第二章
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銀時の背中が見えなくなるまで見送っていた紗己に、両手をズボンのポケットに突っ込んで眉間に皺を寄せた土方が問い掛ける。
「おい紗己、依頼料って・・・万事屋になんか仕事頼んだのか」
自分にツケとくと言われても、まるで状況が飲み込めない。少し不機嫌そうに訊ねると、紗己はおずおずと口を開いた。
「え、あ・・・その、銀さんに話し相手になってほしいって、お願いしたんです」
「・・・話し相手?」
片眉を上げて自分を見下ろす土方にやや怯えながらも、紗己は言葉を続ける。
「最初は、送ってやるから屯所に帰れって言われたんです。でも、私が無理にお願いして・・・仕事として、しばらく付き合ってほしいって、依頼したんです」
その答えに、土方はモヤモヤとした感情が沸き上がってくるのを抑えられなくなってしまった。
苦み走った表情でポケットの中で拳をつくると、
「なんで万事屋なんかに頼むんだよ・・・・・・っ」
苛立ちを纏った言葉が、思わず口をついて出てしまった。
部屋を片付け大きな荷物を提げて、身重の身体を引きずって、そうまでして出て行きたかったのかと思うと苦しくて堪らない。
どうして悩みを打ち明ける相手が自分ではないのかと、土方は奥歯をギリッと鳴らして俯いた。
しかしその考えもすぐに改める――というよりは折り合いをつける。
いくら心配を掛けられたとはいえ、自分が彼女に取っていた態度を思うと、とてもじゃないが紗己を責めることは出来ない。他の者に相談の一つもしたくなる気持ちも、分からないではない。
その相手が銀時なのが気に入らないと思いはするが、土方は邪念を振り払うように首を横に振ると、紗己の目を見つめて吐息した。
「・・・もういい。行くぞ」
「あ、はい!」
土方の声にハッとした紗己が、未だベンチの上を陣取っていたボストンバッグに慌てて手を伸ばした。
だが次の瞬間、「あっ・・・」と小さな声とともに、紗己の動きが止まった。
同時に土方もバッグへと手を伸ばしていたため、持ち手の僅か数センチ上で二人の指が触れ合ったのだ。
重たい荷物を持たせないようにという思いと、なんとしても自分が彼女を屯所へ連れ帰るという思いから、バッグに手を伸ばした土方。
だが、触れた指先のあまりの冷たさに驚き、一瞬動けなくなってしまった。
(こんなに冷たくなるまで、ずっとここに居たのかよ・・・・・・)
土方は触れたままの細く白い指先に視線を落として、キュッと唇を噛んだ。
昨夜の事を思い出し、自分が不用意に零した言葉にどれ程紗己が傷付いたかを思い知る。
昨日妊娠の事実を知ってから、今の今まで、紗己はどれだけ心細かったことだろう。
そう思うと溢れるように切なさが込み上げてきて、その胸を灼くようなやりきれない熱に、土方はとうとう堪えきれなくなってしまった。
ゆっくりと熱い息を吐き出しながら、壊れ物を扱うようにそっと――彼女の指先に自身の指を絡める。骨張った長い指が、白く繊細な指を掴まえた。
「あっ・・・」
「・・・・・・」
驚いた紗己が思わず声を漏らすが、土方は黙ったまま、なおもその指を離さない。
紗己の冷え切った指先に、土方の高い体温が溶け込んでいく。
混じり合い、絡まり合う。そうして分け与えられた孤独。
途端、どうしても離したくないという強い気持ちに揺さぶられた土方は、紗己を強引に引き寄せると、そのまま強く強く抱き締めた。
「っ、副長さん・・・!?」
突然のことに驚いた紗己が、硬い胸に顔を埋めた状態で声を掛けるが、土方からは何の言葉も返ってこない。
腕の中の紗己の反応には、当然土方も気付いている。だが、今腕を解いたら全てが消えてしまいそうで、その不安を払拭したい土方は、より一層腕の力を強める。
(どこにも行かないでくれ――)
口に出すことは出来なくて、胸中で呟く。
するとどうしてか、激しい不安と恐怖を打ち消すほどの深い深い安堵感が、土方の心を支配した。
こうして今腕の中で、この柔らかな温もりを感じることが出来ている――。
その事実こそが、自分の願望などよりもはるかに大切で素晴らしいことなのだと。
大袈裟だと思う余裕は土方には一切無く、全身で確かな温もりを感じようと華奢な身体を強く抱き締めながら、紗己の側頭部に何度も何度も額を押し付ける。
互いの髪が擦れ合うざりざりとした感触が、混じり合った熱とともに額に伝わり、それが更に土方の胸を焦がしていく。
「良かった・・・っ、無事で良かった・・・・・・」
胸の内を満たしていた想いが、頭で考えるよりも前に素直に口から零れ出た。
消え入りそうに小さく掠れた低い声が、身動きのできない紗己の耳に届く。
「副長、さん・・・・・・」
自分を強く抱き締める、普段は鬼と称される男の太く逞しい腕が微かに震えているのに気付き、紗己は小さく呟いてから静かに吐息した。
こんなにも心配させてしまったのかと思うと、申し訳なさで胸がいっぱいになる。しかし、こんなにも心配してくれていたという事実は、不謹慎ながら彼女を安心させる。
