第一章
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――――――
副長・紗己ちゃん観察生活○日目―――
まさかの妊娠。倒れてしまったのには驚いたが、医者の話では今のところ母子共に健康らしい。
局長にもただの風邪だと言っておいた。まあ、あの人は疑うことを知らないから、何の問題もないだろう。
問題は・・・いやいや、それも大丈夫だ。紗己ちゃんを助けてくれたのはあの人だし、病院から連絡もくれたんだし。
あれで案外面倒見のいい人だ。悪いようにはしてこないだろう。
それよりも本当の問題は・・・あの男だ。子供の父親だ。妊娠してるのを知って、責任取らずに放っておくような性格ではないとは思うのだが、
「おい山崎、何してんだ」
「うおぉっ!!? 」
中庭に面した縁側下でいつものように土方と紗己の観察記録を綴っていると、突然背後から呼び掛けられて、山崎は驚きのあまり頭を強か打ちつけてしまった。
痛みに悶絶しながら声の主を確認しようと振り向くと、そこには地面にしゃがみ込んでこちらを覗いている沖田の姿が。
「お、沖田隊長!」
「こんな所で・・・おい、今隠したのはなんでェ」
言いながら、沖田が隙の無い声色で手を伸ばしてくる。
「あ、いやっそのっ・・・ちょ、ちょっと待って沖田隊長っ! それはただの日記ですからっ!!」
反論虚しく、取り上げられてしまった。
頭のてっぺんを何度も擦りながら、恐る恐る縁側下から這い出てくる山崎。そんな彼の目に映ったのは、瞳孔を開ききって日記を凝視する沖田の姿だった。
「あ・・・の、沖田隊長・・・・・・?」
「・・・っ、あの野郎・・・」
ギリッと奥歯を軋ませると、沖田は手にしていた日記を閉じた。それを無表情のまま山崎に突き返すと、そのまま立ち去ろうとする。
「まっ、待ってください沖田隊長! この事はまだ副長も知らないんです!! だから・・・」
「言わねーよ」
やけにはっきりと言われ、山崎は訝しげに沖田を見つめる。
「沖田隊長・・・?」
「・・・俺には関係ねーからな。誰にも言わねェって言ってんだ」
少し伏せ気味の口元から吐き出された言葉には、感情を押し殺したような特有の冷たさが感じられる。
それに違和感を覚え、山崎は彼の表情を読み取ろうとした。だが、垂れる前髪が影となり目元がよく見えない。
代わりに、ほんの僅かに歪んだ唇だけが見えた。
――――――
「近藤さん、今戻ったぜ」
土方が近藤の部屋の障子戸を開けると、近藤は上座に座り刀の手入れをしていた。道具と刀を一旦脇に置くと、土方に軽く手を上げて見せる。
「おう、ご苦労だったなトシ」
「本当にご苦労だぜ、全く」
そう言って部屋に入り、片手に持っていた書類の束を両手で持ち直し、角を揃えて整えた。
「ほらよ、これが今回の報告書だ」
首を鳴らしながら書類を突き出すと、近藤はにこやかにそれを受け取った。
「どうしたトシ、もう戻るのか?」
座りもせずに部屋を出ようとする土方に声を掛ける。いつもなら、ここで報告まで済ませていくからだ。
だが土方は、
「ああ、さすがにちょっと疲れた。細かい報告は明日でもいいか?」
疲れの溜まった顔で言った。
本来なら、今回の出張は明日の昼に帰ってくる予定のものだった。
だが、仕事が溜まるのが嫌だと何とか事前にスケジュールを調整して、一泊で戻れるようにしたのだ。
とまあ、それは理由の半分くらいで、実のところ紗己のことが気になっていただけなのだが。
二晩も屯所を開けて、彼女に良からぬ虫が付いてはいけないとの思いが、土方に過密スケジュールの出張を強行させたのだ。
どうやら、以前山崎から聞いた、『紗己のことが気になっている隊士達』の存在が気に掛かっているらしい。
そんな土方の心情を知らない近藤は、疲れた顔を見せる土方を労う。
「構わんさ、ゆっくり風呂にでも入って早く休め。そうそう、どうも風邪が流行りだしているみたいだからな。お前もあまり無理するなよ」
「へえ? 隊内で流行ってんのか?」
背中を向けたまま首だけ振り返り問い掛けると、近藤は報告書を片手に紗己の名前を挙げた。
「今日町中で倒れたらしくて、流行り風邪だとは聞いてるんだが・・・っておいトシ!?」
突然障子戸へと走り出した土方に驚きの声を上げる。
だが平静を装う余裕も無い土方は、一瞬だけ立ち止ると、
