序章
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――――――
見回りまでの短い時間を利用して、土方は再び屯所内を徘徊していた。けれど、案の定紗己の姿は見つからない。
靴を履き門を抜けるまでの距離も、厳めしい目つきで辺りを見回すが目当ての人物の姿はない。
苛立ちを紛らすためだろう、いつもより煙草の本数が増えているせいで、まるで煙を引き連れて歩いているようにさえ見える。
くそっ、早く謝らせろよ! 仕事に出る前にさっさと肩の荷下ろしちまいたいんだよ!!
胸中で吐き捨てた言葉はなんとも勝手な言い草で、他意がないだけに性質が悪い。
だが、自分勝手ではあるものの、土方なりの言い分もある。
真選組は江戸を守るための武装警察だ。そこに身を置くからには、たとえ穏やかな朝を迎えようと、いつ何時死線をさ迷うことになるか分からない。
そんな日々を送っているからこそ、後悔をしないために、周囲に後悔をさせないためにも、迷いは早いうちに解消しておきたいのだ。
しかしそんな心情を誰もが察してくれるわけではないし、押しつけるにも無理がある。土方は門を出たところで、咥えていた精神安定剤を亡きものにした。
――――――
なんで、いねーんだ! イライラしながら車に乗り込む。
土方は新しい一本に火を点けると、動き始めた窓の外の景色を睨み付けた。
見慣れた町並み、行き交う人々――なんてことのない風景の端に、紗己と同じくらいの年頃の娘を見る。
華やかに着飾って楽しそうに闊歩している姿は、控え目な印象の紗己とは対照的だ。
ろくに彼女を知っているわけでもないのに、一度抱いただけでそんなふうに思ってしまった自分に気付き、呆れてしまう。
ようやく名前覚えた程度の相手に、何考えてんだ俺は・・・・・・。それよりも・・・ありゃァ逃げてるな。まあそれが普通か。俺だって気まずいんだから、向こうはもっとだろう。
「・・・さん、はい!」
田舎から出てきたばっかりの生娘に、俺ァとんでもねー事しちまったな・・・・・・。
「・・・さん、ちょっ・・・はいっ」
痛みだってあるだろうに動き回って逃げてるってのは、もう俺の顔も見たくねえっつー事か・・・・・・?
「・・・、はい、はいっ!!」
まァそれならそれで、構わねえよ――
「・・・ってハイハイハイハイうっせーんだよ!! なんだイエスマンかてめー山崎っ」
「違っ、そっちのハイじゃなくて、灰ですって灰!」
「あぁ? ・・・ってうぁっつ、熱っ! くっそ熱ぃ!!」
慌てて左手を振ると、吸えない位に短くなった煙草が窓の外に飛んでいく。考え事をしている間に、まっさらの一本は指の間で灰となっていた。
見回りまでの短い時間を利用して、土方は再び屯所内を徘徊していた。けれど、案の定紗己の姿は見つからない。
靴を履き門を抜けるまでの距離も、厳めしい目つきで辺りを見回すが目当ての人物の姿はない。
苛立ちを紛らすためだろう、いつもより煙草の本数が増えているせいで、まるで煙を引き連れて歩いているようにさえ見える。
くそっ、早く謝らせろよ! 仕事に出る前にさっさと肩の荷下ろしちまいたいんだよ!!
胸中で吐き捨てた言葉はなんとも勝手な言い草で、他意がないだけに性質が悪い。
だが、自分勝手ではあるものの、土方なりの言い分もある。
真選組は江戸を守るための武装警察だ。そこに身を置くからには、たとえ穏やかな朝を迎えようと、いつ何時死線をさ迷うことになるか分からない。
そんな日々を送っているからこそ、後悔をしないために、周囲に後悔をさせないためにも、迷いは早いうちに解消しておきたいのだ。
しかしそんな心情を誰もが察してくれるわけではないし、押しつけるにも無理がある。土方は門を出たところで、咥えていた精神安定剤を亡きものにした。
――――――
なんで、いねーんだ! イライラしながら車に乗り込む。
土方は新しい一本に火を点けると、動き始めた窓の外の景色を睨み付けた。
見慣れた町並み、行き交う人々――なんてことのない風景の端に、紗己と同じくらいの年頃の娘を見る。
華やかに着飾って楽しそうに闊歩している姿は、控え目な印象の紗己とは対照的だ。
ろくに彼女を知っているわけでもないのに、一度抱いただけでそんなふうに思ってしまった自分に気付き、呆れてしまう。
ようやく名前覚えた程度の相手に、何考えてんだ俺は・・・・・・。それよりも・・・ありゃァ逃げてるな。まあそれが普通か。俺だって気まずいんだから、向こうはもっとだろう。
「・・・さん、はい!」
田舎から出てきたばっかりの生娘に、俺ァとんでもねー事しちまったな・・・・・・。
「・・・さん、ちょっ・・・はいっ」
痛みだってあるだろうに動き回って逃げてるってのは、もう俺の顔も見たくねえっつー事か・・・・・・?
「・・・、はい、はいっ!!」
まァそれならそれで、構わねえよ――
「・・・ってハイハイハイハイうっせーんだよ!! なんだイエスマンかてめー山崎っ」
「違っ、そっちのハイじゃなくて、灰ですって灰!」
「あぁ? ・・・ってうぁっつ、熱っ! くっそ熱ぃ!!」
慌てて左手を振ると、吸えない位に短くなった煙草が窓の外に飛んでいく。考え事をしている間に、まっさらの一本は指の間で灰となっていた。