第四章
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店先の方ではなく、住居に面した裏口へと回る。敷地内に入ると、紗己は硝子がはめ込まれた玄関の引き戸を開けた。
「ただいま戻りましたー」
高い天井と先に延びる廊下、そこを静かに吹き抜けるしっとりとした風。
落ち着き払った静かな空間に、紗己の柔らかな声が響く。
その静寂がまたも緊張感を昂らせ、それを抑えようと土方はキョロキョロと周囲を見回した。
下駄箱の上には、手入れの行き届いた盆栽が飾られており、その横には写真も置かれている。
少し距離があるためはっきりとは分からないが、どうやら家族写真のようだ。
(ありゃァ、ガキの頃の紗己か? )
ならば共に写っているのが父親かと、ジッと目を凝らしていると。廊下の奥から足音が聞こえてきた。
ピリッと皮膚を刺すような気配に、土方は全身を強張らせる。
やはりただ者ではなかったかと息を呑むと、角を曲がって現れたのは――『優しい』という表現しか当てはまらないような、笑顔の中年男性だった。
「やあやあやあ、よく帰ったねェ紗己」
「ただいま、父さん!」
隣で交わされている穏やかな挨拶の風景を、土方は怪訝な面持ちで一瞥する。
え? あれ、さっきまでの気配とは別人じゃねーか・・・・・・?
今斜め前に立っている紗己の『父親』は、非常に穏やかな気を発している。
先程感じ取った気配は、ひょっとしたら他の者だったのかと頭を悩ませてしまうほどだ。
少し戸惑ったような複雑な表情を浮かべていると、紗己の父親がこちらに目線を合わせてきた。
これはいけない、挨拶をせねばと土方は背筋を伸ばす。
「は、初めまして! 土方十四郎と申し「これはこれは、どうもどうも!」
思いっきり、言葉を被せられた。呆気にとられた土方は、半口を開けて固まってしまっている。
そんな彼を尻目に、紗己の父親はにこやかに左手を差し出してきた。
「いやいやァ、遠いところようこそお越しくださいました。私、紗己の父です」
「こ、こちらこそ、恐縮です!」
慌てて土産を右手に持ち変えると、同じように左手を差し出し握手を交わす。
なかなか厚みのある、年季の入った手。どのタイミングで離そうかと悩んでいるのだが、彼女の父親は一向に手を離そうとしない。
数秒がやけに長く感じ、そろそろ離してもいいだろうかと軽く力を抜くと、それを制するように力を込められた。
「いやいやいやァ、お会いできて光栄です! 娘がいつも・・・」
穏和な双眸が土方を見据える。
「大変・・・お世話になっております」
「っ・・・こちら、こそ」
思わず、次の言葉に詰まってしまった。
間の取り方が独特だからか、妙な威圧感が放たれている。
しかし、これも緊張からのものだろうと思い直していると、ようやく手が離された。
「さあさァ、こんなところじゃなんだからこちらへどうぞ」
変わらずにこやかな様子に、土方はホッと胸を撫で下ろした。紗己にも促され、草履を脱いで彼女と共に家へと上がると、そのまま客間へと通された。
――――――
「今お茶を用意しますのでねェ、どうぞどうぞ寛いでくださいな」
笑顔のまま部屋を出ようとした紗己の父。座布団に腰を下ろそうとしていた土方だったが、手にしていた土産の存在を思い出し、膝に力を入れてスクッと立ち上がった。
「あ、あのこれ、つまらない物ですが」
「あら、これはこれは! そうだ、今日はめでたい日だからねェ」
土産の一升瓶を受け取ると、廊下に半分顔を出して、奥にいる使用人に寿司を注文するよう命じている。
手厚い歓迎ぶりに、このまま甘えていて良いものかと、土方は隣に立つ紗己に目を向けた。
しかし彼女は、久しぶりの実家にすっかり寛ぎモードで、土方の不安気な様子には一切気付いていない。
そんな紗己の姿に嘆息していると、彼女の父親が嬉しそうに手を揉みながら話し出した。
「後で食事の用意もしますので、たっぷり召し上がってってくださいねェ」
「ああその、お気遣いなく・・・」
やや遠慮がちに言うと、紗己の父は朗らかな笑みを湛え、ズイッと距離を詰めてきた。
「寿司は・・・お嫌いかな?」
ものすごい笑顔だ。誰がどの角度から見ても、笑っているようにしか見えない。
だがその裏側に妙な圧力を感じた土方は、思わず息を呑んだ。
(な、なんだこの感じ・・・全然腹が読めねえ・・・・・・)
違和感を覚えるものの、目の前の男から悪意は感じられない。
どう接すればいいかいまいち距離感が掴めず、土方はぎこちなく作り笑いを浮かべる。
「ああいや、好きです・・・寿司」
「そりゃァ、良かった良かった!」
明るい声でそう言うと、彼女の父は悩める土方とリラックスしている娘を残して部屋を出て行った。
「ただいま戻りましたー」
高い天井と先に延びる廊下、そこを静かに吹き抜けるしっとりとした風。
落ち着き払った静かな空間に、紗己の柔らかな声が響く。
その静寂がまたも緊張感を昂らせ、それを抑えようと土方はキョロキョロと周囲を見回した。
下駄箱の上には、手入れの行き届いた盆栽が飾られており、その横には写真も置かれている。
少し距離があるためはっきりとは分からないが、どうやら家族写真のようだ。
(ありゃァ、ガキの頃の紗己か? )
ならば共に写っているのが父親かと、ジッと目を凝らしていると。廊下の奥から足音が聞こえてきた。
ピリッと皮膚を刺すような気配に、土方は全身を強張らせる。
やはりただ者ではなかったかと息を呑むと、角を曲がって現れたのは――『優しい』という表現しか当てはまらないような、笑顔の中年男性だった。
「やあやあやあ、よく帰ったねェ紗己」
「ただいま、父さん!」
隣で交わされている穏やかな挨拶の風景を、土方は怪訝な面持ちで一瞥する。
え? あれ、さっきまでの気配とは別人じゃねーか・・・・・・?
