第一章
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(にん、しん・・・・・・?)
医師から妊娠していると告げられても、うまく頭が働かない。それどころか、「にんしんってどんな病気だったっけ」と思ってしまう始末だ。
紗己は無機質な天井をぼうっと見つめたまま、呪文のように『にんしん』と何度も呟く。そしてしばらくして、ようやくそれが『妊娠』であると理解出来た。
そっか、私――。
「妊娠したんだ・・・そうなんだ・・・・・・」
(そういえば、遅れてたな・・・・・・)
紗己はここひと月の自身の体調とその変化を思い出す。
元々が生理不順気味だったこともあり、遅れていた事もあまり気に留めていなかった。
「・・・・・・」
ベッドに横たわり虚ろな目をしている紗己を見て、銀時は静かに唸りながらどうしたものかと腕を組んだ。
こんな状況に立ち会った経験が無いので、気の利いた言葉も思い浮かばない。
だからといって、このまま放って置く事も出来ないし・・・と頭の中で問答していると、ベッドの上の紗己の手がすっと動いたのが視界に映った。
「・・・ここに、赤ちゃん、いるんだ・・・・・・」
ぽつりぽつりと呟くと、紗己はゆっくりと点滴の管を引き連れてシーツの上から自身の腹部に触れた。
はあ、と一つ溜息を落とし、ベッド横のパイプ椅子に腰掛けている銀時を、困惑と不安に満ちた眼差しで見つめる。
「銀さん・・・どうしよう・・・・・・」
「どうしようって、お前・・・」
組んでいた腕を解くと、両手を自身の膝の上に乗せて言葉を繋げる。
「父親は・・・土方か?」
きちんと名前を呼んだ。ふざけられる状況でないのもあるが、それ以前に彼も動揺している。
何せ、紗己が眠っている間に妊娠の事実を医者から聞かされ、おまけに父親だと間違われたのだから。
紗己は銀時の問いにしばらく間を置いてから、自分でも確認するようにゆっくり頷いた。
他に可能性なんてない。土方に抱かれたあの夜が初めてで、それ以降一度も何もないのだ。
しかし、そのたった一度の『行為』を紗己は事故だと思い込むように努めてきたため、今こうして妊娠が発覚してもどうしてもピンとこない。
「事故・・・」
「あ? 事故?」
「一度だけ・・・それだけで・・・・・・。だから、あれは事故だって・・・そう思うようにしてたから、何か・・・変な感じですね・・・・・・」
決して誰かに伝えようとしたのではなく、自分自身振り返りながらの独り言のような呟き。
それでも『一度だけ土方に抱かれ、結果見事に妊娠した』ということだけは、銀時にも十分伝わった。
変な感じじゃなくて、変なのはお前らの関係だ。
思いはするが口には出さない。それに詳しいことは分からなくても、二人の関係が決してふしだらなものではないことだけは分かる。
銀時は姿勢を正すと、常よりも真剣な眼差しで紗己を見据えた。
「おい紗己、アイツ今どこにいんだ? 迎えに来させねーと・・・」
「えっ・・・待って! 呼ばないでっ」
「紗己・・・・・・?」
焦り声で言葉を被せてきた紗己に、銀時は少しばかり驚いた。
「いや、あの・・・副長さん昨日から仕事で出てて、今日の夜には戻るって言ってたから、だからあの・・・今は、どっちにしても来れないんで・・・」
やや上体を起こして、焦ったように不器用に話す紗己の姿に、銀時は嘆息しながら頭を掻いた。
「・・・じゃあどうすんだよ。このまま帰らせるわけにはいかねえだろ。誰か呼べそうなヤツいねーの?」
屯所に送るくらいなんてことはない。心配なのは、その後彼女を独りにさせてしまうことだ。
さすがに自分が部屋までついていくわけにもいかないし、かといって、一日安静にと医者から言われている彼女を、万事屋に連れ帰るというのも難しい。
「あ・・・」
銀時の言葉に、何かを思い出したような顔をした紗己は、しっかりと上体を起こして周囲を見回した。そして目当ての物を見つけたのか、ベッド横の台の上に手を伸ばす。
貧血からか、いつもより白く見える手が掴んだのは、自分の財布。紗己は札入れの中から一枚のメモ紙を取り出すと、それを銀時に差し出した。
「なんだこれ、電話番号か?」
「はい、ここに掛けてもらっていいですか? たぶん、迎えに来てくれると思うんで・・・・・・」
