第四章
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――――――
目的の駅を降りると、そこには田舎らしいゆったりとした町並みが広がっていた。
二人は肩を並べて、商店の立ち並ぶ通りを歩く。
江戸にいる時と比べると、紗己は随分と足取り軽やかに、サクサクと楽しげに歩いている。
列車の中では長く眠っていただけに、体調は大丈夫なのかと土方は心配になった。
「おい、疲れてねェか? まだ結構あるんだろ、籠屋呼んでも構わねェんだぞ」
心配そうに自分を見つめる双眸に、紗己はにこりと笑ってみせた。
「大丈夫ですよ、そこまで遠くないですし。それに・・・この町を、副長さんと一緒に歩きたいんです。いいですか?」
「お、おう」
思いがけない彼女の言葉に、胸の奥がキュッと熱くなる。
土方は恥ずかしそうに視線を逸らし、頬を掻きながら短く返事をした。
「ふふ、良かった」
土方から了承を得たことに、安心したように微笑む紗己をちらりと見やると、土方は軽く咳払いをしてから言葉を放つ。
「お、俺は別に構わねーけど! でも、しんどくなったらちゃんと言えよ。つわりは平気か?」
「はい、今日は調子いいです」
「そうか。じゃあ行くぞ」
ぶっきらぼうな態度ではあるものの、歩調は先程までより確実に遅くなっている。
土方の気遣いに、紗己は嬉しそうに半月型の瞳を細めて寄り添った。
紗己の道案内のもと、のんびりと田舎町を闊歩する。
いつもよりも無邪気で明るい雰囲気の彼女に、こんな一面もあったのかと土方は改めて認識する。
(基本大人しい奴だと思ってたが、こんなふうに積極的な時もあるんだな)
感慨深げに、楽しそうに隣を歩く紗己を一瞥した。
分かれ道に差し掛かれば、「こっちです!」と軽く袖を引っ張る。
遠くの山を指差しては、幼い頃の思い出話をしてくれる。
普段の彼女を『暗い』と思ったことは一度もないが、進んで自身のことを語るタイプではなかったので、今の紗己は非常に快活に思える。
やはり自分のテリトリーだからかと、土方は彼女に気付かれぬように小さく笑った。
そこそこ賑わっていた通りを抜け、田畑が広がる小道を行き、しばらくするとまた道が開けてきた。
長屋通りを過ぎて、今度は商家が軒を連ねる通りに入る。
もうそろそろだろうかと辺りを見回していると、紗己がぴたり足を止めた。
「あそこです。あの酒屋さんの向かいが、私の家です」
「酒屋・・・の向かい、か?」
彼女の視線を辿って、まずは酒屋に目を向ける。そしてその向かい側を見ると、周辺の家々の中では比較的大造りな屋敷が、どんと腰を据えていた。
「あそこ、か・・・・・・」
「じゃ、行きましょうか」
「え、ちょっ、ちょっと待てっ!」
歩き出そうとした紗己の華奢な手首を、土方は慌てて掴んだ。
「どうしたんですか?」
「いやっ、まずは心の準備をだな・・・って別に緊張してるとかじゃねェからっ! 違うからな!?」
これが緊張と言わずに、他に何と言うのだろう。紗己の手首をがっちりと掴んでいる土方の手の平は、汗で湿り気を帯びている。
しかし本人が違うと言うのなら、まあ違うのだろう。その程度の気の留め具合いで、紗己は土方に向き直った。
普段は鬼の副長と呼ばれている男の、少々バツの悪そうな表情に穏やかな笑みを見せると、続いてその全身に視線を這わせ、くすりと笑う。
「な、何だよ! 俺は全然緊張とかしてねーからなっ」
「はい、いえ、そうですね」
「・・・なら、何だよ?」
優しい目で自分を見つめる紗己に、土方は眉をひそめた。
