第四章
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――――――
「近藤さん、来たぜ」
「おうトシ! さ、こっちに座ってくれ!」
障子戸を開けるなり、近藤の明るい声が部屋に響き渡る。いやに機嫌が良い近藤に怪訝な顔をするも、言われた通り土方は畳に腰を下ろした。
胡坐をかいて寛ぎ体勢に入った途端、待ちきれんとばかりに近藤が身を乗り出して訊ねてきた。
「で、どうだった病院は!」
「んあ? 病院? 」
出し抜けに訊ねられ、一瞬何のことか分からなかった土方だが、出掛けに近藤と厠で会った際、紗己と病院に行くと告げた事を思い出した。
近藤の機嫌の良い理由が分かり、何だか気恥ずかしくなった土方は、
「どうって・・・順調だよ」
少しぶっきらぼうに言った。
「そうか! そりゃあ良かった!!」
近藤はガハハと豪快に笑い、自身の両膝に手を乗せて話を続ける。
「で、住む所はどうするか、もう決めたのか?」
そういやそれも決めなければいけない問題だったか。近藤の言葉に、土方は腕を組んで軽く唸る。
「あー、いや、まだなんも決めてねえ」
「なんだ、昨日もどうするか話したじゃないか。まだ決めてなかったのか?」
「いや、あれはアンタが一方的に話してただけで・・・」
昨日、山崎の失態により紗己との関係が近藤に知られた際、新居をどうするかと訊かれたことを思い出した。
近藤はあの時、このまま屯所に住めばいいと言っていた。そしてそれは今も変わっていないようだ。
「昨日も言ったが、どうだトシ、ここで新婚生活を送るってのは?」
「・・・ここで、か?」
近藤の提案に土方はしばし考え込む。
別に嫌という程ではない。今から新居を探して引っ越しともなれば、何かと面倒だしそもそもそんな時間はありはしない。
何とか都合をつけたとしても、それらが叶うのは何ヶ月も先のことだろう。
そんなにも先延ばしにしてしまえば、紗己の腹も相当大きくなっているだろうし、その状態で引っ越しだなんだと負担を掛けるわけにはいかない。土方は腕を組んで低く唸った。
このまま二人でここに住むってのも、そう悪くはない話だよな。
静かに目を閉じて、紗己と同じ部屋で生活をするイメージを頭の中に浮かべて見る。
きっと彼女は甲斐甲斐しく世話をしてくれるだろう。それに、仕事のことを考えればこのままここに住む方が何かと都合もいい。
しかしここで新婚生活となると、隊士達の手前あまりイチャイチャ出来ないとも思ってしまう。が、今しがた頭に浮かんだ甘いビジョンを、土方は力いっぱい全否定する。
別にイチャイチャとかそんなんする気ねーし! 見られて困るような甘ったるい行動、俺は絶対にしねェっ!! ただなあ、ここだとあんま声出せねーし・・・って、俺何考えてんだ!? いや違う違うそんなこと考えてない・・・って、別に夫婦なんだから問題ねェんだけど・・・ってやっぱ違う! 違うからっ!! アイツ今妊娠中なんだから、余計なこと考えるな俺!!
