第四章
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「・・・・・・」
土方は形の良い唇をキュッと結んで、鼻からゆっくり息を吐き出すと、上体を軽く右側へと向けて左手をすうっと紗己へと伸ばした。
息を詰めて、彼女の頬にかかる細い髪の束をそっと耳に掛けてやる。
その際、土方の武骨な指が紗己の顎に触れてしまい、そこから伝わる滑らかな肌の質感に、思わず意識が飛びそうになった。
(・・・・・・)
ごくりと唾を飲んだ土方は、紗己を起こさないように細心の注意を払いながら、眠る彼女の顎をそっと持ち上げた。
徐々に顔を寄せていき、互いの唇から漏れる息が混じり合い――そうになったところで、土方はハッと我に返った。
「・・・ッ!!?」
慌てて顔を離すと、力加減をしながらも紗己の身体を座席の右奥へとぐっと押しやる。
ななな何しようとしてんだっ!? いやいや待てっ! いいか落ち着け、いいから落ち着けっ!!
興奮を抑えるには、先ずは紗己から離れなければと、大きな体躯を椅子の左端にみっちりと押し付けるように寄せる。
昂ぶる気持ちを落ち着かせるため深呼吸を繰り返すうちに、正常値とまではいかないが、何とか思考が働き始めた。
土方は改めて、今自分が何をしようとしていたか、脳内処理に取り掛かる。
駄目だろ、これは駄目だろっ! 俺にとっちゃコイツとの口付けは初めてなわけだし、もっとこう・・・なあ? 流れとか雰囲気とか・・・いくらなんでも、寝てる隙にってのはねェだろ・・・・・・。
「ハァ・・・・・・」
硬い背もたれに側頭部を押し付け、嘆息する。
流れや雰囲気といったものは一旦脇に置いたとしても、妻になる紗己に対して、夫となる自分のこの行動は、大人の男としてあまりにもいただけないと土方は肩を落とす。
つーか、夫婦になるって間柄で何でこんなに及び腰なんだ俺・・・・・・? やるならやるで、もっと堂々とすればいいじゃねーか・・・って、それ以前にここ外だから! 二人っきりじゃねェから!!
人目も憚らず列車内で口付けようとしていた自分が、とにもかくにも恥ずかしくてたまらない。魔が差したとでも言うべきだろうか。
だが、それだけではないだろうと胸中で呟くと、隣で安らかな寝息を立てている紗己を一瞥した。
彼女の父親に挨拶に行くというビッグイベントが控えているだけに、自分の中に自信を蓄えたかったのだ。
確かな『記憶』を植え付けたかった。
責任ではなく、ちゃんと愛しているのだと、胸を張れる自信が欲しかった。
とはいえ、紗己の寝顔に欲情を抑えられなかったのも事実だ。
今でも、二人っきりだったら・・・と思う気持ちは消えていない。
ここが外だったからブレーキ効いたが、正直これ以上こんな無防備な姿見せられたら、耐えられるか不安だぜ・・・・・・。
一向に起きる気配の無い紗己を見て、土方は複雑な面持ちで力無く首を振った。
だがそれと同時に、何故それほどまでに我慢しなければいけないのか――とも思う。
別に口付けたって、責められる立場じゃないだろう。
そんなふうに葛藤していると、隣で寝ているはずの紗己の唇が僅かに動いた。
「副・・・長、さん・・・・・・」
「っ・・・」
寝言だとは分かっているが、その甘い声に背中がぞくりと震える。
(ちょっ・・・今のは反則だろ!!)
