第四章
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――――――
「新居、ですか?」
「ああ。俺もトシも、このままここに住むのが一番いいと思ってるんだがね。紗己ちゃんはどう思う?」
適温になった茶を啜りながら、近藤は人の良さそうな笑顔を向けた。
紗己は自身の右隣に座る土方をちらりと見てから、少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうに答える。
「私は、皆さんがいいとおっしゃるのなら、是非」
「そうか! なら決まりだな、トシ!」
「ああ」
湯呑み片手に短く答える。
近藤のあまりの上機嫌ぶりに、どうして他人事でここまで嬉しくなれるのだろうかと、彼の世話焼きを疑問に思っていたら、随分と素っ気無い返事になってしまった。
だが近藤は、土方の様子など一切気にならないようだ。
「それじゃあ、近日中に新しい部屋を用意しよう。いつまでも別々の部屋じゃお前も寂しいだろう、なあ!」
「なっ・・・何馬鹿なこと言ってんだっ! 寂しいとか別に・・・」
近藤の発言は土方を焦らせるには十分だったようで、恥ずかしさからついついムキになって反論してしまう。
だが、不意に左半身に強い視線を感じ、何かと思って隣を向けば、紗己がジッとこちらを見つめている。
「あ、いやその・・・全く寂しくねえって言ってるわけじゃ・・・」
いくら恥ずかしかったとはいえ、紗己が隣にいるのにマズい言い方をしたと、自分を見つめる半月型の瞳から送られる視線に後悔する。
しかし紗己は、土方が思う様にショックを受けた――わけではない。
土方が近藤に対していきなり大声を上げたので、そのことに驚いて思わず隣を見ただけなのだ。
そんな紗己の表情が、土方には傷ついているように見えてしまったのだろう。常日頃の行いが、自分をとんだ勘違いへと導いていると、土方は気付きもしないが。
向かいに座る土方が何やら困っているように見えたので、これはいけないと、近藤が強引に話題を変え紗己に話し掛ける。
「そ、そうだ紗己ちゃん! 経過は順調なんだって?」
「え? あ、はい」
二人が話しているのを聞きつつ、土方は胸中で近藤に手を合わせた。
唐突な話の振りにきょとんとしながらも、普通に会話している紗己の様子にも、ホッと胸を撫で下ろす。
「ところで、予定日はいつ頃かな?」
「ええっと、来年の五月二日です」
「五月二日! それは惜しかったなー、あと三日遅ければトシの誕生日だったのに」
「え? そうなんですか?」
少し驚いた様子の紗己を見て、近藤も驚いたように二人を見つめた。
「なんだ、知らなかったのか?」
「はい、初耳です」
病院で医師から予定日を聞いた時、土方が特別なリアクションを見せていれば気付いたのかも知れないが。
紗己が何か言いたげに隣に視線をやると、その意を汲み取った土方が、大したことはないといった口振りで言葉を放った。
「同じ日ならともかく、数日近い程度でいちいち一喜一憂できるかよ。大体、予定日はあくまで予定なんだ。いつ産まれるかなんてわかんねェんだから、あんまり気にすんなよ」
紗己のことだ、誕生日当日に合わせて産むのを我慢したりするかも知れない。その思いが、土方に「気にすんなよ」と言わせたのだ。
一方の紗己は、少し残念そうに肩を落とす。
「はい・・・でも、予定日よりちょっと遅れたら・・・」
「トシにとっても、最高の誕生日プレゼントだよなあ!」
紗己が少し言葉尻を濁していると、代わりに近藤が言ってしまった。そう、土方としては、決して言わないでいて欲しかった一言を。
これには土方も、たまらず反論してしまう。
