第三章
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三本目の煙草を吸っていると、紗己が店から出てくるのが目に入ったので、土方は手にしていた煙草を灰皿に押し付け、立ち上がって着物を手ではたき始めた。
襟元、袖、果ては宙に浮く煙まで。少しでも紗己に害が無いようにとの、彼なりの気遣いだ。
パントマイムのような動きをしている土方の元に、穏やかな笑みを浮かべた紗己が袋を手に提げ戻ってきた。
「お待たせしました」
「お、おう・・・ん、なんか買ったのか?」
「はい、安かったんで皆さんにどうかと思って」
笑顔の紗己が両手に提げている袋を覗けば、中には大量の柿が詰まっていた。
(確かに美味そうだが・・・・・・)
私用で出ているにも関わらず、隊士達のために買い物をしている。そんな彼女の気遣いすぎる性格に、呆れと笑いが同時に込み上げてきた。
・・・ったく、こんなに買っちまったら、もう帰るしかねーだろうが。まあ帰ってのんびりするのも、悪かねェか。
土方は紗己に気付かれないように、細めた両眼をすぐに平時の状態に戻すと、彼女の両手から袋をサッと取り上げた。
「あ・・・一つ持ちます!」
「いい。行くぞ、ほら」
ややぶっきらぼうな言い方だが、紗己を見つめる土方の目はとても優しいものだ。ゆっくりと歩き出した土方の背中に、紗己もまた優しい視線を送った。
――――――
(すごい人だなー・・・・・・)
大きな通りに出て、行き交う人の多さに紗己は改めてここが都会であるのだと思い知る。
田舎から出てきてそう間も無いため、まだこの人ごみには慣れない。キョロキョロと目線の落ち着かない紗己に、土方は立ち止まり声を掛けた。
「おい、ちゃんとついてこねーとはぐれるぞ」
「ご、ごめんなさい・・・ちょっと、びっくりしちゃって」
紗己の言葉に、訝しげな表情で土方が首を傾げる。
「びっくりって、何がだよ」
「人が、多いなあって・・・・・・」
「それだけ栄えてるってことだ。ここに住んでりゃ、いやでもそのうち慣れる」
言い終えると、また土方は歩き出した。寄り添うように紗己も隣を歩く。
またしばらくすると、前方から人の波がどっと押し寄せてきた。どうやら旅行者の集団らしい。
彼らとぶつかるのを避けるため、土方の右隣にいた紗己はスッと土方の背後に回り込んだ。
その間に集団は二人を通り過ぎて行き、ホッとした紗己がふと前を見ると。
「あれ?」
目の前にいたはずの土方の姿が見えない。集団に気を取られ後ろを向いているうちに、どうやら土方を見失ってしまったらしい。
どうしようかと焦り顔で周囲を見回していると、突然何者かに肩を叩かれた。
「ひゃっ!?」
「紗己っ! おっ前・・・ちゃんとついてこねーとはぐれるっつったろうが!!」
背後に立っていたのは、買い物袋を手に提げた土方だった。
ふと後ろを振り返ると紗己の姿が無かったので、慌てて背伸びをして周囲を確認したところ、数メートル先で辺りを見回している彼女を見つけたのだ。
紗己の姿を見失い内心ものすごく焦っていた土方は、そのことを知られたくなくてつい大声で怒鳴ってしまった。
一方怒られてしまった紗己は、申し訳なさそうにしゅんと顔を伏せる。
「あ・・・ご、ごめんなさい・・・・・・」
「あー・・・いや、ほら行くぞ」
少し気まずくなってしまった土方は、歩き出しはしないものの、すぐに紗己に背中を向けてしまう。
だが、いつまでも立ち止まっているわけにもいかないので、少しの間を置いてから再び歩き出そうと足を踏み出した時――右の袖が後方にツンと引っ張られた。
「・・・・・・?」
振り返ると、紗己が土方の着物の袖を摘んでいる。
「・・・紗己?」
「え、あっ!」
またはぐれたら、という不安がそうさせたのだろう。無意識の行動に自分でも驚いた紗己は、土方の着物を引っ張っていた手を慌てて離した。
自分でも恥ずかしいことをしたと思っているのだろう、紗己は伸ばしていた左手を胸元に持っていき、下を向いてもじもじとしている。
その姿を見て土方は、先程怒鳴ってしまったことを少し後悔した。
そうだよな、コイツにとってはここはまだ慣れない都会だよな・・・・・・。手でも繋いでやれば良いんだが・・・いやいや、こんな街中でそんなこと出来るかっ!!
