序章③
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――――――
「お、出てきた・・・旦那、こっちこっち」
土方の姿を確認すると、沖田は銀時を引っ張って建物の隙間に身を潜めた。
期待を込めた眼差しで通りの方をそっと覗き見ると、そこには土方と紗己、二人の姿が。だが紗己の表情を窺うも、特に泣いている様子は見受けられない。
「・・・なんでェ、まーた予想が外れちまったか」
「ま、そんなモンだよ沖田くん。やめやめあきらめな、人の恋路を邪魔してちゃァそのうちテメーにかえってくるぜ」
壁に凭れて呑気な声を出す銀時に対し、沖田はさも不服そうに舌打ちをする。その様子に銀時は違和感を覚えた。
「ただのおふざけってわけじゃあ、なさそーだな」
「おふざけ? はっ、何言ってんですかィ旦那、俺は端っから本気だぜ。あの野郎のニヤけた面見てたら、イライラするんでねィ」
次の手考えねーと、と呟く沖田の顔は真剣そのもので、だがそこには苦悩のようなものも見て取れる。銀時は姿勢を正すと、沖田を見据えて常より低い声音で釘を刺す。
「テメーがアイツを憎もうがなんだろうが知ったこっちゃねえが、紗己を巻き込むんじゃねーよ」
「へェ? えらくあの娘を庇うじゃねェですか。そんなにご執心なら、また機会作ってやりますぜ」
いやに真剣な様子の銀時に、沖田は面白そうに口端を上げた。だが沖田の発言に銀時は片眉を上げる。
「はあ? んなもんいらねーよ。大体さあ、あれ本気だよ紗己。本人は気付いてねえみたいだけど。もう邪魔すんなよ、男と女の問題に首つっ込むなんざそりゃ・・・」
「気に入らねーんでェ」
「あ?」
「あの野郎・・・さっさと忘れちまいやがって・・・・・・」
「・・・・・・」
顔を伏せて苦々しく吐き捨てる沖田を前に、銀時は黙り込んでしまった。沖田の言葉の真意が伝わり、掛ける言葉が思い浮かばない。
だが沖田はすぐに顔を上げた。いつも通りの読めない表情で。
「・・・おっと、俺としたことが余計なこと喋っちまったぜ。旦那、これは他言無用で」
口元に人差し指を当て、ニッと口角を上げる。その姿に銀時は盛大に嘆息すると、通りへと歩き出した。
「なんだよ、結局俺ァ振り回されただけじゃねーか」
「まァそう言わねーでくださいよ。若い娘と語らって糖分摂取して、おまけにタダ券温存出来りゃ御の字でしょうが」
ニヤリ笑う沖田に、銀時は懐からファミレスの無料券を取り出し指で挟んでみせた。
「報酬はいただいたが、こんな仕事二度と引き受けねーぞ、ったく」
緩慢な動作で通りへと出ると、独り人ごみに紛れていった。
――――――
「待ってください、副長さん!」
ずんずんと先を歩く土方に、紗己はついて行くのに必死だ。
着物の裾を気にしながらも、小走りで後を追う。それなのに土方は、少し歩くペースを落としただけで、後ろの紗己を振り返ろうともしない。
自身の後方から聞こえる紗己の必死な声も足音にも、決して気付いていない訳ではない。
土方は今、自分の気持ちの置き場に困っているのだ。
昨夜一晩かけて、今後は紗己と少し距離を置こうと決めた。
彼女と話をすれば、また勘違いをしてしまう。特別好意をもってくれているのではないかと期待してしまう。
そして、惨めな気持ちになるのだ。こんな卑怯な男を紗己が好きになるはずがない――と。
もういい年をした大人だ。苦い恋も経験済みだ。少し距離を置いてそれに慣れた頃にはもう、紗己を見て心が揺れることもないだろう。
そう決意をしたのに、とんだ醜態を晒してしまった。自分自身に腹も立つし、何より気まずくて仕方が無い。
その気持ちもあって、ファミレスを出てからすぐに一人で屯所に戻ろうと思っていた。しかし、紗己が後をついてくる。
何とか振り切ろうと、そうすれば彼女も後からゆっくり帰ってくるだろうと思ったのに、まだ紗己は後をついてくる。それも、必死になって。
(頼む! 今だけでいいから空気読んでくれ!! )
