第十一章
名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
――――――
目釘を嵌めて手入れを終えた刀を鞘に収めると、土方は静かに息をついた。
普段から定期的に行ってはいるが、大掛かりな事件などで動く場合には、事前に時間の余裕があればこうして刀の手入れを行うようにしている。
身の引き締まる思いで刀を手に取り、目の高さまでそれを持ち上げ、静かにじっと見つめる。
傍らに置いていても良かったのだが、まだ出動までには時間があるし、何より胸の奥からわき出てくるこの荒々しい感情を、少しでも落ち着かせたい。
鞘を掴む武骨な手にぐっと力を込めると、土方は愛刀を手に床の間へと向かい、そこに置かれている刀掛けに自身の刀を置いた。
と、その時――。
ヒタヒタと床板を歩く足音が、障子戸の向こう側へと意識を向けた土方の耳に微かに届いた。
その気配が誰のものか分かっている土方は、近付く足音をさして気にするでもなく、炬燵仕様になった座卓のいつもの位置に腰を下ろして、障子戸の方へと視線をやった。
人影が障子戸の向こうでさっとしゃがみ込む。
「副長、今大丈夫ですか」
「ああ、入れ」
「失礼します」
スッと障子戸が開き、姿を表したのは山崎だった。
「まず先にこれ、お返ししますよ」
そう言って山崎が、手にしていた紙袋を掲げて見せる。
「ああ、その辺に置いといてくれ」
土方の言葉に頷いた山崎は、手近にあった戸棚の横に紙袋を置くと、そのまま土方の側まで行き、そこに正座した。
「先遣隊からの報告ですが、先程、恐らく武器商人側の者と思われる男二名と、浪士一名が港に姿を現したとのことです」
「そうか。分かった」
部下の報告に返事をして、壁に掛けてある時計を一瞥した。
あと数分で日付が変わる。
(動き出したか――)
興奮からだろうか。背中をぞわりとした感覚が走り抜ける。
「表の見張りの動きはどうなってる」
言いながら土方は、座卓の上に置いていた煙草へと手を伸ばした。
箱から一本取り出し、さっと火を点け煙を吸い込む。
ゆっくりと紫煙を吐き出すと、興奮していた気持ちが少しだけ落ち着いた。
「はい、見張りの方は今のところ一人だけのようです」
「一人?」
煙草を咥えたままの土方が、部下の報告に眉をひそめる。
「ええ。夜の間に紗己ちゃんが動くことはないと判断したんでしょうか」
「・・・だろうな。恐らく朝になりゃァ、今日と同じ人数がやってくるだろう。要するに、奴等の目的は本当に紗己と俺だけってことだ」
咥えていた煙草を口元から離して舌打ちをすると、腹立たしさを滲ませた表情で、煙草の灰を灰皿へと落とした。
手元の煙草はそのままに、座卓に肘を乗せて言葉を続ける。
「俺が動き出さねェ限り、向こうからは何も仕掛けてこねえだろう。事を荒立てたくねえのは奴等の方だからな」
「それじゃあ連中はあくまでも、ただ紗己ちゃんを見張ってるだけってことですか?」
「そういうことだ。だが、俺が敵の意に沿わない動きを見せれば話は別だ。そうなれば、連中は必ず紗己を攫うだろう」
「交渉材料にするために、ですか」
「ああ」
苦々しい表情で短く返事をすると、座卓に肘を付いたまま煙草を口元へと持っていき、胸に蔓延る不快感を煙とともに吐き出した。
「いずれのことは、まあいい。今見張りが手薄なのは、こっちとしちゃァありがてェ話だ。車は分散させてる、勘付かれることもあるめえよ」
「現時点で、出動予定のうち半数がもう現場近くで待機しています。副長はいつ頃出られますか」
「そうだな、俺は近藤さんと同乗するから一時間後だ」
「了解しました」
土方の返答に頷いた山崎が、各隊の出動時間を記したメモに目を落とす。
