第二章
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すっかり落ち着きを取り戻した様子の紗己。それを見て銀時は、何故自分がここにいるのか、何故彼女がここにいるのかと思いを巡らせた。
アイツのことそんなに好きなら、何で荷物抱えて飛び出てきたんだ? ふと疑問に思う。
先程の流れからして、紗己の土方への想いは本物だ。
いくら土方が「考えさせてくれ」と言ったからといって、答えを待たずに出てくるような性格にも思えない。
そして明確ではないにせよ、恐らく土方も紗己を突き放すわけがないと銀時は思う。
「なあ紗己、そういやお前何の理由で出てきたんだ? その荷物、ちょっと買い物ってサイズじゃねぇだろ」
少し前屈みになり、紗己の左隣にどんと構えているボストンバッグを指差した。瞬間、紗己の表情はみるみる曇りだしてしまった。そっとバッグに手を添えると、彼女は自身の足元に視線を落とす。
「副長さんの困った顔、見たくなくって・・・・・・」
「なんだそれ? 別に困るとか言われたわけじゃねーんだろ?」
腕を組んで首を傾げる銀時に、紗己は視線は合わせずに小さく頷いた。
「副長さん優しいから・・・・・・。でもね、私困らせたくないんです。産みたいって言ったら、副長さんのこと困らせちゃう・・・・・・」
キュッと拳をつくって俯く紗己。その姿を見た銀時は大きく嘆息すると、組んでいた腕を解いてベンチの背に回した。
「お前さー、鈍感か敏感かどっちなの?」
「え・・・・・・?」
「なんで言われてもいねーのに、向こうが困ってるって勝手に思い込んでんだよ。第一さっきお前言ったじゃん、アイツのそばにいたいって」
はじめは呆れた様子だった銀時だが、顔だけちらり紗己に向けると、最後にふっと優しく笑った。
隣に座る紗己は、一瞬だけ銀時と目を合わせると、唇をきゅっと引き締めてから小さな声で話し出した。
「そばに・・・居たい、居たいですけど・・・」
「ん?」
「副長さんが責任感じて、無理してたらって・・・・・・。副長さんの・・・大切な人への想いを、私の問題で断ち切りたくない。困らせたくないんです、私・・・」
副長さんには、笑ってほしいから――自分で自分の気持ちを確認するように、ゆっくりと言の葉を繋いでいく。両手を帯のすぐ下に当てて、そこに存在する命を確かめた。
死んだ者を想う気持ちは、紗己にもよく分かる。自身も幼い頃に亡くした母に、何度も会いたいと思ってきた。
会えないからこそ、余計に会いたいと愛しさが募るのだ。
そんな紗己の想いを黙って聞いていた銀時は、大きな身体を軽く揺すると足を組んで吐息した。
「それでお前が田舎に帰ったら、アイツ笑えなくなったりしてな」
「え・・・・・・?」
「あー・・・まあ、どうせそのうちわかっちまうんだろうし、この際だから言っとく。一年前に死んだのって沖田の姉ちゃんなんだよ」
「沖田、さんの・・・・・・」
「結婚するってんで田舎から出てきたんだが・・・あ、相手は土方じゃねーよ。まァ元々身体弱かったみたいでさー、結局結婚する前に、な」
言葉尻を濁したが、それが死んだことを指していると紗己にも分かった。彼女が何も言わないので、銀時はそのまま話を続ける。
「・・・もうとっくに終わってたんだよ。男は女を田舎に残して一人上京、別々の人生を生きて再会した時には女は他の男に嫁ぐことになってた・・・それだけのことだ。誰に邪魔されたわけでもねえ、今更ほじくり返すこともねーんじゃねェの?」
少し気まずそうに、組んだ足の先で不規則なリズムをとりながらこめかみを掻く。
隣に目をやると、紗己がじっとこちらを見ていた。
「副長さんは、沖田さんのお姉さんに幸せになってほしかったんでしょうね・・・・・・」
アンハッピーの恋愛映画を観た後のような顔で、紗己は静かに呟いた。
自分がその立場だったら――と、百パーセントの感情移入は出来ないが、想像するだけで胸が痛むのだろう。
銀時はぐっと身体を前のめりにすると、数回首を鳴らして嘆息し、改めて紗己の方に顔を向けた。
「お前さー、そこまでアイツのこと想ってんなら、なんで沖田の言うこと鵜呑みにしてんだよ。シスコンの言うこと真に受けて、なんで好きな男のことは信じてやれねーんだか」
「信じて・・・って、どういう意味ですか?」
「だーからァ、きっかけはどうであれ今はあの馬鹿お前のことで頭いっぱいなんだって! まともに話し合いもしねーでお前田舎に帰ったら、あの野郎に二度も惨めな思いさせることになるんじゃねーのか」
「二度も・・・」
言いながら、紗己は顔を伏せた。
「とにかくさ、ちゃんと話し合えって。あの馬鹿は短気で直情型だから、気の利いたこと簡単に言えるとは思えねーし、だからお前もいろいろ思い込んで気ィ回しちゃったんだろうけどさー。案ずるより生むがやすしだよ、あ、ちなみにコレそっちの『産む』と掛けたんだけどな」