またも息を呑むと、土方は慎重に首だけをすっと通路側に出した。
周囲を見渡せば、シーズンオフで平日ということもあって、列車内は閑散としている。
これなら誰にも見られる心配はない。
「・・・よし」
小さく呟き頭を引っ込めると、椅子の背に凭れきっている紗己を周囲の目から隠すように、大きな身体をズイッと寄せた。
距離がぐんと近くなる。
眠っている彼女から優しい石鹸の匂いがして、それが着物からなのか、髪からなのか、もしくは彼女自身からなのか確かめるため、さらに距離を詰めるように顔を寄せてみた。
襟元に高い鼻を近付けて、スンと軽くすすってみる。
甘い匂い――その胸を疼かせる芳香に、もうどの部分からだとか、細かい思考など理性の彼方に飛んでしまいそうだ。
少しだけ顔を離すと、土方は紗己の顔の輪郭に沿うように目線を上げた。
その柔らかく穏やかな寝顔に、普段は鋭い切れ長の双眸を細める。
こんなにも間近に、彼女をまじまじと見つめたことは、今まで一度もなかったのだ。
(綺麗だ、な・・・・・・)
時折ピクッと反応を見せる瞼の動きに合わせ、フワッと揺れる長い睫毛。
あどけない寝顔のはずなのに、何故だか不思議と『女』を感じる。
このままずっと眺めていたいと思う反面、野蛮にもむしゃぶりつきたいと思ってしまうのは、果皮に身を隠す滑らかな桃の実のような肌のせいだろう。
土方はもう我慢の限界だとばかりに、生唾を飲んだ。
左手を伸ばし、起こさないようにそっと、紗己のほんのりと桃色に染まった頬を包み込む。
息が苦しくなるほど、心臓が激しく乱れ打つ。
自分の子を宿しているという事実を差し引けば、眠っている彼女は穢れを知らぬ乙女のようで。
ここが列車内であることも含めて、妙に背徳的だと土方は頭の片隅でぼんやりと思う。
それでも、もう止められない。
息がかかるまで距離を詰めてから、互いの鼻がぶつからないように僅かに顔を傾け、そのまま――。
「ぅー・・・ん・・・」
(・・・・・・え?)
「・・・っ!?」
唇が触れるか触れないかギリギリのところで紗己が小さく唸ったため、土方は驚き跳ね退いた。
「ん・・・あ、れ・・・副長、さん・・・・・・?」
眠たそうに目を擦って、向かいにいたはずの男が何故隣にいるのか、不思議そうに土方を見つめる。
自分が今何をされそうになっていたかには、さっぱり気付いていないようだ。
「副長さん・・・・・・?」
もう一度、小首を傾げて名を呼ぶ。
(こりゃァねーだろ・・・・・・)
土方は無言のまま、これ以上無いというくらいに盛大に溜め息を落とした。この『おあずけ』はかなり堪えたようだ。
「・・・どうか、しました?」
紗己の問いかけに、「何でもねェ・・・・・・」と力無く土方は答えた。
本当に、今回ばかりはガックリとした様子だ。
しかし、彼自身も本当は気付いている。
このままもし口付けていたら、軽く触れるだけの可愛らしいものでは到底おさまらなかっただろう。
そんな濃いキスシーンをもし誰かに見られでもしたら、恥ずかしくて死にそうだ。
そう考えると、苦しいながらも寸止めで良かったと思えた土方だった。
土方は形の良い唇をキュッと結んで、鼻からゆっくり息を吐き出すと、上体を軽く右側へと向けて左手をすうっと紗己へと伸ばした。
息を詰めて、彼女の頬にかかる細い髪の束をそっと耳に掛けてやる。
その際、土方の武骨な指が紗己の顎に触れてしまい、そこから伝わる滑らかな肌の質感に、思わず意識が飛びそうになった。
(・・・・・・)
ごくりと唾を飲んだ土方は、紗己を起こさないように細心の注意を払いながら、眠る彼女の顎をそっと持ち上げた。
徐々に顔を寄せていき、互いの唇から漏れる息が混じり合い――そうになったところで、土方はハッと我に返った。
「・・・ッ!!?」
慌てて顔を離すと、力加減をしながらも紗己の身体を座席の右奥へとぐっと押しやる。
ななな何しようとしてんだっ!? いやいや待てっ! いいか落ち着け、いいから落ち着けっ!!
興奮を抑えるには、先ずは紗己から離れなければと、大きな体躯を椅子の左端にみっちりと押し付けるように寄せる。
昂ぶる気持ちを落ち着かせるため深呼吸を繰り返すうちに、正常値とまではいかないが、何とか思考が働き始めた。
土方は改めて、今自分が何をしようとしていたか、脳内処理に取り掛かる。
駄目だろ、これは駄目だろっ! 俺にとっちゃコイツとの口付けは初めてなわけだし、もっとこう・・・なあ? 流れとか雰囲気とか・・・いくらなんでも、寝てる隙にってのはねェだろ・・・・・・。
「ハァ・・・・・・」
硬い背もたれに側頭部を押し付け、嘆息する。
流れや雰囲気といったものは一旦脇に置いたとしても、妻になる紗己に対して、夫となる自分のこの行動は、大人の男としてあまりにもいただけないと土方は肩を落とす。
つーか、夫婦になるって間柄で何でこんなに及び腰なんだ俺・・・・・・? やるならやるで、もっと堂々とすればいいじゃねーか・・・って、それ以前にここ外だから! 二人っきりじゃねェから!!
