第四章
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自分達があまり良いイメージで見られていない事を自認している、真選組副長・土方十四郎。
普段ならば、どこの誰にどう思われようがそんなものは関係ない、自分のやるべきことを遂行しているだけだ――と、矜持を持っているのだが。
今この場に置いては勝手が違う。
自分の子を妊娠している女性の実家に、結婚の挨拶をしに来たのだ。これ以上悪い印象を持たれるわけにはいかない。
焦る土方の胸の内を読み取ったかのように、非常にタイミングよく紗己の父親が問題 に触れてきた。
「いやはやしかしねェ、こんなに早く孫が出来るとは思いませんでしたよ」
悪意も敵意も感じさせない笑顔を向けられて、この居心地の悪さは人生最大かもしれない、と土方は思う。
こうなればもう、ひたすら頭を下げるしかない。
姿勢を正し自身の膝頭に両手を置くと、緩やかな角度で頭を下げる。
「あの、申し訳ありませ・・・」
「紗己、お腹の子は順調かい?」
しかし聞こえていなかったのか、彼は笑顔のまま娘に話を振っている。
(・・・なんだ? これひょっとして、無視されてんのか・・・・・・?)
慣れないことをしているのに加え、紗己親子の空気の流れ方についていけず、土方は少し疑心暗鬼になっているのだ。
しかしまあ、嫌われていたとしてもそれは仕方が無い、当然のことだと自分を納得させる。
そりゃァやることヤッちまってんだ、疎まれても蔑まされても、我慢するしかねえよな。これも俺と紗己と、生まれてくる子供のためだ!
改めて自身に喝を入れると、今回の最大の目的を遂行するため口を開く。
「あの、お義父さん!」
「はい? なんですかな?」
「そ、そのっ、娘さんを俺にく「まあまあまあまァ」
またも言葉を被せられた。というより遮られた。
出鼻を挫かれ、土方は内心苛つき始める。
(なんなんだよおいっ、最後まで言わせろよっ! 調子狂っちまうだろうがっ!)
最初の自己紹介と同じ事をされて、呆れとともに苛立ちを感じずにはいられない。
だがやはり敵意は感じられず、一体どう対処すればいいのか土方は吐息を漏らす。
それに気付いてはいないのだろうが、紗己の父親は二度手を打って、項垂れる土方に笑ってみせた。
「まあまァ、堅苦しいのは止めて、ねェ。そうだ! もうそろそろ出前が来る頃じゃないかな?」
言いながら腰を上げると、廊下の奥にいる使用人達に向かって何やら話し掛けている。それを見た土方は、合点がいったようにぐっと拳を作った。
(そうだこの感じ・・・紗己とそっくりじゃねェか! )
紗己と接している時に、たまに感じるじれったさ。
不快ではないのだが、変な方に向いた気の回し具合に、溜息を落とすこともしばしばだ。
特に今よりも前、彼女と口を利き始めた頃の方が、そのじれったさを多く感じていた。となれば、今日会ったばかりの彼女の父親とうまくコミュニケーションがとれるはずがない。
心もち恨めしい目付きで紗己を見れば、愛しい彼女はにこっと笑顔を見せてくれる。
そののんびり鈍感な雰囲気と、父親のマイペースっぷりが重なって見えてきて、流石は親子だなと土方はがっくりと肩を落とした。
――――――
「さささ、しっかり食べてくださいねェ。どうです、酒は進んでますかな?」
「はあ、いただいてます・・・・・・」
日もすっかり落ちて夜がはじまり、客間では紗己と彼女の父親、そして土方が寿司を囲んでいた。
非常に和やかなムード。列車の中では殴られる腹づもりでいただけに、これは嬉しい誤算のはずだ。
なのに。土方は複雑な表情でちびちびと酒を飲んでいる。