ニヤリ笑って、紗己の腹を見る。
銀時のふざけたようにも見える優しさに、紗己は顔にかかる髪を耳に掛けながら穏やかに笑った。
アイツのことそんなに好きなら、何で荷物抱えて飛び出てきたんだ? ふと疑問に思う。
先程の流れからして、紗己の土方への想いは本物だ。
いくら土方が「考えさせてくれ」と言ったからといって、答えを待たずに出てくるような性格にも思えない。
そして明確ではないにせよ、恐らく土方も紗己を突き放すわけがないと銀時は思う。
「なあ紗己、そういやお前何の理由で出てきたんだ? その荷物、ちょっと買い物ってサイズじゃねぇだろ」
少し前屈みになり、紗己の左隣にどんと構えているボストンバッグを指差した。瞬間、紗己の表情はみるみる曇りだしてしまった。そっとバッグに手を添えると、彼女は自身の足元に視線を落とす。
「副長さんの困った顔、見たくなくって・・・・・・」
「なんだそれ? 別に困るとか言われたわけじゃねーんだろ?」
腕を組んで首を傾げる銀時に、紗己は視線は合わせずに小さく頷いた。
「副長さん優しいから・・・・・・。でもね、私困らせたくないんです。産みたいって言ったら、副長さんのこと困らせちゃう・・・・・・」
キュッと拳をつくって俯く紗己。その姿を見た銀時は大きく嘆息すると、組んでいた腕を解いてベンチの背に回した。
「お前さー、鈍感か敏感かどっちなの?」
「え・・・・・・?」
「なんで言われてもいねーのに、向こうが困ってるって勝手に思い込んでんだよ。第一さっきお前言ったじゃん、アイツのそばにいたいって」
はじめは呆れた様子だった銀時だが、顔だけちらり紗己に向けると、最後にふっと優しく笑った。
隣に座る紗己は、一瞬だけ銀時と目を合わせると、唇をきゅっと引き締めてから小さな声で話し出した。
「そばに・・・居たい、居たいですけど・・・」
「ん?」
「副長さんが責任感じて、無理してたらって・・・・・・。副長さんの・・・大切な人への想いを、私の問題で断ち切りたくない。困らせたくないんです、私・・・」
副長さんには、笑ってほしいから――自分で自分の気持ちを確認するように、ゆっくりと言の葉を繋いでいく。両手を帯のすぐ下に当てて、そこに存在する命を確かめた。
死んだ者を想う気持ちは、紗己にもよく分かる。自身も幼い頃に亡くした母に、何度も会いたいと思ってきた。
会えないからこそ、余計に会いたいと愛しさが募るのだ。
そんな紗己の想いを黙って聞いていた銀時は、大きな身体を軽く揺すると足を組んで吐息した。
「それでお前が田舎に帰ったら、アイツ笑えなくなったりしてな」
「え・・・・・・?」
「あー・・・まあ、どうせそのうちわかっちまうんだろうし、この際だから言っとく。一年前に死んだのって沖田の姉ちゃんなんだよ」
「沖田、さんの・・・・・・」
「結婚するってんで田舎から出てきたんだが・・・あ、相手は土方じゃねーよ。まァ元々身体弱かったみたいでさー、結局結婚する前に、な」
言葉尻を濁したが、それが死んだことを指していると紗己にも分かった。彼女が何も言わないので、銀時はそのまま話を続ける。
「・・・もうとっくに終わってたんだよ。男は女を田舎に残して一人上京、別々の人生を生きて再会した時には女は他の男に嫁ぐことになってた・・・それだけのことだ。誰に邪魔されたわけでもねえ、今更ほじくり返すこともねーんじゃねェの?」
少し気まずそうに、組んだ足の先で不規則なリズムをとりながらこめかみを掻く。
隣に目をやると、紗己がじっとこちらを見ていた。
「副長さんは、沖田さんのお姉さんに幸せになってほしかったんでしょうね・・・・・・」
アンハッピーの恋愛映画を観た後のような顔で、紗己は静かに呟いた。
自分がその立場だったら――と、百パーセントの感情移入は出来ないが、想像するだけで胸が痛むのだろう。
銀時はぐっと身体を前のめりにすると、数回首を鳴らして嘆息し、改めて紗己の方に顔を向けた。
「お前さー、そこまでアイツのこと想ってんなら、なんで沖田の言うこと鵜呑みにしてんだよ。シスコンの言うこと真に受けて、なんで好きな男のことは信じてやれねーんだか」
「信じて・・・って、どういう意味ですか?」
「だーからァ、きっかけはどうであれ今はあの馬鹿お前のことで頭いっぱいなんだって! まともに話し合いもしねーでお前田舎に帰ったら、あの野郎に二度も惨めな思いさせることになるんじゃねーのか」
「二度も・・・」
言いながら、紗己は顔を伏せた。
「とにかくさ、ちゃんと話し合えって。あの馬鹿は短気で直情型だから、気の利いたこと簡単に言えるとは思えねーし、だからお前もいろいろ思い込んで気ィ回しちゃったんだろうけどさー。案ずるより生むがやすしだよ、あ、ちなみにコレそっちの『産む』と掛けたんだけどな」
ニヤリ笑って、紗己の腹を見る。
銀時のふざけたようにも見える優しさに、紗己は顔にかかる髪を耳に掛けながら穏やかに笑った。