今斜め前に立っている紗己の『父親』は、非常に穏やかな気を発している。
先程感じ取った気配は、ひょっとしたら他の者だったのかと頭を悩ませてしまうほどだ。
少し戸惑ったような複雑な表情を浮かべていると、紗己の父親がこちらに目線を合わせてきた。
これはいけない、挨拶をせねばと土方は背筋を伸ばす。
「は、初めまして! 土方十四郎と申し「これはこれは、どうもどうも!」
思いっきり、言葉を被せられた。呆気にとられた土方は、半口を開けて固まってしまっている。
そんな彼を尻目に、紗己の父親はにこやかに左手を差し出してきた。
「いやいやァ、遠いところようこそお越しくださいました。私、紗己の父です」
「こ、こちらこそ、恐縮です!」
慌てて土産を右手に持ち変えると、同じように左手を差し出し握手を交わす。
なかなか厚みのある、年季の入った手。どのタイミングで離そうかと悩んでいるのだが、彼女の父親は一向に手を離そうとしない。
数秒がやけに長く感じ、そろそろ離してもいいだろうかと軽く力を抜くと、それを制するように力を込められた。
「いやいやいやァ、お会いできて光栄です! 娘がいつも・・・」
穏和な双眸が土方を見据える。
「大変・・・お世話になっております」
「っ・・・こちら、こそ」
思わず、次の言葉に詰まってしまった。
間の取り方が独特だからか、妙な威圧感が放たれている。
しかし、これも緊張からのものだろうと思い直していると、ようやく手が離された。
「さあさァ、こんなところじゃなんだからこちらへどうぞ」
変わらずにこやかな様子に、土方はホッと胸を撫で下ろした。紗己にも促され、草履を脱いで彼女と共に家へと上がると、そのまま客間へと通された。
――――――
「今お茶を用意しますのでねェ、どうぞどうぞ寛いでくださいな」
笑顔のまま部屋を出ようとした紗己の父。座布団に腰を下ろそうとしていた土方だったが、手にしていた土産の存在を思い出し、膝に力を入れてスクッと立ち上がった。
「あ、あのこれ、つまらない物ですが」
「あら、これはこれは! そうだ、今日はめでたい日だからねェ」
土産の一升瓶を受け取ると、廊下に半分顔を出して、奥にいる使用人に寿司を注文するよう命じている。
手厚い歓迎ぶりに、このまま甘えていて良いものかと、土方は隣に立つ紗己に目を向けた。
しかし彼女は、久しぶりの実家にすっかり寛ぎモードで、土方の不安気な様子には一切気付いていない。
そんな紗己の姿に嘆息していると、彼女の父親が嬉しそうに手を揉みながら話し出した。
「後で食事の用意もしますので、たっぷり召し上がってってくださいねェ」
「ああその、お気遣いなく・・・」
やや遠慮がちに言うと、紗己の父は朗らかな笑みを湛え、ズイッと距離を詰めてきた。
「寿司は・・・お嫌いかな?」
ものすごい笑顔だ。誰がどの角度から見ても、笑っているようにしか見えない。
だがその裏側に妙な圧力を感じた土方は、思わず息を呑んだ。
(な、なんだこの感じ・・・全然腹が読めねえ・・・・・・)
違和感を覚えるものの、目の前の男から悪意は感じられない。
どう接すればいいかいまいち距離感が掴めず、土方はぎこちなく作り笑いを浮かべる。
「ああいや、好きです・・・寿司」
「そりゃァ、良かった良かった!」
明るい声でそう言うと、彼女の父は悩める土方とリラックスしている娘を残して部屋を出て行った。