第四章
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紗己の父親はとても人の好い笑みを湛え、土方の空のグラスになみなみと酒を注いでいく。
こんな大事な話、酔っ払った状態でしたくねえんだが、このまま飲まねェわけにもいかねーし・・・・・・。
だんだんと身体が熱くなってきて気が大きくなる反面、もういいかという気持ちも顔を出し始めてきた。
身体も心も揺れる状態で、隣に座る紗己に視線を移す。
目が合うと彼女は半月型の瞳を細めて柔らかく微笑んで、どうしたのかと小首を傾げた。
「副長さん?」
「・・・いや」
耳に優しいその声に、これじゃいけないと土方は改めて思う。
ここで気持ちを折ってなるものかと、何とか結婚の話を持ち出したくて、グラスを満たす酒をグッと飲み干した。
「え、ちょっ・・・副長さん? あんまり飲み過ぎると・・・」
隣の男が突然酒を煽ったので、紗己は驚いて土方の二の腕に手を伸ばした。
だが土方は、切れ長の双眸でキッと前を見据えたまま、
「だい、じょーぶだっ・・・・・・!」
そう言葉を返すと、腕に触れていた彼女の手をそっと下ろした。
自身でも感じる程、アルコール臭い息を喉の奥に押しやると、もう一度話を切り出そうとグラスを強く握る。
しかし土方が言葉を発する直前に、前方から軽やかに魔の手が延びてきた。
「いやいやいい飲みっぷりですねェ! さすが、若い人は元気があっていい! それじゃァ、私もいただきましょうかねェ」
言いながら自身のグラスに酒を注ぐと、まるで水を飲むように易々と喉の奥へと流し込む。
そしてスムーズな動きで、土方の空のグラスを即座に酒で満たした。
「・・・っ!?」
「さあさ、まだまだ酒はたっぷりありますからねェ。存分に召し上がってください」
紗己の父親のやけに明るい声を聞きながら、土方は頬を引きつらせて酒で満たされた自身のグラスへと視線を落とす。
酔いが回り身体が熱い。しかし、背中を伝う汗は暑さからではない筈だ。
(一体どういうつもりなんだ・・・・・・! )
グラスを持つ手に力が入る。
気遣い症の彼女の父親だ、サービス精神でもてなしてくれているのだろう。
思いはするも、繰り返し足払いを掛けられているような肩透かし具合に、いけないと思いつつ本気で腹が立ってくる。
酒の力も相まって、考えもだんだんと好戦的になってきた。
くっそ、何度も何度も話の腰折りやがって! これわざとだろ、絶対わざとだろ!!
おまけに涼しい顔でガブガブ飲みやがって・・・なんだ、俺と飲み比べでもしてる気かァ? 上等だ、そっちがその気なら――。
「・・・やってやろうじゃねーか」
「え?」
隣で胡座をかいている男が、顔を伏せたままボソッと呟いたので、何と言ったのかと紗己は土方の顔を覗き込んだ。
すると突然、土方が伏せていた顔を上げていきなり酒を煽り始めた。
度数の高さなんてなんのその、喉をごくりと鳴らし一気に飲み干す。
土方は勢いそのままグラスを下ろすと、口端を伝う酒を手の甲で乱暴に拭った。
「ッ・・・は・・・っ」
「副長さん!? ど、どうしたんですかいきなり!」
「・・・だ、いじょ・・・っ、だ」
ゆでダコのように首から上を真っ赤にして、何が大丈夫なものか。第一訊かれてもいないのに答えるあたり、全く大丈夫ではない。
もう思考回路もまともに働かなくなってきているのだろう。
ただ『負けたくない』という気持ちだけが突っ走り、土方は注げとばかりに空のグラスを突き出した。
その様子に紗己の父親は、声高らかに笑いながら酒瓶を傾ける。
「これはこれは頼もしい、豪気なお方だ。さすがはお侍様ですねェ」
「ちょっと父さん! 駄目よ、そんな勧めちゃ・・・」
「まあまあいいじゃないか。固いこと言いっこなしだよ、紗己」
娘の言葉をさらりと聞き流し、自身のグラスも酒で満たし、土方よりも先に飲み干してしまう。
