第三章
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いつもの沖田よりも更に読めない彼の様子に首を捻りつつ、土方が廊下を進んでいると、角を曲がり中庭に差し掛かった所で、空の洗濯籠を抱えている紗己を見つけた。
土方の姿に気付いた紗己は、大きな籠に気をとられながらも、ゆっくりと土方の元へ近付いてくる。
「副長さん、お早うございます」
「お、おう」
懐に手を突っ込み、ぶっきらぼうに返事をした。昨日のプロポーズの記憶が鮮明に思い出され、やけに照れてしまっている自分に気付く。
(何照れてんだよ、俺・・・って違う違う照れてねェ! ああ照れてなんかねェ!!)
揺れる洗濯物を背景に、笑顔の紗己がいつにも増して眩しく見える。
今日の彼女は、肩までの髪を高い位置に一つまとめにしていた。そのせいで普段よりも快活に見え、それが余計に眩しく感じさせるのだ、ただのギャップだと土方は自分に言い聞かせる。
結婚まで申し込んだのだ。眩しく見えたって何の問題もないのだが、こんな小さな事にまで照れてしまう自分に、自分自身が恥ずかしいらしい。
しかし紗己は、そんな土方の様子も普段通りだと受け止めているのか、特に気にすることもなく籠を持って廊下に上がってきた。
「副長さん? どうかしました?」
「えっ、いや別に・・・あー、調子はどうだ。動き回ってて平気か?」
「はい、今日はしっかり眠れたんで。副長さんは、よく眠れましたか?」
「ああ、寝過ぎちまったぜ」
話しはじめると、不思議と恥ずかしさも段々薄れていく。土方は紗己の手から空の洗濯籠を取り上げると、彼女の歩調に合わせてゆっくりと歩き出した。
素知らぬ顔で優しい素振りを見せる、そんな土方に隣を歩く紗己は柔らかく微笑んだ。
今日は夜から交代勤務とあって、それまではフリータイムの土方。どうせなら、昼食は紗己と共にどこかに食べに行こうかと思い立った。
これまでの間に、紗己をデートに誘ったことは一度もない。しかし、やっと気兼ねなく堂々と、彼女を誘える関係になったのだ。
それとなく自然に予定を訊き出したい。食堂と洗濯場、分かれ道の所で足を止めると、土方は大きく息を吸ってから隣の紗己を見やった。
「おい紗己、今日はその・・・あのなんだ、どうなってる予定は」
「ああ・・・えっと、行きます病院」
ぎこちない倒置法が伝染してしまった。
おかしな会話の仕方をする二人だったが、紗己の答えに土方がやっとまともな反応を示す。
「病院って・・・え、お前どっか具合悪いのか!?」
「いえ、具合は悪くないですよ? 昨日行けなかったから、その・・・産婦人科に行くんです」
「そ、そうか」
紗己が語った真相にホッと胸を撫で下ろした土方は、焦りから落としてしまった籠を拾おうとぐっと背中を折り曲げた。その短い動作の合間に、ふと『病院』というキーワードに思い巡らせる。
産婦人科、か。そういや一昨日は、倒れた紗己を見つけた万事屋が、病院に運んだって山崎が言ってたか・・・・・・。
屯所を出て行った紗己を捜しに出ている時に、山崎から電話で聞いた話を思い出した途端、銀時への対抗心と嫉妬がむくむくと沸き上がってきた。
紗己を病院に運んでくれたことに、感謝の気持ちが無いわけではない。
ただ、妊娠の事実を一番に知ることが出来なかったのが、今となれば悔しく思う。加えてその『一番』が銀時という事実が、土方にとっては悔しくてたまらない。
もしかすると父親に間違えられたのでは――と思うと、腹立たしさは立ち上る一方だ。
あーっ気に入らねえ! 俺の子供があんな野郎のガキだと思われたなんて、こんな屈辱的な事あってたまるか!!