人目も憚らず列車内で口付けようとしていた自分が、とにもかくにも恥ずかしくてたまらない。魔が差したとでも言うべきだろうか。
だが、それだけではないだろうと胸中で呟くと、隣で安らかな寝息を立てている紗己を一瞥した。
彼女の父親に挨拶に行くというビッグイベントが控えているだけに、自分の中に自信を蓄えたかったのだ。
確かな『記憶』を植え付けたかった。
責任ではなく、ちゃんと愛しているのだと、胸を張れる自信が欲しかった。
とはいえ、紗己の寝顔に欲情を抑えられなかったのも事実だ。
今でも、二人っきりだったら・・・と思う気持ちは消えていない。
ここが外だったからブレーキ効いたが、正直これ以上こんな無防備な姿見せられたら、耐えられるか不安だぜ・・・・・・。
一向に起きる気配の無い紗己を見て、土方は複雑な面持ちで力無く首を振った。
だがそれと同時に、何故それほどまでに我慢しなければいけないのか――とも思う。
別に口付けたって、責められる立場じゃないだろう。
そんなふうに葛藤していると、隣で寝ているはずの紗己の唇が僅かに動いた。
「副・・・長、さん・・・・・・」
「っ・・・」
寝言だとは分かっているが、その甘い声に背中がぞくりと震える。
(ちょっ・・・今のは反則だろ!!)
またも息を呑むと、土方は慎重に首だけをすっと通路側に出した。
周囲を見渡せば、シーズンオフで平日ということもあって、列車内は閑散としている。
これなら誰にも見られる心配はない。
「・・・よし」
小さく呟き頭を引っ込めると、椅子の背に凭れきっている紗己を周囲の目から隠すように、大きな身体をズイッと寄せた。
距離がぐんと近くなる。
眠っている彼女から優しい石鹸の匂いがして、それが着物からなのか、髪からなのか、もしくは彼女自身からなのか確かめるため、さらに距離を詰めるように顔を寄せてみた。
襟元に高い鼻を近付けて、スンと軽くすすってみる。
甘い匂い――その胸を疼かせる芳香に、もうどの部分からだとか、細かい思考など理性の彼方に飛んでしまいそうだ。
少しだけ顔を離すと、土方は紗己の顔の輪郭に沿うように目線を上げた。
その柔らかく穏やかな寝顔に、普段は鋭い切れ長の双眸を細める。
こんなにも間近に、彼女をまじまじと見つめたことは、今まで一度もなかったのだ。
(綺麗だ、な・・・・・・)
時折ピクッと反応を見せる瞼の動きに合わせ、フワッと揺れる長い睫毛。
あどけない寝顔のはずなのに、何故だか不思議と『女』を感じる。
このままずっと眺めていたいと思う反面、野蛮にもむしゃぶりつきたいと思ってしまうのは、果皮に身を隠す滑らかな桃の実のような肌のせいだろう。
土方はもう我慢の限界だとばかりに、生唾を飲んだ。
左手を伸ばし、起こさないようにそっと、紗己のほんのりと桃色に染まった頬を包み込む。
息が苦しくなるほど、心臓が激しく乱れ打つ。
自分の子を宿しているという事実を差し引けば、眠っている彼女は穢れを知らぬ乙女のようで。
ここが列車内であることも含めて、妙に背徳的だと土方は頭の片隅でぼんやりと思う。
それでも、もう止められない。
息がかかるまで距離を詰めてから、互いの鼻がぶつからないように僅かに顔を傾け、そのまま――。
「ぅー・・・ん・・・」
(・・・・・・え?)
「・・・っ!?」
唇が触れるか触れないかギリギリのところで紗己が小さく唸ったため、土方は驚き跳ね退いた。
「ん・・・あ、れ・・・副長、さん・・・・・・?」
眠たそうに目を擦って、向かいにいたはずの男が何故隣にいるのか、不思議そうに土方を見つめる。
自分が今何をされそうになっていたかには、さっぱり気付いていないようだ。
「副長さん・・・・・・?」
もう一度、小首を傾げて名を呼ぶ。
(こりゃァねーだろ・・・・・・)
土方は無言のまま、これ以上無いというくらいに盛大に溜め息を落とした。この『おあずけ』はかなり堪えたようだ。
「・・・どうか、しました?」
紗己の問いかけに、「何でもねェ・・・・・・」と力無く土方は答えた。
本当に、今回ばかりはガックリとした様子だ。
しかし、彼自身も本当は気付いている。
このままもし口付けていたら、軽く触れるだけの可愛らしいものでは到底おさまらなかっただろう。
そんな濃いキスシーンをもし誰かに見られでもしたら、恥ずかしくて死にそうだ。
そう考えると、苦しいながらも寸止めで良かったと思えた土方だった。