二つの相反した思いを抱え、なおも土方の熱を感じ、紗己は切なさに包まれて身動きが取れなかった。
「おい紗己、依頼料って・・・万事屋になんか仕事頼んだのか」
自分にツケとくと言われても、まるで状況が飲み込めない。少し不機嫌そうに訊ねると、紗己はおずおずと口を開いた。
「え、あ・・・その、銀さんに話し相手になってほしいって、お願いしたんです」
「・・・話し相手?」
片眉を上げて自分を見下ろす土方にやや怯えながらも、紗己は言葉を続ける。
「最初は、送ってやるから屯所に帰れって言われたんです。でも、私が無理にお願いして・・・仕事として、しばらく付き合ってほしいって、依頼したんです」
その答えに、土方はモヤモヤとした感情が沸き上がってくるのを抑えられなくなってしまった。
苦み走った表情でポケットの中で拳をつくると、
「なんで万事屋なんかに頼むんだよ・・・・・・っ」
苛立ちを纏った言葉が、思わず口をついて出てしまった。
部屋を片付け大きな荷物を提げて、身重の身体を引きずって、そうまでして出て行きたかったのかと思うと苦しくて堪らない。
どうして悩みを打ち明ける相手が自分ではないのかと、土方は奥歯をギリッと鳴らして俯いた。
しかしその考えもすぐに改める――というよりは折り合いをつける。
いくら心配を掛けられたとはいえ、自分が彼女に取っていた態度を思うと、とてもじゃないが紗己を責めることは出来ない。他の者に相談の一つもしたくなる気持ちも、分からないではない。
その相手が銀時なのが気に入らないと思いはするが、土方は邪念を振り払うように首を横に振ると、紗己の目を見つめて吐息した。
「・・・もういい。行くぞ」
「あ、はい!」
土方の声にハッとした紗己が、未だベンチの上を陣取っていたボストンバッグに慌てて手を伸ばした。
だが次の瞬間、「あっ・・・」と小さな声とともに、紗己の動きが止まった。
同時に土方もバッグへと手を伸ばしていたため、持ち手の僅か数センチ上で二人の指が触れ合ったのだ。
重たい荷物を持たせないようにという思いと、なんとしても自分が彼女を屯所へ連れ帰るという思いから、バッグに手を伸ばした土方。
だが、触れた指先のあまりの冷たさに驚き、一瞬動けなくなってしまった。
(こんなに冷たくなるまで、ずっとここに居たのかよ・・・・・・)
土方は触れたままの細く白い指先に視線を落として、キュッと唇を噛んだ。
昨夜の事を思い出し、自分が不用意に零した言葉にどれ程紗己が傷付いたかを思い知る。
昨日妊娠の事実を知ってから、今の今まで、紗己はどれだけ心細かったことだろう。
そう思うと溢れるように切なさが込み上げてきて、その胸を灼くようなやりきれない熱に、土方はとうとう堪えきれなくなってしまった。
ゆっくりと熱い息を吐き出しながら、壊れ物を扱うようにそっと――彼女の指先に自身の指を絡める。骨張った長い指が、白く繊細な指を掴まえた。
「あっ・・・」
「・・・・・・」
驚いた紗己が思わず声を漏らすが、土方は黙ったまま、なおもその指を離さない。
紗己の冷え切った指先に、土方の高い体温が溶け込んでいく。
混じり合い、絡まり合う。そうして分け与えられた孤独。
途端、どうしても離したくないという強い気持ちに揺さぶられた土方は、紗己を強引に引き寄せると、そのまま強く強く抱き締めた。
「っ、副長さん・・・!?」
突然のことに驚いた紗己が、硬い胸に顔を埋めた状態で声を掛けるが、土方からは何の言葉も返ってこない。
腕の中の紗己の反応には、当然土方も気付いている。だが、今腕を解いたら全てが消えてしまいそうで、その不安を払拭したい土方は、より一層腕の力を強める。
(どこにも行かないでくれ――)
口に出すことは出来なくて、胸中で呟く。
するとどうしてか、激しい不安と恐怖を打ち消すほどの深い深い安堵感が、土方の心を支配した。
こうして今腕の中で、この柔らかな温もりを感じることが出来ている――。
その事実こそが、自分の願望などよりもはるかに大切で素晴らしいことなのだと。
大袈裟だと思う余裕は土方には一切無く、全身で確かな温もりを感じようと華奢な身体を強く抱き締めながら、紗己の側頭部に何度も何度も額を押し付ける。
互いの髪が擦れ合うざりざりとした感触が、混じり合った熱とともに額に伝わり、それが更に土方の胸を焦がしていく。
「良かった・・・っ、無事で良かった・・・・・・」
胸の内を満たしていた想いが、頭で考えるよりも前に素直に口から零れ出た。
消え入りそうに小さく掠れた低い声が、身動きのできない紗己の耳に届く。
「副長、さん・・・・・・」
自分を強く抱き締める、普段は鬼と称される男の太く逞しい腕が微かに震えているのに気付き、紗己は小さく呟いてから静かに吐息した。
こんなにも心配させてしまったのかと思うと、申し訳なさで胸がいっぱいになる。しかし、こんなにも心配してくれていたという事実は、不謹慎ながら彼女を安心させる。
二つの相反した思いを抱え、なおも土方の熱を感じ、紗己は切なさに包まれて身動きが取れなかった。