夜の夫婦生活を想像してしまったようだ。頭の中で色付いてしまった妄想を、無かったことにしようと必死にかぶりを振る。
そんな土方の様子に、近藤は一体どうしたのかと首を傾げている。
「どうかしたか?」
「・・・えっ!! いや、なんでもねェよ!?」
焦って声がひっくり返ったが、近藤は特に気にしていないらしく、腕を組んで真面目な表情を見せた。
「ならいいんだが。なあトシ。真選組としては、俺たちは通常どちらかが屯所にいる状態を保たねばならん。もしどこかに新居を構えれば、あまり長く家にはいられんだろう」
「・・・まあ、そうだな」
確かに近藤の言う通りだと土方は思う。
他の隊士達に比べて、自分達は常に指揮が執れる体制でなければならないのだ。
「そうなれば、紗己ちゃんは身重の身体で一人でいることを余儀なくされてしまう。だが、ここなら仕事中でもいつでも様子が分かるし、その方が彼女もお前も安心できると思うんだが、どうだ?」
答えによっては、部屋をどうするかなどを考えなければいけない。そのために近藤は、今この時間に自分をわざわざ呼んだのだろうと土方は考える。
ここなら、いつでもアイツの様子が分かるってのは、俺にとっても好都合だな。その方が安心して仕事できるし・・・・・・。
浮気などを心配しているわけではないが、仕事をする上で一切の不安は排除しておきたい。少しだけ自分本位な考えが顔を出し始めた。
「わかった。一応紗己にも訊いてみるが、俺はここに住む案で構わねーぜ」
「そうか! それなら、紗己ちゃんを呼ばないとな」
「ああ、それなら大丈夫だ。アイツなら、ここに茶持ってくるって・・・」
言葉の途中で、障子の前を誰かが通った。柔らかい影がスッとしゃがんだと思えば、障子戸が開けられ紗己が姿を現す。
「お茶、お持ちしました」
「おお、ありがとう! ちょうど良かった、さあ入ってくれ!」
笑顔の近藤に促され、紗己は盆を手に部屋の中へと入ると、二人が座るところまで行き、湯呑みを近藤、そして土方の前に置いた。
その瞬間、土方と目が合ったが、何故かすぐに逸らされてしまった。
「どうか、しましたか?」
「ああいやっ、別に・・・」
思わず口ごもってしまう。
言えるわけがない。紗己を見て、先程脳内で繰り広げられた夜の営みの光景を思い出してしまったなんて。しかも、紗己を抱いた記憶自体欠落しているため、その光景すら妄想に過ぎないのだ。
気を紛らすのと焦りを隠すために、土方は出されたお茶を慌てて口に運んだ。
「あっ、それまだ・・・」
「熱っ!!」
紗己の制止虚しく、土方は涙目で湯呑みを下に置き口元を手で押さえた。軽くやけどをしたらしい。
だが、唇と舌がひりひりと痛むおかげで、いらぬ妄想に終止符を打つことができ、実は一安心した土方だった。
「近藤さん、来たぜ」
「おうトシ! さ、こっちに座ってくれ!」
障子戸を開けるなり、近藤の明るい声が部屋に響き渡る。いやに機嫌が良い近藤に怪訝な顔をするも、言われた通り土方は畳に腰を下ろした。
胡坐をかいて寛ぎ体勢に入った途端、待ちきれんとばかりに近藤が身を乗り出して訊ねてきた。
「で、どうだった病院は!」
「んあ? 病院? 」
出し抜けに訊ねられ、一瞬何のことか分からなかった土方だが、出掛けに近藤と厠で会った際、紗己と病院に行くと告げた事を思い出した。
近藤の機嫌の良い理由が分かり、何だか気恥ずかしくなった土方は、
「どうって・・・順調だよ」
少しぶっきらぼうに言った。
「そうか! そりゃあ良かった!!」
近藤はガハハと豪快に笑い、自身の両膝に手を乗せて話を続ける。
「で、住む所はどうするか、もう決めたのか?」
そういやそれも決めなければいけない問題だったか。近藤の言葉に、土方は腕を組んで軽く唸る。
「あー、いや、まだなんも決めてねえ」
「なんだ、昨日もどうするか話したじゃないか。まだ決めてなかったのか?」
「いや、あれはアンタが一方的に話してただけで・・・」
昨日、山崎の失態により紗己との関係が近藤に知られた際、新居をどうするかと訊かれたことを思い出した。
近藤はあの時、このまま屯所に住めばいいと言っていた。そしてそれは今も変わっていないようだ。
「昨日も言ったが、どうだトシ、ここで新婚生活を送るってのは?」
「・・・ここで、か?」
近藤の提案に土方はしばし考え込む。
別に嫌という程ではない。今から新居を探して引っ越しともなれば、何かと面倒だしそもそもそんな時間はありはしない。
何とか都合をつけたとしても、それらが叶うのは何ヶ月も先のことだろう。
そんなにも先延ばしにしてしまえば、紗己の腹も相当大きくなっているだろうし、その状態で引っ越しだなんだと負担を掛けるわけにはいかない。土方は腕を組んで低く唸った。
このまま二人でここに住むってのも、そう悪くはない話だよな。
静かに目を閉じて、紗己と同じ部屋で生活をするイメージを頭の中に浮かべて見る。
きっと彼女は甲斐甲斐しく世話をしてくれるだろう。それに、仕事のことを考えればこのままここに住む方が何かと都合もいい。
しかしここで新婚生活となると、隊士達の手前あまりイチャイチャ出来ないとも思ってしまう。が、今しがた頭に浮かんだ甘いビジョンを、土方は力いっぱい全否定する。
別にイチャイチャとかそんなんする気ねーし! 見られて困るような甘ったるい行動、俺は絶対にしねェっ!! ただなあ、ここだとあんま声出せねーし・・・って、俺何考えてんだ!? いや違う違うそんなこと考えてない・・・って、別に夫婦なんだから問題ねェんだけど・・・ってやっぱ違う! 違うからっ!! アイツ今妊娠中なんだから、余計なこと考えるな俺!!