うまくやれるにこしたこたァねーんだが、言うべきこと言わねェままじゃ落ち着きゃしねえ。
顔見せはもう済んだ。しかし、娘を嫁にくれという正式な話はまだ出来ていない。
娘が妊娠したということについては、喜ばしく思っているようだ。その孫の父親である土方に対しても、笑顔で酒を勧めている。
これらだけを取り上げれば、二人の結婚を祝福しているようにも思える。
だが、そこに見え隠れするもう一つの現状に、土方は引っ掛かりを感じて止まない。
切子のグラスに注がれた酒を舐めるように呑みながら、渋面で笑顔の男に目を向けた。
この家に上がってから、もうそれなりに時間は経っている。そこそこの会話も交わしている。
しかし紗己の父親の口からは、まだ一度も『結婚』の二文字が出てきていないのだ。
気も早く孫の話をしているくらいだ、単にその言葉を言っていないだけとも考えられる。
だが、それを匂わせたり言おうとすると、何故か話の腰を折られてしまう。
(ひょっとして、俺はまだ認められてねェのか――? )
だんだんと、そんなふうに思えてきた。
とはいえ、それならば認めさせるだけだと、土方はグラスに満たされた酒を一気に飲み干した。
意を決して口を開く。
「あのっ・・・」
「おや、グラスが空いてるじゃァないですか。さぁさ飲んで飲んで!」
土方の言葉よりも、空のグラスに気がいってしまったようだ。
座布団から腰を上げると、紗己の父親は一升瓶を手に土方の真向かいを陣取った。
その行動が何を指しているのかが分かった土方は、とにかく話をさせてほしくて、やんわりと制止の手をかざす。
「いや、酒は・・・」
しかし遠慮という名目の拒否も、目の前の笑顔の中年男性には通用しない。
「酒は・・・お嫌いかな?」
独特の間の取り方と、過ぎた笑顔が圧となり、土方から断るという選択肢を奪い取る。
「・・・・・・・・・いえ」
「そりゃァ良かった!」
もう黙って受け入れるしかない土方は、苦い顔で渋々グラスを差し出した。
普段ならば、どこの誰にどう思われようがそんなものは関係ない、自分のやるべきことを遂行しているだけだ――と、矜持を持っているのだが。
今この場に置いては勝手が違う。
自分の子を妊娠している女性の実家に、結婚の挨拶をしに来たのだ。これ以上悪い印象を持たれるわけにはいかない。
焦る土方の胸の内を読み取ったかのように、非常にタイミングよく紗己の父親が
「いやはやしかしねェ、こんなに早く孫が出来るとは思いませんでしたよ」
悪意も敵意も感じさせない笑顔を向けられて、この居心地の悪さは人生最大かもしれない、と土方は思う。
こうなればもう、ひたすら頭を下げるしかない。
姿勢を正し自身の膝頭に両手を置くと、緩やかな角度で頭を下げる。
「あの、申し訳ありませ・・・」
「紗己、お腹の子は順調かい?」
しかし聞こえていなかったのか、彼は笑顔のまま娘に話を振っている。
(・・・なんだ? これひょっとして、無視されてんのか・・・・・・?)
慣れないことをしているのに加え、紗己親子の空気の流れ方についていけず、土方は少し疑心暗鬼になっているのだ。
しかしまあ、嫌われていたとしてもそれは仕方が無い、当然のことだと自分を納得させる。
そりゃァやることヤッちまってんだ、疎まれても蔑まされても、我慢するしかねえよな。これも俺と紗己と、生まれてくる子供のためだ!
改めて自身に喝を入れると、今回の最大の目的を遂行するため口を開く。
「あの、お義父さん!」
「はい? なんですかな?」
「そ、そのっ、娘さんを俺にく「まあまあまあまァ」
またも言葉を被せられた。というより遮られた。
出鼻を挫かれ、土方は内心苛つき始める。
(なんなんだよおいっ、最後まで言わせろよっ! 調子狂っちまうだろうがっ!)
