序章
名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
――――――
(・・・怪しい、怪しすぎる。どう考えても、怪しすぎる・・・・・・)
ハンドルを握ったまま、山崎退は横目で助手席の土方を見やった。
この様子を見るからに、昨夜見たアレは、やっぱり『そーゆー』事だったのか・・・・・・?
ごくり息を呑んで、まだ新しい記憶を辿り始める。
昨晩、夜明け前のしんとした薄い闇に屯所が覆われている頃に、監察の仕事を終えて屯所に戻った山崎。そこで彼は、とんでもないモノを見てしまった。
『鬼の副長』と呼ばれる男の部屋から飛び出てきた女の姿。
あれは、紗己ちゃん――?
肩にかかるくらいの長さの髪を揺らして、着崩れた着物の裾を持ちながら、女中部屋がある離れの方へと消えていく若い娘が一人。
え、なに今の。呆気に取られて、瞬きをするのさえ忘れてしまう。今見たものを信じようとしない自分がそこにいる。
ちょ・・・なにあれちょっ、ちょっとちょっと副長ォォッ!!?
叫びそうになるのを必死に堪えた。
あられもない姿を披露してくれたのは、知り合いの知り合いの知り合いの娘。
すでに顔見知りの枠からも外れているような遠さだが、その遠いツテを頼りに働かせてくれと頼まれたので、局長に相談したところ、情に厚い彼は快く引き受けてくれた。ちょうど女中が一人辞めたので、どうせなら若い娘の方がいいとか。
そんなわけで、ふた月前から真選組で働き始めた紗己を、山崎は何かと気に掛けていた。
何せ田舎から出てきたばかりだ。寂しくはないか、仕事は辛くないかと。けれど紗己は、決まって「大丈夫です」と笑顔を見せるのだった。
勤務態度はいたって真面目。働くことが好きなのか、いつも楽しそうに仕事をしているように見える。
背格好は標準的。これと言って目立った華やかさや賑やかさはないけれど、整った顔立ちに年の割には落ち着いた雰囲気で、常に穏やかな笑みを絶やさない彼女に癒されている隊士は少なくない。
そんな彼女を、そんな彼女が、そんなまさかあんな格好であんな所から出てくるなんて――。
ヤッちゃったの? ヤッちゃったのかよ!? 勘弁してくれよ副長ーっ、あの娘まだ17歳なんだけど!! アンタ警察だろ、なにやってんだよ! ナニやってんのか!?
薄闇に紛れながら、上司の部屋に向かって抗議の声を上げた。勿論心の中だけで。
――――――
「あぁ? ・・・ってうぁっつ、熱っ! くっそ熱ぃ!!」
どうやら軽く火傷したらしい。
忌々しそうに左手を睨んでいる土方を横目で見て、山崎は昨夜の事と今の彼の様子を照らし合わせてみた。
こんな上の空の副長初めて見たよ、これ絶対にヤッちゃったよなー・・・・・・。どうしてくれんだよ、あの娘連れてきたの俺なんだけど!? 俺にも一応、立場とか信用とかあるんだけど! しかもさあ、紗己ちゃんのあの不自然な歩き方・・・あれ処女だったろ、絶対昨日初めてだったろっ!! 今ちょっとだけ興奮しちゃっただろぉ!!?
・・・と思いつつ、今更思ってもどうしようもない、過ぎてしまった事を嘆いても埒が明かないと冷静に判断する自分もいる。
山崎はこのことを、隣のふてぶてしい男に話すべきか否か迷っていた。
いつ頃から紗己ちゃんと付き合ってんですか? なんて訊けるわけがない。ボコボコに殴られるがオチだ。
そんなことを思いながら見ていたら、当の土方と目が合ってしまった。
「なんだ? なァに見てんだ、ちゃんと運転しやがれ」
思いっきり睨まれた。とにかくご機嫌斜めだ。
訊けない、絶対に無理! 触らぬ神に祟りなしだ、しばらく様子見決め込んどこう。
監察の部下が自分の観察を決意しているとは露知らず、土方は早速ニコチンを摂取していた。
(・・・怪しい、怪しすぎる。どう考えても、怪しすぎる・・・・・・)
ハンドルを握ったまま、山崎退は横目で助手席の土方を見やった。
この様子を見るからに、昨夜見たアレは、やっぱり『そーゆー』事だったのか・・・・・・?
