第三章
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「そういうことかよ・・・」
ボソッと呟き、土方は慎重に辺りを見回した。
近藤は他の隊士達に指示を出しており、今のところ誰も自分達を見てはいない。
それを確認すると、赤くなった顔を隠すように口元を右手で覆って何度か咳をした。
「副長さん・・・・・・?」
「あー・・・おい、もっと顔寄せろ」
言われた通り、紗己は助手席の窓に手を掛け顔を覗かせた。
「どうしたんですか?」
「その・・・け、結婚・・・」
「え?」
「っ・・・だから! けっ、結婚してくれっ」
紗己が訊き直すと、土方は怒ったように顔を真っ赤にして早口に言葉を放った。
かなり唐突で、ムードも何もあったもんじゃないプロポーズである。
しかし、土方はこのまま何も言わずにはいられなかった。心置きなく戦えるように、きちんと約束をしたかった。
意を決した男の言葉。だが、紗己の反応はいまいち読みづらいものだった。
「・・・は、い・・・分かり、ました・・・」
そう驚いた様子もなく、かといって喜んでいるふうでもなく。どうも事態が飲み込めていないらしい。
育った過程で培ったものだけでなく、生来の鈍さがここに活きている。
え? なんだこれ・・・・・・? 女ってのはこういう時、もっと反応するモンじゃねーのかよ・・・・・・。
人生最大といっても過言ではないほど緊張したのに、予想外の反応の悪さ。これには多少なりともショックを受ける。
しかし土方は、すぐに気持ちを切り替えた。
ほんと、性格は簡単には変わんねェか。
呆れはするも、それも紗己だと思うとそう悪くない気分だと土方は思う。
極度の緊張から強張っていた頬を少し緩めると、やや固まっている紗己を見て小さく笑った。
「それじゃあ行ってくる。ああ、帰りは遅くなるから待たなくていいぞ」
「・・・っ! あ、わっ、分かりました!!」
話し掛けられたことにすぐに気付けなかった紗己は、少しの間を開けてから慌てて返事をした。
そんな自分の慌てぶりを見てふっと笑みを零す土方を目にした途端、紗己の脳裏に先程言われた言葉が過ぎった。
結婚してくれ――
確かにそう言われた。
「あっ・・・」
あれはプロポーズだったのだと、今更ながら時間差でようやく理解した。
ドキドキと鼓動が高まり、顔が熱くなっていくのが自分でも分かる。
紗己は居ても立っても居られず、サイドミラーで後方を確認している土方に呼び掛けた。
「あ、あのっ副長さん!」
「ん? どうした、何か・・・」
「さ、さっきのあれ! あれって・・・もしかして、プロポーズ、ですか・・・・・・?」
無意識なのか、窓枠を掴む手に力がこもっている。
頬を赤く染め上げて、やや食い気味に訊ねてきた紗己の姿を目にしたら、今度は土方までまた恥ずかしさが舞い戻ってきた。
「なっ・・・んなこといちいち訊き直すなっ」
声をひっくり返して勢いよく紗己から目を逸らす。その反応に紗己は、
「え、あ、でも・・・ごめんなさい・・・・・・」
肩を竦ませ顔を引っ込めてしまった。
それを見て、さすがに言い方が悪かったと思ったのだろう。土方は今しがたの自分の態度を誤魔化すように、一度大きく咳払いをしてから口を開いた。
「ああいや、その・・・あれだあれっ!」
「・・・?」
「~~っ! だからっ! プッ、プロポーズだっつってんだよもう行くからなっ」
ものすごい早口で言い切ると、紗己の反応も見ないまま車を急発進させた。
それに驚いたのは、紗己ではなく近くで別の隊士と話していた近藤だ。
「え、ちょ、ちょっとトシぃ!? 行くなら俺も乗せてってくれよーっ!」
当然土方の運転する車に乗るつもりだった近藤は、遠ざかる車に向かって大きく両手を振っている。しかし土方が戻ってくる気配は無い。
「おいおい、どうしたんだトシのやつ・・・あれ、紗己ちゃん、顔が赤いようだが大丈夫か?」
「・・・えっ!? あ、はいっ大丈夫ですっ」
「そうか、それならいいが。そうそう、こんな所でなんだがおめでとう! 今はちょっと立て込んでるが、またゆっくり話そうじゃないか!」
豪快に笑う近藤に、紗己も気持ちがほぐれてつられて笑う。
「アイツのこと、よろしく頼むよ、紗己ちゃん」
「え?」
「トシは他人に弱さを見せん男だからなあ。それに、ああ見えて結構気苦労症なところもある。羽を休める場所が出来て、俺は安心してるんだよ」
「局長さん・・・・・・」
優しいんですね、と言うと、近藤はまたも豪快に笑ってみせた。
「はははっ! いやあ、ありがとう!! でもトシも優しいだろう?」
「ええ、とっても」
二人顔を見合わせて笑っていると、先程とは反対の方向から一台のパトカーが走ってきた。
紗己と近藤の前に停まると、運転席から顔を出したのは土方だった。どうやら、屯所の周りを一周してきたらしい。
「・・・乗れよ、近藤さん」
短く言う土方に対し、近藤と紗己はまたも顔を見合わせて笑う。
「な、優しいだろう?」
「ええ、ほんとですね」