先程と同じように、とても酒を飲んでいるとは思えない。さながら水分補給といった感じだ。
それを見た土方は、ますます対抗意識をたぎらせると、フラフラと揺れながらも自身の酒に手を伸ばした。
「・・・俺ァ、酔ってねェよ・・・・・・」
「あっ・・・副長さん! 駄目ですよ、飲み過ぎですから!!」
紗己は慌てて止めようとするが、土方は断固としてグラスを置かない。完全に目が据わっている。
明らかに正常な判断力を失っている土方を心配する紗己は、なだめるような声音で説得を続ける。
「本当に・・・ね?」
「あァ? 俺ァ・・・俺ァなー・・・真選組副長土方十四郎だ・・・・・・!」
「は? え、ええ、それは知ってますけど・・・あっ!?」
酔っ払い男の意味不明な発言に首を捻っていると、その一瞬の間に土方はグラスの中身を全て体内に注ぎ込んでしまった。
だが先程とは違い、飲み干した後の派手なリアクションもなく、奇妙に静止している。
「・・・・・・」
「副長さん? 大丈夫ですか!?」
「・・・・・・」
「副長さんっ!」
紗己の呼び掛けには一切反応せず、少しの間をおいてから、緩やかな動きで前後左右に揺れ始めた。
(な、んだ・・・・・・? 俺が回ってんのか?それとも・・・この部屋が回って――)
「・・・気持ち、悪ィ・・・・・・」
聞こえるか聞こえないかの小さな声を絞りだすと、突然土方の動きが止まった。
異変を感じた紗己が不安そうに呼び掛けるが、
「え、ちょっ・・・ねえ副長さん・・・・・・? だいじょ・・・きゃ!?」
紗己の心配も虚しく、土方はバタンと畳へと倒れ込んでしまった。
こんな大事な話、酔っ払った状態でしたくねえんだが、このまま飲まねェわけにもいかねーし・・・・・・。
だんだんと身体が熱くなってきて気が大きくなる反面、もういいかという気持ちも顔を出し始めてきた。
身体も心も揺れる状態で、隣に座る紗己に視線を移す。
目が合うと彼女は半月型の瞳を細めて柔らかく微笑んで、どうしたのかと小首を傾げた。
「副長さん?」
「・・・いや」
耳に優しいその声に、これじゃいけないと土方は改めて思う。
ここで気持ちを折ってなるものかと、何とか結婚の話を持ち出したくて、グラスを満たす酒をグッと飲み干した。
「え、ちょっ・・・副長さん? あんまり飲み過ぎると・・・」
隣の男が突然酒を煽ったので、紗己は驚いて土方の二の腕に手を伸ばした。
だが土方は、切れ長の双眸でキッと前を見据えたまま、
「だい、じょーぶだっ・・・・・・!」
そう言葉を返すと、腕に触れていた彼女の手をそっと下ろした。
自身でも感じる程、アルコール臭い息を喉の奥に押しやると、もう一度話を切り出そうとグラスを強く握る。
しかし土方が言葉を発する直前に、前方から軽やかに魔の手が延びてきた。
「いやいやいい飲みっぷりですねェ! さすが、若い人は元気があっていい! それじゃァ、私もいただきましょうかねェ」
言いながら自身のグラスに酒を注ぐと、まるで水を飲むように易々と喉の奥へと流し込む。
そしてスムーズな動きで、土方の空のグラスを即座に酒で満たした。
「・・・っ!?」
「さあさ、まだまだ酒はたっぷりありますからねェ。存分に召し上がってください」
紗己の父親のやけに明るい声を聞きながら、土方は頬を引きつらせて酒で満たされた自身のグラスへと視線を落とす。
酔いが回り身体が熱い。しかし、背中を伝う汗は暑さからではない筈だ。
(一体どういうつもりなんだ・・・・・・! )
グラスを持つ手に力が入る。
気遣い症の彼女の父親だ、サービス精神でもてなしてくれているのだろう。
思いはするも、繰り返し足払いを掛けられているような肩透かし具合に、いけないと思いつつ本気で腹が立ってくる。
酒の力も相まって、考えもだんだんと好戦的になってきた。
くっそ、何度も何度も話の腰折りやがって! これわざとだろ、絶対わざとだろ!!