完全に決め付けている。まあ、事実銀時は父親に間違えられていたのだが。
おまけに、紗己を病院まで運んだのなら、きっと抱きかかえたに違いない。緊急時で着物の上からとは言え、彼女の肩や足、もしや胸にも触れていたのかも――不快な想像を脳裏から引き剥がすようにかぶりを振ると、土方は額にかかる髪を掻き上げて紗己を見やった。
「何時に行くんだ、病院には」
「えっと・・・そうですね。もう、朝の洗濯は終わったんで、そろそろ支度しようかなって、思ってますけど?」
「・・・俺も行く」
「えっ!?」
思ってもみなかった土方の言葉に、紗己は思わず目を見張った。その反応が気に食わなかったのか、土方は眉をしかめて不機嫌な声を出す。
「・・・何だよ、俺が一緒だとなんか困ることでもあんのか」
「い、いいえ!」
紗己は慌てて前に突き出した両手を振ると、少し恥ずかしそうに、俯き気味にぽつり口を開く。
「その、一緒に来てくれるって思わなかったから、びっくりしちゃって・・・・・・。一人で行くの、少し不安だったから・・・嬉しいです」
「紗己・・・・・・」
まだ江戸へ出てきてそう間も無く、目まぐるしく変わり行く日々についていくだけでも必死だったろう。
本当は心細かったに違いない。そう思うと、やり切れなさが土方を襲う。だがそれと同時に、いや、ひょっとしたらそれ以上に、彼女への愛しさは確実に募っている。
肩肘張ってねえから、そんなコイツに余計に俺は甘えちまってたか。ちょっとくらいは甘えてくれた方が、嬉しい気もするが・・・・・・。
そんなことを思いながら紗己を一瞥すると、彼女は顔を上げて嬉しそうに、半月型の瞳を細めた。
いつもよりも感情表現がはっきりとしている紗己に、胸の鼓動が跳ね上がる。土方はまた懐に手を突っ込むと、腹を掻いて気を紛らそうとした。
瞬間、小さな痛みに顔をしかめた。思っていたよりも指に力がこもっていたらしく、あばらの辺りを強く掻きすぎたのだ。少し伸びていた爪が肉を引っ掻いてしまったため、ヒリヒリとした熱を感じる。
「あの、どこか痛むんですか?」
土方の表情の変化に気付いた紗己が、どうしたのかと心配そうに距離を詰めてきた。
だがいくらなんでも、こんな格好悪い痛みの理由を告げるわけにもいかず。慌てた土方は手にしていた籠を紗己に突き付けた。
「どっこも痛くねーけど!? じゃ、じゃァ俺は飯食ってくるからっ! 病院行く前に部屋に寄ってくれ、わかったな!?」
不自然な足裁きで身体を反転させると、土方はそそくさとその場から逃げ出した。
土方の姿に気付いた紗己は、大きな籠に気をとられながらも、ゆっくりと土方の元へ近付いてくる。
「副長さん、お早うございます」
「お、おう」
懐に手を突っ込み、ぶっきらぼうに返事をした。昨日のプロポーズの記憶が鮮明に思い出され、やけに照れてしまっている自分に気付く。
(何照れてんだよ、俺・・・って違う違う照れてねェ! ああ照れてなんかねェ!!)
揺れる洗濯物を背景に、笑顔の紗己がいつにも増して眩しく見える。
今日の彼女は、肩までの髪を高い位置に一つまとめにしていた。そのせいで普段よりも快活に見え、それが余計に眩しく感じさせるのだ、ただのギャップだと土方は自分に言い聞かせる。
結婚まで申し込んだのだ。眩しく見えたって何の問題もないのだが、こんな小さな事にまで照れてしまう自分に、自分自身が恥ずかしいらしい。
しかし紗己は、そんな土方の様子も普段通りだと受け止めているのか、特に気にすることもなく籠を持って廊下に上がってきた。
「副長さん? どうかしました?」
「えっ、いや別に・・・あー、調子はどうだ。動き回ってて平気か?」
「はい、今日はしっかり眠れたんで。副長さんは、よく眠れましたか?」
「ああ、寝過ぎちまったぜ」
話しはじめると、不思議と恥ずかしさも段々薄れていく。土方は紗己の手から空の洗濯籠を取り上げると、彼女の歩調に合わせてゆっくりと歩き出した。
素知らぬ顔で優しい素振りを見せる、そんな土方に隣を歩く紗己は柔らかく微笑んだ。
今日は夜から交代勤務とあって、それまではフリータイムの土方。どうせなら、昼食は紗己と共にどこかに食べに行こうかと思い立った。
