第一章
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――――――
「旦那!」
「おー、こっちこっち」
階段下から目当ての人物を呼ぶと、手すりに凭れていた銀時が軽く手を振った。
真選組の監察方・山崎退は、看護師から注意をされながらも、振り切るように一気に階段を駆け上がった。
銀時の元へと辿り着くと、荒い息を落ち着かせようと深呼吸をする。本当は、息よりも気持ちを落ち着かせたいのだが。
「さっ、さっきの話・・・電話でのあれ、ほんとですかっ」
「ああ、まじまじ。つーかあんな嘘つくわけねーだろ」
「やっぱりそうだったんだ・・・・・・。なんてことしてくれてんだよ、副長ー・・・・・・」
思わずその場にしゃがみ込み、がっくり項垂れる。
今二人がいるのは、紗己が休んでいる病室と同じ階にある、待合スペース横の階段の踊り場。病院の関係者や入院患者、その患者の身内であろう人々が、時折二人の横を通り過ぎる。
銀時からの電話を受けて、慌てて病院にやって来た山崎だったが、多少予想していたとは言え、まさかの事態に動揺を隠せないでいる。
そんな山崎の隣に銀時もしゃがみ込むと、相変わらずの気怠そうな表情で山崎の肩をポンポンと叩いた。
「ほーんとヤっちゃったなあ、おたくんトコの副長さん。たった一晩きりでクリーンヒットだよ、あ・・・ホームランか」
「ちょ、旦那! 冗談言ってる場合じゃないですって!」
「ああ? んなこと言われても俺の問題じゃねえしよー。ま、とにもかくにも、早く紗己を連れて帰ってやれよ。いろいろ考えたいだろうしな」
言いながら立ち上がると、途方に暮れている山崎の首根っこを掴んで立たせ、そのまま紗己の待つ病室へと引っ張っていった。
――――――
「紗己ちゃん、入っても良いかな」
襖越しに聞こえてきた山崎の声に、紗己はどうぞと返事をした。
ここは真選組の屯所の一角にある離れ。女中である紗己は、ここの一室で寝起きしている。
病院に迎えに来た山崎に連れられて、先程紗己はここに戻ってきた。今日は仕事も早退、安静にということなので、とりあえず床についている。
少し周りを気にしながら襖を開けて入って来た山崎は、起き上がろうとした紗己に声を掛けながら布団の側に腰を下ろした。
「あ、寝てていいから。局長には風邪だって言っといたから、今日明日はゆっくり休んどくといいよ」
「ありがとうございます」
紗己の意を汲み取って・・・という形ではあるものの、さすがに他者に妊娠のことを言えるはずもなく。山崎は複雑な思いで嘘をついてきた。
「・・・夜には副長も帰ってくるからさ、ちゃんと話さないとね」
「・・・・・・」
少し視線が泳いだかと思うと、紗己は力無い瞳で低い天井を見上げた。
病院から連れ帰る間、自発的に喋ろうとはしなかった紗己。妊娠の事実を知ったことにより、元々貧血だったところに精神的疲労が重なり、いつものように笑顔を見せる余裕さえなかったのだ。
それでも、何も訊かずに知らない顔をしているわけにはいかない。帰りの車中で山崎は遠慮がちに、二人の関係がどうなっていたのか訊き出した。
遠くを見ているような、どこか呆けた表情で紗己は布団に横たわっている。
必要以上に疲れさせたくはないが、このまま黙って見過ごすことなど出来ない。どうにか彼女が前向きになってくれるようにと、山崎は重たい口を開いた。
「その・・・話しにくいのは分かるけど、ずっと隠し通すわけにもいかないだろ。後になってから知らされたら、副長もショックだろうし」
「・・・ショック・・・・・・?」
「そりゃあ・・・だって、君のお腹にいるのは副長の子供でもあるんだから」
山崎の言葉に反応したのか、紗己の頬が少し色を取り戻した。恥ずかしそうに、でも不安そうにぽつり呟く。
「副長さんの・・・赤ちゃん・・・・・・」
「そうだよ。二人の赤ちゃんなんだから、これからどうするかは二人で決めなきゃ」
紗己の姿に山崎は少し安堵した。妊娠に動揺しているものの、不幸に思っているわけではないのだと。
しかし安堵したのも束の間、紗己の表情はみるみるうちに曇っていった。
「・・・私、どうしていいのかよく分からないんです・・・・・・」
「だからこそ、二人できちんと相談してさ・・・」
「困らせたくないんです、副長さんのこと。私・・・副長さんに困った顔させたくない・・・・・・」
困らせたくないから、あれは事故だ、私は平気だと言った。
土方にどうしてほしいかと問われた時も、彼が困った顔をしないでいてくれるならそれだけでいいと思った。
何故だろう、あの人にその表情をされるとどうしようもなく胸が痛い――
