第四章
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――――――
「あ、副長に紗己ちゃん。お帰りなさい」
屯所に戻ってきた土方と紗己が勝手口から中に入ると、ちょうど通り掛かった山崎が声を掛けてきた。
「おう」
「ただいま戻りました」
「あれ、なんですその袋?」
土方が提げている袋を山崎が指差すと、二人分の草履を片していた紗己が、顔だけを上げて答えた。
「柿ですよ、皆さんで食べてください」
「そうなんだ、わざわざありがとうね・・・」
言いながら山崎はちらり土方に視線を向けると、何やらにんまりと笑った。
部下の視線が何か言いたげだったので、一体何なのかと土方は顎を上げて山崎を見据える。
「・・・何だよ?」
「いえ、副長ってば意外と所帯染みた物似合うんだなあって思いまして」
その言葉に眉をひそめて目線を辿る。すると山崎は、柿の詰まった袋と、傍らでにこやかな笑みを湛える紗己を交互に見てニヤついていた。
「な・・・っ、うるせェ! 何つまんねー事抜かしてんだコノヤローッ!!」
紗己との仲睦まじさを指摘された土方は、恥ずかしさを払拭するために怒鳴り声を上げる。
「やだなあ、何照れてんすかー。いいじゃないですか、なんか洗剤のコマーシャルみた・・・うわっ、ちょっ副長!? 止め・・・ぐぇっ」
突然山崎が苦しそうな声を出した。それもそのはずだ、土方にヘッドロックをかけられている。
「テメーはいっつも、余計な喋りが多過ぎんだよ! さっさと仕事に戻りやがれっ」
「わ、わかりましたわかりましたからっ! ゲホッ、はな・・・放してくださ・・・うェっ」
首に回されてる土方の腕を、ジタバタしながら数度叩く。土方は仕方なく、舌打ちをしながら山崎を解放した。
その一連の流れをただ見ているしかなかった紗己は、しゃがみ込んで涙目で喉を擦っている山崎の顔を、心配そうに覗き込む。
「大丈夫ですか、山崎さん」
「あ゛ー苦しかった・・・あ、紗己ちゃんは気にしなくていいからね」
「おい紗己、んなヤツに構うこたァねーよ」
少しムッとした表情で言い放つ。自分が悪者にされたようで気に入らないらしい。
土方は憮然とした表情で袋を床に置くと、そのまま去ろうと歩き出した。
だがその後ろ姿を見送っていた山崎が、「そういえば・・・」と何かを思い出したようにパンと手を打つ。
「そうだ副長! 俺、局長に伝言頼まれてました」
「ああ? 伝言?」
「ええ。帰ってきたら、部屋に来て欲しいって伝えてくれって」
「・・・分かった、今から顔出してくる。山崎、それ食堂に運んどいてくれ」
答えながら土方が先程床に置いた買い物袋を指差すと、山崎は要望に応えるように軽く頷いた。
二つの袋に手を伸ばした山崎に紗己も軽く頭を下げると、近藤の部屋へ行くために歩き出した土方の背中に呼び掛ける。
「副長さん!」
「ん? どうした」
立ち止まり、首だけ後ろを振り返る。部下と接する時と違って、その声はとても優しい。
そのことが嬉しくて、紗己もまた普段よりも明るい笑顔で話し掛ける。
「あとで、お茶持っていきますね」
「ああ、そうしてくれ」
いつもの鋭い双眸は何処へやら、土方は『鬼の副長』とは思えない穏やかな表情でふっと笑うと、そのままその場を後にした。
土方が廊下の向こうに行ったのを確認してから、山崎は袋の重さを確かめつつ紗己に声を掛ける。
「これ食堂に持って行けばいい?」
「はい、お願いします」
自身も茶を淹れるため、山崎とともに食堂へと向かう。
二人肩を並べて歩いていると、突然隣の山崎が喉を震わせて笑いだした。
