第二章
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しばらく車を走らせた後、土方は堤防のすぐ下の細い道で停車した。
屯所に帰るものだと思っていた紗己は、不思議そうにハンドルを握る男の顔を見つめる。
「あの、帰らないんですか?」
「・・・帰るには帰るが、その前にちょっと、な」
言葉尻を濁して答えた。
本来ならば、土方もさっさと屯所に帰りたい。けれどこのまま屯所に戻れば、近藤は紗己にも結婚の話をしてしまうだろう。
まだ何も、二人で話し合いさえしていないのだ。それだけは避けたいと土方は思っていた。
運転席側の窓を少しだけ開けると、川を流れる水の音が聴こえてくる。土方は逸る気持ちを落ち着かせようと、静かに吐息した。
(ちゃんと話し合わねェとな)
少し気持ちが落ち着いたところで、助手席に身体を向けて話を切り出した。
「なあ紗己。お前・・・屯所を出て田舎に帰るつもりだったのか」
「え、あ・・・はい・・・・・・」
「・・・帰ってどうするつもりだったんだよ」
「そこまでは何も・・・」
車内に沈黙が広がる。口下手な男と控え目すぎる女が会話すると、こうなってしまうのだろうか。
積極的に自分の気持ちを出してはこない紗己に、土方は困り果てた。
今までの彼女を思い返せば、こうして自分から何も言い出さないのも不思議ではない。
けれど今回は違う。荷物をまとめて出て行くという奥義を、紗己は披露してみせたのだ。何かしら強い意思が働いての行動だと考えるのが妥当だろう。
土方は紗己の本音が知りたい。
自分の気持ちはもう決まっている。けれど紗己の本当の気持ちを聞くまでは、下手に惑わせるようなことを言いたくない。
何とか本心を聞かねばと、土方は気まずさを撥ね退け口を開いた。
「お前はどうしたいんだ、紗己」
「え?」
「いや、だから・・・これからのことだよ。お前はどう考えてんだ」
「これからの、こと・・・ですか・・・・・・」
車の中という密室空間、妙に改まった雰囲気。高まる緊張を抑えようと、紗己は膝に掛けている土方の上着をギュッと掴み、短く息を吸ってから言葉を続けた。
「私はその・・・・・・副長さんが・・・・・・考えて・・・・・・いいって・・・・・・」
緊張からか、時折小さくなる声。それでもなんとか、非常にゆっくりとだが思いを告げ、顔色を窺うように隣に目を向けた。
するとそこには、明らかに怒り心頭といった様子の土方の姿が。
「・・・何だそれ・・・・・・。なんでそこに俺の考えが出てくんだよっ!」
「・・・っ」
突然怒鳴られてしまい、喉がヒュッと窄まりびくりと肩を震わせる。
驚きと戸惑いを含んだ紗己の瞳が不安気に土方を見つめるが、土方はそんな紗己からすぐに目を逸らすと、
「そんなに・・・俺に本音言うの嫌か・・・・・・? 俺は、お前が心打ち明けられるような男じゃねえってのか・・・・・・?」
苦しそうに言葉を吐き出し、ハンドルに凭れるように顔を伏せてしまった。
「あ・・・」
土方の苦しげな姿を目の当たりにして、紗己は耐え難い胸の痛みに息苦しさを覚える。
きっと何かを間違えた。一体何を間違えたのだろうと、先程までの会話に思いを巡らせる。
土方に「お前はどうしたいんだ」と問われ、紗己は銀時に言われた言葉をじっくり思い出していた。
『お前はもっと自分の気持ちをぶちまけていいんだって』
あの時銀時は、なんで自分の気持ちを蔑ろにするのかと紗己に言った。そして、自分の気持ちをぶちまけていいのだと言ったのだ。
けれど、やっぱり紗己には出来なかった。
勝手に屯所を飛び出てきてしまった自分を、必死になって捜してくれた。そんな土方のことを思うと、自分の気持ちよりも先に彼の考えを聞かなければと思ってしまった。
そして、それから自分の思いの丈を告げればいいと、そう思ったのだ。
『私は副長さんの話を聞かずに勝手に出てきちゃったから、副長さんがどう考えてるのか、まずはそれを先に聞いたほうがいいって思ってます』
本当は、こう言いたかった。しかし、緊張のせいでほとんどの言葉を飛ばしてしまう失態。
『私はその・・・・・・副長さんが・・・・・・考えて・・・・・・いいって・・・・・・』
随分とスカスカした答えを口にしてしまい、結果意味を捉え違えられてしまった。しかも、紗己は自分が言ったことが、どのように捉えられたのか分かっていない。頭の中ではきちんと言ったつもりなのだから。
だがすぐ後の土方の発言を振り返ると、何かしら自分が彼を傷付けてしまったのだろうと思う。
謝りたいが、また下手な事を言って怒らせたくないし、これ以上彼の辛い顔を見たくない。臆病になってしまった紗己は、為す術なく口を閉ざしてしまった。
一方の土方は、未だハンドルに突っ伏したまま、後悔の真っ最中だ。
ああ・・・なんで怒鳴っちまったんだ俺は・・・・・・。あんなふうになっちまったら、紗己はますます何も言えなくなるだろうが・・・・・・。
けれど、腹が立ってしまった。他の男には相談事をしたり頼ったりしているのに、自分には本音すら打ち明けてくれない、と。
実際は、ほんの些細な行き違いが重なっているだけなのだが。
