を寄せた。