序章③
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(紗己・・・と万事屋ァっ!?)
「な、何やってんだあの野郎っ」
「へェ、逢引たァやるじゃねーか」
全ての血液が頭に集まったんではと思うほどに、顔を真っ赤にして肩を震わせる土方に対し、同じく現場を目撃している沖田は平然としている。
表にいる二人の男の存在に気が付いていないのか、紗己と銀時は一向に席を立とうとしない。
(何でだ! 何であの野郎と会ってんだよ!!)
手の平に指が喰い込む程に、きつくきつく握り拳をつくる。
怒りや悔しさや悲しみが綯い交ぜになって、それらは堪えようのない不快感へと姿を変え土方を襲う。
ただの見間違いであってほしい――その思いから一度目を伏せて、またファミレスの窓際席へと目線を上げる。だがそこには、無情にも楽しげな二人がいた。
(やっぱり、これは俺への罰だな・・・・・・)
両の握り拳から力を抜くと、土方は爪痕が残る手の平に虚ろな視線を落として吐息した。
自分には、紗己の行動を制限する権限などない。今更独占欲に駆られたところで、それを押し付ける権利もない。
もしかしたら得られたかも知れないそれらの権利を、あれやこれやと理由を付けて、初めのうちに放棄した。そうだ、俺自身がそうしたんだ。
けれど、今更後悔したところで遅いと分かっていても、やはり紗己が他の男に笑いかけているのを見るのは身に堪える――。
行き場の無い嫉妬に胸を灼かれていると、沖田の言葉が意識の端に引っ掛かった。
「ありゃァなんでィ、嫌がってる紗己を・・・無理やり引き止めてんのか?」
「・・・何っ!?」
自分には何の権利もないとどれだけ自身に言い聞かせても、紗己の身に危険が迫っていると聞けば、見ないフリなど出来るはずもない。
土方は身を乗り出して、ファミレスの窓際席へと噛み付くような視線を向けた。
そこには、立ち上がり肩を上げて顔を伏せている紗己と、ソファに座ったまま彼女の腕を掴んで離そうとしない銀時の姿が――。
土方は矢も盾もたまらず、
「・・・何やってんだあァっ!!」
どすの利いた怒鳴り声を上げて走り出すと、ファミレスの出入り口へと飛び込んでいった。
「テメー万事屋! 紗己に何やってんだっ!?」
「副長さん!?」
いきなりの怒声に驚いた紗己が振り返ると、鬼の形相の男が店内に駆け込んできたところだった。
土方は荒い息で二人の間に割り込むと、紗己の肩を抱き寄せ自身の背後へと押しやる。
「おいおい、お前こんなトコで何してんの? どんなけ暇なんだよ真選組はよー」
土方によって紗己から引き離された、行き場のなくなった手で頬を掻く銀時が、相変わらずの死んだ魚のような目で怒り狂う男を見上げる。その態度が、余計に土方を苛立たせる。
「暇じゃねーよっ! たまたま仕事で・・・ってそんな事よりテメー紗己に何しようとしてたんだ!!」
「ああ? 何って、そりゃあ・・・」
「そりゃあ、何だよっ」
銀時が言葉を返すのも待ちきれず、語気を強めて腰に携えた刀に手を伸ばした瞬間――土方の右肩に何かが触れた。
振り向けばそこには、怯えたような瞳でこちらを見つめる紗己が。土方の右肩に遠慮がちに触れていたのは、紗己の白く細い指先だった。
「っ、紗己・・・・・・?」
「あ、の・・・副長さん、ごめんなさい私が悪いんです・・・だから銀さんを、怒らないで、ください・・・」
声を震わせて謝る紗己に頼まれて、土方は奥歯をギリッと軋ませると、やむなく刀から右手を下ろした。
「なんでお前が謝るんだよ・・・っ」
そのことが悔しくて唇を強く噛む。すると紗己がまた、おずおずと口を開いた。
「その・・・ちょうど今帰ろうとしてたところなんです。私、立ち上がった時に、うっかりパフェの器倒しちゃって・・・・・・」
「・・・・・・え?」
申し訳無さそうに話す紗己の声は、当然側にいる土方の耳にも届いた。
その土方はというと、表情も動きも固めてしまっている。今しがた聞いた話に、理解が追い付いていないのだろう。
そんな土方に一瞥をくれると銀時は、
「んで、コイツの着物の袖が汚れたから、拭いてやるからじっとしてろっつったんだよ」
それなのに慌てて動くもんだからさー、と一部始終丁寧に説明をする。
「・・・は?」
土方の両眼から怒りの炎が消えた。代わりに動揺の色が浮かび上がる。
うまく働かない頭を動かして目線を下げると、テーブルの上には散々たる光景が。
倒れた器、いちごソースとバニラアイスが溶けたものが混じっているのか、薄ピンクの液体が一面を汚している。
「あの・・・副長さん・・・・・・?」
背後から、紗己が心配そうに声を掛けてきた。それには答えないが、土方はゆっくりと振り向くと、目の前に立つ紗己の右腕を掴み上げ、大きな背中を屈めて着物の袖部分に顔を近付けた。
すん、と軽く鼻をすすると、甘い匂いが鼻腔を掠める。
あれ、これもしかして・・・俺今ものすごいかっこ悪いんじゃねえ?
