第三章
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暗い車内を照らすディスプレイに視線を落とすと、そこに表示されているのは山崎退の名前と番号。
(あ・・・っんの野郎っ!せっかくのチャンスを邪魔しやがって!!)
土方は鬼の形相で手の中の携帯電話を睨み付けると、壊れるのではと思う程強い力で着信ボタンを押した。
「テメー山崎っ! 何の恨みがあって邪魔しやがんだふざっけんなコノヤローッ!!」
開口一番、電話越しに怒鳴り声を上げた。実際、あのまま電話が掛からなかったとして、ちゃんと言えていたのかは定かではないが。
一方紗己は、隣で鼓膜に痛い程の大声を出す土方に驚きつつも、内心少しホッとしていた。
「いつもの、副長さんだ・・・・・・」
心の呟きがついポロっと口に出てしまったが、ひたすら怒っている短気な男にはきっと聞こえていない。
「ああっ!? ・・・なに? ・・・ああ、ああ・・・一番隊は引き続き動向を監視だ。あとは近藤さんの指示に従え、俺もすぐ屯所に戻る。それじゃあ切るぞ」
電話を切るなり、土方はシートベルトを締めてすぐにエンジンをかけた。
「何か、あったんですか・・・・・・?」
「指名手配の攘夷浪士の目撃情報が上がった。このまますぐに屯所に戻る。ちょっと飛ばすからシートベルトちゃんとしとけ」
「は、はい!」
言われるがまま、紗己は慌ててシートベルトを引っ張り出す。しかし、車に乗る機会がほとんど無いのに加え、急がなければと焦るせいで、手元がなかなか定まらずシートベルトの差込みに悪戦苦闘している。
それを横目で見ていた土方は、吹き出しそうになるのをぐっと堪え、黙ったまま左手をグッと伸ばした。
紗己が両手で引っ張っていたベルトを、横から身を乗り出して掴むと、易々と片手で嵌め込む。
カチャリと音が鳴ったのを聴いて、紗己はホッと息をついた。
「ありがとうございます・・・・・・」
「ああ。お前手先器用なクセに、こういうのは苦手なんだな」
「ご、ごめんなさい! 今後は、ちゃんと練習しておきますから!!」
相変わらずの微妙にずれた答え。どうやって練習する気なんだ、と呆れてしまう。
「いらねーだろ、そんな練習・・・」
言いながら、紗己なら本当に練習しそうだと思った土方は、勝手な想像をした後に少し不機嫌な声を出した。
「・・・俺がいる時だけにしろよ、そこに座るのは」
どうやら、練習のために助手席に座ることもいとわないのでは、と思ったらしい。自分の運転する時ならまだしも、他の男なんて考えたくも無い。
しかし土方の心配の意味も理解出来ていない紗己は、軽く首を傾げながら「はあ・・・はい」と気の抜けた返事をするだけ。
そんな鈍感な姿に不安になる反面、何故か庇護欲を掻き立てられてしまう。
緊急事態なのにも関わらず、こうしたひと時に気持ちが和らぐことに、まったくの危機感を感じ得ないわけではない。
だがそれも悪くは無いと思っている自分に、土方は苦笑いするしかなかった。
――――――
屯所の前に車を着けると、そこには出動準備をしているパトカーが数台列を為していた。
十数人の隊士達が動き回る中、土方を見つけた近藤が走り寄ってくる。
「トシ! 待ってたぞ!!」
「悪ィ遅くなった。それで、どうだ状況は?」
運転席の窓を下げると、そこから顔を出して近藤と状況確認をする。ある程度の流れを把握すると、土方は頭を中に引っ込めて隣の紗己を見やった。
「今からすぐに出動だ。悪ィな、部屋まで送ってやれなくて」
「そんな! 気にしないでください、私なら平気ですから」
元々は部屋まで送ってくれるつもりだったのだと、土方の言葉から察した紗己は、そのことに少し驚きつつも嬉しそうに笑顔を見せた。
装着には一苦労したものの外すのはそう難しくなかったようで、話しながらシートベルトを外した紗己は、膝に掛けていた隊服の上着を手に取ると、車から降りる際土方に手渡した。
「ありがとうございました」
「ん? ああ」
上着を受け取ると、座ったまま少し窮屈そうにもぞもぞとそれを羽織る。その間に紗己は、後部座席から自身の荷物を取り出した。そして助手席の窓の向こう側から、背中を屈めて土方に声を掛ける。
「それじゃあ・・・気を付けてくださいね」
柔らかい笑みの奥に、僅かに見える不安そうな表情。それを目にした瞬間、土方は胸が締め付けられるような切ない痛みを感じた。
こんなふうに心配を掛けてしまう、これが自分の仕事なのだと改めて思い知らされる。
「紗己!」
少し強めの声で名を呼ぶと、紗己がまた顔を見せた。土方は助手席のシートに片手を突いて、ギリギリまで身体を近付ける。
「どうかしたんですか?」
「ああ、いや・・・」
訊ねられて、そう言えば何故呼び止めたのだろうかと、土方は自分の取った行動を疑問に思った。
それでも、どうしても彼女から目が離せない。
(どうしてこんなにも離れ難いんだ? )
妙にそわそわと落ち着かない心に、答えを求めるように問い掛けてみる。
心の声に耳を澄ましながら紗己を見つめれば、自分をじっと見つめる紗己の半月型の瞳が揺らいで見えた。
(ああ、そういうことか・・・・・・)
今この状況で何故こんなにも離れ難い気持ちになっているのか、その理由が何となくだが分かった気がした。
(あ・・・っんの野郎っ!せっかくのチャンスを邪魔しやがって!!)
