第二章
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――――――
「あんなダメダメでも女にモテるってんだから、やってらんねーよなァ。なあ?」
「っ・・・!!」
「そう思わねえ? 真選組の、沖田君」
銀時がゆっくりとした足取りで近付くと、かわいらしい顔立ちをした青年が軽く肩を落とした。
「・・・もう帰ったと思ってましたが、まだ居たんですか」
「そっちこそ、えらく長い間ここに居るじゃねーか。何、そんなにこの公園好きなの?」
いつも通りの死んだ魚のような目で沖田を一瞥すると、銀時は首を回しながら言葉を続けた。
「まあ、いろいろと吹き込んだ手前、放っておけずにずっと見張ってたんだろ? そこまで心配するんなら、端からアイツを巻き込むなよ」
「はっ、アンタにゃ全部お見通しってわけですか」
沖田は肩を竦めると、腕を組んで顔を伏せた。
先程まで銀時と紗己が居たベンチから、100メートル程離れたあたりにある時計台。そのさらに数メートル後方に並ぶ桜の木の幹に、沖田は背を預けて嘆息した。
銀時も最初から沖田が居ることに気付いていたわけではない。途中、ハンカチを濡らすために公園のトイレに向かった際、離れた場所から何者かが様子を窺っている気配を感じ取ったのだ。
もしやと思い、紗己と土方と別れてから遠回りでここまで来て、やはりその気配の主が沖田だったと知った。
紗己を無事に土方へと託せたのだし、これ以上この問題に関わる必要もない。そう思いつつも、銀時は沖田に対して抱いていた疑問を呈する。
「なあ、なんでアイツに身代わりなんて言ったんだよ。つーかさあ、お前どうやってそのこと知ったの」
紗己は沖田には土方とのことを話してはいない。どうやって彼らの関係を知ったのか、銀時は紗己の話を聞きながらずっと不思議に思っていた。
沖田は凭れている木に後頭部をゴリッと押し付け、両眼を閉じてゆっくりと口を開いた。
「・・・あの日は随分と寝苦しい夜でねェ。だが俺は、野郎と違って酒で紛らすなんてこたァしたくなかった」
溜息を一つ落とし、顎を引いて顔を伏せると、常より低い声音で言葉を続ける。
「ちゃんと受け止めなきゃいけねェ、そう思ってたのに野郎は・・・酔いつぶれて若い娘を部屋に連れ込んじまいやがった」
「・・・お前も目撃者ってわけか」
銀時の言葉に、沖田は小さく頷いた。伏せていた顔を上げて目を開き、紫色に変わった空を睨むように見つめる。
「ただの手違い、一夜の過ちで終わると思ってたらすっかり骨抜きになりやがって・・・・・・! 気に入らねェ・・・ただそれだけでさァ」
背もたれにしていた木に拳を打ちつけようとしたが、残りの言葉を吐き捨てると、振り上げた腕をゆっくりと下ろした。
銀時は一連の仕草を見守って、口元を歪める沖田に問い掛ける。
「・・・あの馬鹿がテメーの姉ちゃんのこといつまでも引きずってたら、それでお前は満足か」
その低い声に沖田はハッと息を呑んだ。だがすぐに、眉を寄せて喉を鳴らす。
「満足・・・どうだろうねェ、俺にもわかんねーや。ただ・・・気に入らなかった。姉上の命日に逃げるように女を抱いたのも、妊娠したって聞かされてはっきりしねェ態度で紗己を不安にさせたのも・・・」
矛盾してるのは分かってるんだけどねィ。自嘲気味に笑いながら、やりきれなさを押し込むように両手をポケットに突っ込む。
その姿が、慰めは必要ないと言っているように見えて、銀時は少し困った表情で首の後ろを撫でた。
「ほんと、矛盾しすぎだからそれ。お前がそんなふうに思い悩むこと、お前の姉ちゃんは望んでねーんじゃねェのか?」
「・・・アンタも大概お人好しですね、旦那」
「うっせーよっ、テメーのせいで俺ァあいつらに振り回されて迷惑してんだよ!」
「だったら、放っておけばいいじゃねーですか。結局困ってる奴見たら放っておけない男だ、アンタは」
言われた銀時は釈然としない様子だが、沖田の方は心もちスッキリとした表情だ。
仕舞い込んでいた思いを吐き出せたため、もう軽口を叩けるまでに回復している。
「旦那がもうちょっと本気出してくれりゃァ、紗己もコロッと流されたかも知れねーのに・・・」
「ふざけんな! 俺は駆け込み寺じゃねーっつぅの・・・ったく。大体、自分自身が幸せって感じなきゃ意味ねーだろ。紗己はあれだよ、あの馬鹿に毒されてるからね。あれじゃないと、もう満足できなくなってるよ絶対」
「馬鹿な女でさァ、紗己も・・・」
深く息を吸い込んで、続きは飲み込んだ。
沖田は苦笑いを浮かべて数回首を横に振り、木に預けていた背中を起こして軽く腕を伸ばすと、銀時の立つ先に見える公園の出入り口へ向かって歩き始めた。
自分のすぐ横手に近付いた沖田に、銀時はゆるい調子で言葉を放つ。
「・・・ちったァ満足したか」
ピタッと足を止めた。彼の問いに答えるように、沖田は背筋を伸ばして空を仰ぐ。
「これ以上は、馬鹿馬鹿しくて付き合ってられねーや」
そう言って通り過ぎる瞬間、聞こえるかどうかの小さな声が銀時の耳に届いた。
野郎のせいで泣く女を、これ以上見たくなかっただけでさァ――。