おまけに涼しい顔でガブガブ飲みやがって・・・なんだ、俺と飲み比べでもしてる気かァ? 上等だ、そっちがその気なら――。
「・・・やってやろうじゃねーか」
「え?」
隣で胡座をかいている男が、顔を伏せたままボソッと呟いたので、何と言ったのかと紗己は土方の顔を覗き込んだ。
すると突然、土方が伏せていた顔を上げていきなり酒を煽り始めた。
度数の高さなんてなんのその、喉をごくりと鳴らし一気に飲み干す。
土方は勢いそのままグラスを下ろすと、口端を伝う酒を手の甲で乱暴に拭った。
「ッ・・・は・・・っ」
「副長さん!? ど、どうしたんですかいきなり!」
「・・・だ、いじょ・・・っ、だ」
ゆでダコのように首から上を真っ赤にして、何が大丈夫なものか。第一訊かれてもいないのに答えるあたり、全く大丈夫ではない。
もう思考回路もまともに働かなくなってきているのだろう。
ただ『負けたくない』という気持ちだけが突っ走り、土方は注げとばかりに空のグラスを突き出した。
その様子に紗己の父親は、声高らかに笑いながら酒瓶を傾ける。
「これはこれは頼もしい、豪気なお方だ。さすがはお侍様ですねェ」
「ちょっと父さん! 駄目よ、そんな勧めちゃ・・・」
「まあまあいいじゃないか。固いこと言いっこなしだよ、紗己」
娘の言葉をさらりと聞き流し、自身のグラスも酒で満たし、土方よりも先に飲み干してしまう。
先程と同じように、とても酒を飲んでいるとは思えない。さながら水分補給といった感じだ。
それを見た土方は、ますます対抗意識をたぎらせると、フラフラと揺れながらも自身の酒に手を伸ばした。
「・・・俺ァ、酔ってねェよ・・・・・・」
「あっ・・・副長さん! 駄目ですよ、飲み過ぎですから!!」
紗己は慌てて止めようとするが、土方は断固としてグラスを置かない。完全に目が据わっている。
明らかに正常な判断力を失っている土方を心配する紗己は、なだめるような声音で説得を続ける。
「本当に・・・ね?」
「あァ? 俺ァ・・・俺ァなー・・・真選組副長土方十四郎だ・・・・・・!」
「は? え、ええ、それは知ってますけど・・・あっ!?」
酔っ払い男の意味不明な発言に首を捻っていると、その一瞬の間に土方はグラスの中身を全て体内に注ぎ込んでしまった。
だが先程とは違い、飲み干した後の派手なリアクションもなく、奇妙に静止している。
「・・・・・・」
「副長さん? 大丈夫ですか!?」
「・・・・・・」
「副長さんっ!」
紗己の呼び掛けには一切反応せず、少しの間をおいてから、緩やかな動きで前後左右に揺れ始めた。
(な、んだ・・・・・・? 俺が回ってんのか?それとも・・・この部屋が回って――)
「・・・気持ち、悪ィ・・・・・・」
聞こえるか聞こえないかの小さな声を絞りだすと、突然土方の動きが止まった。
異変を感じた紗己が不安そうに呼び掛けるが、
「え、ちょっ・・・ねえ副長さん・・・・・・? だいじょ・・・きゃ!?」
紗己の心配も虚しく、土方はバタンと畳へと倒れ込んでしまった。