弱々しい瞳にうっすら涙を浮かべると、紗己は天井に向かって深く深く息を吐いた。
「旦那!」
「おー、こっちこっち」
階段下から目当ての人物を呼ぶと、手すりに凭れていた銀時が軽く手を振った。
真選組の監察方・山崎退は、看護師から注意をされながらも、振り切るように一気に階段を駆け上がった。
銀時の元へと辿り着くと、荒い息を落ち着かせようと深呼吸をする。本当は、息よりも気持ちを落ち着かせたいのだが。
「さっ、さっきの話・・・電話でのあれ、ほんとですかっ」
「ああ、まじまじ。つーかあんな嘘つくわけねーだろ」
「やっぱりそうだったんだ・・・・・・。なんてことしてくれてんだよ、副長ー・・・・・・」
思わずその場にしゃがみ込み、がっくり項垂れる。
今二人がいるのは、紗己が休んでいる病室と同じ階にある、待合スペース横の階段の踊り場。病院の関係者や入院患者、その患者の身内であろう人々が、時折二人の横を通り過ぎる。
銀時からの電話を受けて、慌てて病院にやって来た山崎だったが、多少予想していたとは言え、まさかの事態に動揺を隠せないでいる。
そんな山崎の隣に銀時もしゃがみ込むと、相変わらずの気怠そうな表情で山崎の肩をポンポンと叩いた。
「ほーんとヤっちゃったなあ、おたくんトコの副長さん。たった一晩きりでクリーンヒットだよ、あ・・・ホームランか」
「ちょ、旦那! 冗談言ってる場合じゃないですって!」
「ああ? んなこと言われても俺の問題じゃねえしよー。ま、とにもかくにも、早く紗己を連れて帰ってやれよ。いろいろ考えたいだろうしな」
言いながら立ち上がると、途方に暮れている山崎の首根っこを掴んで立たせ、そのまま紗己の待つ病室へと引っ張っていった。
――――――
「紗己ちゃん、入っても良いかな」
襖越しに聞こえてきた山崎の声に、紗己はどうぞと返事をした。
ここは真選組の屯所の一角にある離れ。女中である紗己は、ここの一室で寝起きしている。
病院に迎えに来た山崎に連れられて、先程紗己はここに戻ってきた。今日は仕事も早退、安静にということなので、とりあえず床についている。
少し周りを気にしながら襖を開けて入って来た山崎は、起き上がろうとした紗己に声を掛けながら布団の側に腰を下ろした。
「あ、寝てていいから。局長には風邪だって言っといたから、今日明日はゆっくり休んどくといいよ」
「ありがとうございます」
紗己の意を汲み取って・・・という形ではあるものの、さすがに他者に妊娠のことを言えるはずもなく。山崎は複雑な思いで嘘をついてきた。
「・・・夜には副長も帰ってくるからさ、ちゃんと話さないとね」
「・・・・・・」
少し視線が泳いだかと思うと、紗己は力無い瞳で低い天井を見上げた。
病院から連れ帰る間、自発的に喋ろうとはしなかった紗己。妊娠の事実を知ったことにより、元々貧血だったところに精神的疲労が重なり、いつものように笑顔を見せる余裕さえなかったのだ。
それでも、何も訊かずに知らない顔をしているわけにはいかない。帰りの車中で山崎は遠慮がちに、二人の関係がどうなっていたのか訊き出した。
遠くを見ているような、どこか呆けた表情で紗己は布団に横たわっている。
必要以上に疲れさせたくはないが、このまま黙って見過ごすことなど出来ない。どうにか彼女が前向きになってくれるようにと、山崎は重たい口を開いた。
「その・・・話しにくいのは分かるけど、ずっと隠し通すわけにもいかないだろ。後になってから知らされたら、副長もショックだろうし」
「・・・ショック・・・・・・?」
「そりゃあ・・・だって、君のお腹にいるのは副長の子供でもあるんだから」
山崎の言葉に反応したのか、紗己の頬が少し色を取り戻した。恥ずかしそうに、でも不安そうにぽつり呟く。
「副長さんの・・・赤ちゃん・・・・・・」
「そうだよ。二人の赤ちゃんなんだから、これからどうするかは二人で決めなきゃ」
紗己の姿に山崎は少し安堵した。妊娠に動揺しているものの、不幸に思っているわけではないのだと。
しかし安堵したのも束の間、紗己の表情はみるみるうちに曇っていった。
「・・・私、どうしていいのかよく分からないんです・・・・・・」
「だからこそ、二人できちんと相談してさ・・・」
「困らせたくないんです、副長さんのこと。私・・・副長さんに困った顔させたくない・・・・・・」
困らせたくないから、あれは事故だ、私は平気だと言った。
土方にどうしてほしいかと問われた時も、彼が困った顔をしないでいてくれるならそれだけでいいと思った。
何故だろう、あの人にその表情をされるとどうしようもなく胸が痛い――
弱々しい瞳にうっすら涙を浮かべると、紗己は天井に向かって深く深く息を吐いた。