闇取引の現場へ出動する動きを、敵の見張りに悟られないようにするため、隊士達を乗せた車は三十分置きに二台ずつ屯所を出立している。
現場近くで真選組の文字が入った車を目撃されるわけにはいかないので、隊士達を乗せた車は現場から少し離れた場所に停め、それぞれ徒歩で現場近くまで行き、突入指示があるまでは各ポイントで待機している。
(急な出動計画ではあったが、うまくやってくれてるみたいだな)
胸中でそう呟きながら、土方は数時間前の作戦会議の様子を思い出していた。
会議室として使用している広めの和室には、各隊の隊長と、近藤との電話で土方が指名していた隊士達、合わせて十数名が集まっていた。
事の経緯を土方の口から直接聞かされた隊士達は、皆一様に怒りを露わにした。
紗己を巻き込もうとした敵への怒りだ。
私利私欲のために標的の配偶者にまで手を掛けようとするやり口は、いつ自分が、自分の大切な者が同じ目に遭ってもおかしくはないのだと、隊士達に認識させるのに十分だった。
自分のせいで真選組を巻き込む形になってしまったと、皆に頭を下げた土方に対し、こんな卑怯な連中に屈するわけにはいかない――それが、集まった隊士達の総意だった。
「副長? どうかしましたか」
何事か考え込むように、軽く眉を寄せて黙り込んだ土方に山崎が訊ねる。
すると土方は、指に挟んでいた煙草の、今にも崩れ落ちそうな灰をそっと灰皿の上まで持っていき、トントンとリズミカルに落としながら言った。
「いや、何でもねェ。それより山崎、アイツは・・・・・・雪乃の方はどうなってる」
「はい。今のところ動きは無く、彼女の様子を見張っている者もいないようです」
「そうか。そっちも予定通りに動くよう、再確認しておいてくれ」
「突入のタイミングで彼女をここに連れてくる、ですね」
手元のメモに目を通しながら答えると、山崎はメモをポケットに仕舞い嘆息した。
目釘を嵌めて手入れを終えた刀を鞘に収めると、土方は静かに息をついた。
普段から定期的に行ってはいるが、大掛かりな事件などで動く場合には、事前に時間の余裕があればこうして刀の手入れを行うようにしている。
身の引き締まる思いで刀を手に取り、目の高さまでそれを持ち上げ、静かにじっと見つめる。
傍らに置いていても良かったのだが、まだ出動までには時間があるし、何より胸の奥からわき出てくるこの荒々しい感情を、少しでも落ち着かせたい。
鞘を掴む武骨な手にぐっと力を込めると、土方は愛刀を手に床の間へと向かい、そこに置かれている刀掛けに自身の刀を置いた。
と、その時――。
ヒタヒタと床板を歩く足音が、障子戸の向こう側へと意識を向けた土方の耳に微かに届いた。
その気配が誰のものか分かっている土方は、近付く足音をさして気にするでもなく、炬燵仕様になった座卓のいつもの位置に腰を下ろして、障子戸の方へと視線をやった。
人影が障子戸の向こうでさっとしゃがみ込む。
「副長、今大丈夫ですか」
「ああ、入れ」
「失礼します」
スッと障子戸が開き、姿を表したのは山崎だった。
「まず先にこれ、お返ししますよ」
そう言って山崎が、手にしていた紙袋を掲げて見せる。
「ああ、その辺に置いといてくれ」
土方の言葉に頷いた山崎は、手近にあった戸棚の横に紙袋を置くと、そのまま土方の側まで行き、そこに正座した。
「先遣隊からの報告ですが、先程、恐らく武器商人側の者と思われる男二名と、浪士一名が港に姿を現したとのことです」
「そうか。分かった」
部下の報告に返事をして、壁に掛けてある時計を一瞥した。
あと数分で日付が変わる。
(動き出したか――)
興奮からだろうか。背中をぞわりとした感覚が走り抜ける。
