序章③
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「副長さん! お願い待っ・・・きゃっ」
「っ・・・!?」
小さな悲鳴が耳に届き、土方は慌てて後ろを振り返る。するとそこには、地面に両手を付いて四つん這いになっている紗己がいた。
着物の裾が纏わり付いて大股にもなれず、それでもなんとか追い付こうと小走りをしていたため、足が絡まり転倒したのだ。
「おい大丈夫かっ」
土方は慌てて彼女の元へと駆け寄る。地面に付いた両手に力を入れて、上体を起こそうとする紗己の前に腰を落として片膝をつき、自分よりも遥かに華奢な彼女の両肩を掴んでそれを支える。
すると、痛みに顔を歪めた紗己と視線が絡んだ。少し涙目になっている彼女に、やりきれなさが土方を襲う。
(なんだって、やることなすこと裏目に出ちまうんだ・・・・・・)
紗己の体温を両手に感じたまま、身動きが出来ず土方は項垂れる。
何度も自分を呼んでいたのに。必死になって追い付こうとしていたのに。
全部気付いていたのに、自分の事しか考えていなかった。だから振り返らなかった。そのせいで痛い思いをさせてしまった。
一度も振り返ってやらなかったことを、こうなってみてから改めて悔やむ。
土方は項垂れたまま、眉を寄せて両目を閉じた。瞼の裏に、涙目の紗己が映る。
どうして大事にしたい者に、いつもいつも同じような表情をさせてしまうのだろう。蘇る古い記憶にも、長く静かに吐息する。
だが、何をどうしたって時は戻せないし戻らない。そして今は『過去』ではないのだ。出来ることならあるだろう。
せめて彼女に謝罪をしようと口を開きかけると、先に言葉を紡いだのは紗己の唇だった。
「ごめんなさい!」
「・・・え?」
突然謝られてしまい、それが何故なのか分からず、土方は顔を上げて訝しげに紗己を見つめる。
向かい合う男の表情に少し臆するものの、一度唇をキュッと引き締めてから紗己はまた話し出した。
「あの、私・・・今日食堂でその・・・逃げてしまって・・・」
朝から嫌な気持ちにさせてしまってごめんなさい、と言って土方を見た。
「紗己・・・・・・」
どうしてこんなに真っ直ぐなんだ。
土方は喉元に突き上げる熱をぐっと飲み込んだ。このまま見つめているのが苦しくて、少しだけ顔を伏せる。
「それからその・・・昨日は怒っちゃってごめんなさい!」
「・・・ああ」
どうしてこんなに温かいんだ。
掴んだ両肩から伝わる紗己の熱と、俯いて揺れる自身の前髪にかかる彼女の息。そのどちらもが痛む胸に沁み入るようで、短い言葉でしか返事が出来ない。
土方が何故俯いているのかは分からないが、きっと自分の言動が彼をそうさせているのだろうと思う紗己は、なおも謝罪を続ける。
「あんな言い方、するつもりなくて・・・でも、つい・・・」
「・・・分かってる」
「本当にごめんなさい・・・副長さん?」
突然掴まれていた肩に力を込められて、紗己は不思議そうに土方を見た。
「・・・副長さん?」
「分かってっから・・・っ」
もう謝らなくていい――言葉には出来なくて、それでももっと彼女を近くに感じたくて。
ただただ温もりを欲して止まない土方は、紗己の両肩をぐっと自分の方へと引き寄せた。
「ひゃ・・・っ」
突然身体が引っ張られ、紗己の髪がふわり揺れて隊服の胸辺りを掠める。
近付く熱。二人の間で交わる、煙草の匂いと甘い甘いいちごパフェの匂い――。
・・・甘い・・・・・・いちご・・・・・・・・・・・・え?
「・・・っ!」
曲げていた自身の腕を、土方は乱暴にぎりぎりいっぱいまで伸ばしきった。そうすると、二人の間に先程よりも距離ができた。
「副長・・・さん?」
「~~っ」
頬を染めて自分を見つめる紗己を、恥ずかしさのあまり直視できなくて、土方は目の前の視線から逃れるために顔を逸らした。
だが、今度はもっとたくさんの視線が、自分たちに合わせられていることに気付いてしまった。
それもそのはず。公衆の面前で、道端にしゃがんだまま抱き合おうとしている男女がいるのだ。
額に汗粒を大量に浮かべ、土方は唇を一文字に引き締めてごくり息を呑んだ。
(いいいま俺は何をしようとしてたんだ!?)