「っ・・・だから! いいんだって俺は!! 無事に産まれてくれりゃァ、いつだろうが関係ねーんだよ! もしコイツに何かあったら、それこそ誕生日どころじゃねえだろ!?」
強い口調で言い放つと、頭をガリガリと乱暴に掻いて嘆息した。
それでなくとも、紗己は明後日の方を向いた気遣い症ぶりを発揮することが多々あるのだ。
無責任な発言はしないでくれ、という意味で言ったのだが、言われた近藤はそうは捉えなかったようだ。
「おいおい、聞いてるこっちが照れるじゃねーか! いやあ、お前がここまで愛妻家だとは思わなかったよ」
「・・・は? 愛妻・・・って、違っ、そういう意味じゃ・・・うっ」
途中で言葉を切った。また左半身に視線が刺さる。ゆっくりと隣に目を向けると、紗己がまたジッとこちらを見つめているではないか。
先程と同じパターンに自分でも軽いデジャヴを感じつつ、紗己を傷付けない言い方を、と土方は頭をフル回転させる。
「いやその・・・っ、あーなんだ・・・・・・」
恥ずかしそうに首の後ろを撫でながら、それでも何とか言葉を繋げる。
「・・・お前と赤ん坊が無事でいてくれるんなら、それ以上のものなんてねェから、な」
「副長さん・・・・・・」
それ以上何も言わないが、紗己は柔らかく微笑んだ。
これでもう彼女も無茶な事を考えないだろう、恥ずかしいことを言わされたがまあ良かった、と気を抜いた瞬間――。
「無事に、五月五日に産まれるよう、努力しますね」
耳を疑いたくなるような言葉が、しっかりと土方の耳に届いた。
(結局何も通じてねーじゃねェか・・・・・・! )
無事は無事でも、まったく意味が違ってしまっている。
気遣い症な割には驚くほど鈍い紗己に、これ以上何を言っても無駄だと、土方は盛大に嘆息した。
「そうか・・・まぁ・・・頑張ってくれ・・・・・・」
無駄に恥ずかしい思いをさせられ、声を荒らげる元気もない。
ちらり前方に目をやれば、近藤がにまにまと笑っていたので、土方は余計に脱力感を味わった。
「新居、ですか?」
「ああ。俺もトシも、このままここに住むのが一番いいと思ってるんだがね。紗己ちゃんはどう思う?」
適温になった茶を啜りながら、近藤は人の良さそうな笑顔を向けた。
紗己は自身の右隣に座る土方をちらりと見てから、少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうに答える。
「私は、皆さんがいいとおっしゃるのなら、是非」
「そうか! なら決まりだな、トシ!」
「ああ」
湯呑み片手に短く答える。
近藤のあまりの上機嫌ぶりに、どうして他人事でここまで嬉しくなれるのだろうかと、彼の世話焼きを疑問に思っていたら、随分と素っ気無い返事になってしまった。
だが近藤は、土方の様子など一切気にならないようだ。
「それじゃあ、近日中に新しい部屋を用意しよう。いつまでも別々の部屋じゃお前も寂しいだろう、なあ!」
「なっ・・・何馬鹿なこと言ってんだっ! 寂しいとか別に・・・」
近藤の発言は土方を焦らせるには十分だったようで、恥ずかしさからついついムキになって反論してしまう。
だが、不意に左半身に強い視線を感じ、何かと思って隣を向けば、紗己がジッとこちらを見つめている。
「あ、いやその・・・全く寂しくねえって言ってるわけじゃ・・・」
いくら恥ずかしかったとはいえ、紗己が隣にいるのにマズい言い方をしたと、自分を見つめる半月型の瞳から送られる視線に後悔する。
しかし紗己は、土方が思う様にショックを受けた――わけではない。
土方が近藤に対していきなり大声を上げたので、そのことに驚いて思わず隣を見ただけなのだ。
そんな紗己の表情が、土方には傷ついているように見えてしまったのだろう。常日頃の行いが、自分をとんだ勘違いへと導いていると、土方は気付きもしないが。