「な、何やってんだあの野郎っ」
「へェ、逢引たァやるじゃねーか」
全ての血液が頭に集まったんではと思うほどに、顔を真っ赤にして肩を震わせる土方に対し、同じく現場を目撃している沖田は平然としている。
表にいる二人の男の存在に気が付いていないのか、紗己と銀時は一向に席を立とうとしない。
(何でだ! 何であの野郎と会ってんだよ!!)
手の平に指が喰い込む程に、きつくきつく握り拳をつくる。
怒りや悔しさや悲しみが綯い交ぜになって、それらは堪えようのない不快感へと姿を変え土方を襲う。
ただの見間違いであってほしい――その思いから一度目を伏せて、またファミレスの窓際席へと目線を上げる。だがそこには、無情にも楽しげな二人がいた。
(やっぱり、これは俺への罰だな・・・・・・)
両の握り拳から力を抜くと、土方は爪痕が残る手の平に虚ろな視線を落として吐息した。
自分には、紗己の行動を制限する権限などない。今更独占欲に駆られたところで、それを押し付ける権利もない。
もしかしたら得られたかも知れないそれらの権利を、あれやこれやと理由を付けて、初めのうちに放棄した。そうだ、俺自身がそうしたんだ。
けれど、今更後悔したところで遅いと分かっていても、やはり紗己が他の男に笑いかけているのを見るのは身に堪える――。
行き場の無い嫉妬に胸を灼かれていると、沖田の言葉が意識の端に引っ掛かった。
「ありゃァなんでィ、嫌がってる紗己を・・・無理やり引き止めてんのか?」
「・・・何っ!?」
自分には何の権利もないとどれだけ自身に言い聞かせても、紗己の身に危険が迫っていると聞けば、見ないフリなど出来るはずもない。
土方は身を乗り出して、ファミレスの窓際席へと噛み付くような視線を向けた。
そこには、立ち上がり肩を上げて顔を伏せている紗己と、ソファに座ったまま彼女の腕を掴んで離そうとしない銀時の姿が――。
土方は矢も盾もたまらず、
「・・・何やってんだあァっ!!」
どすの利いた怒鳴り声を上げて走り出すと、ファミレスの出入り口へと飛び込んでいった。
「テメー万事屋! 紗己に何やってんだっ!?」
「副長さん!?」
いきなりの怒声に驚いた紗己が振り返ると、鬼の形相の男が店内に駆け込んできたところだった。
土方は荒い息で二人の間に割り込むと、紗己の肩を抱き寄せ自身の背後へと押しやる。
「おいおい、お前こんなトコで何してんの? どんなけ暇なんだよ真選組はよー」
土方によって紗己から引き離された、行き場のなくなった手で頬を掻く銀時が、相変わらずの死んだ魚のような目で怒り狂う男を見上げる。その態度が、余計に土方を苛立たせる。
「暇じゃねーよっ! たまたま仕事で・・・ってそんな事よりテメー紗己に何しようとしてたんだ!!」
「ああ? 何って、そりゃあ・・・」
「そりゃあ、何だよっ」
銀時が言葉を返すのも待ちきれず、語気を強めて腰に携えた刀に手を伸ばした瞬間――土方の右肩に何かが触れた。
振り向けばそこには、怯えたような瞳でこちらを見つめる紗己が。土方の右肩に遠慮がちに触れていたのは、紗己の白く細い指先だった。
「っ、紗己・・・・・・?」
「あ、の・・・副長さん、ごめんなさい私が悪いんです・・・だから銀さんを、怒らないで、ください・・・」
声を震わせて謝る紗己に頼まれて、土方は奥歯をギリッと軋ませると、やむなく刀から右手を下ろした。
「なんでお前が謝るんだよ・・・っ」
そのことが悔しくて唇を強く噛む。すると紗己がまた、おずおずと口を開いた。
「その・・・ちょうど今帰ろうとしてたところなんです。私、立ち上がった時に、うっかりパフェの器倒しちゃって・・・・・・」
「・・・・・・え?」
申し訳無さそうに話す紗己の声は、当然側にいる土方の耳にも届いた。
その土方はというと、表情も動きも固めてしまっている。今しがた聞いた話に、理解が追い付いていないのだろう。
そんな土方に一瞥をくれると銀時は、
「んで、コイツの着物の袖が汚れたから、拭いてやるからじっとしてろっつったんだよ」
それなのに慌てて動くもんだからさー、と一部始終丁寧に説明をする。
「・・・は?」
土方の両眼から怒りの炎が消えた。代わりに動揺の色が浮かび上がる。
うまく働かない頭を動かして目線を下げると、テーブルの上には散々たる光景が。
倒れた器、いちごソースとバニラアイスが溶けたものが混じっているのか、薄ピンクの液体が一面を汚している。
「あの・・・副長さん・・・・・・?」
背後から、紗己が心配そうに声を掛けてきた。それには答えないが、土方はゆっくりと振り向くと、目の前に立つ紗己の右腕を掴み上げ、大きな背中を屈めて着物の袖部分に顔を近付けた。
すん、と軽く鼻をすすると、甘い匂いが鼻腔を掠める。
あれ、これもしかして・・・俺今ものすごいかっこ悪いんじゃねえ?