第二章
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胸のつかえが取れたようで、随分と気が楽になった。ずっと蓋をしてきた自分の気持ちに気付かせてくれた紗己に、言葉にこそ出来ないが感謝の気持ちが込み上げてくる。
そして、何故彼女がこんなにも『自分』というものを持たずに成長してしまったのか、その理由を思うと堪らなくなった。
辛くならねえように、思い込むことで予防線張ってたんだな、紗己。ガキのうちから、えらく大人なやり方身に付けちまって・・・・・・。
これまでの彼女の言動を振り返り、どうしてもっと早く気付いてやれなかったのかと嘆息した。
すると、黙りこくっている土方の様子が気になった紗己が、
「・・・副長、さん・・・・・・?」
心配そうに、土方に呼び掛けた。
だがすぐに、不安に揺れる気持ちを隠し、唇を引き締めてから遠慮がちな微笑みを浮かべる。
それを見て土方は、この表情は今初めて目にしたものではなく、これまでにも何度か見たことがあったのだと気付いた。
相手の気持ちを優先してばかりで、紗己はいつだって自分の気持ちは後回しだった。
(そうだ、あの夜からずっと・・・俺はコイツに支えられていたんだ)
いかに自分が紗己に甘えきっていたのかを思い知り、それでもそんな自分を受け入れてくれていた彼女が愛しくてたまらない。
土方は今初めて心の底から、紗己を護ってやりたい――そう思った。
そのためには、何としても彼女に言わせたい言葉がある。土方は昂ぶる気持ちを落ち着かせるため深く吐息すると、助手席にしっかりと身体を向け、真っ直ぐに紗己を見つめた。
「いや・・・なんでもねえ。それより紗己、もう思い込まなくていいから、俺にくらい正直に自分の気持ちぶつけてくれよ」
「正直に・・・ぶつける・・・・・・?」
口の中で、小さく呟いた。
土方の言ったことを、言葉としては理解出来ても頭では理解出来ていない。そんな感情を持ち合わせていないに等しいのだから、当然と言えば当然だ。
しかし紗己は、土方の求めに応えたいと思っている。
土方が言うところの『本音』を吐き出せば、それで彼が楽になれるのなら、紗己だって是非ともそうしたい。けれど言えない。
紗己の本音――それは授かった命、二人の子供を産みたいというものだ。
だが、もし産みたいと本音を口にして、困った顔をさせてしまったら、責任を感じさせてしまったら、という思いが紗己を縛りつける。
土方の望む答えが読めない紗己は、どうしたらいいのかわからず俯いてしまった。
そしてまた、眉を寄せて思い悩む彼女を見て、つられたように土方まで眉間に皺を寄せる。
え・・・そんなに悩むことか? 俺、そんなにレベル高いこと要求したか?
時と場合によるが、今の紗己にとってはかなり勇気のいる要求だ。
産みたいと言いたいが、困ると言われてしまったらそこで全てが終わってしまう。人生を懸けた、まさに究極の二択である。
しかしこのまま黙っていたら、土方が気を悪くしてしまうかも知れない。そう不安になった紗己は、何か言わなければとおずおずと顔を上げた。
「あ・・・あの・・・」
だが、そう簡単に性格が変わるわけもなく。何か言おうにも言葉は出てこず、結局また目線を下げてしまった。
こうまでも自分の心に不器用な様を見せつけられ、呆れ半分、段々と土方は笑えてきてしまった。
(・・・っとに、俺に困った顔させたくないとか言って、自分はなんて面してんだか)
口元を緩ませて、俯く紗己の頬にそっと触れる。
「・・・っ!?」
突然のことに身体を強張らせる紗己の、頬にかかった髪を耳に掛けてやる。
土方は小さく笑うと、『鬼の副長』と呼ばれている男とは思えないほどの、穏やかな眼差しで紗己を見つめた。
「何だよ、お前がそんな困った顔することねェだろ」
「で、でも・・・」
「ひょっとして、産みたくねェのか?」
「・・・!」
考えは読めないまでも、もっと深刻に捉えていると思っていた土方が、思いの外あっさりとしている。
そのことに心底驚いた紗己は、まともに声も出せずに、ただただもげそうな勢いで首を横に振った。そのせいでまた髪が乱れ、今度は頬どころか唇にまで髪がかかってしまっている。
