第二章
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――――――
秋風が舞う公園の隅にあるベンチに腰掛けている紗己を確認すると、銀時は砂を撒き散らせながら駆け足で近付いた。
「よぉ、待たせたな」
軽く手を上げて見せると、思いのほか明るい声が返ってきた。
「ふふ、本当に万事屋さんなんですね」
断られるかと思ったと、紗己は口に手を当てて笑う。
せめてもの風除けにと、風上である紗己の右隣に腰を下ろし、ふうっとベンチの背もたれに背中を預けると、銀時は首を鳴らして紗己を一瞥した。
「お前さァ、ウロウロしてちゃ駄目じゃねーか。体力落ちてんだから、しっかり食って寝て、医者からもそう言われただろ?」
「・・・そうですね。でも、平気です」
何が平気なんだ、辛そうな顔しやがって。
思いはするも、傍らで儚げな笑顔を見せる紗己に言う気にはなれず、銀時はポンポンと彼女の頭に軽く手を乗せた。
「んでー、俺はどうすりゃいいんだ? 依頼って何、ここでずっと話してるだけでいいのかよ?」
「はい。仕事だったら、引き受けてくれるんでしょう?」
「あー・・・そりゃァまあ、な」
少し苦い顔をして、曖昧に答える。本当は、これを『仕事』として引き受けたくなかったと銀時は思う。
三十分ほど前、紗己から万事屋に電話が掛かってきたのだ。公園にいるから、話し相手になってほしい――と。
実際は、それよりも一時間以上前に屯所を出ていた紗己。時間を持て余してしまい、かと言って会いに行く相手もいない。そんな時思い浮かんだのが、銀時の顔だった。
電話が掛かってきた時、銀時は大層驚いた。昨日倒れたばかりの身重の娘が、町を散策しているのだという。
すぐに迎えに行き屯所まで送ろうと思っていたのだが、そう提案すると電話越しに紗己が拒否を示した。挙句、「仕事として、しばらく付き合ってほしい」と言われる始末。
このまま放っておけばてこでも動かない気がして、心配になった銀時は渋々依頼を引き受けたのだ。
隣に座る紗己の左隣には、そこそこ大きめのボストンバッグが置かれている。買い物袋にはとても見えないそれも、突然電話をしてきたことにきっと関係があるのだろう。
(訊かねェわけにもいかねーか)
銀時は小さく吐息する。
「なあ、なんで出てきたんだよ。なんかあったのか?」
ちらり隣に顔を向けると、明らかに元気を失くした紗己がそこにいる。足元を見つめているのか、下を向いている睫毛は小刻みに揺れていた。
銀時は背もたれに預けていた身体を起こすと、大きな背中を曲げて前屈みになり、自身の太ももに肘を付いて、伏せ気味の紗己の顔を覗き込んだ。
「なあ紗己よー、お前ちゃんと話したのか? 昨日の夜、アイツ帰ってきたんだろ?」
「・・・・・・」
「・・・まあ、嫌なら言わなくてもいいけどさ。でも、ほんとあのマヨネーズ馬鹿には話した方がいいってマジで。あんなんでもお前の腹の子の父親だろ?」
少し説教臭くなったかと顔を上げると、隣から弱々しい声で、紗己がぽつりぽつりと話し出した。
「言いました、昨日・・・副長さんに、ちゃんと話しました・・・・・・」
「え、話したの? んで、アイツ何て言ってんだよ」
「・・・・・・ちょっと考えさせてくれって」
言ったきり、紗己は口を閉ざしてしまった。
ここは比較的広い公園で、通り抜ける人やペットの散歩をさせる人々などでそれなりに賑わっているのだが、銀時と紗己の周りにはまるでシールドが張られたように気まずい空気が漂っている。
自分が訊き出したとはいえ、返ってきた言葉は予想以上に重たいものだった。
銀時はどう答えていいものか腕を組んで軽く唸ってから、「アイツ馬鹿だな」と軽い調子で言ってみた。
当然紗己は笑うわけも無く、再び沈黙が二人を包む。
(うあー何これ、俺が地雷踏んだのか?)