まるで懺悔のようだと、銀時は思った。悩める子羊は、軽く口笛を吹きながら夕闇の中に消えていく。
「あんなダメダメでも女にモテるってんだから、やってらんねーよなァ。なあ?」
「っ・・・!!」
「そう思わねえ? 真選組の、沖田君」
銀時がゆっくりとした足取りで近付くと、かわいらしい顔立ちをした青年が軽く肩を落とした。
「・・・もう帰ったと思ってましたが、まだ居たんですか」
「そっちこそ、えらく長い間ここに居るじゃねーか。何、そんなにこの公園好きなの?」
いつも通りの死んだ魚のような目で沖田を一瞥すると、銀時は首を回しながら言葉を続けた。
「まあ、いろいろと吹き込んだ手前、放っておけずにずっと見張ってたんだろ? そこまで心配するんなら、端からアイツを巻き込むなよ」
「はっ、アンタにゃ全部お見通しってわけですか」
沖田は肩を竦めると、腕を組んで顔を伏せた。
先程まで銀時と紗己が居たベンチから、100メートル程離れたあたりにある時計台。そのさらに数メートル後方に並ぶ桜の木の幹に、沖田は背を預けて嘆息した。
銀時も最初から沖田が居ることに気付いていたわけではない。途中、ハンカチを濡らすために公園のトイレに向かった際、離れた場所から何者かが様子を窺っている気配を感じ取ったのだ。
もしやと思い、紗己と土方と別れてから遠回りでここまで来て、やはりその気配の主が沖田だったと知った。
紗己を無事に土方へと託せたのだし、これ以上この問題に関わる必要もない。そう思いつつも、銀時は沖田に対して抱いていた疑問を呈する。
「なあ、なんでアイツに身代わりなんて言ったんだよ。つーかさあ、お前どうやってそのこと知ったの」
紗己は沖田には土方とのことを話してはいない。どうやって彼らの関係を知ったのか、銀時は紗己の話を聞きながらずっと不思議に思っていた。
沖田は凭れている木に後頭部をゴリッと押し付け、両眼を閉じてゆっくりと口を開いた。
「・・・あの日は随分と寝苦しい夜でねェ。だが俺は、野郎と違って酒で紛らすなんてこたァしたくなかった」
溜息を一つ落とし、顎を引いて顔を伏せると、常より低い声音で言葉を続ける。
「ちゃんと受け止めなきゃいけねェ、そう思ってたのに野郎は・・・酔いつぶれて若い娘を部屋に連れ込んじまいやがった」
「・・・お前も目撃者ってわけか」
銀時の言葉に、沖田は小さく頷いた。伏せていた顔を上げて目を開き、紫色に変わった空を睨むように見つめる。
「ただの手違い、一夜の過ちで終わると思ってたらすっかり骨抜きになりやがって・・・・・・! 気に入らねェ・・・ただそれだけでさァ」
背もたれにしていた木に拳を打ちつけようとしたが、残りの言葉を吐き捨てると、振り上げた腕をゆっくりと下ろした。
銀時は一連の仕草を見守って、口元を歪める沖田に問い掛ける。
「・・・あの馬鹿がテメーの姉ちゃんのこといつまでも引きずってたら、それでお前は満足か」
その低い声に沖田はハッと息を呑んだ。だがすぐに、眉を寄せて喉を鳴らす。
「満足・・・どうだろうねェ、俺にもわかんねーや。ただ・・・気に入らなかった。姉上の命日に逃げるように女を抱いたのも、妊娠したって聞かされてはっきりしねェ態度で紗己を不安にさせたのも・・・」
矛盾してるのは分かってるんだけどねィ。自嘲気味に笑いながら、やりきれなさを押し込むように両手をポケットに突っ込む。
その姿が、慰めは必要ないと言っているように見えて、銀時は少し困った表情で首の後ろを撫でた。
「ほんと、矛盾しすぎだからそれ。お前がそんなふうに思い悩むこと、お前の姉ちゃんは望んでねーんじゃねェのか?」
「・・・アンタも大概お人好しですね、旦那」
「うっせーよっ、テメーのせいで俺ァあいつらに振り回されて迷惑してんだよ!」
「だったら、放っておけばいいじゃねーですか。結局困ってる奴見たら放っておけない男だ、アンタは」
言われた銀時は釈然としない様子だが、沖田の方は心もちスッキリとした表情だ。
仕舞い込んでいた思いを吐き出せたため、もう軽口を叩けるまでに回復している。
「旦那がもうちょっと本気出してくれりゃァ、紗己もコロッと流されたかも知れねーのに・・・」
「ふざけんな! 俺は駆け込み寺じゃねーっつぅの・・・ったく。大体、自分自身が幸せって感じなきゃ意味ねーだろ。紗己はあれだよ、あの馬鹿に毒されてるからね。あれじゃないと、もう満足できなくなってるよ絶対」
「馬鹿な女でさァ、紗己も・・・」
深く息を吸い込んで、続きは飲み込んだ。
沖田は苦笑いを浮かべて数回首を横に振り、木に預けていた背中を起こして軽く腕を伸ばすと、銀時の立つ先に見える公園の出入り口へ向かって歩き始めた。
自分のすぐ横手に近付いた沖田に、銀時はゆるい調子で言葉を放つ。
「・・・ちったァ満足したか」
ピタッと足を止めた。彼の問いに答えるように、沖田は背筋を伸ばして空を仰ぐ。
「これ以上は、馬鹿馬鹿しくて付き合ってられねーや」
そう言って通り過ぎる瞬間、聞こえるかどうかの小さな声が銀時の耳に届いた。
野郎のせいで泣く女を、これ以上見たくなかっただけでさァ――。
まるで懺悔のようだと、銀時は思った。悩める子羊は、軽く口笛を吹きながら夕闇の中に消えていく。