その必死な姿が可愛くも面白くもあり、土方は思わず笑い出しそうになるのをぐっと堪えた。そしてすぐに表情を整えると、紗己の乱れた髪を再度直してやりながら、ゆっくりと話し出した。
「じゃあ、ちゃんと口にしてくれ。はっきりとお前の口から聞きてェんだ」
紗己の顔にかかっていた髪の最後の一本を耳に掛けてやると、大きな背中を曲げて潤んだ瞳を覗き込む。
「これは俺の独りよがりじゃねェって・・・安心させてくれよ、紗己」
少し癖のある、けれど温かな声が、静かな車内に響いた。
思ってもみなかった展開に、紗己は喉元を突き上げてくる熱を何回にも分けて飲み込み、ようやく本音を口にする。
「産みたい・・・っ、産みたい、ですっ・・・」
「ああ、産んでいいから・・・いや、違うな。俺の子を、俺達の赤ん坊を産んでほしいんだ、紗己」
「ふ・・・くちょ・・・さ・・・っ」
溢れる涙をそのままに、紗己は震える両手で自身の口元を覆った。
そんな彼女の姿に土方もまた胸が熱くなるが、それを知られるのが恥ずかしくて、
「まったく、あんま惨めな思いさせねェでくれよ」
少し愚痴をこぼしてみた。だが、紗己を愛しく想う気持ちは隠しきれず、どうにも頬が緩んでしまう。
何も言えないまま、止まらない涙に濡れた瞳で自分を見つめ続ける紗己の顔をまた覗き込むと、土方はとても穏やかな表情で笑った。
「頼むから・・・な?」
「っ、はい・・・っ」
「それから、もうあんなふうに出てったりしないでくれ。心臓に悪い」
言いながらふっと笑うと、涙する紗己の肩を優しく掴んで引き寄せた。
土方は、腕の中の紗己を力強く抱き締める。もう絶対離さない、どこへも行かせないと想いを込めて。
そして、紗己が産みたいと本音を言ってくれたことに、人知れず安堵の息を漏らすのだった。
そして、何故彼女がこんなにも『自分』というものを持たずに成長してしまったのか、その理由を思うと堪らなくなった。
辛くならねえように、思い込むことで予防線張ってたんだな、紗己。ガキのうちから、えらく大人なやり方身に付けちまって・・・・・・。
これまでの彼女の言動を振り返り、どうしてもっと早く気付いてやれなかったのかと嘆息した。
すると、黙りこくっている土方の様子が気になった紗己が、
「・・・副長、さん・・・・・・?」
心配そうに、土方に呼び掛けた。
だがすぐに、不安に揺れる気持ちを隠し、唇を引き締めてから遠慮がちな微笑みを浮かべる。
それを見て土方は、この表情は今初めて目にしたものではなく、これまでにも何度か見たことがあったのだと気付いた。
相手の気持ちを優先してばかりで、紗己はいつだって自分の気持ちは後回しだった。
(そうだ、あの夜からずっと・・・俺はコイツに支えられていたんだ)
いかに自分が紗己に甘えきっていたのかを思い知り、それでもそんな自分を受け入れてくれていた彼女が愛しくてたまらない。
土方は今初めて心の底から、紗己を護ってやりたい――そう思った。
そのためには、何としても彼女に言わせたい言葉がある。土方は昂ぶる気持ちを落ち着かせるため深く吐息すると、助手席にしっかりと身体を向け、真っ直ぐに紗己を見つめた。
「いや・・・なんでもねえ。それより紗己、もう思い込まなくていいから、俺にくらい正直に自分の気持ちぶつけてくれよ」
「正直に・・・ぶつける・・・・・・?」
口の中で、小さく呟いた。
土方の言ったことを、言葉としては理解出来ても頭では理解出来ていない。そんな感情を持ち合わせていないに等しいのだから、当然と言えば当然だ。
しかし紗己は、土方の求めに応えたいと思っている。
土方が言うところの『本音』を吐き出せば、それで彼が楽になれるのなら、紗己だって是非ともそうしたい。けれど言えない。
紗己の本音――それは授かった命、二人の子供を産みたいというものだ。
だが、もし産みたいと本音を口にして、困った顔をさせてしまったら、責任を感じさせてしまったら、という思いが紗己を縛りつける。
土方の望む答えが読めない紗己は、どうしたらいいのかわからず俯いてしまった。
そしてまた、眉を寄せて思い悩む彼女を見て、つられたように土方まで眉間に皺を寄せる。
え・・・そんなに悩むことか? 俺、そんなにレベル高いこと要求したか?