向かいに座る土方が何やら困っているように見えたので、これはいけないと、近藤が強引に話題を変え紗己に話し掛ける。
「そ、そうだ紗己ちゃん! 経過は順調なんだって?」
「え? あ、はい」
二人が話しているのを聞きつつ、土方は胸中で近藤に手を合わせた。
唐突な話の振りにきょとんとしながらも、普通に会話している紗己の様子にも、ホッと胸を撫で下ろす。
「ところで、予定日はいつ頃かな?」
「ええっと、来年の五月二日です」
「五月二日! それは惜しかったなー、あと三日遅ければトシの誕生日だったのに」
「え? そうなんですか?」
少し驚いた様子の紗己を見て、近藤も驚いたように二人を見つめた。
「なんだ、知らなかったのか?」
「はい、初耳です」
病院で医師から予定日を聞いた時、土方が特別なリアクションを見せていれば気付いたのかも知れないが。
紗己が何か言いたげに隣に視線をやると、その意を汲み取った土方が、大したことはないといった口振りで言葉を放った。
「同じ日ならともかく、数日近い程度でいちいち一喜一憂できるかよ。大体、予定日はあくまで予定なんだ。いつ産まれるかなんてわかんねェんだから、あんまり気にすんなよ」
紗己のことだ、誕生日当日に合わせて産むのを我慢したりするかも知れない。その思いが、土方に「気にすんなよ」と言わせたのだ。
一方の紗己は、少し残念そうに肩を落とす。
「はい・・・でも、予定日よりちょっと遅れたら・・・」
「トシにとっても、最高の誕生日プレゼントだよなあ!」
紗己が少し言葉尻を濁していると、代わりに近藤が言ってしまった。そう、土方としては、決して言わないでいて欲しかった一言を。
これには土方も、たまらず反論してしまう。
「っ・・・だから! いいんだって俺は!! 無事に産まれてくれりゃァ、いつだろうが関係ねーんだよ! もしコイツに何かあったら、それこそ誕生日どころじゃねえだろ!?」
強い口調で言い放つと、頭をガリガリと乱暴に掻いて嘆息した。
それでなくとも、紗己は明後日の方を向いた気遣い症ぶりを発揮することが多々あるのだ。
無責任な発言はしないでくれ、という意味で言ったのだが、言われた近藤はそうは捉えなかったようだ。
「おいおい、聞いてるこっちが照れるじゃねーか! いやあ、お前がここまで愛妻家だとは思わなかったよ」
「・・・は? 愛妻・・・って、違っ、そういう意味じゃ・・・うっ」
途中で言葉を切った。また左半身に視線が刺さる。ゆっくりと隣に目を向けると、紗己がまたジッとこちらを見つめているではないか。
先程と同じパターンに自分でも軽いデジャヴを感じつつ、紗己を傷付けない言い方を、と土方は頭をフル回転させる。
「いやその・・・っ、あーなんだ・・・・・・」
恥ずかしそうに首の後ろを撫でながら、それでも何とか言葉を繋げる。
「・・・お前と赤ん坊が無事でいてくれるんなら、それ以上のものなんてねェから、な」
「副長さん・・・・・・」
それ以上何も言わないが、紗己は柔らかく微笑んだ。
これでもう彼女も無茶な事を考えないだろう、恥ずかしいことを言わされたがまあ良かった、と気を抜いた瞬間――。
「無事に、五月五日に産まれるよう、努力しますね」
耳を疑いたくなるような言葉が、しっかりと土方の耳に届いた。
(結局何も通じてねーじゃねェか・・・・・・! )
無事は無事でも、まったく意味が違ってしまっている。
気遣い症な割には驚くほど鈍い紗己に、これ以上何を言っても無駄だと、土方は盛大に嘆息した。
「そうか・・・まぁ・・・頑張ってくれ・・・・・・」
無駄に恥ずかしい思いをさせられ、声を荒らげる元気もない。
ちらり前方に目をやれば、近藤がにまにまと笑っていたので、土方は余計に脱力感を味わった。