これまでの間に、紗己をデートに誘ったことは一度もない。しかし、やっと気兼ねなく堂々と、彼女を誘える関係になったのだ。
それとなく自然に予定を訊き出したい。食堂と洗濯場、分かれ道の所で足を止めると、土方は大きく息を吸ってから隣の紗己を見やった。
「おい紗己、今日はその・・・あのなんだ、どうなってる予定は」
「ああ・・・えっと、行きます病院」
ぎこちない倒置法が伝染してしまった。
おかしな会話の仕方をする二人だったが、紗己の答えに土方がやっとまともな反応を示す。
「病院って・・・え、お前どっか具合悪いのか!?」
「いえ、具合は悪くないですよ? 昨日行けなかったから、その・・・産婦人科に行くんです」
「そ、そうか」
紗己が語った真相にホッと胸を撫で下ろした土方は、焦りから落としてしまった籠を拾おうとぐっと背中を折り曲げた。その短い動作の合間に、ふと『病院』というキーワードに思い巡らせる。
産婦人科、か。そういや一昨日は、倒れた紗己を見つけた万事屋が、病院に運んだって山崎が言ってたか・・・・・・。
屯所を出て行った紗己を捜しに出ている時に、山崎から電話で聞いた話を思い出した途端、銀時への対抗心と嫉妬がむくむくと沸き上がってきた。
紗己を病院に運んでくれたことに、感謝の気持ちが無いわけではない。
ただ、妊娠の事実を一番に知ることが出来なかったのが、今となれば悔しく思う。加えてその『一番』が銀時という事実が、土方にとっては悔しくてたまらない。
もしかすると父親に間違えられたのでは――と思うと、腹立たしさは立ち上る一方だ。
あーっ気に入らねえ! 俺の子供があんな野郎のガキだと思われたなんて、こんな屈辱的な事あってたまるか!!
完全に決め付けている。まあ、事実銀時は父親に間違えられていたのだが。
おまけに、紗己を病院まで運んだのなら、きっと抱きかかえたに違いない。緊急時で着物の上からとは言え、彼女の肩や足、もしや胸にも触れていたのかも――不快な想像を脳裏から引き剥がすようにかぶりを振ると、土方は額にかかる髪を掻き上げて紗己を見やった。
「何時に行くんだ、病院には」
「えっと・・・そうですね。もう、朝の洗濯は終わったんで、そろそろ支度しようかなって、思ってますけど?」
「・・・俺も行く」
「えっ!?」
思ってもみなかった土方の言葉に、紗己は思わず目を見張った。その反応が気に食わなかったのか、土方は眉をしかめて不機嫌な声を出す。
「・・・何だよ、俺が一緒だとなんか困ることでもあんのか」
「い、いいえ!」
紗己は慌てて前に突き出した両手を振ると、少し恥ずかしそうに、俯き気味にぽつり口を開く。
「その、一緒に来てくれるって思わなかったから、びっくりしちゃって・・・・・・。一人で行くの、少し不安だったから・・・嬉しいです」
「紗己・・・・・・」
まだ江戸へ出てきてそう間も無く、目まぐるしく変わり行く日々についていくだけでも必死だったろう。
本当は心細かったに違いない。そう思うと、やり切れなさが土方を襲う。だがそれと同時に、いや、ひょっとしたらそれ以上に、彼女への愛しさは確実に募っている。
肩肘張ってねえから、そんなコイツに余計に俺は甘えちまってたか。ちょっとくらいは甘えてくれた方が、嬉しい気もするが・・・・・・。
そんなことを思いながら紗己を一瞥すると、彼女は顔を上げて嬉しそうに、半月型の瞳を細めた。
いつもよりも感情表現がはっきりとしている紗己に、胸の鼓動が跳ね上がる。土方はまた懐に手を突っ込むと、腹を掻いて気を紛らそうとした。
瞬間、小さな痛みに顔をしかめた。思っていたよりも指に力がこもっていたらしく、あばらの辺りを強く掻きすぎたのだ。少し伸びていた爪が肉を引っ掻いてしまったため、ヒリヒリとした熱を感じる。
「あの、どこか痛むんですか?」
土方の表情の変化に気付いた紗己が、どうしたのかと心配そうに距離を詰めてきた。
だがいくらなんでも、こんな格好悪い痛みの理由を告げるわけにもいかず。慌てた土方は手にしていた籠を紗己に突き付けた。
「どっこも痛くねーけど!? じゃ、じゃァ俺は飯食ってくるからっ! 病院行く前に部屋に寄ってくれ、わかったな!?」
不自然な足裁きで身体を反転させると、土方はそそくさとその場から逃げ出した。