想像するだけでも恥ずかしかったのか、やけに力を込めて頭を横に振っている。そんな土方の動揺に気付かない紗己は、一体どうしたのかと不思議そうな顔で呼び掛ける。
「副長さん?」
「な、なんでもねェから! ほら行くぞっ」
土方は早口で言い切ると、紗己に背中を向けたまま、左手に提げていた買い物袋を右手に持ち替えた。そして左腕を袖に仕舞い込み懐手にすると、左肘をすっと横に突き出した。
「・・・はぐれないように、掴んどけ」
手を繋ぐのはハードルが高すぎる。彼の中では、先程の彼女の行動のように、袖を掴ませる案で折り合いがついたらしい。
ただ肘をずっと曲げているのは落ち着かないので、ポケット代わりに懐手にしたのだ。
土方の不器用な言葉の意を汲み取った紗己は、こくり頷くと、腕を抜いたために垂れ下がってしまった左の袖をそっと摘んだ。
それを確認すると、土方はまた黙って歩き出す。右手に買い物袋、左側には袖を摘む紗己を連れて。
手を繋いで歩くよりかえって目立っているという事実に、二人とも気付いていない。
襟元、袖、果ては宙に浮く煙まで。少しでも紗己に害が無いようにとの、彼なりの気遣いだ。
パントマイムのような動きをしている土方の元に、穏やかな笑みを浮かべた紗己が袋を手に提げ戻ってきた。
「お待たせしました」
「お、おう・・・ん、なんか買ったのか?」
「はい、安かったんで皆さんにどうかと思って」
笑顔の紗己が両手に提げている袋を覗けば、中には大量の柿が詰まっていた。
(確かに美味そうだが・・・・・・)
私用で出ているにも関わらず、隊士達のために買い物をしている。そんな彼女の気遣いすぎる性格に、呆れと笑いが同時に込み上げてきた。
・・・ったく、こんなに買っちまったら、もう帰るしかねーだろうが。まあ帰ってのんびりするのも、悪かねェか。
土方は紗己に気付かれないように、細めた両眼をすぐに平時の状態に戻すと、彼女の両手から袋をサッと取り上げた。
「あ・・・一つ持ちます!」
「いい。行くぞ、ほら」
ややぶっきらぼうな言い方だが、紗己を見つめる土方の目はとても優しいものだ。ゆっくりと歩き出した土方の背中に、紗己もまた優しい視線を送った。
――――――
(すごい人だなー・・・・・・)
大きな通りに出て、行き交う人の多さに紗己は改めてここが都会であるのだと思い知る。
田舎から出てきてそう間も無いため、まだこの人ごみには慣れない。キョロキョロと目線の落ち着かない紗己に、土方は立ち止まり声を掛けた。
「おい、ちゃんとついてこねーとはぐれるぞ」
「ご、ごめんなさい・・・ちょっと、びっくりしちゃって」
紗己の言葉に、訝しげな表情で土方が首を傾げる。
「びっくりって、何がだよ」
「人が、多いなあって・・・・・・」
「それだけ栄えてるってことだ。ここに住んでりゃ、いやでもそのうち慣れる」
言い終えると、また土方は歩き出した。寄り添うように紗己も隣を歩く。
またしばらくすると、前方から人の波がどっと押し寄せてきた。どうやら旅行者の集団らしい。
彼らとぶつかるのを避けるため、土方の右隣にいた紗己はスッと土方の背後に回り込んだ。
その間に集団は二人を通り過ぎて行き、ホッとした紗己がふと前を見ると。
「あれ?」
目の前にいたはずの土方の姿が見えない。集団に気を取られ後ろを向いているうちに、どうやら土方を見失ってしまったらしい。
どうしようかと焦り顔で周囲を見回していると、突然何者かに肩を叩かれた。
「ひゃっ!?」
「紗己っ! おっ前・・・ちゃんとついてこねーとはぐれるっつったろうが!!」
背後に立っていたのは、買い物袋を手に提げた土方だった。
ふと後ろを振り返ると紗己の姿が無かったので、慌てて背伸びをして周囲を確認したところ、数メートル先で辺りを見回している彼女を見つけたのだ。
紗己の姿を見失い内心ものすごく焦っていた土方は、そのことを知られたくなくてつい大声で怒鳴ってしまった。
一方怒られてしまった紗己は、申し訳なさそうにしゅんと顔を伏せる。
「あ・・・ご、ごめんなさい・・・・・・」
「あー・・・いや、ほら行くぞ」
少し気まずくなってしまった土方は、歩き出しはしないものの、すぐに紗己に背中を向けてしまう。
だが、いつまでも立ち止まっているわけにもいかないので、少しの間を置いてから再び歩き出そうと足を踏み出した時――右の袖が後方にツンと引っ張られた。
「・・・・・・?」
振り返ると、紗己が土方の着物の袖を摘んでいる。
「・・・紗己?」
「え、あっ!」
またはぐれたら、という不安がそうさせたのだろう。無意識の行動に自分でも驚いた紗己は、土方の着物を引っ張っていた手を慌てて離した。
自分でも恥ずかしいことをしたと思っているのだろう、紗己は伸ばしていた左手を胸元に持っていき、下を向いてもじもじとしている。
その姿を見て土方は、先程怒鳴ってしまったことを少し後悔した。
そうだよな、コイツにとってはここはまだ慣れない都会だよな・・・・・・。手でも繋いでやれば良いんだが・・・いやいや、こんな街中でそんなこと出来るかっ!!
想像するだけでも恥ずかしかったのか、やけに力を込めて頭を横に振っている。そんな土方の動揺に気付かない紗己は、一体どうしたのかと不思議そうな顔で呼び掛ける。
「副長さん?」
「な、なんでもねェから! ほら行くぞっ」
土方は早口で言い切ると、紗己に背中を向けたまま、左手に提げていた買い物袋を右手に持ち替えた。そして左腕を袖に仕舞い込み懐手にすると、左肘をすっと横に突き出した。
「・・・はぐれないように、掴んどけ」
手を繋ぐのはハードルが高すぎる。彼の中では、先程の彼女の行動のように、袖を掴ませる案で折り合いがついたらしい。
ただ肘をずっと曲げているのは落ち着かないので、ポケット代わりに懐手にしたのだ。
土方の不器用な言葉の意を汲み取った紗己は、こくり頷くと、腕を抜いたために垂れ下がってしまった左の袖をそっと摘んだ。
それを確認すると、土方はまた黙って歩き出す。右手に買い物袋、左側には袖を摘む紗己を連れて。
手を繋いで歩くよりかえって目立っているという事実に、二人とも気付いていない。