土方は鬼の形相で手の中の携帯電話を睨み付けると、壊れるのではと思う程強い力で着信ボタンを押した。
「テメー山崎っ! 何の恨みがあって邪魔しやがんだふざっけんなコノヤローッ!!」
開口一番、電話越しに怒鳴り声を上げた。実際、あのまま電話が掛からなかったとして、ちゃんと言えていたのかは定かではないが。
一方紗己は、隣で鼓膜に痛い程の大声を出す土方に驚きつつも、内心少しホッとしていた。
「いつもの、副長さんだ・・・・・・」
心の呟きがついポロっと口に出てしまったが、ひたすら怒っている短気な男にはきっと聞こえていない。
「ああっ!? ・・・なに? ・・・ああ、ああ・・・一番隊は引き続き動向を監視だ。あとは近藤さんの指示に従え、俺もすぐ屯所に戻る。それじゃあ切るぞ」
電話を切るなり、土方はシートベルトを締めてすぐにエンジンをかけた。
「何か、あったんですか・・・・・・?」
「指名手配の攘夷浪士の目撃情報が上がった。このまますぐに屯所に戻る。ちょっと飛ばすからシートベルトちゃんとしとけ」
「は、はい!」
言われるがまま、紗己は慌ててシートベルトを引っ張り出す。しかし、車に乗る機会がほとんど無いのに加え、急がなければと焦るせいで、手元がなかなか定まらずシートベルトの差込みに悪戦苦闘している。
それを横目で見ていた土方は、吹き出しそうになるのをぐっと堪え、黙ったまま左手をグッと伸ばした。
紗己が両手で引っ張っていたベルトを、横から身を乗り出して掴むと、易々と片手で嵌め込む。
カチャリと音が鳴ったのを聴いて、紗己はホッと息をついた。
「ありがとうございます・・・・・・」
「ああ。お前手先器用なクセに、こういうのは苦手なんだな」
「ご、ごめんなさい! 今後は、ちゃんと練習しておきますから!!」
相変わらずの微妙にずれた答え。どうやって練習する気なんだ、と呆れてしまう。
「いらねーだろ、そんな練習・・・」
言いながら、紗己なら本当に練習しそうだと思った土方は、勝手な想像をした後に少し不機嫌な声を出した。
「・・・俺がいる時だけにしろよ、そこに座るのは」
どうやら、練習のために助手席に座ることもいとわないのでは、と思ったらしい。自分の運転する時ならまだしも、他の男なんて考えたくも無い。
しかし土方の心配の意味も理解出来ていない紗己は、軽く首を傾げながら「はあ・・・はい」と気の抜けた返事をするだけ。
そんな鈍感な姿に不安になる反面、何故か庇護欲を掻き立てられてしまう。
緊急事態なのにも関わらず、こうしたひと時に気持ちが和らぐことに、まったくの危機感を感じ得ないわけではない。
だがそれも悪くは無いと思っている自分に、土方は苦笑いするしかなかった。
――――――
屯所の前に車を着けると、そこには出動準備をしているパトカーが数台列を為していた。
十数人の隊士達が動き回る中、土方を見つけた近藤が走り寄ってくる。
「トシ! 待ってたぞ!!」
「悪ィ遅くなった。それで、どうだ状況は?」
運転席の窓を下げると、そこから顔を出して近藤と状況確認をする。ある程度の流れを把握すると、土方は頭を中に引っ込めて隣の紗己を見やった。
「今からすぐに出動だ。悪ィな、部屋まで送ってやれなくて」
「そんな! 気にしないでください、私なら平気ですから」
元々は部屋まで送ってくれるつもりだったのだと、土方の言葉から察した紗己は、そのことに少し驚きつつも嬉しそうに笑顔を見せた。
装着には一苦労したものの外すのはそう難しくなかったようで、話しながらシートベルトを外した紗己は、膝に掛けていた隊服の上着を手に取ると、車から降りる際土方に手渡した。
「ありがとうございました」
「ん? ああ」
上着を受け取ると、座ったまま少し窮屈そうにもぞもぞとそれを羽織る。その間に紗己は、後部座席から自身の荷物を取り出した。そして助手席の窓の向こう側から、背中を屈めて土方に声を掛ける。
「それじゃあ・・・気を付けてくださいね」
柔らかい笑みの奥に、僅かに見える不安そうな表情。それを目にした瞬間、土方は胸が締め付けられるような切ない痛みを感じた。
こんなふうに心配を掛けてしまう、これが自分の仕事なのだと改めて思い知らされる。
「紗己!」
少し強めの声で名を呼ぶと、紗己がまた顔を見せた。土方は助手席のシートに片手を突いて、ギリギリまで身体を近付ける。
「どうかしたんですか?」
「ああ、いや・・・」
訊ねられて、そう言えば何故呼び止めたのだろうかと、土方は自分の取った行動を疑問に思った。
それでも、どうしても彼女から目が離せない。
(どうしてこんなにも離れ難いんだ? )
妙にそわそわと落ち着かない心に、答えを求めるように問い掛けてみる。
心の声に耳を澄ましながら紗己を見つめれば、自分をじっと見つめる紗己の半月型の瞳が揺らいで見えた。
(ああ、そういうことか・・・・・・)
今この状況で何故こんなにも離れ難い気持ちになっているのか、その理由が何となくだが分かった気がした。