「どうかしたんですか?」
「はは、君の前では『鬼の副長』も普通の男なんだなあって思ってねー」
楽しげに言いながら、山崎は昨夜の事を思い出す。
それは指名手配中の攘夷浪士を無事に捕まえた後、屯所に戻ってきた時の事だった。
土方が車から降りるや否や、隊士達が次々に群がってきて、紗己との結婚を祝ったのだ。
近藤に紗己の妊娠を知られてから、土方と紗己との関係は瞬く間に隊内に広まった。そして紗己が姿を消し、その捜索をするにあたり全隊に指令が出たため、二人の関係は完全に周知のものとなった。
隊士達からの祝福を受け、恥ずかしさを誤魔化すためにかなりぶっきらぼうに対応していた土方。だが、祝福の内容が徐々に紗己の妊娠話へと変わり始めると。
土方は顔を真っ赤にして、からかう隊士達を怒鳴り散らし、逃げるように屯所の中に入って行ったのだ。
山崎は思い出し笑いで吹き出しそうになるのをぐっと堪えて、三白眼を細めながら話を続ける。
「プライベートではどんな感じなの、あの人?」
特にそれをネタにおちょくるつもりはないのだが、普段硬派な男の別な顔を知るというのは、なかなか気分がいいもんだ。
そんな思いを胸に、山崎は期待を込めて紗己を見やる。どうやら極上の笑いを紗己から提供してもらいたいらしい。
しかしそんな山崎の腹など知る由もない紗己は、うーんと首を捻りながら今日の土方を思い出す。
「どんなって・・・そう普段と変わらないとは思うんですけど。あ、でも今日、副長さんが敬語使ってるところ初めて見ました」
病院で土方が医師に敬語を使っていたのが、紗己には意外だったのだ。真選組の副長として出向いたわけではないので、本来ならばそう意外でもないことなのだが。
それを聞いた山崎は、土方が敬語を使っているところを想像したのか、込み上げる笑いを抑えることが出来ず、終いには腹を抱えて笑い出した。
「あ、副長に紗己ちゃん。お帰りなさい」
屯所に戻ってきた土方と紗己が勝手口から中に入ると、ちょうど通り掛かった山崎が声を掛けてきた。
「おう」
「ただいま戻りました」
「あれ、なんですその袋?」
土方が提げている袋を山崎が指差すと、二人分の草履を片していた紗己が、顔だけを上げて答えた。
「柿ですよ、皆さんで食べてください」
「そうなんだ、わざわざありがとうね・・・」
言いながら山崎はちらり土方に視線を向けると、何やらにんまりと笑った。
部下の視線が何か言いたげだったので、一体何なのかと土方は顎を上げて山崎を見据える。
「・・・何だよ?」
「いえ、副長ってば意外と所帯染みた物似合うんだなあって思いまして」
その言葉に眉をひそめて目線を辿る。すると山崎は、柿の詰まった袋と、傍らでにこやかな笑みを湛える紗己を交互に見てニヤついていた。
「な・・・っ、うるせェ! 何つまんねー事抜かしてんだコノヤローッ!!」
紗己との仲睦まじさを指摘された土方は、恥ずかしさを払拭するために怒鳴り声を上げる。
「やだなあ、何照れてんすかー。いいじゃないですか、なんか洗剤のコマーシャルみた・・・うわっ、ちょっ副長!? 止め・・・ぐぇっ」
突然山崎が苦しそうな声を出した。それもそのはずだ、土方にヘッドロックをかけられている。
「テメーはいっつも、余計な喋りが多過ぎんだよ! さっさと仕事に戻りやがれっ」
「わ、わかりましたわかりましたからっ! ゲホッ、はな・・・放してくださ・・・うェっ」
首に回されてる土方の腕を、ジタバタしながら数度叩く。土方は仕方なく、舌打ちをしながら山崎を解放した。
その一連の流れをただ見ているしかなかった紗己は、しゃがみ込んで涙目で喉を擦っている山崎の顔を、心配そうに覗き込む。