切に願うものの、土方の願い虚しく紗己は足を止めようとしない。
「お、出てきた・・・旦那、こっちこっち」
土方の姿を確認すると、沖田は銀時を引っ張って建物の隙間に身を潜めた。
期待を込めた眼差しで通りの方をそっと覗き見ると、そこには土方と紗己、二人の姿が。だが紗己の表情を窺うも、特に泣いている様子は見受けられない。
「・・・なんでェ、まーた予想が外れちまったか」
「ま、そんなモンだよ沖田くん。やめやめあきらめな、人の恋路を邪魔してちゃァそのうちテメーにかえってくるぜ」
壁に凭れて呑気な声を出す銀時に対し、沖田はさも不服そうに舌打ちをする。その様子に銀時は違和感を覚えた。
「ただのおふざけってわけじゃあ、なさそーだな」
「おふざけ? はっ、何言ってんですかィ旦那、俺は端っから本気だぜ。あの野郎のニヤけた面見てたら、イライラするんでねィ」
次の手考えねーと、と呟く沖田の顔は真剣そのもので、だがそこには苦悩のようなものも見て取れる。銀時は姿勢を正すと、沖田を見据えて常より低い声音で釘を刺す。
「テメーがアイツを憎もうがなんだろうが知ったこっちゃねえが、紗己を巻き込むんじゃねーよ」
「へェ? えらくあの娘を庇うじゃねェですか。そんなにご執心なら、また機会作ってやりますぜ」
いやに真剣な様子の銀時に、沖田は面白そうに口端を上げた。だが沖田の発言に銀時は片眉を上げる。
「はあ? んなもんいらねーよ。大体さあ、あれ本気だよ紗己。本人は気付いてねえみたいだけど。もう邪魔すんなよ、男と女の問題に首つっ込むなんざそりゃ・・・」
「気に入らねーんでェ」
「あ?」
「あの野郎・・・さっさと忘れちまいやがって・・・・・・」
「・・・・・・」
顔を伏せて苦々しく吐き捨てる沖田を前に、銀時は黙り込んでしまった。沖田の言葉の真意が伝わり、掛ける言葉が思い浮かばない。
だが沖田はすぐに顔を上げた。いつも通りの読めない表情で。
「・・・おっと、俺としたことが余計なこと喋っちまったぜ。旦那、これは他言無用で」
口元に人差し指を当て、ニッと口角を上げる。その姿に銀時は盛大に嘆息すると、通りへと歩き出した。
「なんだよ、結局俺ァ振り回されただけじゃねーか」
「まァそう言わねーでくださいよ。若い娘と語らって糖分摂取して、おまけにタダ券温存出来りゃ御の字でしょうが」
ニヤリ笑う沖田に、銀時は懐からファミレスの無料券を取り出し指で挟んでみせた。
「報酬はいただいたが、こんな仕事二度と引き受けねーぞ、ったく」
緩慢な動作で通りへと出ると、独り人ごみに紛れていった。
――――――
「待ってください、副長さん!」
ずんずんと先を歩く土方に、紗己はついて行くのに必死だ。
着物の裾を気にしながらも、小走りで後を追う。それなのに土方は、少し歩くペースを落としただけで、後ろの紗己を振り返ろうともしない。
自身の後方から聞こえる紗己の必死な声も足音にも、決して気付いていない訳ではない。
土方は今、自分の気持ちの置き場に困っているのだ。
昨夜一晩かけて、今後は紗己と少し距離を置こうと決めた。
彼女と話をすれば、また勘違いをしてしまう。特別好意をもってくれているのではないかと期待してしまう。
そして、惨めな気持ちになるのだ。こんな卑怯な男を紗己が好きになるはずがない――と。
もういい年をした大人だ。苦い恋も経験済みだ。少し距離を置いてそれに慣れた頃にはもう、紗己を見て心が揺れることもないだろう。
そう決意をしたのに、とんだ醜態を晒してしまった。自分自身に腹も立つし、何より気まずくて仕方が無い。
その気持ちもあって、ファミレスを出てからすぐに一人で屯所に戻ろうと思っていた。しかし、紗己が後をついてくる。
何とか振り切ろうと、そうすれば彼女も後からゆっくり帰ってくるだろうと思ったのに、まだ紗己は後をついてくる。それも、必死になって。
(頼む! 今だけでいいから空気読んでくれ!! )
切に願うものの、土方の願い虚しく紗己は足を止めようとしない。