「悪ィ、俺も休ませてもらうわっ」
それだけ言って乱暴に部屋を飛び出していった。
副長・紗己ちゃん観察生活○日目―――
まさかの妊娠。倒れてしまったのには驚いたが、医者の話では今のところ母子共に健康らしい。
局長にもただの風邪だと言っておいた。まあ、あの人は疑うことを知らないから、何の問題もないだろう。
問題は・・・いやいや、それも大丈夫だ。紗己ちゃんを助けてくれたのはあの人だし、病院から連絡もくれたんだし。
あれで案外面倒見のいい人だ。悪いようにはしてこないだろう。
それよりも本当の問題は・・・あの男だ。子供の父親だ。妊娠してるのを知って、責任取らずに放っておくような性格ではないとは思うのだが、
「おい山崎、何してんだ」
「うおぉっ!!? 」
中庭に面した縁側下でいつものように土方と紗己の観察記録を綴っていると、突然背後から呼び掛けられて、山崎は驚きのあまり頭を強か打ちつけてしまった。
痛みに悶絶しながら声の主を確認しようと振り向くと、そこには地面にしゃがみ込んでこちらを覗いている沖田の姿が。
「お、沖田隊長!」
「こんな所で・・・おい、今隠したのはなんでェ」
言いながら、沖田が隙の無い声色で手を伸ばしてくる。
「あ、いやっそのっ・・・ちょ、ちょっと待って沖田隊長っ! それはただの日記ですからっ!!」
反論虚しく、取り上げられてしまった。
頭のてっぺんを何度も擦りながら、恐る恐る縁側下から這い出てくる山崎。そんな彼の目に映ったのは、瞳孔を開ききって日記を凝視する沖田の姿だった。
「あ・・・の、沖田隊長・・・・・・?」
「・・・っ、あの野郎・・・」
ギリッと奥歯を軋ませると、沖田は手にしていた日記を閉じた。それを無表情のまま山崎に突き返すと、そのまま立ち去ろうとする。
「まっ、待ってください沖田隊長! この事はまだ副長も知らないんです!! だから・・・」
「言わねーよ」
やけにはっきりと言われ、山崎は訝しげに沖田を見つめる。
「沖田隊長・・・?」
「・・・俺には関係ねーからな。誰にも言わねェって言ってんだ」
少し伏せ気味の口元から吐き出された言葉には、感情を押し殺したような特有の冷たさが感じられる。
それに違和感を覚え、山崎は彼の表情を読み取ろうとした。だが、垂れる前髪が影となり目元がよく見えない。
代わりに、ほんの僅かに歪んだ唇だけが見えた。
――――――
「近藤さん、今戻ったぜ」
土方が近藤の部屋の障子戸を開けると、近藤は上座に座り刀の手入れをしていた。道具と刀を一旦脇に置くと、土方に軽く手を上げて見せる。
「おう、ご苦労だったなトシ」
「本当にご苦労だぜ、全く」
そう言って部屋に入り、片手に持っていた書類の束を両手で持ち直し、角を揃えて整えた。
「ほらよ、これが今回の報告書だ」
首を鳴らしながら書類を突き出すと、近藤はにこやかにそれを受け取った。
「どうしたトシ、もう戻るのか?」
座りもせずに部屋を出ようとする土方に声を掛ける。いつもなら、ここで報告まで済ませていくからだ。
だが土方は、
「ああ、さすがにちょっと疲れた。細かい報告は明日でもいいか?」
疲れの溜まった顔で言った。
本来なら、今回の出張は明日の昼に帰ってくる予定のものだった。
だが、仕事が溜まるのが嫌だと何とか事前にスケジュールを調整して、一泊で戻れるようにしたのだ。
とまあ、それは理由の半分くらいで、実のところ紗己のことが気になっていただけなのだが。
二晩も屯所を開けて、彼女に良からぬ虫が付いてはいけないとの思いが、土方に過密スケジュールの出張を強行させたのだ。
どうやら、以前山崎から聞いた、『紗己のことが気になっている隊士達』の存在が気に掛かっているらしい。
そんな土方の心情を知らない近藤は、疲れた顔を見せる土方を労う。
「構わんさ、ゆっくり風呂にでも入って早く休め。そうそう、どうも風邪が流行りだしているみたいだからな。お前もあまり無理するなよ」
「へえ? 隊内で流行ってんのか?」
背中を向けたまま首だけ振り返り問い掛けると、近藤は報告書を片手に紗己の名前を挙げた。
「今日町中で倒れたらしくて、流行り風邪だとは聞いてるんだが・・・っておいトシ!?」
突然障子戸へと走り出した土方に驚きの声を上げる。
だが平静を装う余裕も無い土方は、一瞬だけ立ち止ると、
「悪ィ、俺も休ませてもらうわっ」
それだけ言って乱暴に部屋を飛び出していった。