夜の夫婦生活を想像してしまったようだ。頭の中で色付いてしまった妄想を、無かったことにしようと必死にかぶりを振る。
そんな土方の様子に、近藤は一体どうしたのかと首を傾げている。
「どうかしたか?」
「・・・えっ!! いや、なんでもねェよ!?」
焦って声がひっくり返ったが、近藤は特に気にしていないらしく、腕を組んで真面目な表情を見せた。
「ならいいんだが。なあトシ。真選組としては、俺たちは通常どちらかが屯所にいる状態を保たねばならん。もしどこかに新居を構えれば、あまり長く家にはいられんだろう」
「・・・まあ、そうだな」
確かに近藤の言う通りだと土方は思う。
他の隊士達に比べて、自分達は常に指揮が執れる体制でなければならないのだ。
「そうなれば、紗己ちゃんは身重の身体で一人でいることを余儀なくされてしまう。だが、ここなら仕事中でもいつでも様子が分かるし、その方が彼女もお前も安心できると思うんだが、どうだ?」
答えによっては、部屋をどうするかなどを考えなければいけない。そのために近藤は、今この時間に自分をわざわざ呼んだのだろうと土方は考える。
ここなら、いつでもアイツの様子が分かるってのは、俺にとっても好都合だな。その方が安心して仕事できるし・・・・・・。
浮気などを心配しているわけではないが、仕事をする上で一切の不安は排除しておきたい。少しだけ自分本位な考えが顔を出し始めた。
「わかった。一応紗己にも訊いてみるが、俺はここに住む案で構わねーぜ」
「そうか! それなら、紗己ちゃんを呼ばないとな」
「ああ、それなら大丈夫だ。アイツなら、ここに茶持ってくるって・・・」
言葉の途中で、障子の前を誰かが通った。柔らかい影がスッとしゃがんだと思えば、障子戸が開けられ紗己が姿を現す。
「お茶、お持ちしました」
「おお、ありがとう! ちょうど良かった、さあ入ってくれ!」
笑顔の近藤に促され、紗己は盆を手に部屋の中へと入ると、二人が座るところまで行き、湯呑みを近藤、そして土方の前に置いた。
その瞬間、土方と目が合ったが、何故かすぐに逸らされてしまった。
「どうか、しましたか?」
「ああいやっ、別に・・・」
思わず口ごもってしまう。
言えるわけがない。紗己を見て、先程脳内で繰り広げられた夜の営みの光景を思い出してしまったなんて。しかも、紗己を抱いた記憶自体欠落しているため、その光景すら妄想に過ぎないのだ。
気を紛らすのと焦りを隠すために、土方は出されたお茶を慌てて口に運んだ。
「あっ、それまだ・・・」
「熱っ!!」
紗己の制止虚しく、土方は涙目で湯呑みを下に置き口元を手で押さえた。軽くやけどをしたらしい。
だが、唇と舌がひりひりと痛むおかげで、いらぬ妄想に終止符を打つことができ、実は一安心した土方だった。