「いえ、よく似合ってるなあって思ったんです」
「あ? 似合ってるって・・・ああ、これか」
言いながら、土方は自身の袴に軽く触れた。
今日の土方は、プライベートでのいつも着流しではなく、袴姿である。
滅多にお目にかかれない格好を、紗己は嬉しそうに眺めている。
「珍しいですよね、副長さんが袴を穿くなんて」
「そりゃ、挨拶に行くってなりゃァそれなりの格好はするだろ」
「似合ってますよ、とっても」
「お、おう」
真っ向から誉められると、妙に照れてしまう。
普段から格好良いだの男前だの言われ慣れてはいるが、好きな女性から言われるそれはまた格別なのだろう。
気恥ずかしそうに首の後ろを撫でていると、紗己が突然「あ!」と声を上げた。
驚いた土方は、土産用の一升瓶を落としそうになる。
「うおっ!? おっと・・・おいいきなり何だよっ! 驚かすんじゃねえっ」
「あ、ごめんなさい。大したことじゃないんです、ただ・・・」
紗己は一瞬言葉を切ったが、土方が早く言えとばかりの視線を送ってきたので、おずおずと口を開いた。
「鍛錬の時にも、袴穿いてるなあって、思っただけなんです」
「・・・・・・」
本当に大したことない。全くもってどうでもいい発見に、土方は呆れ顔を見せる。
「いや、まあそうだが、あれは道着だから・・・つうかお前、違うだろそれっ・・・」
だんだんと笑いが込み上げてきて、最後には吹き出してしまった。
相変わらず一人空気の流れの違う紗己の発言に、さっきまでの緊張が嘘のように、肩の力が抜けていくのを感じる。
「・・・ほんと、お前には敵わねェよ」
「え? 何がですか?」
「いや、何でもねえ。そろそろ行くか」
首を傾げる紗己の背中に手を添えて、先へと促す。
土方は一度大きく深呼吸をすると、戦地へと赴くが如く、真剣な面持ちで唇を引き締めた。
目的の駅を降りると、そこには田舎らしいゆったりとした町並みが広がっていた。
二人は肩を並べて、商店の立ち並ぶ通りを歩く。
江戸にいる時と比べると、紗己は随分と足取り軽やかに、サクサクと楽しげに歩いている。
列車の中では長く眠っていただけに、体調は大丈夫なのかと土方は心配になった。
「おい、疲れてねェか? まだ結構あるんだろ、籠屋呼んでも構わねェんだぞ」
心配そうに自分を見つめる双眸に、紗己はにこりと笑ってみせた。
「大丈夫ですよ、そこまで遠くないですし。それに・・・この町を、副長さんと一緒に歩きたいんです。いいですか?」
「お、おう」
思いがけない彼女の言葉に、胸の奥がキュッと熱くなる。
土方は恥ずかしそうに視線を逸らし、頬を掻きながら短く返事をした。
「ふふ、良かった」
土方から了承を得たことに、安心したように微笑む紗己をちらりと見やると、土方は軽く咳払いをしてから言葉を放つ。
「お、俺は別に構わねーけど! でも、しんどくなったらちゃんと言えよ。つわりは平気か?」
「はい、今日は調子いいです」
「そうか。じゃあ行くぞ」
ぶっきらぼうな態度ではあるものの、歩調は先程までより確実に遅くなっている。
土方の気遣いに、紗己は嬉しそうに半月型の瞳を細めて寄り添った。
紗己の道案内のもと、のんびりと田舎町を闊歩する。
いつもよりも無邪気で明るい雰囲気の彼女に、こんな一面もあったのかと土方は改めて認識する。
(基本大人しい奴だと思ってたが、こんなふうに積極的な時もあるんだな)
感慨深げに、楽しそうに隣を歩く紗己を一瞥した。
分かれ道に差し掛かれば、「こっちです!」と軽く袖を引っ張る。