ごくり息を呑んで、まだ新しい記憶を辿り始める。
昨晩、夜明け前のしんとした薄い闇に屯所が覆われている頃に、監察の仕事を終えて屯所に戻った山崎。そこで彼は、とんでもないモノを見てしまった。
『鬼の副長』と呼ばれる男の部屋から飛び出てきた女の姿。
あれは、紗己ちゃん――?
肩にかかるくらいの長さの髪を揺らして、着崩れた着物の裾を持ちながら、女中部屋がある離れの方へと消えていく若い娘が一人。
え、なに今の。呆気に取られて、瞬きをするのさえ忘れてしまう。今見たものを信じようとしない自分がそこにいる。
ちょ・・・なにあれちょっ、ちょっとちょっと副長ォォッ!!?
叫びそうになるのを必死に堪えた。
あられもない姿を披露してくれたのは、知り合いの知り合いの知り合いの娘。
すでに顔見知りの枠からも外れているような遠さだが、その遠いツテを頼りに働かせてくれと頼まれたので、局長に相談したところ、情に厚い彼は快く引き受けてくれた。ちょうど女中が一人辞めたので、どうせなら若い娘の方がいいとか。
そんなわけで、ふた月前から真選組で働き始めた紗己を、山崎は何かと気に掛けていた。
何せ田舎から出てきたばかりだ。寂しくはないか、仕事は辛くないかと。けれど紗己は、決まって「大丈夫です」と笑顔を見せるのだった。
勤務態度はいたって真面目。働くことが好きなのか、いつも楽しそうに仕事をしているように見える。
背格好は標準的。これと言って目立った華やかさや賑やかさはないけれど、整った顔立ちに年の割には落ち着いた雰囲気で、常に穏やかな笑みを絶やさない彼女に癒されている隊士は少なくない。
そんな彼女を、そんな彼女が、そんなまさかあんな格好であんな所から出てくるなんて――。
ヤッちゃったの? ヤッちゃったのかよ!? 勘弁してくれよ副長ーっ、あの娘まだ17歳なんだけど!! アンタ警察だろ、なにやってんだよ! ナニやってんのか!?
薄闇に紛れながら、上司の部屋に向かって抗議の声を上げた。勿論心の中だけで。
――――――
「あぁ? ・・・ってうぁっつ、熱っ! くっそ熱ぃ!!」
どうやら軽く火傷したらしい。
忌々しそうに左手を睨んでいる土方を横目で見て、山崎は昨夜の事と今の彼の様子を照らし合わせてみた。
こんな上の空の副長初めて見たよ、これ絶対にヤッちゃったよなー・・・・・・。どうしてくれんだよ、あの娘連れてきたの俺なんだけど!? 俺にも一応、立場とか信用とかあるんだけど! しかもさあ、紗己ちゃんのあの不自然な歩き方・・・あれ処女だったろ、絶対昨日初めてだったろっ!! 今ちょっとだけ興奮しちゃっただろぉ!!?
・・・と思いつつ、今更思ってもどうしようもない、過ぎてしまった事を嘆いても埒が明かないと冷静に判断する自分もいる。
山崎はこのことを、隣のふてぶてしい男に話すべきか否か迷っていた。
いつ頃から紗己ちゃんと付き合ってんですか? なんて訊けるわけがない。ボコボコに殴られるがオチだ。
そんなことを思いながら見ていたら、当の土方と目が合ってしまった。
「なんだ? なァに見てんだ、ちゃんと運転しやがれ」
思いっきり睨まれた。とにかくご機嫌斜めだ。
訊けない、絶対に無理! 触らぬ神に祟りなしだ、しばらく様子見決め込んどこう。
監察の部下が自分の観察を決意しているとは露知らず、土方は早速ニコチンを摂取していた。