気まずさに耐えきれなくなった銀時は、
「あー・・・うん、まあいろいろあるよね。ほら、アイツもそれなりにきっとちゃんと考えてるって、なっ!?」
最後の方、必死になってしまった。
少し大きめの声で同意を求めるが、紗己は弱々しく静かに首を横に振る。
その姿に銀時も何も言えずに頭を掻いて、次にどう慰めれば良いものか思案していると。
隣の紗己が、またぽつりぽつりと話し出した。
「ねえ銀さん・・・一年前の副長さんのこと、何か知ってますか・・・・・・?」
突然切り出された、いまいち前後の繋がらない彼女の問いに、銀時は眉をしかめる。一年前、確かに既に知り合いではあったが、何を指して訊かれたのかわからない。
「おいおい紗己ちゃーん。いくら銀さんでもそう何でも知ってるわけじゃねえよ? もうちっと具体的にさあ、『何か』って何なのか言ってくんないと、答えようがないんだけど」
少しおどけた言い方で場を和まそうとしたが、次の瞬間銀時ははっと息を呑んだ。
紗己がまっすぐ前を見たまま涙を流している。
「おい、紗己・・・・・・?」
「・・・一年前、副長さんの・・・大事な人が死んだって・・・本当ですか・・・・・・」
秋風が舞う公園の隅にあるベンチに腰掛けている紗己を確認すると、銀時は砂を撒き散らせながら駆け足で近付いた。
「よぉ、待たせたな」
軽く手を上げて見せると、思いのほか明るい声が返ってきた。
「ふふ、本当に万事屋さんなんですね」
断られるかと思ったと、紗己は口に手を当てて笑う。
せめてもの風除けにと、風上である紗己の右隣に腰を下ろし、ふうっとベンチの背もたれに背中を預けると、銀時は首を鳴らして紗己を一瞥した。
「お前さァ、ウロウロしてちゃ駄目じゃねーか。体力落ちてんだから、しっかり食って寝て、医者からもそう言われただろ?」
「・・・そうですね。でも、平気です」
何が平気なんだ、辛そうな顔しやがって。
思いはするも、傍らで儚げな笑顔を見せる紗己に言う気にはなれず、銀時はポンポンと彼女の頭に軽く手を乗せた。
「んでー、俺はどうすりゃいいんだ? 依頼って何、ここでずっと話してるだけでいいのかよ?」
「はい。仕事だったら、引き受けてくれるんでしょう?」
「あー・・・そりゃァまあ、な」
少し苦い顔をして、曖昧に答える。本当は、これを『仕事』として引き受けたくなかったと銀時は思う。
三十分ほど前、紗己から万事屋に電話が掛かってきたのだ。公園にいるから、話し相手になってほしい――と。
実際は、それよりも一時間以上前に屯所を出ていた紗己。時間を持て余してしまい、かと言って会いに行く相手もいない。そんな時思い浮かんだのが、銀時の顔だった。
電話が掛かってきた時、銀時は大層驚いた。昨日倒れたばかりの身重の娘が、町を散策しているのだという。
すぐに迎えに行き屯所まで送ろうと思っていたのだが、そう提案すると電話越しに紗己が拒否を示した。挙句、「仕事として、しばらく付き合ってほしい」と言われる始末。
このまま放っておけばてこでも動かない気がして、心配になった銀時は渋々依頼を引き受けたのだ。
隣に座る紗己の左隣には、そこそこ大きめのボストンバッグが置かれている。買い物袋にはとても見えないそれも、突然電話をしてきたことにきっと関係があるのだろう。
(訊かねェわけにもいかねーか)
銀時は小さく吐息する。
「なあ、なんで出てきたんだよ。なんかあったのか?」
ちらり隣に顔を向けると、明らかに元気を失くした紗己がそこにいる。足元を見つめているのか、下を向いている睫毛は小刻みに揺れていた。
銀時は背もたれに預けていた身体を起こすと、大きな背中を曲げて前屈みになり、自身の太ももに肘を付いて、伏せ気味の紗己の顔を覗き込んだ。
「なあ紗己よー、お前ちゃんと話したのか? 昨日の夜、アイツ帰ってきたんだろ?」
「・・・・・・」
「・・・まあ、嫌なら言わなくてもいいけどさ。でも、ほんとあのマヨネーズ馬鹿には話した方がいいってマジで。あんなんでもお前の腹の子の父親だろ?」
少し説教臭くなったかと顔を上げると、隣から弱々しい声で、紗己がぽつりぽつりと話し出した。
「言いました、昨日・・・副長さんに、ちゃんと話しました・・・・・・」
「え、話したの? んで、アイツ何て言ってんだよ」
「・・・・・・ちょっと考えさせてくれって」
言ったきり、紗己は口を閉ざしてしまった。
ここは比較的広い公園で、通り抜ける人やペットの散歩をさせる人々などでそれなりに賑わっているのだが、銀時と紗己の周りにはまるでシールドが張られたように気まずい空気が漂っている。
自分が訊き出したとはいえ、返ってきた言葉は予想以上に重たいものだった。
銀時はどう答えていいものか腕を組んで軽く唸ってから、「アイツ馬鹿だな」と軽い調子で言ってみた。
当然紗己は笑うわけも無く、再び沈黙が二人を包む。
(うあー何これ、俺が地雷踏んだのか?)
気まずさに耐えきれなくなった銀時は、
「あー・・・うん、まあいろいろあるよね。ほら、アイツもそれなりにきっとちゃんと考えてるって、なっ!?」
最後の方、必死になってしまった。
少し大きめの声で同意を求めるが、紗己は弱々しく静かに首を横に振る。
その姿に銀時も何も言えずに頭を掻いて、次にどう慰めれば良いものか思案していると。
隣の紗己が、またぽつりぽつりと話し出した。
「ねえ銀さん・・・一年前の副長さんのこと、何か知ってますか・・・・・・?」
突然切り出された、いまいち前後の繋がらない彼女の問いに、銀時は眉をしかめる。一年前、確かに既に知り合いではあったが、何を指して訊かれたのかわからない。
「おいおい紗己ちゃーん。いくら銀さんでもそう何でも知ってるわけじゃねえよ? もうちっと具体的にさあ、『何か』って何なのか言ってくんないと、答えようがないんだけど」
少しおどけた言い方で場を和まそうとしたが、次の瞬間銀時ははっと息を呑んだ。
紗己がまっすぐ前を見たまま涙を流している。
「おい、紗己・・・・・・?」
「・・・一年前、副長さんの・・・大事な人が死んだって・・・本当ですか・・・・・・」