遠くの山を指差しては、幼い頃の思い出話をしてくれる。
普段の彼女を『暗い』と思ったことは一度もないが、進んで自身のことを語るタイプではなかったので、今の紗己は非常に快活に思える。
やはり自分のテリトリーだからかと、土方は彼女に気付かれぬように小さく笑った。
そこそこ賑わっていた通りを抜け、田畑が広がる小道を行き、しばらくするとまた道が開けてきた。
長屋通りを過ぎて、今度は商家が軒を連ねる通りに入る。
もうそろそろだろうかと辺りを見回していると、紗己がぴたり足を止めた。
「あそこです。あの酒屋さんの向かいが、私の家です」
「酒屋・・・の向かい、か?」
彼女の視線を辿って、まずは酒屋に目を向ける。そしてその向かい側を見ると、周辺の家々の中では比較的大造りな屋敷が、どんと腰を据えていた。
「あそこ、か・・・・・・」
「じゃ、行きましょうか」
「え、ちょっ、ちょっと待てっ!」
歩き出そうとした紗己の華奢な手首を、土方は慌てて掴んだ。
「どうしたんですか?」
「いやっ、まずは心の準備をだな・・・って別に緊張してるとかじゃねェからっ! 違うからな!?」
これが緊張と言わずに、他に何と言うのだろう。紗己の手首をがっちりと掴んでいる土方の手の平は、汗で湿り気を帯びている。
しかし本人が違うと言うのなら、まあ違うのだろう。その程度の気の留め具合いで、紗己は土方に向き直った。
普段は鬼の副長と呼ばれている男の、少々バツの悪そうな表情に穏やかな笑みを見せると、続いてその全身に視線を這わせ、くすりと笑う。
「な、何だよ! 俺は全然緊張とかしてねーからなっ」
「はい、いえ、そうですね」
「・・・なら、何だよ?」
優しい目で自分を見つめる紗己に、土方は眉をひそめた。
「いえ、よく似合ってるなあって思ったんです」
「あ? 似合ってるって・・・ああ、これか」
言いながら、土方は自身の袴に軽く触れた。
今日の土方は、プライベートでのいつも着流しではなく、袴姿である。
滅多にお目にかかれない格好を、紗己は嬉しそうに眺めている。
「珍しいですよね、副長さんが袴を穿くなんて」
「そりゃ、挨拶に行くってなりゃァそれなりの格好はするだろ」
「似合ってますよ、とっても」
「お、おう」
真っ向から誉められると、妙に照れてしまう。
普段から格好良いだの男前だの言われ慣れてはいるが、好きな女性から言われるそれはまた格別なのだろう。
気恥ずかしそうに首の後ろを撫でていると、紗己が突然「あ!」と声を上げた。
驚いた土方は、土産用の一升瓶を落としそうになる。
「うおっ!? おっと・・・おいいきなり何だよっ! 驚かすんじゃねえっ」
「あ、ごめんなさい。大したことじゃないんです、ただ・・・」
紗己は一瞬言葉を切ったが、土方が早く言えとばかりの視線を送ってきたので、おずおずと口を開いた。
「鍛錬の時にも、袴穿いてるなあって、思っただけなんです」
「・・・・・・」
本当に大したことない。全くもってどうでもいい発見に、土方は呆れ顔を見せる。
「いや、まあそうだが、あれは道着だから・・・つうかお前、違うだろそれっ・・・」
だんだんと笑いが込み上げてきて、最後には吹き出してしまった。
相変わらず一人空気の流れの違う紗己の発言に、さっきまでの緊張が嘘のように、肩の力が抜けていくのを感じる。
「・・・ほんと、お前には敵わねェよ」
「え? 何がですか?」
「いや、何でもねえ。そろそろ行くか」
首を傾げる紗己の背中に手を添えて、先へと促す。
土方は一度大きく深呼吸をすると、戦地へと赴くが如く、真剣な面持ちで唇を引き締めた。