和んでいる二人を見る土方の目は、とても優しそうではないのだけれど。
ボソッと呟き、土方は慎重に辺りを見回した。
近藤は他の隊士達に指示を出しており、今のところ誰も自分達を見てはいない。
それを確認すると、赤くなった顔を隠すように口元を右手で覆って何度か咳をした。
「副長さん・・・・・・?」
「あー・・・おい、もっと顔寄せろ」
言われた通り、紗己は助手席の窓に手を掛け顔を覗かせた。
「どうしたんですか?」
「その・・・け、結婚・・・」
「え?」
「っ・・・だから! けっ、結婚してくれっ」
紗己が訊き直すと、土方は怒ったように顔を真っ赤にして早口に言葉を放った。
かなり唐突で、ムードも何もあったもんじゃないプロポーズである。
しかし、土方はこのまま何も言わずにはいられなかった。心置きなく戦えるように、きちんと約束をしたかった。
意を決した男の言葉。だが、紗己の反応はいまいち読みづらいものだった。
「・・・は、い・・・分かり、ました・・・」
そう驚いた様子もなく、かといって喜んでいるふうでもなく。どうも事態が飲み込めていないらしい。
育った過程で培ったものだけでなく、生来の鈍さがここに活きている。
え? なんだこれ・・・・・・? 女ってのはこういう時、もっと反応するモンじゃねーのかよ・・・・・・。
人生最大といっても過言ではないほど緊張したのに、予想外の反応の悪さ。これには多少なりともショックを受ける。
しかし土方は、すぐに気持ちを切り替えた。
ほんと、性格は簡単には変わんねェか。
呆れはするも、それも紗己だと思うとそう悪くない気分だと土方は思う。
極度の緊張から強張っていた頬を少し緩めると、やや固まっている紗己を見て小さく笑った。
「それじゃあ行ってくる。ああ、帰りは遅くなるから待たなくていいぞ」
「・・・っ! あ、わっ、分かりました!!」
話し掛けられたことにすぐに気付けなかった紗己は、少しの間を開けてから慌てて返事をした。
そんな自分の慌てぶりを見てふっと笑みを零す土方を目にした途端、紗己の脳裏に先程言われた言葉が過ぎった。
結婚してくれ――
確かにそう言われた。
「あっ・・・」
あれはプロポーズだったのだと、今更ながら時間差でようやく理解した。
ドキドキと鼓動が高まり、顔が熱くなっていくのが自分でも分かる。
紗己は居ても立っても居られず、サイドミラーで後方を確認している土方に呼び掛けた。
「あ、あのっ副長さん!」
「ん? どうした、何か・・・」
「さ、さっきのあれ! あれって・・・もしかして、プロポーズ、ですか・・・・・・?」
無意識なのか、窓枠を掴む手に力がこもっている。
頬を赤く染め上げて、やや食い気味に訊ねてきた紗己の姿を目にしたら、今度は土方までまた恥ずかしさが舞い戻ってきた。
「なっ・・・んなこといちいち訊き直すなっ」
声をひっくり返して勢いよく紗己から目を逸らす。その反応に紗己は、
「え、あ、でも・・・ごめんなさい・・・・・・」
肩を竦ませ顔を引っ込めてしまった。
それを見て、さすがに言い方が悪かったと思ったのだろう。土方は今しがたの自分の態度を誤魔化すように、一度大きく咳払いをしてから口を開いた。
「ああいや、その・・・あれだあれっ!」
「・・・?」
「~~っ! だからっ! プッ、プロポーズだっつってんだよもう行くからなっ」
ものすごい早口で言い切ると、紗己の反応も見ないまま車を急発進させた。
それに驚いたのは、紗己ではなく近くで別の隊士と話していた近藤だ。
「え、ちょ、ちょっとトシぃ!? 行くなら俺も乗せてってくれよーっ!」
当然土方の運転する車に乗るつもりだった近藤は、遠ざかる車に向かって大きく両手を振っている。しかし土方が戻ってくる気配は無い。
「おいおい、どうしたんだトシのやつ・・・あれ、紗己ちゃん、顔が赤いようだが大丈夫か?」
「・・・えっ!? あ、はいっ大丈夫ですっ」
「そうか、それならいいが。そうそう、こんな所でなんだがおめでとう! 今はちょっと立て込んでるが、またゆっくり話そうじゃないか!」
豪快に笑う近藤に、紗己も気持ちがほぐれてつられて笑う。
「アイツのこと、よろしく頼むよ、紗己ちゃん」
「え?」
「トシは他人に弱さを見せん男だからなあ。それに、ああ見えて結構気苦労症なところもある。羽を休める場所が出来て、俺は安心してるんだよ」
「局長さん・・・・・・」
優しいんですね、と言うと、近藤はまたも豪快に笑ってみせた。
「はははっ! いやあ、ありがとう!! でもトシも優しいだろう?」
「ええ、とっても」
二人顔を見合わせて笑っていると、先程とは反対の方向から一台のパトカーが走ってきた。
紗己と近藤の前に停まると、運転席から顔を出したのは土方だった。どうやら、屯所の周りを一周してきたらしい。
「・・・乗れよ、近藤さん」
短く言う土方に対し、近藤と紗己はまたも顔を見合わせて笑う。
「な、優しいだろう?」
「ええ、ほんとですね」
和んでいる二人を見る土方の目は、とても優しそうではないのだけれど。