少し不安気な目をする紗己に、銀時は「心配すんな」と短い言葉を掛けると、メモ紙を受け取って椅子から立ち上がり、電話を掛けに病室を後にした。
医師から妊娠していると告げられても、うまく頭が働かない。それどころか、「にんしんってどんな病気だったっけ」と思ってしまう始末だ。
紗己は無機質な天井をぼうっと見つめたまま、呪文のように『にんしん』と何度も呟く。そしてしばらくして、ようやくそれが『妊娠』であると理解出来た。
そっか、私――。
「妊娠したんだ・・・そうなんだ・・・・・・」
(そういえば、遅れてたな・・・・・・)
紗己はここひと月の自身の体調とその変化を思い出す。
元々が生理不順気味だったこともあり、遅れていた事もあまり気に留めていなかった。
「・・・・・・」
ベッドに横たわり虚ろな目をしている紗己を見て、銀時は静かに唸りながらどうしたものかと腕を組んだ。
こんな状況に立ち会った経験が無いので、気の利いた言葉も思い浮かばない。
だからといって、このまま放って置く事も出来ないし・・・と頭の中で問答していると、ベッドの上の紗己の手がすっと動いたのが視界に映った。
「・・・ここに、赤ちゃん、いるんだ・・・・・・」
ぽつりぽつりと呟くと、紗己はゆっくりと点滴の管を引き連れてシーツの上から自身の腹部に触れた。
はあ、と一つ溜息を落とし、ベッド横のパイプ椅子に腰掛けている銀時を、困惑と不安に満ちた眼差しで見つめる。
「銀さん・・・どうしよう・・・・・・」
「どうしようって、お前・・・」
組んでいた腕を解くと、両手を自身の膝の上に乗せて言葉を繋げる。
「父親は・・・土方か?」
きちんと名前を呼んだ。ふざけられる状況でないのもあるが、それ以前に彼も動揺している。
何せ、紗己が眠っている間に妊娠の事実を医者から聞かされ、おまけに父親だと間違われたのだから。
紗己は銀時の問いにしばらく間を置いてから、自分でも確認するようにゆっくり頷いた。
他に可能性なんてない。土方に抱かれたあの夜が初めてで、それ以降一度も何もないのだ。
しかし、そのたった一度の『行為』を紗己は事故だと思い込むように努めてきたため、今こうして妊娠が発覚してもどうしてもピンとこない。
「事故・・・」
「あ? 事故?」
「一度だけ・・・それだけで・・・・・・。だから、あれは事故だって・・・そう思うようにしてたから、何か・・・変な感じですね・・・・・・」
決して誰かに伝えようとしたのではなく、自分自身振り返りながらの独り言のような呟き。
それでも『一度だけ土方に抱かれ、結果見事に妊娠した』ということだけは、銀時にも十分伝わった。
変な感じじゃなくて、変なのはお前らの関係だ。
思いはするが口には出さない。それに詳しいことは分からなくても、二人の関係が決してふしだらなものではないことだけは分かる。
銀時は姿勢を正すと、常よりも真剣な眼差しで紗己を見据えた。
「おい紗己、アイツ今どこにいんだ? 迎えに来させねーと・・・」
「えっ・・・待って! 呼ばないでっ」
「紗己・・・・・・?」
焦り声で言葉を被せてきた紗己に、銀時は少しばかり驚いた。
「いや、あの・・・副長さん昨日から仕事で出てて、今日の夜には戻るって言ってたから、だからあの・・・今は、どっちにしても来れないんで・・・」
やや上体を起こして、焦ったように不器用に話す紗己の姿に、銀時は嘆息しながら頭を掻いた。
「・・・じゃあどうすんだよ。このまま帰らせるわけにはいかねえだろ。誰か呼べそうなヤツいねーの?」
屯所に送るくらいなんてことはない。心配なのは、その後彼女を独りにさせてしまうことだ。
さすがに自分が部屋までついていくわけにもいかないし、かといって、一日安静にと医者から言われている彼女を、万事屋に連れ帰るというのも難しい。
「あ・・・」
銀時の言葉に、何かを思い出したような顔をした紗己は、しっかりと上体を起こして周囲を見回した。そして目当ての物を見つけたのか、ベッド横の台の上に手を伸ばす。
貧血からか、いつもより白く見える手が掴んだのは、自分の財布。紗己は札入れの中から一枚のメモ紙を取り出すと、それを銀時に差し出した。
「なんだこれ、電話番号か?」
「はい、ここに掛けてもらっていいですか? たぶん、迎えに来てくれると思うんで・・・・・・」
少し不安気な目をする紗己に、銀時は「心配すんな」と短い言葉を掛けると、メモ紙を受け取って椅子から立ち上がり、電話を掛けに病室を後にした。