抱き締めようとしていたのだ。その自覚はあるにはある。だがここが昼の町中であるということは、すっかり頭から消えていた。
しかも勤務中だ。真選組の隊服は目立つ。おまけにそれが隊長格以上が身につけるものならば、誰もが足を止めて見てしまうだろう。
実際彼らの周りには、ちょっとした人だかりが出来ていた。よくもまあそこまで気付かなかったものだ。
鈍感な紗己ならいざ知らず、普段クールな男は余程自分の世界に入り込んでいたらしい。
「っ・・・!?」
小さな悲鳴が耳に届き、土方は慌てて後ろを振り返る。するとそこには、地面に両手を付いて四つん這いになっている紗己がいた。
着物の裾が纏わり付いて大股にもなれず、それでもなんとか追い付こうと小走りをしていたため、足が絡まり転倒したのだ。
「おい大丈夫かっ」
土方は慌てて彼女の元へと駆け寄る。地面に付いた両手に力を入れて、上体を起こそうとする紗己の前に腰を落として片膝をつき、自分よりも遥かに華奢な彼女の両肩を掴んでそれを支える。
すると、痛みに顔を歪めた紗己と視線が絡んだ。少し涙目になっている彼女に、やりきれなさが土方を襲う。
(なんだって、やることなすこと裏目に出ちまうんだ・・・・・・)
紗己の体温を両手に感じたまま、身動きが出来ず土方は項垂れる。
何度も自分を呼んでいたのに。必死になって追い付こうとしていたのに。
全部気付いていたのに、自分の事しか考えていなかった。だから振り返らなかった。そのせいで痛い思いをさせてしまった。
一度も振り返ってやらなかったことを、こうなってみてから改めて悔やむ。
土方は項垂れたまま、眉を寄せて両目を閉じた。瞼の裏に、涙目の紗己が映る。
どうして大事にしたい者に、いつもいつも同じような表情をさせてしまうのだろう。蘇る古い記憶にも、長く静かに吐息する。
だが、何をどうしたって時は戻せないし戻らない。そして今は『過去』ではないのだ。出来ることならあるだろう。
せめて彼女に謝罪をしようと口を開きかけると、先に言葉を紡いだのは紗己の唇だった。
「ごめんなさい!」
「・・・え?」
突然謝られてしまい、それが何故なのか分からず、土方は顔を上げて訝しげに紗己を見つめる。
向かい合う男の表情に少し臆するものの、一度唇をキュッと引き締めてから紗己はまた話し出した。
「あの、私・・・今日食堂でその・・・逃げてしまって・・・」
朝から嫌な気持ちにさせてしまってごめんなさい、と言って土方を見た。
「紗己・・・・・・」
どうしてこんなに真っ直ぐなんだ。
土方は喉元に突き上げる熱をぐっと飲み込んだ。このまま見つめているのが苦しくて、少しだけ顔を伏せる。
「それからその・・・昨日は怒っちゃってごめんなさい!」
「・・・ああ」
どうしてこんなに温かいんだ。
掴んだ両肩から伝わる紗己の熱と、俯いて揺れる自身の前髪にかかる彼女の息。そのどちらもが痛む胸に沁み入るようで、短い言葉でしか返事が出来ない。
土方が何故俯いているのかは分からないが、きっと自分の言動が彼をそうさせているのだろうと思う紗己は、なおも謝罪を続ける。
「あんな言い方、するつもりなくて・・・でも、つい・・・」
「・・・分かってる」
「本当にごめんなさい・・・副長さん?」
突然掴まれていた肩に力を込められて、紗己は不思議そうに土方を見た。
「・・・副長さん?」
「分かってっから・・・っ」
もう謝らなくていい――言葉には出来なくて、それでももっと彼女を近くに感じたくて。
ただただ温もりを欲して止まない土方は、紗己の両肩をぐっと自分の方へと引き寄せた。
「ひゃ・・・っ」
突然身体が引っ張られ、紗己の髪がふわり揺れて隊服の胸辺りを掠める。
近付く熱。二人の間で交わる、煙草の匂いと甘い甘いいちごパフェの匂い――。
・・・甘い・・・・・・いちご・・・・・・・・・・・・え?
「・・・っ!」
曲げていた自身の腕を、土方は乱暴にぎりぎりいっぱいまで伸ばしきった。そうすると、二人の間に先程よりも距離ができた。
「副長・・・さん?」
「~~っ」
頬を染めて自分を見つめる紗己を、恥ずかしさのあまり直視できなくて、土方は目の前の視線から逃れるために顔を逸らした。
だが、今度はもっとたくさんの視線が、自分たちに合わせられていることに気付いてしまった。
それもそのはず。公衆の面前で、道端にしゃがんだまま抱き合おうとしている男女がいるのだ。
額に汗粒を大量に浮かべ、土方は唇を一文字に引き締めてごくり息を呑んだ。
(いいいま俺は何をしようとしてたんだ!?)
抱き締めようとしていたのだ。その自覚はあるにはある。だがここが昼の町中であるということは、すっかり頭から消えていた。
しかも勤務中だ。真選組の隊服は目立つ。おまけにそれが隊長格以上が身につけるものならば、誰もが足を止めて見てしまうだろう。
実際彼らの周りには、ちょっとした人だかりが出来ていた。よくもまあそこまで気付かなかったものだ。
鈍感な紗己ならいざ知らず、普段クールな男は余程自分の世界に入り込んでいたらしい。