まさか紗己が言い間違いをしたとは思いもしない土方は、彼女が本音を隠して自分に答えを委ねているように感じてしまった。それが悲しくて悔しかったのだ。
屯所に帰るものだと思っていた紗己は、不思議そうにハンドルを握る男の顔を見つめる。
「あの、帰らないんですか?」
「・・・帰るには帰るが、その前にちょっと、な」
言葉尻を濁して答えた。
本来ならば、土方もさっさと屯所に帰りたい。けれどこのまま屯所に戻れば、近藤は紗己にも結婚の話をしてしまうだろう。
まだ何も、二人で話し合いさえしていないのだ。それだけは避けたいと土方は思っていた。
運転席側の窓を少しだけ開けると、川を流れる水の音が聴こえてくる。土方は逸る気持ちを落ち着かせようと、静かに吐息した。
(ちゃんと話し合わねェとな)
少し気持ちが落ち着いたところで、助手席に身体を向けて話を切り出した。
「なあ紗己。お前・・・屯所を出て田舎に帰るつもりだったのか」
「え、あ・・・はい・・・・・・」
「・・・帰ってどうするつもりだったんだよ」
「そこまでは何も・・・」
車内に沈黙が広がる。口下手な男と控え目すぎる女が会話すると、こうなってしまうのだろうか。
積極的に自分の気持ちを出してはこない紗己に、土方は困り果てた。
今までの彼女を思い返せば、こうして自分から何も言い出さないのも不思議ではない。
けれど今回は違う。荷物をまとめて出て行くという奥義を、紗己は披露してみせたのだ。何かしら強い意思が働いての行動だと考えるのが妥当だろう。
土方は紗己の本音が知りたい。
自分の気持ちはもう決まっている。けれど紗己の本当の気持ちを聞くまでは、下手に惑わせるようなことを言いたくない。
何とか本心を聞かねばと、土方は気まずさを撥ね退け口を開いた。
「お前はどうしたいんだ、紗己」
「え?」
「いや、だから・・・これからのことだよ。お前はどう考えてんだ」
「これからの、こと・・・ですか・・・・・・」
車の中という密室空間、妙に改まった雰囲気。高まる緊張を抑えようと、紗己は膝に掛けている土方の上着をギュッと掴み、短く息を吸ってから言葉を続けた。
「私はその・・・・・・副長さんが・・・・・・考えて・・・・・・いいって・・・・・・」
緊張からか、時折小さくなる声。それでもなんとか、非常にゆっくりとだが思いを告げ、顔色を窺うように隣に目を向けた。
するとそこには、明らかに怒り心頭といった様子の土方の姿が。
「・・・何だそれ・・・・・・。なんでそこに俺の考えが出てくんだよっ!」
「・・・っ」
突然怒鳴られてしまい、喉がヒュッと窄まりびくりと肩を震わせる。
驚きと戸惑いを含んだ紗己の瞳が不安気に土方を見つめるが、土方はそんな紗己からすぐに目を逸らすと、
「そんなに・・・俺に本音言うの嫌か・・・・・・? 俺は、お前が心打ち明けられるような男じゃねえってのか・・・・・・?」
苦しそうに言葉を吐き出し、ハンドルに凭れるように顔を伏せてしまった。
「あ・・・」
土方の苦しげな姿を目の当たりにして、紗己は耐え難い胸の痛みに息苦しさを覚える。
きっと何かを間違えた。一体何を間違えたのだろうと、先程までの会話に思いを巡らせる。
土方に「お前はどうしたいんだ」と問われ、紗己は銀時に言われた言葉をじっくり思い出していた。
『お前はもっと自分の気持ちをぶちまけていいんだって』
あの時銀時は、なんで自分の気持ちを蔑ろにするのかと紗己に言った。そして、自分の気持ちをぶちまけていいのだと言ったのだ。
けれど、やっぱり紗己には出来なかった。
勝手に屯所を飛び出てきてしまった自分を、必死になって捜してくれた。そんな土方のことを思うと、自分の気持ちよりも先に彼の考えを聞かなければと思ってしまった。
そして、それから自分の思いの丈を告げればいいと、そう思ったのだ。
『私は副長さんの話を聞かずに勝手に出てきちゃったから、副長さんがどう考えてるのか、まずはそれを先に聞いたほうがいいって思ってます』
本当は、こう言いたかった。しかし、緊張のせいでほとんどの言葉を飛ばしてしまう失態。
『私はその・・・・・・副長さんが・・・・・・考えて・・・・・・いいって・・・・・・』
随分とスカスカした答えを口にしてしまい、結果意味を捉え違えられてしまった。しかも、紗己は自分が言ったことが、どのように捉えられたのか分かっていない。頭の中ではきちんと言ったつもりなのだから。
だがすぐ後の土方の発言を振り返ると、何かしら自分が彼を傷付けてしまったのだろうと思う。
謝りたいが、また下手な事を言って怒らせたくないし、これ以上彼の辛い顔を見たくない。臆病になってしまった紗己は、為す術なく口を閉ざしてしまった。
一方の土方は、未だハンドルに突っ伏したまま、後悔の真っ最中だ。
ああ・・・なんで怒鳴っちまったんだ俺は・・・・・・。あんなふうになっちまったら、紗己はますます何も言えなくなるだろうが・・・・・・。
けれど、腹が立ってしまった。他の男には相談事をしたり頼ったりしているのに、自分には本音すら打ち明けてくれない、と。
実際は、ほんの些細な行き違いが重なっているだけなのだが。
まさか紗己が言い間違いをしたとは思いもしない土方は、彼女が本音を隠して自分に答えを委ねているように感じてしまった。それが悲しくて悔しかったのだ。