時と場合によるが、今の紗己にとってはかなり勇気のいる要求だ。
産みたいと言いたいが、困ると言われてしまったらそこで全てが終わってしまう。人生を懸けた、まさに究極の二択である。
しかしこのまま黙っていたら、土方が気を悪くしてしまうかも知れない。そう不安になった紗己は、何か言わなければとおずおずと顔を上げた。
「あ・・・あの・・・」
だが、そう簡単に性格が変わるわけもなく。何か言おうにも言葉は出てこず、結局また目線を下げてしまった。
こうまでも自分の心に不器用な様を見せつけられ、呆れ半分、段々と土方は笑えてきてしまった。
(・・・っとに、俺に困った顔させたくないとか言って、自分はなんて面してんだか)
口元を緩ませて、俯く紗己の頬にそっと触れる。
「・・・っ!?」
突然のことに身体を強張らせる紗己の、頬にかかった髪を耳に掛けてやる。
土方は小さく笑うと、『鬼の副長』と呼ばれている男とは思えないほどの、穏やかな眼差しで紗己を見つめた。
「何だよ、お前がそんな困った顔することねェだろ」
「で、でも・・・」
「ひょっとして、産みたくねェのか?」
「・・・!」
考えは読めないまでも、もっと深刻に捉えていると思っていた土方が、思いの外あっさりとしている。
そのことに心底驚いた紗己は、まともに声も出せずに、ただただもげそうな勢いで首を横に振った。そのせいでまた髪が乱れ、今度は頬どころか唇にまで髪がかかってしまっている。
その必死な姿が可愛くも面白くもあり、土方は思わず笑い出しそうになるのをぐっと堪えた。そしてすぐに表情を整えると、紗己の乱れた髪を再度直してやりながら、ゆっくりと話し出した。
「じゃあ、ちゃんと口にしてくれ。はっきりとお前の口から聞きてェんだ」
紗己の顔にかかっていた髪の最後の一本を耳に掛けてやると、大きな背中を曲げて潤んだ瞳を覗き込む。
「これは俺の独りよがりじゃねェって・・・安心させてくれよ、紗己」
少し癖のある、けれど温かな声が、静かな車内に響いた。
思ってもみなかった展開に、紗己は喉元を突き上げてくる熱を何回にも分けて飲み込み、ようやく本音を口にする。
「産みたい・・・っ、産みたい、ですっ・・・」
「ああ、産んでいいから・・・いや、違うな。俺の子を、俺達の赤ん坊を産んでほしいんだ、紗己」
「ふ・・・くちょ・・・さ・・・っ」
溢れる涙をそのままに、紗己は震える両手で自身の口元を覆った。
そんな彼女の姿に土方もまた胸が熱くなるが、それを知られるのが恥ずかしくて、
「まったく、あんま惨めな思いさせねェでくれよ」
少し愚痴をこぼしてみた。だが、紗己を愛しく想う気持ちは隠しきれず、どうにも頬が緩んでしまう。
何も言えないまま、止まらない涙に濡れた瞳で自分を見つめ続ける紗己の顔をまた覗き込むと、土方はとても穏やかな表情で笑った。
「頼むから・・・な?」
「っ、はい・・・っ」
「それから、もうあんなふうに出てったりしないでくれ。心臓に悪い」
言いながらふっと笑うと、涙する紗己の肩を優しく掴んで引き寄せた。
土方は、腕の中の紗己を力強く抱き締める。もう絶対離さない、どこへも行かせないと想いを込めて。
そして、紗己が産みたいと本音を言ってくれたことに、人知れず安堵の息を漏らすのだった。