最初の自己紹介と同じ事をされて、呆れとともに苛立ちを感じずにはいられない。
だがやはり敵意は感じられず、一体どう対処すればいいのか土方は吐息を漏らす。
それに気付いてはいないのだろうが、紗己の父親は二度手を打って、項垂れる土方に笑ってみせた。
「まあまァ、堅苦しいのは止めて、ねェ。そうだ! もうそろそろ出前が来る頃じゃないかな?」
言いながら腰を上げると、廊下の奥にいる使用人達に向かって何やら話し掛けている。それを見た土方は、合点がいったようにぐっと拳を作った。
(そうだこの感じ・・・紗己とそっくりじゃねェか! )
紗己と接している時に、たまに感じるじれったさ。
不快ではないのだが、変な方に向いた気の回し具合に、溜息を落とすこともしばしばだ。
特に今よりも前、彼女と口を利き始めた頃の方が、そのじれったさを多く感じていた。となれば、今日会ったばかりの彼女の父親とうまくコミュニケーションがとれるはずがない。
心もち恨めしい目付きで紗己を見れば、愛しい彼女はにこっと笑顔を見せてくれる。
そののんびり鈍感な雰囲気と、父親のマイペースっぷりが重なって見えてきて、流石は親子だなと土方はがっくりと肩を落とした。
――――――
「さささ、しっかり食べてくださいねェ。どうです、酒は進んでますかな?」
「はあ、いただいてます・・・・・・」
日もすっかり落ちて夜がはじまり、客間では紗己と彼女の父親、そして土方が寿司を囲んでいた。
非常に和やかなムード。列車の中では殴られる腹づもりでいただけに、これは嬉しい誤算のはずだ。
なのに。土方は複雑な表情でちびちびと酒を飲んでいる。
うまくやれるにこしたこたァねーんだが、言うべきこと言わねェままじゃ落ち着きゃしねえ。
顔見せはもう済んだ。しかし、娘を嫁にくれという正式な話はまだ出来ていない。
娘が妊娠したということについては、喜ばしく思っているようだ。その孫の父親である土方に対しても、笑顔で酒を勧めている。
これらだけを取り上げれば、二人の結婚を祝福しているようにも思える。
だが、そこに見え隠れするもう一つの現状に、土方は引っ掛かりを感じて止まない。
切子のグラスに注がれた酒を舐めるように呑みながら、渋面で笑顔の男に目を向けた。
この家に上がってから、もうそれなりに時間は経っている。そこそこの会話も交わしている。
しかし紗己の父親の口からは、まだ一度も『結婚』の二文字が出てきていないのだ。
気も早く孫の話をしているくらいだ、単にその言葉を言っていないだけとも考えられる。
だが、それを匂わせたり言おうとすると、何故か話の腰を折られてしまう。
(ひょっとして、俺はまだ認められてねェのか――? )
だんだんと、そんなふうに思えてきた。
とはいえ、それならば認めさせるだけだと、土方はグラスに満たされた酒を一気に飲み干した。
意を決して口を開く。
「あのっ・・・」
「おや、グラスが空いてるじゃァないですか。さぁさ飲んで飲んで!」
土方の言葉よりも、空のグラスに気がいってしまったようだ。
座布団から腰を上げると、紗己の父親は一升瓶を手に土方の真向かいを陣取った。
その行動が何を指しているのかが分かった土方は、とにかく話をさせてほしくて、やんわりと制止の手をかざす。
「いや、酒は・・・」
しかし遠慮という名目の拒否も、目の前の笑顔の中年男性には通用しない。
「酒は・・・お嫌いかな?」
独特の間の取り方と、過ぎた笑顔が圧となり、土方から断るという選択肢を奪い取る。
「・・・・・・・・・いえ」
「そりゃァ良かった!」
もう黙って受け入れるしかない土方は、苦い顔で渋々グラスを差し出した。