「表の見張りの動きはどうなってる」
言いながら土方は、座卓の上に置いていた煙草へと手を伸ばした。
箱から一本取り出し、さっと火を点け煙を吸い込む。
ゆっくりと紫煙を吐き出すと、興奮していた気持ちが少しだけ落ち着いた。
「はい、見張りの方は今のところ一人だけのようです」
「一人?」
煙草を咥えたままの土方が、部下の報告に眉をひそめる。
「ええ。夜の間に紗己ちゃんが動くことはないと判断したんでしょうか」
「・・・だろうな。恐らく朝になりゃァ、今日と同じ人数がやってくるだろう。要するに、奴等の目的は本当に紗己と俺だけってことだ」
咥えていた煙草を口元から離して舌打ちをすると、腹立たしさを滲ませた表情で、煙草の灰を灰皿へと落とした。
手元の煙草はそのままに、座卓に肘を乗せて言葉を続ける。
「俺が動き出さねェ限り、向こうからは何も仕掛けてこねえだろう。事を荒立てたくねえのは奴等の方だからな」
「それじゃあ連中はあくまでも、ただ紗己ちゃんを見張ってるだけってことですか?」
「そういうことだ。だが、俺が敵の意に沿わない動きを見せれば話は別だ。そうなれば、連中は必ず紗己を攫うだろう」
「交渉材料にするために、ですか」
「ああ」
苦々しい表情で短く返事をすると、座卓に肘を付いたまま煙草を口元へと持っていき、胸に蔓延る不快感を煙とともに吐き出した。
「いずれのことは、まあいい。今見張りが手薄なのは、こっちとしちゃァありがてェ話だ。車は分散させてる、勘付かれることもあるめえよ」
「現時点で、出動予定のうち半数がもう現場近くで待機しています。副長はいつ頃出られますか」
「そうだな、俺は近藤さんと同乗するから一時間後だ」
「了解しました」
土方の返答に頷いた山崎が、各隊の出動時間を記したメモに目を落とす。
闇取引の現場へ出動する動きを、敵の見張りに悟られないようにするため、隊士達を乗せた車は三十分置きに二台ずつ屯所を出立している。
現場近くで真選組の文字が入った車を目撃されるわけにはいかないので、隊士達を乗せた車は現場から少し離れた場所に停め、それぞれ徒歩で現場近くまで行き、突入指示があるまでは各ポイントで待機している。
(急な出動計画ではあったが、うまくやってくれてるみたいだな)
胸中でそう呟きながら、土方は数時間前の作戦会議の様子を思い出していた。
会議室として使用している広めの和室には、各隊の隊長と、近藤との電話で土方が指名していた隊士達、合わせて十数名が集まっていた。
事の経緯を土方の口から直接聞かされた隊士達は、皆一様に怒りを露わにした。
紗己を巻き込もうとした敵への怒りだ。
私利私欲のために標的の配偶者にまで手を掛けようとするやり口は、いつ自分が、自分の大切な者が同じ目に遭ってもおかしくはないのだと、隊士達に認識させるのに十分だった。
自分のせいで真選組を巻き込む形になってしまったと、皆に頭を下げた土方に対し、こんな卑怯な連中に屈するわけにはいかない――それが、集まった隊士達の総意だった。
「副長? どうかしましたか」
何事か考え込むように、軽く眉を寄せて黙り込んだ土方に山崎が訊ねる。
すると土方は、指に挟んでいた煙草の、今にも崩れ落ちそうな灰をそっと灰皿の上まで持っていき、トントンとリズミカルに落としながら言った。
「いや、何でもねェ。それより山崎、アイツは・・・・・・雪乃の方はどうなってる」
「はい。今のところ動きは無く、彼女の様子を見張っている者もいないようです」
「そうか。そっちも予定通りに動くよう、再確認しておいてくれ」
「突入のタイミングで彼女をここに連れてくる、ですね」
手元のメモに目を通しながら答えると、山崎はメモをポケットに仕舞い嘆息した。
14/14ページ