「大丈夫ですか、山崎さん」
「あ゛ー苦しかった・・・あ、紗己ちゃんは気にしなくていいからね」
「おい紗己、んなヤツに構うこたァねーよ」
少しムッとした表情で言い放つ。自分が悪者にされたようで気に入らないらしい。
土方は憮然とした表情で袋を床に置くと、そのまま去ろうと歩き出した。
だがその後ろ姿を見送っていた山崎が、「そういえば・・・」と何かを思い出したようにパンと手を打つ。
「そうだ副長! 俺、局長に伝言頼まれてました」
「ああ? 伝言?」
「ええ。帰ってきたら、部屋に来て欲しいって伝えてくれって」
「・・・分かった、今から顔出してくる。山崎、それ食堂に運んどいてくれ」
答えながら土方が先程床に置いた買い物袋を指差すと、山崎は要望に応えるように軽く頷いた。
二つの袋に手を伸ばした山崎に紗己も軽く頭を下げると、近藤の部屋へ行くために歩き出した土方の背中に呼び掛ける。
「副長さん!」
「ん? どうした」
立ち止まり、首だけ後ろを振り返る。部下と接する時と違って、その声はとても優しい。
そのことが嬉しくて、紗己もまた普段よりも明るい笑顔で話し掛ける。
「あとで、お茶持っていきますね」
「ああ、そうしてくれ」
いつもの鋭い双眸は何処へやら、土方は『鬼の副長』とは思えない穏やかな表情でふっと笑うと、そのままその場を後にした。
土方が廊下の向こうに行ったのを確認してから、山崎は袋の重さを確かめつつ紗己に声を掛ける。
「これ食堂に持って行けばいい?」
「はい、お願いします」
自身も茶を淹れるため、山崎とともに食堂へと向かう。
二人肩を並べて歩いていると、突然隣の山崎が喉を震わせて笑いだした。
「どうかしたんですか?」
「はは、君の前では『鬼の副長』も普通の男なんだなあって思ってねー」
楽しげに言いながら、山崎は昨夜の事を思い出す。
それは指名手配中の攘夷浪士を無事に捕まえた後、屯所に戻ってきた時の事だった。
土方が車から降りるや否や、隊士達が次々に群がってきて、紗己との結婚を祝ったのだ。
近藤に紗己の妊娠を知られてから、土方と紗己との関係は瞬く間に隊内に広まった。そして紗己が姿を消し、その捜索をするにあたり全隊に指令が出たため、二人の関係は完全に周知のものとなった。
隊士達からの祝福を受け、恥ずかしさを誤魔化すためにかなりぶっきらぼうに対応していた土方。だが、祝福の内容が徐々に紗己の妊娠話へと変わり始めると。
土方は顔を真っ赤にして、からかう隊士達を怒鳴り散らし、逃げるように屯所の中に入って行ったのだ。
山崎は思い出し笑いで吹き出しそうになるのをぐっと堪えて、三白眼を細めながら話を続ける。
「プライベートではどんな感じなの、あの人?」
特にそれをネタにおちょくるつもりはないのだが、普段硬派な男の別な顔を知るというのは、なかなか気分がいいもんだ。
そんな思いを胸に、山崎は期待を込めて紗己を見やる。どうやら極上の笑いを紗己から提供してもらいたいらしい。
しかしそんな山崎の腹など知る由もない紗己は、うーんと首を捻りながら今日の土方を思い出す。
「どんなって・・・そう普段と変わらないとは思うんですけど。あ、でも今日、副長さんが敬語使ってるところ初めて見ました」
病院で土方が医師に敬語を使っていたのが、紗己には意外だったのだ。真選組の副長として出向いたわけではないので、本来ならばそう意外でもないことなのだが。
それを聞いた山崎は、土方が敬語を使っているところを想像したのか、込み上げる笑いを抑えることが出来ず、終いには腹を抱えて笑い出した。